11 / 31
序章
入学式
しおりを挟む
「紫音!」
優しく微笑む笙真くんに、遠巻きに見ていた女子たちが黄色い歓声をあげる。
どうやらハンサムな笙真くんは学校でモテモテらしい。
そのことに気が付かないのか、どうでもいいのか笙真くんはいつも通り私の腰に手を回し、少しふてくされたように唇をゆがめている。
私が首をかしげると笙真くんは不貞腐れている説明する。
「同じクラスになれると思ってたのに、別のクラスだった」
「そうだね。でも、笙真くんは雅臣くんと同じでしょ?」
雅臣くんは笙真くんたちのいとこで、父親は磐井グループの系列銀行である胡蝶銀行の総頭取を務めている。つまり、磐井雅臣は磐井御三家の跡取りでもあるのだ。
「雅臣じゃなくて、僕は紫音と同じクラスが良かったの」
子供のように甘える笙真くんが少しおかしくて、クスクスと笑ってしまう。
侑大くんは私に甘える兄を諦めた表情で見つめ、ため息をはいている。
私が磐井家に引き取られたばかりのころ、嫉妬した侑大くんによく八つ当たりをされていた。
笙真くんが誘拐される前、笙真くんと侑大くんはとても仲が良かったそうだ。
なので、無事に戻ってきた兄に変な虫がついたとよく言われていた。
今の二人の関係はよくわからない。
というか三つ子の関係がよくわからない。仲が悪いとは言わないが、兄弟というには少し…そう、ほんの少しギクシャクしているように感じるのだ。
「紫音の教室に遊びに行くから、あまり公泰と仲良くしないでね」
あまりの無邪気な微笑みに、私は困ったように笑うのが精いっぱいだった。
私は笙真くんに手を引かれたまま歩き出し、私のクラスとなる牡丹に連れていかれる。
「ここが紫音の教室だよ。僕の教室は隣だから、なにか困ったことがあったらすぐに来てね」
そう言い残し、名残惜しそうに振り返りながらも笙真くんは自分の教室へと戻っていった。
座席表を確認するまでもなく、公泰くんが私を手招きする。
座席は男女混合の名前の順になっているようで、私は公泰くんの後ろの席だった。
「おはようございます」
「おはよう」
公泰くんは私が起きるよりも先に家に出たため、まずは挨拶を互いにかわす。
公泰くんは入学式で新入生誓いの言葉を新入生代表として読むことになっている。
ご立派の一言だ。
公泰くんは笙真くんと違い、髪は短めバングのベリーショートだ。ワックスで嫌味にならない程度に整えられている。
肩まで伸びたサラサラの笙真くんとはまるっきり違う。
一卵性のため顔はそっくりなのに、印象がまるっきり違うため間違える人はかなり少ない。
「あいつはいつも派手だな」
「笙真くんですか?確かに目立ちますね」
「時々、あいつと兄弟なのかわからなくなる」
公泰くんの言葉に私は軽く眉を上げる。
「そうですか?私には兄弟にしか見えませんが」
私の言葉が意外だったのか、公泰くんも軽く眉をあげた。
「そうだよね!目立っているのはこいつも一緒だよね」
一人の男子生徒が親しげに公泰くんと肩を組み、話に混ざる。
「おれ、田村伊織!よろしくね。こいつとは幼等部のころからの親友です!」
田村伊織くんは校則違反にならない程度の茶髪に、くせ毛のツーブロック風の髪型をしており、おっとりとした目元が特徴の可愛らしい男の子だった。
「初めまして、磐井紫音といいます」
いまだに、自己紹介するときに自分が磐井姓を名乗っていることに違和感しかない。
「あれ?磐井?もしかして…」
「遠い親戚だ」
田村くんがすべて言い切る前に公泰くんが割り込む。
田村くんが確認するように私に視線を向ける。
私が磐井家の養女となったことはあまり公にされていない。事前に四人で打ち合わせをしておけばよかったと、軽く後悔する。
「はい、親戚です」
「親戚だ!」
二回口にした公泰くんの声はクラス中に通り、ざわつきはほんの少し落ち着く。
私を遠巻きに睨み付けていた女子グループの態度が見るからに軟化し、私はこのために公泰くんが声を張り上げてくれたのだと悟る。
公泰の優しさもわかりづらかったことを思い出す。
「ありがとうございます」
「何がだ?」
私は公泰くんに答えず、にこりと笑った。
