アゲパン

LongingMoon

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第2編:宇宙航行と拡張編

第31章『救出の光、暗黒の影』

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救援船ソリス・アーク|は、軌道きどうエレベーター|を離れるやいなや加速を始めた。
核融合かくゆうごうエンジン|の青白い光が尾を引き、真空しんくう|を切り裂くように――目的地、|コロニア・エクアトリア|へと突き進む。

操縦席には、かつて月面げつめん救助|で名を馳せたパイロット、ハン・ヨウレン。
その背後では、宇宙服スペーススーツ|を着込んだ緊急作業班きんきゅうさぎょうはん|が工具を点検し、酸素残量を何度も見直していた。

「到達まで、残り十二分」
無機質むきしつ|なオペレーターの声が響くたびに、船内の空気がわずかに緊張を増していく。
それは、酸素よりも濃密な不安の匂いだった。

エクアトリアの被災区画ひさいくかく|では、減圧げんあつ|が進み、壁面の霜が白く輝いていた。
避難ポッドに押し込まれた住民たちの叫びが、金属きんぞく|の壁に反響する。
その混乱の中心で指揮を取っていたのは、若き技師ぎし|リラ・ナバロだった。

「……ここは持たない! 次の区画を封鎖ふうさ|する!」
彼女が送信した閉鎖指令に、返ってきたのは――沈黙。

背後の壁がきしみ、鋭い音を立てて亀裂きれつ|が走る。
圧力差あつりょくさ|が限界に達していた。

リラはためらわず、最前列の作業員を押し飛ばして通路に飛び込み、緊急遮断きんきゅうしゃだん|レバーを引く。
金属音きんぞくおん|と共に厚い隔壁かくへき|が落下し、爆裂寸前の区画をかろうじて封じ込めた。
その瞬間、彼女の足首を何かがかすめた。
細く鋭い金属片きんぞくへん|――まるで意図的いとてき|に加工されたような破片だった。
痛みよりも、違和感いわかん|のほうが先に胸を突いた。

《ソリス・アーク》が到着すると、救援班は減圧区画へ直接ドッキングした。
ハンの号令と共に、作業班が突入。
彼らはレーザー切断機きりだんき|で損傷箇所を削り、即席のCNTカーボンナノチューブパネル|で補修を始める。

マリア・スフェラとカリナ・エンナの意識いしき|は、全作業員の生命値バイタル|と動線どうせん|を同時に監視していた。
冷静な演算えんざん|の裏で、彼女たちの心には焦燥しょうそう|が走っていた。
――また誰かを失うわけにはいかない。

「リラ、応答しろ!」
「ここです! ……生きています!」

酸素不足で声はかすれていたが、彼女は無事だった。
救援班が彼女を引き上げ、避難ポッドに収容した瞬間――
外壁センサーが新たな接近物せっきんぶつ|を検知する。

衝突物しょうとつぶつ|、再び接近! 軌道は……前回と同一!」
オペレーターの声に、船内の全員が凍りついた。

ハンは操縦席に飛び戻り、迎撃げいげきドローン|の射出を指示する。
だが、ドローンが外へ出た瞬間、接近物は不自然ふしぜん|な軌道変更を行い、デブリ雲デブリくも|の中へ消えた。

「……これは偶然じゃない」
マリア・スフェラが低く呟く。
彼女の視界には、消える直前の物体から発せられた微弱な信号波しんごうは|が解析されていた。
その符号化ふごうかパターン|――かつて地球周辺の軍事衛星ぐんじえいせい|が使用していた暗号形式あんごうけいしき|に酷似していた。

救助作戦きゅうじょさくせん|は成功し、全員が無事に地球軌道ちきゅうきどう|へ帰還した。
だが、エクアトリアの人々の表情に笑顔はなかった。
「また来るかもしれない」という恐怖が、無重力むじゅうりょく|の街を沈黙で満たしていた。

地球の国際臨時本部こくさいりんじほんぶ|では、恒久機構こうきゅうきこう|創設の最終合意が進められていた。
だが、この一連の衝突事件しょうとつじけん|の背後に、誰が――何の目的で動いているのか。
それを暴かなければ、築きかけた平和の枠組みは、容易く崩れ去るだろう。

議場を出たカリナ・エンナは、マリア・スフェラと視線を交わす。

「次は……攻める番ね」
「ええ。けれど、まずは掴むの。あの闇の、正体を。」

こうして、人類初の国際宇宙共同防衛網こくさいうちゅうきょうどうぼうえいもう|の構築が、正式に動き出した。
だが同時に――見えない敵てき|との、長い影の戦いが始まろうとしていた。
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