アゲパン

LongingMoon

文字の大きさ
68 / 75
第4編:88星座巡礼編

第67章 いて座の風

しおりを挟む

――深い紫の霧が、僧侶そうりょ意識いしきを包んでいた。
船が静かに着陸すると、そこは銀河ぎんがの中心方向、いて座いてざ領域に浮かぶ惑星、サジタリウス・アルボルさじたりうす・あるぼる

目の前に広がるのは、果てしない“螺旋らせんの森”だった。森は天へと昇る巨大な螺旋らせんを描き、まるで惑星そのものがいのりの柱となって銀河ぎんがに語りかけているかのようだった。枝は山脈のように連なり、葉は光を反射して淡い緑と銀色の光を散らす。風はほとんど吹かず、代わりに森の奥から“歌うような低い振動しんどう”が絶え間なく響いていた。

僧侶そうりょ意識体いしきたいの“足”を進めながら、柔らかな共鳴音きょうめいおんを聴いた。
――声ではない。
――けれど確かに、こちらの心を撫でてくる。

「……おまえは、いのりを持っている」

紫の霧の奥から、無数の光が浮かび上がる。
それらは“アルボルナイトあるぼるないと”――この惑星を見守る知性ちせいだった。幹のような肉体から光の脈動みゃくどうを放ち、会話を交わす代わりに、心の奥深くへ直接、意味を伝えてくる。

「この森は、星々の記憶きおくを抱いている。
おまえのいのりもまた、その記憶きおくの一部になるだろう」

僧侶そうりょは静かに頭を垂れた。
この旅は巡礼じゅんれいのため。だが、その底には、数百万年前に失った恋人こいびとを探す――そんな自分だけの願いも潜んでいる。
その未練みれんいのりの狭間はざまで、僧侶そうりょは時折、途方もない孤独こどくに襲われることがあった。

アルボルナイトあるぼるないとたちは螺旋らせんの森の奥、惑星の心臓部しんぞうぶへと僧侶そうりょを導いた。
そこにあったのは、“歌ういずみ”――惑星全体の生命せいめい意識いしきが集まり、共鳴きょうめいを続ける場所だった。
泉の水面は、銀河ぎんがの星々を映す鏡のように輝き、僧侶そうりょが近づいた瞬間、波紋はもんが広がった。

「――君……?」

聞き慣れた声が、泉の奥から響いた。
それは、かつての恋人こいびとの声だった。幻影げんえいだとわかっていても、僧侶そうりょの心は激しく揺れた。
あの日、反重力戦争はんじゅうりょくせんそうの渦の中で別れた声。
意識いしきを失う間際、触れられなかった手。

――なぜ、今、ここで。

泉は答えなかった。
ただ、無数の記憶きおく感情かんじょうを映し出し、僧侶そうりょの心を試すかのように波紋はもんを繰り返した。

「……私は、進む。
このいのりが、いつか君に届くと信じて」

僧侶そうりょの声に、泉はひときわ強く光を放ち、深い静寂せいじゃくを取り戻した。

そのとき、アルボルナイトあるぼるないとのひとりが近づき、螺旋状らせんじょうに輝く結晶けっしょうを差し出した。
螺旋らせん結晶けっしょう”――惑星の共鳴きょうめいエネルギーを閉じ込めた特別な石だった。

「これは、いのりを遠くへ運ぶ結晶けっしょう
おまえの声は、銀河ぎんがの果てにも届くだろう」

僧侶そうりょはそれを受け取り、静かに胸に抱いた。

旅立たびだちの時、螺旋らせんの森全体がざわめき、淡い緑の光を放った。
まるで、この星が僧侶そうりょ旅立たびだちを祝福しているかのようだった。

船が上昇じょうしょうし、薄紫の霧を突き抜けると、いて座いてざの星々がきらめいた。
その光を背に、僧侶そうりょは小さくいのりをつぶやいた。

「――銀河ぎんがのどこかで、君も見ているだろうか。
この旅は、まだ終わらない」

そして、巡礼じゅんれいの旅路は続く。
いのりを銀河ぎんがに響かせる者”として、僧侶そうりょの道はさらに広がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...