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大勢の気配

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十年以上前に、泊りがけで京都に行った時の話だ。
時期は大文字の前後だと思う。つまり真夏である。
二十時過ぎくらいに京都北部から二条城の方へ
南下していくバスに揺られていた。
乗客は中ほどに座っている自分と最大で二、三人で
あるバス停で自分以外の全員がバスの前方から降りて行って
一人の半袖パーカーのフードを目深に被った痩せた男が乗り込んできた。
その男は、確か最後部の方の座席に座ったと思うが
その時、自分は凄まじく身の毛がよだっていたので
よく覚えていない。
男と共に、大量の気配がバスのあらゆるところに
乗り込んできていたからだ。

驚いて辺りを見回すが、誰も座っていない。
しかし居るはずのない人たちがそこら中に立っていたり
座っていたりする気配が消えない。
悪寒も止まらない。
いやいやいや、おかしいだろ。
今日大変で暑かったから、身体が疲れてるんだよな。そうだよな。
と必死に自分に言い聞かせているうちにバスは
さらに南下していき、いくつもバス停で停まったが
気配は消えずに、その間に一人、二人乗客が乗り込んできた。
そして、進み続けたバスは
某陰陽師を祀っている神社前のバス停で停まった。

バスの前部と後部のドアがプシューと開いて
いつの間にか前方の座席に移っていたフードの男は
運賃を払って、軽やかに降りていき
それとほぼ同時に、ガヤガヤと団体客らしき壮年の元気な男女が
大量に入ってきた。
いつの間にか、悪寒と共に不気味な気配たちは消えていた。

その後、泊まっているビジネスホテルに帰ってからは
とくに異変は起こらなかったが
今でもこの体験は謎のなままである。
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