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ローレシアン王国編

余計なインタビュー(読み飛ばし推奨)

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但馬たちから少し離れた位置にセーラー服の少女が立っている。
「あーこの場面ねー。これねー……ってかさあ」
少女は半透明に揺らぎながら、但馬たちが立ち去った洞窟の入り口まで歩いていく。
そして奥を眺めながら
「リグちゃん、この後、殆ど但馬と絡みなかったんだよなぁ。
 いいキャラしてるのにねぇ。
 んー、まぁ、ちょっとインタビューしてみますかぁ?だめ?
 だめでも、やるんですけどねー」
少女はニヤニヤしながら洞窟へと歩みを進めていく。
蛍のような水光虫たちが、半透明の少女がすり抜けていくたびに
激しく発光して、洞窟内真昼のような明るさになっていく。

奥まで到達した少女は、午後の日差しに光る地底湖を眺めて
「おーい」
と軽い調子で声をかけた。
水面が波打つと、静かにリグが真緑の頭を出してきた。
そして辺りを不思議そうに見回す。
「どうもー」
少女は右腕を元気よく上げて、リグに何度も手を振る。
リグは怪訝な顔で
「……共鳴粒子が不自然な共振をしておるな……なんじゃこれは……」
少女はその反応に満足した顔でニヤニヤしながら
「因果に負担をかけない程度でかつこの世界の神々や高次元人にばれないようにっと」
そう言って、パチッと指を鳴らした。
途端にリグは少女を見つけ、両目を丸くする。
「怪しいものじゃないですよー」
そう言った少女にすぐにリグの指先から、水鉄砲が飛んできた。
それは少女の背後に凄まじい水圧で穴をあけるが
透過した少女は多少揺らいだだけだ。
「……なんじゃ貴様は、虚無の王の使いか……」
リグから睨みつけられた少女は、ニコニコと微笑んで
「ちがうって、時空の支配者です!ほんとです!」
そう言って、パチッと再び指を鳴らした。同時に辺りの音がすべて消える。
「……時間停止……」
リグはそう言って絶句したまま、恐ろし気な眼を少女に向けた。
少女は少しため息を吐いてから
「インタビューしたいだけですよー。記憶も消すからご安心をー」
「……邪気は……ないか……」
諦めた顔をしたリグの大きな上半身を少女は見上げ
「ぶっちゃけ、タガグロちゃんのことどう思ってんの?
 いくら、海皇の一族とはいえ、水棲族としては小さすぎない?」
リグは黙って目を細めながら少女を見つめると
「……全て、知っておるのじゃな?」
少女は黙って頷いた。
「……タガグロは、心根が美しい。親友じゃよ」
少女はつまらなそうに
「えーと、じゃあー但馬はどうよー。ほら、あとのこと知ってるでしょ?」
「……言われた通りの素直な男じゃ。多少頼りなさそうじゃが、伸びしろは相当にあるな」
少女はガックリとその場に項垂れて、膝をつき
「あの、つまんないです……しかも嘘がないのが分かるから余計に……」
リグは一瞬絶句した後に噴き出して
「あははははは!なんじゃ、もっと汚い話が知りたいのか?」
少女がへこたれたまま頷くと、リグは興味深そうな両目でしばらくその様子を見降ろした後
「……水棲族のシャチたちは、時折南開諸島の漁師を弄んで殺しておるな。
 あとは、ナホン近海のものたちの中には、マシーナリーと取引して
 武力を蓄えておる者もいる」
少女は面倒そうに
「あーあーそういう話はいかにもって闇の話はどうでもいいんですよー。
 ハクトウ商会に弱者人魚売って儲けてる人魚シンジゲートとか
 レッドミラブの虫を食べるのが好きなダイオウイカのボースとか
 そういうの、よーく知ってますんでー……」
リグは興味深そうな顔で、少女を見つめ
「……ならば、なぜ、ここにわらわが別荘を持っておるかもしっとるだろう?」
「……あー表じゃなくて、真の目的ね。
 幽鬼のアレたちがえーと人間のアレとこう、それをアレして祭りをって……言えるかっ!
 "窓"が全部閉じるわ!十八禁どころか、三十五禁くらいの内容だわ!」
少女は立ち上がってリグに抗議した後に
「じゃ、そういうことでー記憶をー……」
「残しておいてくれぬか?もっとそなたのことを知りたい」
リグは両眼を輝かせて、少女を見つめる。
しばらく少女はリグを見上げ返した後に
「……まぁ、いいわ。また、なんか手伝ってもらうかもしれないから」
そう言って、パチッと指を鳴らすとその場から消えた。
残されたリグは、機嫌よさげに美しい旋律の鼻歌を歌いながら
地底湖の水の中へと沈んでいく。
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