αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ

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番外編

日常

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その後すぐに俺の達は婦人科を受信し、しっかりとした診断を受け、母子手帳を貰った。
海斗と2人で物珍しく色んなページを開いていたら、周りの人に不思議そうな目で見られたが、まあそうだよな。

そして、幾日もしないうちに、お互いの両親の元を訪ねた。

海斗の父は大手スーツメーカーの経営者で、ブランド力を強めたその手腕は確かなもの。
その人格は厳しく、厳格な男であると有名であった。

そのため、俺はかなり緊張しながら海斗の隣に腰掛けたのだが、海斗の父は海斗そっくりの目元そっと綻ばせて俺を迎えてくれたし、「分からないことがあったら、いつでも連絡してね」と、母親のΩの男性も優しく接してくれた。

少しくらい反対させるかと思ったが、拍子抜けしたというのが本音だった。

俺の家はと言うと、αの父親のおかげでそこそこ裕福ではあるが、一般の枠を出ないような家庭であり、海斗のうちのように緊張せずに行ったのだが。

大学生の姉も、小学生の妹も両親も、あまりのことに騒ぎ立てて、しかも俺の腹をしみじみと眺めてどうぞどうぞと俺を差し出すことしかしなかった。

「あんた結構できた子だったからさ、可愛いΩの女の子でも連れてくるのかと思ったら、あんなイケメン連れてくるなんて……」
「俺もお前を嫁に出すとは思わなかった」

と、父と母は俺の背をばしばし叩いた。

俺も思わなかったよ。

姉は「赤ちゃん絶対にイケメンか美少女になると思うんだよね、絶対に写真送ってね」とお祝儀袋を急いで作ってくれし、帰り際に妹は、そっと俺の服を掴んで耳打ちをしてきた。

「お兄ちゃん、きっとね、海斗さんは運命なんだよ。じゃなきゃ、赤ちゃんなんて来てくれないと思うんだよね」

俺が驚いて妹を見ると、ニコニコと笑って、「赤ちゃんの名前候補、みんなで考えて送るね!!!!!」と楽しそうにした。

妊娠がわかって素直に喜べなかった俺がバカみたいで、おかしくて、俺は笑って妹の頭を撫でた。

妊娠したのが大学2年目の冬であったため、俺はしばらくはそのまま大学へ通っていたが、お腹が目立ちそうになる前に、休学届けを出した。

海斗が一人暮らしをしていたマンションは、俺が転がり込むにはなんら問題はなく、すぐに同棲が始まった。

海斗の帰りを待って、一緒に寝る日々。

トントン拍子に進む人生に、悪くは無いな、と夕飯を作る。

出産予定日はだいぶ早く、本来産む立場にないαの体が子供に耐えきれない可能性を考慮して、医師たちが嬉嬉として考えてくれた。

前例がほんとに少ないので、医師たちは慎重に……と言うより、医療マニアの集まりみたいで、あーでもないこーでもないとワラワラ集まって来たのには、海斗も面食らっていたな。

αの出産ということで、たくさんの担当医をつけてもらったが、別に見世物になったみたいな……という気は起きずに、意外と気さくな先生ばかりで俺も少し肩の力をぬけた。

出産予定日も近づき、だいぶでてきた……と言っても、αだからか。
あまり目立たないがしっかりと胎動を感じられる腹を撫でながら、海斗の帰りを待つ。

「ただいまー」
「おかえり」

しっかりと俺に聞こえる声に、既に出来上がっていたシチューを盛り付けて、テーブルに出していると、荷物を置いた海斗が手伝ってくれた。

一緒にいただきますをして生活する時か来るなんて、思わなかったなぁとしみじみ思う。

やばい、俺今幸せ過ぎるのでは?

「そういえば。フロントで荷物届いてたから受け取ってきたんだけど、親父からまたベビーグッズの詰め合わせだった」
「っ、あはは!お義父さん……!っはは」

食事中だが、笑いが止まらない。

あの後判明したのだが、赤ちゃんに1番浮かれているのは、海斗のお父さんだった。

キンっと冷えた氷のような外見から誤解していたが、だいぶいいおじいちゃんになりそうだ。
産まれてくる子は、おじいちゃんっ子になるのかな。

食後にソファーでテレビを見ていたら、お風呂をあがったのか、髪が生乾きのまんまの海斗が、テーブルに紙を一枚差し出した。

「これって……」
「婚姻届。忘れてたろ?」
「……忘れてた」

すっかり赤ちゃんのことに気を取られていて、結婚のことを忘れていた。
婚姻届には、俺の名前以外の場所……海斗の欄やお義父さんの署名、それに、俺の父の署名までしてあった。

「なぁ、いつ証人頼みに行ったの?」
「大学の帰りに。親父も、お前の親父さんも連絡したら、すぐに来いって返信来たし」
「俺にも言えばよかったのに」
「ちょっとびっくりさせたくて……ほら。手、貸せよ」

「ぇ」とさらに驚く俺に構わずに、恭しい手つきでシルバーの指輪を俺の左手の薬指にはめ、「俺のも」と、コロンともうひとつの指輪を俺の掌に落とした。

実感無いままに、海斗の左手の薬指にも指輪を通して、自分のを改めてまじまじとみた。
表面が波打つような滑らなか指輪は、シンプルでいてとても綺麗だ。

「……ありがとう」
「1回とって、裏見てみろよ」

言われるがままに、優しく指輪を外して内側を見ると、花のようなものと、K・Hとそれぞれの名前の頭文字が入っていた。

「その花は春に咲く、アジュガの花なんだけどな、柄にもなく花言葉とか調べたんだぜ、俺」
「へぇ、そうなんだ……なんて花言葉?」
「強い友情、心休まる家庭、だってさ」

まるで、俺たちみたいだ。

友情を忘れないでいてくれる、海斗に心がジン……と痺れた。

もう1回指輪をはめて、俺と同じ指輪が光る海斗の指と並べて眺めていたら、海斗は思い出したかのように声を上げた。

「この子の名前も、決めなきゃな」
「そうだな。でも、みんなも名前の候補送ってくれるんだけど、あんまりピンと来ないんだよね」
「先生達は、男の子だって?女の子だって?」

「今日聞いてきたんだろ?」という海斗に、俺はニヤッと笑って「ないしょ」と言った。

実は俺は、今日の定期検診で赤ちゃんの性別を聞いてきたのだが、さっき海斗に驚かされたばかりなので、お返しだ。

ちょっと海斗は面食らったようだが、「それもそれで、楽しそうだな」と言って、俺の腹をゆっくり撫でた。
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