惹かれた君とこの先に

香野ジャスミン

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「お待たせしました」
コトっとお茶を篤紀の父親の前に出す。
普通のお茶だ。
でも、俺は、その普通を大切にしている。
どこでも出される飲み物の一つ。
だけど、その飲み物が、美味しくなかったら、話は思うようにいかないかもしれない。
お茶が美味しいと、退席したくなるような話を少しでも聞いてもらえるかもしれない。
古い考えかもしれないが、その思いは、どんな時代にも残っている。
大手の企業は、飲み物を機械で同じ味として出す。
中小企業もそれを取り入れているところもあるし、実は、うちの会社も取り入れている。
けれど、わざわざ足を運んできてもらった人に、そのお茶を出すよりはいいと思い、始めたことだった。

篤紀の父親は、お茶を眺め、器を持ち、匂いを嗅いでいる。
「うーん、いいねぇ…
 母さんも、お茶を入れるがうまいんだ。
 篤紀は、良い人を見つけたね」
そう言って、彼は、ズズっと音を立ててお茶を飲んだ。
飲んだ後の表情は、とても満足した顔だ。
「…篤紀と同じ歳なのに、篤紀はお茶も碌に淹れれないぞ?
 隼人君は、スゴイね。
 君ぐらいの歳だと、こういうことは、嫌う人が多いんだよ。
 女の人にさせたらいい。機械の物を使えばいいって。
 でも、この面倒なことが、人の心を動かすんだよ」
胸が詰まりそうだった。
自分の考えでしてきたことを、そういう風に思われたことに嬉しい気持ちになる。
「ふふ、篤紀、ごめんね。
 お父さんに、褒められちゃった」
俺が喜んでいるのを見て、篤紀も嬉しそうに見ている。
「また、飲ませてね」
その俺を見る彼の目がとても優しくて、それが、ちょっと恥かゆくなって照れてしまった。
小さく頷いて返事をする。

食事をしながら、今後について、少し篤紀の父親から話があった。
「実は、いずれ篤紀は、うちの会社に戻るだろう。
 でも、それより先に、隼人君。
 君を我が社で働いてもらいたい」
―!!!?
そんな話は、聞いていない。
篤紀を見ると、首を振っている。
「誰も、しらんよ。
 でも、会社の社長には、前から打診をしてたんだ。
 高校を出て、自分でコツコツと高めていく人材。
 今、勉強している資格試験。
 これに合格をすると、我が社に移るようにして行こうと思っている」
その話を聞いていた篤紀が、
「ちょっと、待ってください。
 勝手すぎます。
 隼人は、試験が終わったら、投薬を受けようと考えているんです。
 それなのに、そんな大変なことを言われたら、後にまわすしかないじゃないですか」
俺は、静かに聞いていた。
今までこうして俺の事を親身になって行ってくれる人は親だけだった。
でも、その親からも俺は距離をとった。
だから、人の温かさをしっている俺は、そのどちらの言葉も、嬉しく思っていた。

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