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第2編:宇宙航行と拡張編

第28章「静かな衝突、浮遊都市の影」

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《|コロニア・エクアトリア》が完成してから、まだ半年も経っていなかった。
人工重力じんこうじゅうりょく下の農園都市のうえんとしには緑が溢れ、地球ちきゅうから来た観光客かんこうきゃくたちはその美しさに息をのんだ。
だが、透明なドームどーむの下で暮らす人々の間には、目に見えない「線」が引かれつつあった。

最初の火種は、居住区きょじゅうくの配置だった。
文化的背景の近い人々をまとめて配置する方針は、当初「衝突を避けるため」と説明された。
しかし、ある夜、イスラム文化区とヒンドゥー文化区を隔てる境界きょうかいゲートで、小競り合いが起きた。

きっかけは、水資源すいしげんの使用時間だった。
回転リングの内側で循環する水と酸素は、すべて人工システムによって管理されている。
ヒンドゥー区の農業チームが酸素供給と水耕栽培の作業を延長したことで、次の時間枠だったイスラム区が利用できず、
口論が罵声に、罵声が殴り合いに変わった。

その報告を受け、国際管理評議会こくさいかんりひょうぎかいは即座に調停に乗り出した。
だが会議は硬直する。
「これは地球での長年の不信感の延長だ」
「我々は宇宙に新しい社会を作るために来たのではなかったのか?」
互いの代表は声を荒げ、管理評議会議長かんりひょうぎかいぎちょうのアムリタも言葉を詰まらせた。

その頃、環境維持システムを監視する技術室では、マリア・スフェラとカリナ・エンナがデータを見守っていた。
物理的な被害は軽微。しかし、心理的亀裂は深くなりつつある――そう感じ取っていた。

「争いは、重力のある場所ならどこにでも芽生えるのね」
カリナ・エンナが呟くと、マリア・スフェラは頷いた。
「だからこそ、争いを“重力ごと”捨てられる場所を探さないと」

決定的な出来事は、その3日後に起きた。
教育区きょういくくで、異なる文化圏の子どもたちが遊ぶ中、些細な口論から1人が怪我を負ったのだ。
幸い命に別状はなかったが、この事件が地球のニュースネットで大きく報じられると、
コロニーは「宇宙の縮図ではなく、争いの縮図だ」と揶揄され始めた。

評議会は急遽、全居住区の混合化方針を打ち出し、文化・宗教別区画の解体に乗り出す。
だがそれは同時に、居住者たちに「何かを捨てる覚悟」を強いることになった。

アムリタは、閉会後の廊下でマリア・スフェラに言った。
「私は科学者で、政治家じゃない。でも、この仕事は政治そのものね」
マリア・スフェラは静かに答えた。
「政治も科学も、未来を設計する術よ。失敗も成功も、全部設計図に刻まれる」

こうして、先行の《|ガイア・リング》が“実験的コロニー”だったのに対し、
《コロニア・エクアトリア》は「人間社会そのものを試す実験場」へと姿を変えた。

それは、この先の宇宙時代における希望と、そして危うさを、はっきりと示す兆候でもあった。

「だからこそ、見届けるのよ」
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