白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

文字の大きさ
69 / 81
IEWⅢ DISC‐1

62 雪木

しおりを挟む



 三つの火の精霊の石像はそれぞれ違う位置に火を灯すトーチを持っている。一番左側の石像は胸に抱えるように、真ん中はトーチを掲げるように、そして一番右側の石像は腰の位置にトーチを持っている。

 ゲームの知識通りにいけば、三つの石像にそれぞれ火を灯し、トーチの内側に付けられているクリスタルに反射した火の光が、神殿に取り付けられたクリスタルに反射し綺麗な雪の結晶を描くようにすると秘密の入り口が開くはずなのだ。

 リースはルルリアナに頼み、三つの石像のトーチに火を灯してもらう。

 ルルリアナが地番左側のトーチに火を灯すと、やはりゲームの通りクリスタルが火の光に反射しまるでレーザーのような光を作り出す。

「おい!これは何だ?」

 ルルリアナとロークが驚いたような声をあげるが、リースはそんなことに構うことなく三つの石像の下に取り付けられた円座を回し、クリスタルの光が雪の結晶を描くように調節する。

 ようやく、雪の結晶を作りだすことに成功したリースは、少し離れた場所でその光を満足げに見つめる。

「これで良しっと!」

「おい、これから何が起きるんだよ?」

「いいから黙って見てて」

 リースの言葉通りにクリスタルの光が徐々に明るさを増し、雪の結晶の真ん中に洞窟の入り口が出現する。

「おいおい、マジかよ」

 ロークの声は驚きで裏返っており、ルルリアナは言葉を失っているようだった。

「わかったでしょ、ローク?伝説の雪木はただ闇雲に探しただけじゃ、見つからないって」

 私は今だ呆然としているロークの背中を押して、洞窟の中へと押し込む。

 洞窟の入り口は真っ暗で、入り口の小さな石像が持っていた松明を使用しようとしたロークにリースは一喝する。

「ちょっと、待ちなさい!伝説の雪木って言ってるでしょ?火を付けたら、雪木は怖がって姿を消しちゃうんだからね!」

 リースは里紗だったころに、何度松明の火を付けて雪木までたどり着けなかったことかと思いだす。雪木に辿り着けない原因がわからず、里紗は何度も何度もゲームをリセットしたり、デビルマ山脈の道をさまよい歩いたのだ。

「ルルリアナ、光の魔法で道を照らしてくれる?」

 ルルリアナが手のひらに小さな魔法陣を展開すると、それは懐中電灯のように明るく光り輝く。

 ルルリアナの魔法を見て、ロークは驚いたように声をあげる。

「光の魔法を使えるのか?君は魔女なのか?」

「…魔女ではありません。私は水の魔法を使うことができませんから」

「そうなんだ。俺は使える言えるのは水の魔法くらいだから、少し羨ましいな」

「水の属性を授かる方は火の属性の方と同じく貴重です。私からしたら水の魔法を使える、ロークさんの方が羨ましいです。それに、森林消防隊にはぴったりな魔法属性ですね」

 ルルリアナの言葉に、ロークは少し困ったように眉を下げる。

「あの…。私、何かおかしなことを口にしてしまったでしょうか?」

「いや、やっぱり素人は水の魔法が火事に役立つと思ってるんだなと思って」

「違うのですか?」

「建物が火事になった時は、水の属性を持つ奴は大活躍するだろう。でも、山火事を消火させるのは火を使うことが多いんだ。火を火で制するのが、山火事を鎮火させる方法なんだよ」

「どうして水を使えないのですか?」

「山火事は広範囲に及ぶ。広範囲の山火事を消すほど俺の水魔法は強くないし、山火事で焼かれた土地は大量の水を受け止めることができず、土砂崩れの原因になったりするんだ。だから、俺は兄のような山火事を消すヒーローではなく、救命に回されることが多いんだ」

 情けないだろうと言葉を紡ぐロークに、ルルリアナは怒ったように足を止める。

「ロークさんは間違っていると思います。山火事を消すことはできなくても、ロークさんに助けられた人にとっては間違いなく、ロークさんはヒーローです。間違いなく、山火事を消したヒーローよりも感謝されると思います」

 真剣に言い切るルルリアナに、ロークは再び困ったように眉を下げる。

「別に感謝されたいわけじゃないんだ。俺に救出する頃には間に合わなかった命もたくさんあるしな」

「それでも命を救うために家事の中に飛び込むロークさんはヒーローです」

「本当にそう思うか?」

 見つめあうルルリアナとロークはなんだかいい雰囲気で、自分のことをおじゃま虫と感じて仕方ないロークは雰囲気を壊すように大げさに咳き込む。その咳のせいで、いい感じtだった二人の雰囲気はシャボン玉が割れたように、一瞬にして消えてしまったのだった。

 気まずいまま歩き続けた三人は明るく輝く洞窟の入口へとたどり着く。しかし、そこは洞窟の入り口ではなかった。

 ぽっかり大きく開いた洞窟の中の空洞は、天井のクリスタルから光が降り注いでいて、洞窟の中だというのに昼間の様に明るかった。

 その広場の真ん中に一本の白い木が存在していた。

 その木は右が白い氷の塊になっていて、生茂る葉は一枚一枚が手のひら大の雪の結晶でできていた。そして、舞い散る葉は空から降る雪のようだった。

「綺麗…」

 ルルリアナがうっとりした眼差しで雪木を見つめ、思わずつぶやく。

「まさか、本当にあるとは思わなかった」

 ロークも目を見開いて瞬きするのを忘れて雪木を見つめていた。

 あまりに神々しい雪木の姿に、三人は容易に近づくことができず。遠く離れた広場の入り口で黙って雪木を見つめていることしかできなかった。いつの間にかルルリアナは雪木に祈るように、両膝を地面ついて祈りを捧げている。その姿を見て、リースとロークも慌ててルルリアナを真似るのだった。

 ルルリアナの長い祈りが終わり、リースはルルリアナに頼み雪木に保護魔法を施してもらう。それこそ、ルルリアナが使用できる保護魔法の中でも最高レベルの保護魔法だ。

 見ただけで雪木が守るべきものであると理解したルルリアナもリースに逆らうことなく、保護魔法を施す。ロークも何も言わず、ルルリアナの魔法を見つめていた。

 目的を果たしたリースの帰り道は、来た時よりもずいぶんと軽くなっていた。

 途中で、リースが手折ってしまいロークに怒られたオレンジ花が群生する場所を見つめたリースは、ルルリアナに再び頼み込み、その野原にもささやかな保護魔法を施してもらったのだった。

 ルルリアナの保護魔法で雪木は大丈夫だとは思うが、念には念をとインシュ花と呼ばれるオレンジの花を守るためにリースは手を打ったのだった。

 そのことに満足したリースは、大切なことを忘れていたのだ。ロークに雪木のあった場所をワインズに話さないように口止めすることを忘れていたのだ。もっとも、ワインズに憧れていたロークがリースに口止めされたからといって、ワインズに黙っていられたかはわからないが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...