上 下
23 / 48
ルー・ライドルフ討伐

南下

しおりを挟む

「よくわからなくてすいません~つぎのところいくですか?」

ニィナが相変わらず固まったままの皆に聞きまわっている。
「そのようだが……俺はここまでだ」
ダンマーズが長身を部屋の壁にもたれさせながらうな垂れる。
「ですね……」
「ぼ…僕この山から出たことねぇだよ!?」
また無茶な命令を出されて戸惑っているフェルマと
相変わらずパニック気味のマーシャスを横目に
山田が今マルスドゥから言われたことを自分なりに整理する。

・ダンマーズはここで指揮している部隊に帰還する

・ルー・ライドルフの排除のためにはアラマスク東部に向かわねばならないようだ

・排除をしなければ、アラマスクが戦力投入できないためにドラゴニアンゾーンの切り取りは進まない

・ルー排除はリーザー大臣との二面作戦である

・ナナ・ラマの守備や再建はマルスドゥが当面肩代わりする

「……みんな、じいさんの言葉に従い、東へと行こう」
あっさりと決意した言葉に全員が山田の方を見る
「ソウスケ……」
「勇者様、すいません……」
「えええええええ」
「いきますか~わたしはやまださんについていくだけです~」
「……」
各者各様の反応をしている仲間達に山田は続ける。

「それが示された中で一番の近道なら、選ぶしかないんじゃないのか?」

ただのサイコパス的な理詰めの上での合理主義なのだが、
全員の目には勇敢なる決断をした勇者に映った。
「勇者様……」
「ソウスケ……お前ってやつは……」
「山田王さん……」
「うふふ~すてきです」
「ご英断です」
皆、驚きの目で山田を見ている。
「……ソウスケ、あとで俺の部屋へ来てくれ
 渡したいものがある」
目頭を押さえたダンマーズが山田の肩を叩いて部屋から出て行き、
他の皆も今日はそれぞれ旅支度をすることにした。
時刻はまだ夕方である。

山田が気分転換のために独りで外へ出ると、
ステラスターの太陽がナナ・ラマの城壁の向こうへと
ゆっくりと沈んでいくのが見えた。
「まだここに来て半月くらいなんだよな」
一人で呟いてみる。
他者利益とともに、自身の安寧を重要視する山田だが
この良く知らぬ惑星でまだその場所は見つからない。
なので今までは他人に言われるがままに戦い、歩き続けてきた。
地球帰還まで三年と言う月日を、いかに納得いくように過すのかという道筋はまだ見えないが、
自分を慕ってくれる仲間達と旅をするのもまた
僕が求める安寧のひとつの形なのかもしれないな。
と少し山田は自分の中で、他者利益優先のサイコ的な本性が
場当たり的にしてきた判断の整理ができた気がした。
太陽は城壁の下へと落ちていき、
暗闇が次第に辺りを包んでいく。

翌朝、山田たちはマルスドゥに見送られながら山を降りた。
全員"フロート&ブーストⅤ"をマルスドゥからかけられているので
超高速での下山である。
「ああ~僕の村が遠ざかっていく……」
ダンマーズの右腕に抱かれているマーシャスが名残惜しそうに振り向く。
「お手紙は託したのでしょう?」
山田の肩に乗っかっているフェルマが尋ねる。
「うん。あの偉いお爺さんに渡してきただ。必ず村へ届けてね、って念も押しただよ」
「一国の首相をポストマン扱いか!!こりゃいい!!」
ダンマーズが「がっはっは」と豪快に笑い出し、皆も笑った。
ローブの中に鎧を着込んだヒースグリフも
フードから出ている尖った口元を少し緩ませる。
ヒースグリフ以外の残った山田国のリザードマン軍はマルスドゥに再教練を頼んだ。

