文字の大きさ
大
中
小
53 / 878
連載
すべきこと②
パーティーハウスに戻り、母に事情説明。
母はすぐに納得してくれた。
「お母さん大変やけど、抗生剤と解熱剤を作るのには、お母さんの魔法が必要なんよ」
「そうね、分かった」
「姉ちゃん、わい、なんばすればいい?」
「そうやね。あ、記録お願いね」
「ん」
よし、ルームを開けて、異世界への扉を開ける。
ディレックスだ。
カゴ片手に回る。
さて、どうしよう。
こんな時はどうしたらいい?
のど越しのいいゼリーかな? 冷たいのは、うーん、いや、そう言ってはいられない。とりあえず、口に出来そうな物を思いつく限りカゴに入れる。
まずは子供用の内服ゼリー。それからパックに入った栄養ゼリー、プリン。かなり迷ったけどアイスクリームにシャーベット。一口くらいなら、いいかな? とりあえず、カゴに入れる。念のためスープのもとも入れる。最後に額に貼る冷却材だ。怪しまれるかもしれないけど、誤魔化そう。
ビニール袋を下げて出る。買ったゼリー等を器に移しアイテムボックスに入れる。準備したはいいが、ダイアナちゃんが起きてくれないと話にならない。無理に起こすのはかわいそうだが、どうしたものか。
無理に起こして嫌がられたら、それこそもともこもない。どうしよう?
悩みながらルームを出る。
「お父さんは?」
「まだたい」
「なら、私一旦パーカーさんとこに行って来るけん」
ビアンカには残ってもらい、私はルージュとパーティーハウスを出る。もし遅くなったら灯りを出してもらわないといけないし。そろそろロッシュさん達も帰る時間だ。
「俺達は大丈夫ですよ」
そうシュタインさんは言ってくれたけど、そこまで甘えられないが、付いてきてくれた。
『ねえ、ユイ、どうしてそこまでするの? あの子供の雌、かなり弱ってるわよ』
歩きながらルージュが聞いてきた。
「そやねえ、自己満足とか、偽善とかかな? なんかね、せんといかんって思うんよ。上手く説明出来んけどね」
『よく分からないわ、何かいいことあるの?』
「そうね。そうや、ねえルージュ、ルージュにお乳をくれて育ててくれたお母さん。ルージュが大人になってから、あれが欲しいとか、これしてとか言ってきた?」
『いいえ、ないわ』
「それと一緒たい」
ルージュが首を傾げる。
「何か返して欲しいわけやないと。ダイアナちゃんにね、よくなって欲しいだけよ」
ただ、それだけ。
ルージュは目を細める。
『そう。なら、いいわ。私はユイの従魔だから、従うだけよ』
「頼りにしてるけんね。でも、私はルージュやビアンカを従えている気はないけんね。家族やけんね」
『ふふふ、分かっているわ』
ルージュが頭をすり寄せてきた。私は腕を抱き寄せるように回した。
パーカーさんの家に到着。ルージュに外で待ってもらう。
「ミズサワさん」
ジョシュアさんが出てきた。
「フィナさんは?」
「母は今休んでます。父は店に戻りました。パトリックがいまダイアナについてます」
「そうですか」
子供部屋を覗くと、パトリックさんがベッド横の椅子に腰かけて、ダイアナちゃんをじっと見ている。
「失礼します」
ドアを小さくノックする。
顔を上げるパトリックさん。
「ダイアナちゃん、目を覚ましました?」
「いいえ」
疲労の滲んだ顔で、パトリックさんは首を振る。
私はアイテムボックスから色々出す。ゼリーに冷却材。
「これは何です?」
ジョシュアさんが額に貼る冷却材を見て聞いてくる。
「おでこに貼るんですよ。冷たくて気持ちいいですよ。どうぞ、貼ってみてください」
1枚渡す。パトリックさんが貼ってみて驚いている。
「冷たいけど、気持ちいい」
では、1枚ダイアナちゃんのおでこにぺたり。
さと、これからどうしよう?
