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IEWⅢ DISC‐1
62 雪木
しおりを挟む三つの火の精霊の石像はそれぞれ違う位置に火を灯すトーチを持っている。一番左側の石像は胸に抱えるように、真ん中はトーチを掲げるように、そして一番右側の石像は腰の位置にトーチを持っている。
ゲームの知識通りにいけば、三つの石像にそれぞれ火を灯し、トーチの内側に付けられているクリスタルに反射した火の光が、神殿に取り付けられたクリスタルに反射し綺麗な雪の結晶を描くようにすると秘密の入り口が開くはずなのだ。
リースはルルリアナに頼み、三つの石像のトーチに火を灯してもらう。
ルルリアナが地番左側のトーチに火を灯すと、やはりゲームの通りクリスタルが火の光に反射しまるでレーザーのような光を作り出す。
「おい!これは何だ?」
ルルリアナとロークが驚いたような声をあげるが、リースはそんなことに構うことなく三つの石像の下に取り付けられた円座を回し、クリスタルの光が雪の結晶を描くように調節する。
ようやく、雪の結晶を作りだすことに成功したリースは、少し離れた場所でその光を満足げに見つめる。
「これで良しっと!」
「おい、これから何が起きるんだよ?」
「いいから黙って見てて」
リースの言葉通りにクリスタルの光が徐々に明るさを増し、雪の結晶の真ん中に洞窟の入り口が出現する。
「おいおい、マジかよ」
ロークの声は驚きで裏返っており、ルルリアナは言葉を失っているようだった。
「わかったでしょ、ローク?伝説の雪木はただ闇雲に探しただけじゃ、見つからないって」
私は今だ呆然としているロークの背中を押して、洞窟の中へと押し込む。
洞窟の入り口は真っ暗で、入り口の小さな石像が持っていた松明を使用しようとしたロークにリースは一喝する。
「ちょっと、待ちなさい!伝説の雪木って言ってるでしょ?火を付けたら、雪木は怖がって姿を消しちゃうんだからね!」
リースは里紗だったころに、何度松明の火を付けて雪木までたどり着けなかったことかと思いだす。雪木に辿り着けない原因がわからず、里紗は何度も何度もゲームをリセットしたり、デビルマ山脈の道をさまよい歩いたのだ。
「ルルリアナ、光の魔法で道を照らしてくれる?」
ルルリアナが手のひらに小さな魔法陣を展開すると、それは懐中電灯のように明るく光り輝く。
ルルリアナの魔法を見て、ロークは驚いたように声をあげる。
「光の魔法を使えるのか?君は魔女なのか?」
「…魔女ではありません。私は水の魔法を使うことができませんから」
「そうなんだ。俺は使える言えるのは水の魔法くらいだから、少し羨ましいな」
「水の属性を授かる方は火の属性の方と同じく貴重です。私からしたら水の魔法を使える、ロークさんの方が羨ましいです。それに、森林消防隊にはぴったりな魔法属性ですね」
ルルリアナの言葉に、ロークは少し困ったように眉を下げる。
「あの…。私、何かおかしなことを口にしてしまったでしょうか?」
「いや、やっぱり素人は水の魔法が火事に役立つと思ってるんだなと思って」
「違うのですか?」
「建物が火事になった時は、水の属性を持つ奴は大活躍するだろう。でも、山火事を消火させるのは火を使うことが多いんだ。火を火で制するのが、山火事を鎮火させる方法なんだよ」
「どうして水を使えないのですか?」
「山火事は広範囲に及ぶ。広範囲の山火事を消すほど俺の水魔法は強くないし、山火事で焼かれた土地は大量の水を受け止めることができず、土砂崩れの原因になったりするんだ。だから、俺は兄のような山火事を消すヒーローではなく、救命に回されることが多いんだ」
情けないだろうと言葉を紡ぐロークに、ルルリアナは怒ったように足を止める。
「ロークさんは間違っていると思います。山火事を消すことはできなくても、ロークさんに助けられた人にとっては間違いなく、ロークさんはヒーローです。間違いなく、山火事を消したヒーローよりも感謝されると思います」
真剣に言い切るルルリアナに、ロークは再び困ったように眉を下げる。
「別に感謝されたいわけじゃないんだ。俺に救出する頃には間に合わなかった命もたくさんあるしな」
「それでも命を救うために家事の中に飛び込むロークさんはヒーローです」
「本当にそう思うか?」
見つめあうルルリアナとロークはなんだかいい雰囲気で、自分のことをおじゃま虫と感じて仕方ないロークは雰囲気を壊すように大げさに咳き込む。その咳のせいで、いい感じtだった二人の雰囲気はシャボン玉が割れたように、一瞬にして消えてしまったのだった。
気まずいまま歩き続けた三人は明るく輝く洞窟の入口へとたどり着く。しかし、そこは洞窟の入り口ではなかった。
ぽっかり大きく開いた洞窟の中の空洞は、天井のクリスタルから光が降り注いでいて、洞窟の中だというのに昼間の様に明るかった。
その広場の真ん中に一本の白い木が存在していた。
その木は右が白い氷の塊になっていて、生茂る葉は一枚一枚が手のひら大の雪の結晶でできていた。そして、舞い散る葉は空から降る雪のようだった。
「綺麗…」
ルルリアナがうっとりした眼差しで雪木を見つめ、思わずつぶやく。
「まさか、本当にあるとは思わなかった」
ロークも目を見開いて瞬きするのを忘れて雪木を見つめていた。
あまりに神々しい雪木の姿に、三人は容易に近づくことができず。遠く離れた広場の入り口で黙って雪木を見つめていることしかできなかった。いつの間にかルルリアナは雪木に祈るように、両膝を地面ついて祈りを捧げている。その姿を見て、リースとロークも慌ててルルリアナを真似るのだった。
ルルリアナの長い祈りが終わり、リースはルルリアナに頼み雪木に保護魔法を施してもらう。それこそ、ルルリアナが使用できる保護魔法の中でも最高レベルの保護魔法だ。
見ただけで雪木が守るべきものであると理解したルルリアナもリースに逆らうことなく、保護魔法を施す。ロークも何も言わず、ルルリアナの魔法を見つめていた。
目的を果たしたリースの帰り道は、来た時よりもずいぶんと軽くなっていた。
途中で、リースが手折ってしまいロークに怒られたオレンジ花が群生する場所を見つめたリースは、ルルリアナに再び頼み込み、その野原にもささやかな保護魔法を施してもらったのだった。
ルルリアナの保護魔法で雪木は大丈夫だとは思うが、念には念をとインシュ花と呼ばれるオレンジの花を守るためにリースは手を打ったのだった。
そのことに満足したリースは、大切なことを忘れていたのだ。ロークに雪木のあった場所をワインズに話さないように口止めすることを忘れていたのだ。もっとも、ワインズに憧れていたロークがリースに口止めされたからといって、ワインズに黙っていられたかはわからないが。
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