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捻じれ始めた運命

変遷

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「死者蘇生呪法、つまりネクロマンシーっすか?」

アラマスクに帰るために
風魔法を使い、高速で走りながら東の大陸西岸を目指す
マルスドゥは、隣を行くアーグルに話しかける。
その隣には奇抜な格好をした、あの長身の女性がニヤニヤしながら付き添う。
「そうじゃ、ちょっと興味があってな。
 博識なアーグル君なら知っておるかとおもうた」
「わらわが答えようか?」
ニヤつく女性を軽く手で遮り、アーグルは
「ろくなもんじゃないですよ」
雨が降りそうな曇り空の方を向き、答える。
「やはりそうか。詳しく教えてもらえるか?」
「俺も又聞きしただけなんで、正確ではないかもですが……」
そう前置きしたアーグルは、
高速で景色が通り過ぎていく周囲の砂漠を見つめながら
「まずは、きちんと蘇りません」
「どういうことじゃ?」
「成功しても、記憶は殆どないし、能力が半分以下になるといいますか……」
「ふむふむ」
「そして失敗したら、わらわ達の仲間が増える……」
横槍を入れた女性をアーグルは睨みあげる。
「他には?」
「蘇らせた術者の意志が乗り移ります」
「どういうことじゃ?」
「本人の精神に蘇らせた術者の神聖さや邪悪さがかなり干渉するんすよ。
 それはもう何か違うもので……生前の本人ではないです」
「……と、知り合いから聞きました」
慌ててアーグルは付け足す。
「うーむ……一筋縄ではいかぬか」
そこでアーグルは大事なことに気付いてしまい、
考え込むマルスドゥに仕方なく遠まわしに忠告する。
「もし……もしも、閣下が亡くなられた友人や親族を
 生き返らそうとしているなら……」
マルスドゥはハッとした表情でアーグルの顔を見返す。
「そうじゃな……、やめたほうが良さそうじゃ……」
アーグルは顔を逸らし、まるでそれをやったことがあるかのように
深い後悔をした表情を見せる。
隣では女性が悪辣な表情で
うな垂れたアーグルの後頭部をニヤニヤと見つめていた。







「キーリィー!!刃が欠けたで!」

「ほいさっ」
ジャングルの中にぽっかり空いた広場で
巨大な石でできた神物の像との拳と打ち合って
刀身が半分になった剣を武中は投げ捨てる。
同時にキーリィーがその腕に鞘に収まった新しい剣を投げ渡した。
「かったいなぁ。どうしたらいいんや」
「邪神像と戦いたいとかいうからだよーっ!!」
悲鳴をあげながらキーリィーが巨大な足から繰り出される
かかと落としを避ける。
「くそっ!!"ファイアフライⅡ"!!」
苦し紛れにキーリィーは五メートルほどあるその像の
厳しい顔についている睨み付けるような瞳に
複数の火球を炎魔法を放つ。
目の周辺が焦げついて、像の動きが鈍った。
「効くぞ!!エンチャントくれ!!」
「まかせてっ。ファイアエンチャントⅢ!!」

「……ウインドエンチャントⅢ……」

「あ、ユーポさんあざっす!!」
少し遠目から、武中たちの戦いを羽根で宙に浮かびながら
見守っていた小柄な女妖精が
上手く調整した武器属性付与
エンチャント
魔法を、
キーリィーと同時に武中の剣に放った。
「よっしゃ、混成魔法剣
ダブルエンチャント
の完成や!!」
「いっけええええええ!!」
キーリィーの掛け声と共に
武中が力強く宙に飛び上がり、視界が奪われ
フラフラしている巨像の頭上から一刀両断する。
崩れ去り、ただの石の山となっていく石像を
武中は振り返ることもなく、虎人のキーリィーに駆け寄る。
「よっしゃ!!これで村の皆が、安全に森を歩けるで!!」
「やったね!!ユーポさんも本当にありがとね」
「……はい」
テンションの異様に低いユーポのことを
人の良い二人は気にも留めずに
彼女の背中を叩き、笑い飛び跳ねながら三人で村へと帰っていく。

