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第3編:セレスティア(星海)航海編
第42章 星の約束、冥王の門(後編)
しおりを挟む長い冷凍睡眠《すいみん》の終わりを告げる淡い光が、ミロメシアIIの艦内に満ちた。
カズはゆっくりと瞼を開き、視界の向こうに広がる青白い惑星を見つめる。
センサーは生命活動の兆候を検出し、大気組成《そせい》は「呼吸可能圏内」と報告していた。
「……ここが、俺たちの新しい星か。」
着陸艇が雲を突き抜けると、眼下に広がるのは蒼く輝く海と、光を反射する氷河、そして点々とした緑の群落だった。
クルーの間に抑えきれない笑みと歓声が広がる。
しかし、その喜びは長くは続かなかった。
地表での初期調査が進むにつれ、現実は彼らの期待を削り取っていった。
大気の酸素濃度《のうど》は予測よりはるかに低く、二酸化炭素は植物が生育できる限界値を下回っていた。
日中と夜間の温度差は極端で、夜にはマイナス100度近くまで下がる。
さらに水源は一部が強酸性で、飲用や農業利用には長期の処理が必要だった。
追い打ちをかけるように、着陸時の振動で推進系統の一部が破損し、再離陸用の燃焼材も流出。
船は、もうこの星を離れることができなかった。
「……終わった、のか。」
誰かが呟いたその言葉は、艦内の空気を重く覆った。
しかし、その絶望の淵で――空が、揺らいだ。
夕闇を切り裂くように、虹色の波が大気を走り、氷の地平を覆った。
それは自然現象ではなかった。光は意志を持つかのようにミロメシアIIを包み込み、通信コンソールに未知の信号が流れ込む。
《あなたたちが、まだ希望を手放していないことを、私たちは見ていました》
カズは息を呑む。
その響きには懐かしさがあった。
――|マリア・スフェラ、そして|カリナ・エンナ。
かつて恐竜を絶滅の運命から救い、別の星へと導いた旧タイプIVの意識群。
光が形を変え、艦内に映像のような幻が現れる。
流れる川、豊かな森、温暖な大地。
それは彼らが求めてきた「もうひとつの地球」だった。
《おかえりなさい、地球の子どもたち。次は、あなたたちの番です》
マリア・スフェラの声が、カズの心の奥深くに響いた。
次の瞬間、世界が反転する感覚が訪れ、船体を包む現実の座標が一瞬で変わった。
――そして目の前に広がったのは、透き通った空気の匂いと、遠くまで続く蒼穹。
海は深い群青色に輝き、陸地には見たこともない花々が咲き乱れていた。
「ここが……」
カズは言葉を失い、隣に立つ仲間と視線を交わした。
ここから始めるのだ。
過去の地球が繰り返した過ちを、この星では許さない。
宗教も民族も文化も越え、それぞれが星のように輝きながら共に生きる文明を――。
ミロメシアIIの残骸は、波打ち際に静かに横たわっていた。
それは失われた技術の墓標ではなく、新たな歴史の第一歩を刻む記念碑だった。
のちにこの星は《アウロラ》と名付けられ、やがてタイプIII、そしてタイプIVへ進む文明たちと出会い、銀河史のひとつの起点となってゆく。
カズは、幼き日に土星で交わしたあの誓いを、胸の奥でそっと繰り返した。
――あの日の約束は、これからも続いていく。
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