28 / 95
第2編:宇宙航行と拡張編
第28章「静かな衝突、浮遊都市の影」
しおりを挟む《|コロニア・エクアトリア》が完成してから、まだ半年も経っていなかった。
人工重力下の農園都市には緑が溢れ、地球から来た観光客たちはその美しさに息をのんだ。
だが、透明なドームの下で暮らす人々の間には、目に見えない「線」が引かれつつあった。
最初の火種は、居住区の配置だった。
文化的背景の近い人々をまとめて配置する方針は、当初「衝突を避けるため」と説明された。
しかし、ある夜、イスラム文化区とヒンドゥー文化区を隔てる境界ゲートで、小競り合いが起きた。
きっかけは、水資源の使用時間だった。
回転リングの内側で循環する水と酸素は、すべて人工システムによって管理されている。
ヒンドゥー区の農業チームが酸素供給と水耕栽培の作業を延長したことで、次の時間枠だったイスラム区が利用できず、
口論が罵声に、罵声が殴り合いに変わった。
その報告を受け、国際管理評議会は即座に調停に乗り出した。
だが会議は硬直する。
「これは地球での長年の不信感の延長だ」
「我々は宇宙に新しい社会を作るために来たのではなかったのか?」
互いの代表は声を荒げ、管理評議会議長のアムリタも言葉を詰まらせた。
その頃、環境維持システムを監視する技術室では、マリア・スフェラとカリナ・エンナがデータを見守っていた。
物理的な被害は軽微。しかし、心理的亀裂は深くなりつつある――そう感じ取っていた。
「争いは、重力のある場所ならどこにでも芽生えるのね」
カリナ・エンナが呟くと、マリア・スフェラは頷いた。
「だからこそ、争いを“重力ごと”捨てられる場所を探さないと」
決定的な出来事は、その3日後に起きた。
教育区で、異なる文化圏の子どもたちが遊ぶ中、些細な口論から1人が怪我を負ったのだ。
幸い命に別状はなかったが、この事件が地球のニュースネットで大きく報じられると、
コロニーは「宇宙の縮図ではなく、争いの縮図だ」と揶揄され始めた。
評議会は急遽、全居住区の混合化方針を打ち出し、文化・宗教別区画の解体に乗り出す。
だがそれは同時に、居住者たちに「何かを捨てる覚悟」を強いることになった。
アムリタは、閉会後の廊下でマリア・スフェラに言った。
「私は科学者で、政治家じゃない。でも、この仕事は政治そのものね」
マリア・スフェラは静かに答えた。
「政治も科学も、未来を設計する術よ。失敗も成功も、全部設計図に刻まれる」
こうして、先行の《|ガイア・リング》が“実験的コロニー”だったのに対し、
《コロニア・エクアトリア》は「人間社会そのものを試す実験場」へと姿を変えた。
それは、この先の宇宙時代における希望と、そして危うさを、はっきりと示す兆候でもあった。
「だからこそ、見届けるのよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