優しく微笑む笙真くんに、遠巻きに見ていた女子たちが黄色い歓声をあげる。
どうやらハンサムな笙真くんは学校でモテモテらしい。
そのことに気が付かないのか、どうでもいいのか笙真くんはいつも通り私の腰に手を回し、少しふてくされたように唇をゆがめている。
私が首をかしげると笙真くんは不貞腐れている説明する。
「同じクラスになれると思ってたのに、別のクラスだった」
「そうだね。でも、笙真くんは雅臣くんと同じでしょ?」
雅臣くんは笙真くんたちのいとこで、父親は磐井グループの系列銀行である胡蝶銀行の総頭取を務めている。つまり、磐井雅臣は磐井御三家の跡取りでもあるのだ。
「雅臣じゃなくて、僕は紫音と同じクラスが良かったの」
子供のように甘える笙真くんが少しおかしくて、クスクスと笑ってしまう。
侑大くんは私に甘える兄を諦めた表情で見つめ、ため息をはいている。
私が磐井家に引き取られたばかりのころ、嫉妬した侑大くんによく八つ当たりをされていた。
笙真くんが誘拐される前、笙真くんと侑大くんはとても仲が良かったそうだ。
なので、無事に戻ってきた兄に変な虫がついたとよく言われていた。
今の二人の関係はよくわからない。
というか三つ子の関係がよくわからない。仲が悪いとは言わないが、兄弟というには少し…そう、ほんの少しギクシャクしているように感じるのだ。
「紫音の教室に遊びに行くから、あまり公泰と仲良くしないでね」
あまりの無邪気な微笑みに、私は困ったように笑うのが精いっぱいだった。
私は笙真くんに手を引かれたまま歩き出し、私のクラスとなる牡丹に連れていかれる。
「ここが紫音の教室だよ。僕の教室は隣だから、なにか困ったことがあったらすぐに来てね」
そう言い残し、名残惜しそうに振り返りながらも笙真くんは自分の教室へと戻っていった。
座席表を確認するまでもなく、公泰くんが私を手招きする。
座席は男女混合の名前の順になっているようで、私は公泰くんの後ろの席だった。
「おはようございます」
「おはよう」
公泰くんは私が起きるよりも先に家に出たため、まずは挨拶を互いにかわす。
公泰くんは入学式で新入生誓いの言葉を新入生代表として読むことになっている。
ご立派の一言だ。
公泰くんは笙真くんと違い、髪は短めバングのベリーショートだ。ワックスで嫌味にならない程度に整えられている。
肩まで伸びたサラサラの笙真くんとはまるっきり違う。
一卵性のため顔はそっくりなのに、印象がまるっきり違うため間違える人はかなり少ない。
「あいつはいつも派手だな」
「笙真くんですか?確かに目立ちますね」
「時々、あいつと兄弟なのかわからなくなる」
公泰くんの言葉に私は軽く眉を上げる。
「そうですか?私には兄弟にしか見えませんが」
私の言葉が意外だったのか、公泰くんも軽く眉をあげた。
「そうだよね!目立っているのはこいつも一緒だよね」
一人の男子生徒が親しげに公泰くんと肩を組み、話に混ざる。
「おれ、田村伊織!よろしくね。こいつとは幼等部のころからの親友です!」
田村伊織くんは校則違反にならない程度の茶髪に、くせ毛のツーブロック風の髪型をしており、おっとりとした目元が特徴の可愛らしい男の子だった。
「初めまして、磐井紫音といいます」
いまだに、自己紹介するときに自分が磐井姓を名乗っていることに違和感しかない。
「あれ?磐井?もしかして…」
「遠い親戚だ」
田村くんがすべて言い切る前に公泰くんが割り込む。
田村くんが確認するように私に視線を向ける。
私が磐井家の養女となったことはあまり公にされていない。事前に四人で打ち合わせをしておけばよかったと、軽く後悔する。
「はい、親戚です」
「親戚だ!」
二回口にした公泰くんの声はクラス中に通り、ざわつきはほんの少し落ち着く。
私を遠巻きに睨み付けていた女子グループの態度が見るからに軟化し、私はこのために公泰くんが声を張り上げてくれたのだと悟る。
公泰の優しさもわかりづらかったことを思い出す。
「ありがとうございます」
「何がだ?」
私は公泰くんに答えず、にこりと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる