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時計

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自室の窓枠の上に、壁掛け時計をかけている。
デザインは昔ながらの縦長木製のもので
時計のパネルの下には
振り子部屋がついていて、透明なアクリルの窓の中
鈍い金色の振り子が揺れ続けているのが見える。

飼っている猫が、窓枠を辿って
その壁掛け時計を、突っついて遊ぶことがよくあった。
当然、時計は斜めになったりする。
すると、当然一緒に斜めになった振り子の小さな音が変な調子になり
チクタクチクタクではなく、コツン、コツンコツコツ、コツン、コツンコツコツなどと
変拍子を刻みだし、寝る前に全ての音と電気を消した時
その微かな音に、自分がようやく気付き、時計の位置を垂直に直す。
などということがよくあった。

ある夜、消灯して寝ようとすると
コーン、コツコツコツコツ、チクタクチクタク
コーン、コツコツコツコツ、チクタクチクタク
異様な変拍子に驚いて電気を点けると
時計が逆さまになっていた。
逆さまに壁に張り付いていたと言えばいいか。
そして逆さなので揺れないはずの、振り子も逆さに揺れていた。
一瞬、たじろいだが
腹に力を入れて起き上がり、窓枠の上に手を伸ばし
時計を元の位置に戻して、そして再び電気を消して寝た。
時折、変なことがこの部屋では起こるので
一々、気にしてはいられないのだ。

翌朝、ガシャーン!!
という音と起きると、うちの猫が
パッとこちらを見て、部屋から逃げて行った。
よく部屋を見回すと、時計が壁から落ちて
窓の下で壊れていた。
いや、正確には振り子を囲う透明なアクリル窓が割れていて
振り子が飛び出していた。
まるで、何かの生き物が舌を出して死んでいるように。

自分は特に何も考えずに
割れたアクリル窓を全て取り除いて、ごみ袋に入れ
元の位置に時計を戻した。
それ以来、おかしなことも起こらずに
猫が時計を狙うこともなくなった。
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