「武中様とキーリィーとユーポ様が、邪神像をたおしたぞーっ!!」

村中に響く声で、虎人の若い衆が大きな村の中に伝え回り、
立ち並んでいる木造の家から次々に村人が出てくる。
村長もローブ姿の参謀とともに近寄ってきた。
村人に囲まれ褒められて
照れている三人を遠巻きに見ながら、
「やはり、"ガイド"がついた地球人の成長は早いな」
「キーリィーも急速に伸びているのが、嬉しい誤算です」
「だな。今やわが子の中で、もっとも底知れぬのが、あいつだ」
「このままいけば、我が部族の悲願も遠くないかもしれません……」
「そうだな。だが無闇な期待はせず、我々は見守ろう」
二人は頷き合って、その場を静かに離れた。
村中に喜びの歓声が響き渡る。









「ん……」

山田が目覚めると冷たい牢屋のベッドの上だった。
「あれ……」
囚人服を着た手足には、紫色に発光する手枷や、足かせがそれぞれについている。
今までの経験から山田はそれらが
自らの魔法力を縛るものだということを何となく理解した。
鉄格子のはまった小さな窓や、頑丈そうな鉄扉を見回して
ここはとりあえずは安心だな。と何故か山田は考えた。
悪意しか感じない恐ろしい少女との戦闘や、
寝ている間の"ゲートメモリー"との会話は
はっきりと覚えている。あれらはただの夢ではないのだろう。
むしろ今は牢屋の中でありがたいな。と妙な感謝をして
山田はベッドに腰掛けて、考え始める。

まず、あの青いワンピースの少女は帝国から来たと言っていた。
真偽は不明だが、何かの手がかりにはなるかもしれない
そして僕は「死をとめるために時を止められた」と"ゲートメモリー"から聞いた。
ということは、そのことが本当なら、
死から逃れ、さらに時間停止が解除されたから、
ここで今起きているわけだ。
山田は首や腕を回してみる。まったく異常は無い。
それどころか心なしか以前よりも調子が良い気がする。
この手足の枷は、ほぼ無意識だったのであやふやだが、
何らかの新魔法力に目覚めたのは、まだ記憶にある。
それらを脅威に感じた誰かが嵌めたのだろう。
そしてここはどう考えても牢屋の中だ。
つまりはその誰かとは、どこかの集団……いや国家なのかもしれない。

そんなことを冷静に考えていると
鉄扉の向こうから気配がして、知っている声が呼びかけてくる。
「起きましたか、山田様」
「ミカデルさん」
山田は知っている声を聞き、安心した。
「国王様への過失致傷罪と国家内乱罪の疑いで、山田様に牢に入ってもらっています」
抑揚を消した声でミカデルは喋る。
「……?」
何を言われているのか、まったくわからない山田は次の言葉を待つ。
「他の重要容疑者であるヨールディン氏、アーシェラ様、
 ティナ様は我々が捕らえる前に姿を消しました。
 恐らく、山田国へと向かったと思われます」
"安心してください"という言葉がその後に続いたような気がして
山田は黙り込む。寝ていたので事情がよく飲み込めない。
ヨールディンがアラマスクに来ていたのか……それはいいとしても
アーシェラが何故、山田国へ?
「どうして、僕が捕まったか訊いてもいいか?」
過失致傷や国家内乱と言われても、山田には覚えがあるはずも無い。
「……簡潔に申し上げますと」
ミカデルは、少し言葉に詰まったあとに
「山田様は今、何故か起きておられて、国王様は依然止まったままだからです。
 それで様々な疑いが山田様に向いています」
「もしかしてラーグルムは生きているのか!?」
「ええ。おそらく時間停止した状態で生きておられます」
「そうか……よかった……本当によかった」
山田はベッドの上で少し目頭を拭う。
そして、頭を素早く回転させ始めた。
「よくわからないが、国王であるラーグルムを差し置いて、
 一人生き返った僕への当て付けみたいなものか?」
「私の立場ではそれには答えられません。
 本来は、国家のシステムと個人の意志とは関係がないはずです」
ミカデルは微妙な言い回しで答える。
たぶん"その通りです"ということだな。と山田はなんとなく理解した。
「事情はよく分かった。
 なんとなく僕も、今は静かなところに居られて助かっている気がする。
 何か分かったら、また知らせてくれると嬉しい」
「……」
ミカデルはその言葉には、
何も答えずに鉄扉前から立ち去っていった。
どうやら彼女は僕の味方のようだな、と山田は何となく理解する。