そのまま五人は一時間弱で麓のスイネリア城まで駆け下りて、
ノルウイング大佐と城兵の出迎えを受ける。

「ミーチャム閣下が大変ご迷惑を……」

会うなり部下と共に平謝りするノルウイングに
山田は詳しい事情を話し聞かせて、安心させる。
「そうですか……閣下は隠密任務だったのですか……」
「だよなフェルマ」
「間違いないと思います。昨夜マルスドゥ様にその件を申し上げたら濁されましたし」
マルスドゥとミャーの間に何らかの取り決めがあって
隠密任務をしていたのではないかと言うのがフェルマの考えだ。
「うっし!!これで俺もしばらくソウスケ達とはおさらばだ。
 ミャーさんにも会ったらよろしく言っといてくれよ」
ノルウイングへの挨拶も済まし、吹っ切れた表情のダンマーズが、
迎えに来ていた飛行型ゴーレムへと歩いていこうとして立ち止まり振り向く。
「あ、ソウスケ。渡したものは大事に使えよ。
 高価なものが多いし、中にはミャーさんの私物もあるからな。
 あの人は勝手に使われても文句は言わんと思うがな」
「わかった」
ナナ・ラマ攻略時にダンマーズが背負っていた、
大きな道具袋を受け取っていた山田はニッコリ微笑み、
ダンマーズもニカッと笑って、颯爽とタラップからゴーレムへと乗り込む。

離陸して遠くなっていくゴーレムへと手を振ってから、
一行はスイネリア城でノルウイングとの今後の打ち合わせに入る。
会議室に通されて、ノルウイングは黒板に光るチョーク状のもので大まかな作戦を書く。
日本語とアルファベットが混ざったような不思議な字体で、何故か山田にも読めた。
内容は先にマルスドゥから言われたこととほぼ同じである。
「で、具体的な内容を詰めるわけですが」
「その前に、共同作戦の一翼を担うリーザー大臣からご要望が届いておりまして」
「なんですか……?」
嫌な予感がしているフェルマの前で、ノルウイングはメモを取り出して見る。

「……拝啓、山田王様。ご即位おめでとうございます。
 早速ですが、領地も狭く建国間もない貴国と歴史在るアラマスクの恒久的な平和と、
 今回の作戦遂行の迅速化のために
 そちらに居るニィナ嬢を当方へと引き渡すか……」

「わたしですか~?!」
「そんなのだめだめ!!ニィナさん大事だよ~」
いきなり名前を出されたニィナが素っ頓狂な声をあげ、マーシャスが脊髄反射で反対する。

「……引き渡せない場合は、即位記念で東部への物見遊山に行く前に
 途中に御座います我が麗しの領地へと是非、お立ち寄り頂きたい。
 心よりお待ちしております。
 あなたの大親友 リーザーより」

「……だそうです」
「なんですかそれ……」
フェルマが眉をせばめ、山田もその意図がよく分からない。
「……一癖も二癖もあるお方ですから、素直に従って行っておいたほうが良いと思います」
ノルウイングが首を振りながら仕方なさそうに助言する。
「わかった。リーザーの領地へと寄ろう」
山田は素早く決断した。会議室の後方で静かに待機するヒースグリフも頷く。
フェルマは一瞬あっ、といった顔をしたが押し黙る。
「了解しました。移動については、こちらで馬車や十分な食料を用意しますので
  存分にお使いください」
「ではここからが本題なのですが」
「何でも、諜報、諜略、謀略、暗殺など
 各種裏側はリーザー大臣が全て担うとのことです。
 山田王様には堂々と侵入してもらいたい。と伝えてくれてくれと
 この城にお立ち寄りになった、マルスドゥ閣下はおっしゃられていました」
山田とフェルマは頷き、ノルウイングは大きなアラマスクの地図を黒板に貼り、話を続ける。
「アラマスク最北端に位置するこのスイネリアからまっすぐ南下すると
 ジャーディーに着きますが、そこから東へと道沿いに行けば
 アラマスク東部軍支配地域にたどり着きます……」
「しかし、ご一行は先にリーザー大臣の御領地へと足を運ばれるようなので
 ジャーディーから一度、バグディコまで南下してそれから魔染地帯を越え
 東部軍支配地域南端近くの大臣居城、カーティー城まで、まずは行かねばなりません」
「途中じゃないな。すごく遠回りだ」
気付いた山田が呟く。
「はい……完全に嫌がらせして遊んでいますね」
フェルマが頭に手を当てて嘆いた。とはいえ、
半ば脅迫されているので行くのを撤回するわけにも行かない。
「私も独自に侵入経路を考えてはいましたが……
 その後のことはリーザー大臣にお任せすることにします」
山田たちへ善意で密かに考えていた作戦を
反故にされたノルウイングも無念そうに述べる。
「とにかくご無事を祈っています。何かありましたら、ご連絡をください」
ノルウイングは、山田に頭を下げで、同族のフェルマの手を握り
「無事に帰って来い」と祈りを込めた。

