後悔する男

水の味しかしない

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オメガであることに疲れ切っていた初乃が
東京から出てきて最も安らげる場所は自宅ではなく、入学した大学の図書館だった。
広々とした空間に何十万冊とひしめく本たち。
初乃が入学した大学の図書館は一般にも公開されていて空調も快適で
創立が古い国立校故、オメガに対する対策も充実していた。

例えば目立たない場所にオメガ専用のブースがあり、
そこにはオメガ用の席やテーブルが用意されている。
さりげない配慮でオメガを守る配慮がうかがえるそこはオメガのフェロモンにも
対策がされており、また万一発情時には館内の職員のオメガには目がつくが
一般客には目につかないようにも職員廊下から救護室へと急患を案内できる
作りにもなっていた。

家に帰りたくない時、バイトや授業がないとこの図書館が開いている限り
殆どの時間を初乃はここで過ごした。
もともとオメガということでインドアで本を読むことが好きだった初乃にとって
こここそが一番落ち着けるいつの間にか大好きな場所になっていた。


彼と出会ったのもここでだった。
最初は遠目に目が合った。気のせいだと思えるくらいの些細なところから
彼との接触は始まったのだ。

彼は平凡で周囲に埋没してしまう初乃とは真逆の一目見れば
多くの人間が忘れられない、そんな印象的な、飛び切りの特別な人間だった。






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