「なんで私まで捕まえようとするのよ!!」

カレンの頭に乗ってアラマスク上空を北へ向かっているアーシェラが
隣で座禅を組んでいるヨールディンに愚痴る。
「そりゃ、疎まれている王族がマルスドゥの居ない今の時期に
 こんな巨大戦力をもって王都に乗り込んできたら……」
「王位を簒奪しようとしてるとしか思われないわな!!がっはっは!!」
「しかもアラマスク王を差し置いて、山田王様を起こした当事者は嬢ちゃんじゃ!!」
ヨールディンは実に楽しそうに大笑いする。



 ……ノリスが見捨てるわけだ……



カレンが悲しそうに念話で、小さく呟く。
「ほんとよ!!ついでだし、アラマスク滅ぼしちゃう!?」
「やめとけ、やめとけ。首相閣下は今いないとは言え、
 "地鳴り"ダンマーズと"狂人"ミーチャムは
 何だかんだいって、恩のある国家に付くだろう」
「あんなに仲良くしてたのにー!?」
信じられないといった顔をアーシェラはする。
「真の武人と言うものは友情より、
 忠義を大切にするのじゃよ。お嬢ちゃん」
ヨールディンはグラン・ラ・マスクのある方角を眺め
「ご主君は捕らえられたが、きっとご無事じゃろう。
 ああいう人徳のあるお方は、簡単には死なぬ。ナルム王様もそうじゃった」
そう一人呟くと、目を閉じ瞑想に入った。
「まーいっか、山田も起きたことだし、私は山田国の王妃になるわ……」
アーシェラは吹っ切れたような顔をして
流し目で赤く染まった雲の流れていく夕暮れの空を見た。






アラマスク深部の中央会議室で
閣僚や武人たちが大きな円卓机に居並ぶ中
"辞表"という封筒を、ミャーはヘイズに突きつける。
「軍人としての忠節はどこへいったのかね?」
椅子に座り、膝を組んだヘイズはミャーを睨み返しながら言う。
「……飽きた」
「何を飽きたと言うのかね。北部総監殿」
小さく呟いたミャーの言葉をヘイズはとがめたてる。
「何も知らない十五の頃から二十五年間、お国に忠節を尽くしてきましたけど
 今度のことでもう疲れましたにゃ。年金も退職金も一切いらないです」
「旅に出ます」
はき捨てるようにそう言って、ミャーは会議室から出て行った。
その様子を閣僚の中に座るダンマーズが閣僚たちと並びながら腕を組み
何かを考えるような複雑な表情でその後姿を眺める。

グラン・ラ・マスクの城下街へ出て、
人ごみにまぎれたミャーは耳を立てて何かを察知すると、
「隠密につけられてるか……」
と呟いて、気配を消し、
風魔法で人ごみを泳ぐように素早く進んでいく。
そのまま、城門まで降りたミャーは
「ドルゲニス刑務所ってどっちだったかにゃ」
と周囲を見回し、東へ向かう荒れた土の道を滑るように走り出した。
その途中でヘイズの言葉を思い出したミャーは
「忠節か……あたいの遅咲きの忠節はヤマーダ君に捧げるにゃ。
 ……ごめんね、ヘイズおじちゃん……」
そう、独り言を切なそうに呟いた。

