D.S.~愛した人のために人生をやり直します~

レオパのレ

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中等部一年

宿泊学習①

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 鯉のぼりがすっかり片付けられた5月の今日、私たちはとある郊外のキャンプ場に向かっていた。

 そう、宿泊学習である。

 宿泊学習は制服ではなく、学校指定のジャージ着用である。

 胡蝶学院のジャージは至極色で、ロゴの文字が学年によって違っている。私たちの学年は白地で一番無難で当たり年でもある。一学年上が黄色でその上が薄いオレンジなのだ。だったこともあり、白だったことに感謝した。

 郊外にあるキャンプ場まで、バスで2時間かかる。

 社内で過ごす2時間で大切なことは、誰と隣に座るかである。

 親しい友人がいない私は、あぶれたもの同士で座っている。

 窓側に売れっ子占い師を母に持つ加藤真由美さん、反対の窓側は同じ外部生の七瀬瑠璃子さんだ。

その二人に挟まれるように、真由美さんの隣に私が座っている。

私たちの席は先生の席の斜め後ろで、隣の人はバスが出発すると早々に空いている後部座席の方に移動してしまった。

35人のクラスメイトと2人の先生に対して用意されたバスは50人乗りのためゆとりがあるのだ。

 瑠璃子さんはイヤホンで音楽を聴いており、宿泊学習中は持ち込み禁止とされているスマホを先生に隠れてずっと操作していて、最初から私たちと話そうとする姿勢ではなかった。

 私と真由美さんは最初の頃は会話を試みようとしたが、一番盛り上がったのが天気の話でそれも数分で終わってしまった。

 バスが出発して30分くらいの時、真由美さんは本を鞄から取り出し読み始めている。

 車酔いしないのかと心配になったが、涼しい顔で本を読んでいるところを見ると大丈夫みたいだ。

 真由美さんは漆黒の美しい髪は鎖骨まで伸びていて、やや吊り上がった一重のすっきりとした瞳まるで日本人形のように可憐な女の子だった。

 方や瑠璃子さんはというと自然光の下だと金髪に見える茶髪で、形の良い二重の瞳には濃いアイラインが引かれている。鼻の形もよく、まるでアメリカの着せ替え人形のような今どきな女の子だ。

 車酔いするために持ってきた本も読めず、スマホもないためやることがない私は寝るのを試みるが、バスが山道に入ったこともありグラグラと体が揺れ眠ることができない。

 それにお尻も痛くなってきて、何度も座り直す。お尻の下に手を強いたり、重心をずらしたりするがお尻の痛みは消えない。

 ソワソワとする私に、本を読んでいた真由美さんが話しかける。

「ずいぶん、にぎやかですよね」

 お尻の痛みで自分にいっぱいいっぱいだった私は、後部座席で盛り上がっているクラスメイト達には気が付かなかった。

 流行りのゲームを大勢でワイワイと楽しそうに遊んでいる。その中心には田村くんがいて、意外なことに公泰くんも一緒にゲームをしている。

私はお記憶の中の公泰と目の前の公泰くんが一致せず、「そうですね」と空返事をする。

「大丈夫ですよ」

ぱたんと本を閉じ、綺麗な黒い瞳でまっすぐに私を見つめる真由美さんに、私はお尻が痛いのも忘れて背筋を伸ばす。

「えっ?」

「紫音さんはお綺麗ですから、きっともう少ししたら皆さんに受け入れられますよ」

それに磐井ですしと、口角を少し上げて笑う真由美さんはどこか寂しそうだった。

私が真由美さんに返事をしようとした瞬間、公泰くんと田村くんがやって来る。田村くんの手にはトランプと水滴の付いた炭酸水のペットボトルが握られている。

「ねぇ、一緒にトランプしようよ!」

田村くんが空いていた前の席に座り、座席をぐるりと回し私たちと向かい合うようにする。

「いいの?」

 私は後ろの席で2人を見ているクラスメイト達に視線を向ける。

 その視線に気が付いた公泰くんが答える。

「はしゃぎすぎて少し疲れんだ。人数も増えてきたし」

「おれもはしゃぎすぎで喉カラカラ」

 私たちの返事も聞かずに、「ババ抜きね」と、田村くんがトランプを5人分配り始める。

 強引な誘いに私と真由美さんは目を合わせる。仕方なしに配り終えたトランプを手に取り、揃っているカードを手札から抜いていく。

 視線を感じたのか瑠璃子さんがイヤホンを外し、「何?」と尋ねる。

 田村くんが瑠璃子さんをトランプに誘う。

 最初断っていた瑠璃子さんだったが、公泰くんの一声で渋々といった様子でトランプを手に取る。

「磐井に逆らえないでしょ」とのことだった。

 公泰くんが一抜けして、田村くんの手元にババが残って最初のゲームは終了した。

 すると、クラスの女子2名がトランプに混ざりたいと声を掛ける。

 それをきっかけに、瑠璃子さんはトランプから抜け、後部座席でゲームをしていた人達が続々とトランプに混ざり始める。

「もう!こんな大人数でトランプしても面白くない!」

 と田村くんが怒り始め、先生の「席に着きなさい」の一言でみんなが慌てて席へと戻り始める。

 最初にトランプに混ざった2人組が遠慮がちに私に話しかける。

「磐井さん、私たちの隣の席空いているんだけど一緒に座らない?」

 私は彼女たちが指さす席に目をやる。どうやら二人は公泰くんと田村くんの後ろの席に座っているようだった。

 あー、と納得がいき、私は首を振り断る。

「ごめんなさい、私バス酔いしてしまうので前の席の方がいいんです」

 二人は残念そうに席に戻っていった。

「いいんですか?私のことなら気にしないでください。一人は慣れているし、暇つぶしもできますので」

 本を指さしながら、真由美さんが断った私を気遣うように話しかける。

 私はお尻が痛いのも忘れて、ゆったりと座席によりかかかる。

「大丈夫、気にしないでください。私は、磐井関係なく私と仲良くししてくれる人と仲良くしたいんです」

 驚いたように大きく目を開く真由美さんは、ふっと息を吐き私に告げる。

「それは難しいかもしれないですね」

 私は真由美さんから視線を外し、バスの赤いベルベットの天井を見上げる。

「うん、わかってる」

 それだけ磐井グループは胡蝶学園において存在感が大きいのだ。

 でも、私はあきらめない。

 若葉のときにでできなかった同性の仲の良い友達が欲しいから。
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