作戦会議が終わり次第、山田たちは馬車に乗り込み
まずはスイネリアから、ジャーディーへと南下し始めた。
ゴーレムは勿論コストの面で使えず、
魔法で動く車は高価でかつ荒地に弱いので
時間がかかっても馬車で行くのがいいらしい。
御者はヒースグリフが務め、隣に座ったフェルマが方向を指示している。
山田とニィナ、マーシャスは木で出来た頑丈な馬車内の窓から景色を眺めたり、雑談をしている。
ノルウイングは「この馬車は差し上げますので、必要なら使い捨てにしてかまいません」
という温かい言葉と共に山田たちに頑丈な馬車を提供した。
「食料は十分にあるな」
山田が馬車内に積まれた干し肉や干し飯、乾パンなどを見ながら言う。
「これだけあれば余るだよ~ニィナさんと色々料理してもいいだね」
「おゆうはん、たのしみです~」
ニィナとマーシャスは晩御飯に思いを馳せている。
「少なくともジャーディーまでの旅は穏やかになると思いますよ。
 穏やかな地域なので強力な敵はいませんし」
御者席から馬車内に入ってきたフェルマが
紫色に光るポットから出した、お茶を飲みながら述べる。

「あ、そうだ。ジャーディーで
 マルスドゥ様推薦の"戦士"を合流させるとのことです」

「戦士?」
「山田国の新しい戦力になると仰っていましたよ」
「僕の国の兵士?」
ヒースグリフもかなり強いはずだが、まだ実力は未知数であるし、
とりあえず戦力は多いほうがいいかと山田は考え、フェルマに頷いた。

寒いスイネリア城周辺のアラマスク北部から
数日かけて馬車で南下していくと次第に気温が暖かくなっていく。
晴れ日の続く天気の中、
沢山の小さな町を越え、緩やかな山道や木漏れ日の林道を馬車は進む。
「平和だな」
「だね~」
「すてきです~」
「今までの闘いが嘘みたいですね」
みなの言葉にヒースグリフも御者をしながら微笑む。
「アラマスク北部から中部は治安がとても安定しています。
 マルスドゥ様の治世のお陰ですね」
フェルマが鼻高々に語り、干し肉にがっついたマーシャスがウンウンと生返事する。
「ふ~、あの人には酷い目にあったけど、今みたいに楽しい旅ができるなら
 兵士になるのもわるくないだ~よ」
さらにパンパンのお腹を叩きながらのたまった。
観光気分で緩みきった一行が、ジャーディーに到着すると大きな東門の前に
マルスドゥの参謀のドワイドが待っていた。
「ご一行、長旅お疲れ様でした」
と頭を下げると、すぐにアラマスクアカデミーの
マルスドゥの研究室まで行くように促す。
そこにマルスドゥの言う例の"戦士"が待っていると言う。
ドワイドも乗り込んだ馬車は、ジャーディー内の中央道を進み
アラマスクアカデミーにたどり着いた。
アカデミーまでの道中、フェルマと山田はドワイドに
共同作戦者のリーザーから半ば脅迫されていることと、
遠回りを強いられていることを訴えたが
ドワイドは水の入ったヘルメットの中から困った顔をして
「そうですね……何か深いお考えがあるのでしょう」
と返すのみであった。

五人とドワイドは、
アカデミー構内の端にあるマルスドゥの研究室のドアを開ける。
そこにはかわいらしいウェアウルフの女の子が座っていた。
山田を見つけるなり走り寄り
胸に抱きついて顔をなめ回す。
しおりを挟む

処理中です...