途中で日が暮れても、
ミャーは広葉樹の森の中を走り続ける。
「気配は無いにゃ。しつこいのは、やっとまいたようだニャ……」
ホッとして足を止めると、
その時、
目前に、この世のものとは決して思えないような
恐ろしい違和感をミャーは感じる。
珍しく尻尾が逆立っているのが分かる。
「なんだにゃ……レイスキング?いや、アンデッドのリーダークラスか……?」
自らの経験と照らし合わせても一切合致にしない気配の主は
目前の大木の背後からゆっくりと
巨大な真っ黒な影のような四本足で立つ姿を見せていく。
「うわ……」
それは残像を残すような異様な素早さで
ミャーに近寄って襲い掛かった。
「しまった……こんなところで」
完全に不意をつかれたミャーは久しぶりに自身の死を覚悟した
……と思ったが、冷静に眺めると、巨大なそれはミャーを押し倒して身体を嘗め回している。
「ん……こいつ、殺気がまったくないにゃ」
ミャーの身体から離れたそれは、
夜の闇にまぎれてよく見えない身体の広い背中を
ミャーの前に差し出してくる。
「あたいに……乗れと?」
「ヴァウワウ」
長い鼻のついた顔で、まるで"そうだ"
とでも言わんかのようにそれは縦に頷いて、返事をした。




山田はベッドの上に座り
小さな窓からステラスターの月を眺める。
そしてなんとなく、"ゲートメモリー"から見せられた記憶や
言われた言葉を思い出していく。

あれらが全て本当なら、僕はこれからどうして行けば
"ゲートメモリー"が見せてきたような
"最悪の未来"にたどり着かないでもいいのだろうか……。
たしか"善なる心を忘れないで"とか言っていたな。
同時に"漆黒の闇にも飲まれないで"とも。
善か……そして闇か。自分なりに善いことはしてきたつもりだ。
でもきっと沢山の人も傷つけてきた。
あのルー・ライドルフにだってヨールディンみたいに
慕う部下がいて、きっとその下の兵士達にも似たような人が
沢山居たに違いない。
彼らは僕がルーを殺したと知って、何と思ったんだろう。
そう言えば、黄龍のミギャルドルゲニアも消える直前に
誰かのことを言っていた気がするな……。
……僕はもしかすると、僕の視点からでしか
地球も含めた、この世界を見ていなかったのかもしれない……。
僕のために、弱い者を守り、
傲慢なやつらを倒してきたけれど
彼らも、彼らなりにそうなった理由がきっとあるんだよな……。
僕から見たら闇や悪である彼らも、彼らから見たら善なのかもしれない。

善とは、闇とはなんだろうと、
山田は、ずっとベッドに腰掛けたまま考え続ける。
少しだけ、本当に極僅かだが、山田の頭の中に
その答えが閃いた気がした。

「善や悪というのは人の流れによって作られるものなのか……」

何が良いか悪いかと言うこと自体が
本人の意志だけではなく、本人が相対する他者がいるからこそ成り立つ。
その他者の数が多ければ、多いほど様々な見方が生まれ
そしてその数多くの視点を集め、平均化したものが
善や悪であるのではないかと、山田は彼なりに考えた。

「つまり僕は、関わった他人や生きていく環境次第で、
 善悪の視点が変わってしまうんだ」

ならば、善いことや悪いことという概念自体が
ある意味、歴史上の人々が延々と積み上げた思いの集合なのではないか……。
だとするならば、今を生きる僕が取るべき正しい道は、
僕自身のこうしたいという想いだけではなくて……。

その時、


バグアァアアアアアアアアアアアアン!!!!


というド派手な音がして、山田の牢の壁が大きく破られ
土ぼこりが牢の中に激しく舞う。
「なんだっ!!」
山田は立ち上がり、埃の中に立つ大きな人影を注視する。
そこには青いワンピースの少女から
「オヴァシュナー」と呼ばれていたあの巨大な漆黒の魔犬に
またがったミャーが微笑みながら立っていた。

「さ、ヤマーダ王様、とっとと逃げるますにゃ」

飛び降りたミャーは、戸惑う山田の背中を押しながら
巨大な魔犬の背にむりやり乗せ、自らの飛び乗った。
「ヴァウワ」
魔犬は何かを呟いてから急速に空に上昇していく。
山田は下を眺め、自らの囚われていた建物は、
巨大な城塞のような高い壁に囲まれた刑務所なのを理解する。
「アラマスクのドルゲニス刑務所ですにゃ。
 重犯罪者の魔力を封印できる設備が揃ってる所ですにゃ」
ミャーが魔犬に月明かりの下で
ドラゴニアンゾーンの方角に向かうように指示しながら
山田に背中で教える。
「そうだ。ミャーさんいいのか?僕を助けて」
山田は、まだアラマスク北部総監だと思っているミャーを気遣う。
「あ、半日前にアラマスク軍は辞めましたニャ」
あっさりと答えて、機嫌よく鼻歌を歌うミャーに山田は絶句する。