悩んでいると、パトリックさんが声を上げる。
「ダイアナッ、ダイアナッ」
え、目が覚めた? あ、冷却材で目が覚めたかな?
ダイアナちゃんはぼんやりしたような顔で、私達を見ている。
「ダイアナちゃん、分かる?」
「…………だれ?」
掠れた声のダイアナちゃん。パトリックさんが慌てて出ていく。
「ミズサワよ。お父さんから聞いてない? 大きなウルフとジャガーのテイマーよ」
私の言葉に思い出したのか、ダイアナちゃんはキョロキョロ。
「どこ?」
「外で待ってもらってるよ」
「いないの?」
「いるよ。会ってみたい?」
なんとなく聞いたけど、ダイアナちゃんの目が少し輝く。あ、いい感じかな。
「うん」
興味を引くことができたけど、どうしよう? 流石に家に入れるわけにはなあ。ちょっと狭いし。うーん、うーん、どうしよう? 病人の部屋に動物は、うーん、でも、期待に満ちた目に見上げられて、少しなら良かろうと思う。少しだけ。
後はどうやって会わせよう。いやまず、ご家族の許可を。
あ、そういえば、ここ1階だ。庭に面した窓がある。
「ジョシュアさん、お庭にルージュを入れてもいいですか?」
「え、ええ、いいですが」
ジョシュアさんが迷うが、ダイアナちゃんからじっと見上げられて、答えてくれる。
「はい、大丈夫です。誘導してきますね」
「お願いします。さて、ダイアナちゃん、ゼリー持ってきたけど食べれるかな?」
ダイアナちゃんは小さく首を横に振る。うーん、どうしよう?
「ああ、ダイアナッ、ダイアナッ」
フィナさんが子供部屋に駆け込んで来た。
震える手でダイアナちゃんの頭を撫でるフィナさん。
そんなフィナさんを見て、なんて、声をかけよう。多分、亡くなったローナちゃんとダイアナちゃんが被って見えるんだろうけど。子供が先に逝く、私には想像できない苦しみを抱えているのだろう。
私は、なんて、声を掛けたら、いい?
ゼリーの器を持ち、突っ立ったままで悩む。
「あのミズサワさん、ダイアナのおでこのは?」
「冷却材ですよ。冷たくて気持ちいいんです」
迷っているとフィナさんが聞いてきたので説明していると、窓から、ぬっとルージュが顔を出す。
ひい、とフィナさんが引く。大丈夫ですよと、声をかける。
『ユイ、どうしたの?』
「ちょっとね、ダイアナちゃん、クリムゾンジャガーのルージュよ。綺麗な目でしょう?」
『毛並みも自慢なのよ』
「はいはい」
ダイアナちゃんの顔を見ると、興味津々な様子だ。
「触ってみる?」
「うん」
「ルージュ、ちょっと寄って」
首を伸ばすルージュ。
「ほら、触ってみて、すべすべよ」
ゼリー片手に撫でると、ダイアナちゃんはおずおずと手を伸ばす。鼻先にちょっと触れている。
「すべすべだあ」
「でしょう?」
ルージュは大人しく撫でられていたが、急に私の持つゼリーの器に顔を寄せる。
「あらあら、ダイアナちゃん、食べないとルージュが食べちゃうよ」
そう言うと、ダイアナちゃんは何故か抵抗なく頷く。
良かった、食べる気になってくれた。
フィナさんが驚いた表情になっている。何日も口にしていない、フィナさん達も試行錯誤したはずなのに、あっさりダイアナちゃんが頷いたのに、驚いているのだろう。
「ちょっと起きようか。フィナさん、支えてください」
「は、はい」
ダイアナちゃんをフィナさんが支えて、私はゼリーを少しずつスプーンで口に運ぶ。
ぱくん、こくん、ぱくん、こくん。
喉とか大丈夫かな?
「もういい」
「はい、よく食べました。じゃあ、もうちょっと寝よっか」
「うん。ウルフは?」
「明日、連れてくるからね」
ダイアナちゃんを横たえて、布団を掛けなおす。
眠ったのを確認しフィナさんが、わなわな泣き出す。
「ああ、ミズサワさん、ありがとうございます。ダイアナが食べました。食べました」
「フィナさん、これからですよ」
第一段階かな。
母はすぐに納得してくれた。
「お母さん大変やけど、抗生剤と解熱剤を作るのには、お母さんの魔法が必要なんよ」
「そうね、分かった」
「姉ちゃん、わい、なんばすればいい?」
「そうやね。あ、記録お願いね」
「ん」
よし、ルームを開けて、異世界への扉を開ける。
ディレックスだ。
カゴ片手に回る。
さて、どうしよう。
こんな時はどうしたらいい?
のど越しのいいゼリーかな? 冷たいのは、うーん、いや、そう言ってはいられない。とりあえず、口に出来そうな物を思いつく限りカゴに入れる。
まずは子供用の内服ゼリー。それからパックに入った栄養ゼリー、プリン。かなり迷ったけどアイスクリームにシャーベット。一口くらいなら、いいかな? とりあえず、カゴに入れる。念のためスープのもとも入れる。最後に額に貼る冷却材だ。怪しまれるかもしれないけど、誤魔化そう。
ビニール袋を下げて出る。買ったゼリー等を器に移しアイテムボックスに入れる。準備したはいいが、ダイアナちゃんが起きてくれないと話にならない。無理に起こすのはかわいそうだが、どうしたものか。
無理に起こして嫌がられたら、それこそもともこもない。どうしよう?
悩みながらルームを出る。
「お父さんは?」
「まだたい」
「なら、私一旦パーカーさんとこに行って来るけん」
ビアンカには残ってもらい、私はルージュとパーティーハウスを出る。もし遅くなったら灯りを出してもらわないといけないし。そろそろロッシュさん達も帰る時間だ。
「俺達は大丈夫ですよ」
そうシュタインさんは言ってくれたけど、そこまで甘えられないが、付いてきてくれた。
『ねえ、ユイ、どうしてそこまでするの? あの子供の雌、かなり弱ってるわよ』
歩きながらルージュが聞いてきた。
「そやねえ、自己満足とか、偽善とかかな? なんかね、せんといかんって思うんよ。上手く説明出来んけどね」
『よく分からないわ、何かいいことあるの?』
「そうね。そうや、ねえルージュ、ルージュにお乳をくれて育ててくれたお母さん。ルージュが大人になってから、あれが欲しいとか、これしてとか言ってきた?」
『いいえ、ないわ』
「それと一緒たい」
ルージュが首を傾げる。
「何か返して欲しいわけやないと。ダイアナちゃんにね、よくなって欲しいだけよ」
ただ、それだけ。
ルージュは目を細める。
『そう。なら、いいわ。私はユイの従魔だから、従うだけよ』
「頼りにしてるけんね。でも、私はルージュやビアンカを従えている気はないけんね。家族やけんね」
『ふふふ、分かっているわ』
ルージュが頭をすり寄せてきた。私は腕を抱き寄せるように回した。
パーカーさんの家に到着。ルージュに外で待ってもらう。
「ミズサワさん」
ジョシュアさんが出てきた。
「フィナさんは?」
「母は今休んでます。父は店に戻りました。パトリックがいまダイアナについてます」
「そうですか」
子供部屋を覗くと、パトリックさんがベッド横の椅子に腰かけて、ダイアナちゃんをじっと見ている。
「失礼します」
ドアを小さくノックする。
顔を上げるパトリックさん。
「ダイアナちゃん、目を覚ましました?」
「いいえ」
疲労の滲んだ顔で、パトリックさんは首を振る。
私はアイテムボックスから色々出す。ゼリーに冷却材。
「これは何です?」
ジョシュアさんが額に貼る冷却材を見て聞いてくる。
「おでこに貼るんですよ。冷たくて気持ちいいですよ。どうぞ、貼ってみてください」
1枚渡す。パトリックさんが貼ってみて驚いている。
「冷たいけど、気持ちいい」
では、1枚ダイアナちゃんのおでこにぺたり。
さと、これからどうしよう?