「というわけで、前に予告していたように、今日から正式な臣下でございます。
 ヤマーダ王様、風使いミーチャム・バルガサスをどうぞ宜しくお願いします」

くるっと魔犬の背中をターンして、山田の方を向いたミャーは
うやうやしく頭を下げる。
「う、うん。こちらこそ宜しく」
山田は意外な急展開に、頭の整理が追いつかず
ぼうっとしながらも何とか答えた。
ニッコリ頷き返したミャーは再び器用にターンして
前を眺めながら
「ナナ・ラマと、新拠点どちらに向かいますかにゃ?」
山田に尋ねる。
「とりあえずナナ・ラマに。よくはしらないが
 僕の国はアラマスクと関係悪化してるんだろ?」
「そうですにゃ」
ミャーは実に楽しそうに答えた。
「ならばアラマスクから近いほうを防衛したほうがいいんじゃないのか?」
「さすがですにゃ」
ミャーの自分への敬語に若干違和感を覚えながらも
山田たちは北部大山脈へと飛んでいく。
「この犬とはどこで?」
「ここに向う森の中で会いましたにゃ。何故か意気投合しましてにゃ」
「……そうか」
あの青いワンピースの少女が乗っていた犬だということは
今は言わない方がいいような気がして、山田は黙った。



うっすらと雪に覆われた山頂付近の
ナナ・ラマ近くまで魔犬で向かうと、
上空に巨大な漆黒の蛇のような巨大龍が渦を巻きながら
ゆったりと飛び回っているのが見える。
「あれはなんだ……!」
驚愕する山田と対照的に冷めたミャーは
「ああ、魔龍のカレンですにゃ。悪タレ……
 いや、アーシェラ嬢のしもべみたいなもんですにゃ」
「……もしかして味方か?」
「ですにゃ。アーシェラ嬢が邪心を起こさない限り味方ですにゃー」
興味なさそうに、ミャーはそう答えて
「犬さん。あの街に降ろしてくれる?」
「ヴァウ!」
"がってんだ"と言う感じで、魔犬は威勢よく答えると
山田とミャーを乗せたまま、ナナ・ラマの中心部に降りていく。










「リ・マちゃんーネクロマンシーって楽しいねー」

「……学術的な視点で言えばその通りですね。
 "ゲート"エネルギー利用の観点からも興味深いです」
深く笠を被り、和式の旅装のようなものを纏った二人は
頭を下げてきた同じような格好の旅人に、挨拶を返す。
涼やかな林道を二人は登っていく。
「次は誰を生き返らせよっかなーって、
 考えるだけでもワクワクするよね」
「私は個人的な喜びはあまり……」
「正直ねー。でもリ・マちゃんのそゆとこ好きだけどね」
大きな寺のようなものが林道の先に微かに見えてくる。
「髪の毛一本でもあればいいんだけどな」
「即身仏らしいですし、どこかに遺伝子の痕跡はあるはずです」
「いいねぇ。即身仏なんてゾクゾクする。
 すっごいドMプレイだよね」
「一応、宗教家達は真摯な気持ちでやっているので、
 性的なものと結びつけるのは……」
真面目なリ・マの答えに、ノーナリオンは自身の頭の後ろを軽くたたきながら
「めんごめんご。さ、この坊さん生き返らせたら、
 また帝都図書館の特別資料館の、知識の海の中にダイブできるわー。
 楽しみだねー♪」
「私はそちらの方が好きですね。実証実験は結果が分かっているので」
うんうんとノーナリオンは上機嫌で頷く。

巨大な木作りの山門を二人が潜り抜けると
「お二方、どのようなご用件でしょうか?」
頭をツルツルに剃って法衣を着た壮年のエルフの僧侶が話しかけてきた。
「あ、見学ですーお遍路の途中でして」
「どうぞ、こちらへ」
愛想よく答えた二人は案内され、お堂の奥へと歩いていく
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