悩んでいると、パトリックさんが声を上げる。
「ダイアナッ、ダイアナッ」
え、目が覚めた? あ、冷却材で目が覚めたかな?
ダイアナちゃんはぼんやりしたような顔で、私達を見ている。
「ダイアナちゃん、分かる?」
「…………だれ?」
掠れた声のダイアナちゃん。パトリックさんが慌てて出ていく。
「ミズサワよ。お父さんから聞いてない? 大きなウルフとジャガーのテイマーよ」
私の言葉に思い出したのか、ダイアナちゃんはキョロキョロ。
「どこ?」
「外で待ってもらってるよ」
「いないの?」
「いるよ。会ってみたい?」
なんとなく聞いたけど、ダイアナちゃんの目が少し輝く。あ、いい感じかな。
「うん」
興味を引くことができたけど、どうしよう? 流石に家に入れるわけにはなあ。ちょっと狭いし。うーん、うーん、どうしよう? 病人の部屋に動物は、うーん、でも、期待に満ちた目に見上げられて、少しなら良かろうと思う。少しだけ。
後はどうやって会わせよう。いやまず、ご家族の許可を。
あ、そういえば、ここ1階だ。庭に面した窓がある。
「ジョシュアさん、お庭にルージュを入れてもいいですか?」
「え、ええ、いいですが」
ジョシュアさんが迷うが、ダイアナちゃんからじっと見上げられて、答えてくれる。
「はい、大丈夫です。誘導してきますね」
「お願いします。さて、ダイアナちゃん、ゼリー持ってきたけど食べれるかな?」
ダイアナちゃんは小さく首を横に振る。うーん、どうしよう?
「ああ、ダイアナッ、ダイアナッ」
フィナさんが子供部屋に駆け込んで来た。
震える手でダイアナちゃんの頭を撫でるフィナさん。
そんなフィナさんを見て、なんて、声をかけよう。多分、亡くなったローナちゃんとダイアナちゃんが被って見えるんだろうけど。子供が先に逝く、私には想像できない苦しみを抱えているのだろう。
私は、なんて、声を掛けたら、いい?
ゼリーの器を持ち、突っ立ったままで悩む。
「あのミズサワさん、ダイアナのおでこのは?」
「冷却材ですよ。冷たくて気持ちいいんです」
迷っているとフィナさんが聞いてきたので説明していると、窓から、ぬっとルージュが顔を出す。
ひい、とフィナさんが引く。大丈夫ですよと、声をかける。
『ユイ、どうしたの?』
「ちょっとね、ダイアナちゃん、クリムゾンジャガーのルージュよ。綺麗な目でしょう?」
『毛並みも自慢なのよ』
「はいはい」
ダイアナちゃんの顔を見ると、興味津々な様子だ。
「触ってみる?」
「うん」
「ルージュ、ちょっと寄って」
首を伸ばすルージュ。
「ほら、触ってみて、すべすべよ」
ゼリー片手に撫でると、ダイアナちゃんはおずおずと手を伸ばす。鼻先にちょっと触れている。
「すべすべだあ」
「でしょう?」
ルージュは大人しく撫でられていたが、急に私の持つゼリーの器に顔を寄せる。
「あらあら、ダイアナちゃん、食べないとルージュが食べちゃうよ」
そう言うと、ダイアナちゃんは何故か抵抗なく頷く。
良かった、食べる気になってくれた。
フィナさんが驚いた表情になっている。何日も口にしていない、フィナさん達も試行錯誤したはずなのに、あっさりダイアナちゃんが頷いたのに、驚いているのだろう。
「ちょっと起きようか。フィナさん、支えてください」
「は、はい」
ダイアナちゃんをフィナさんが支えて、私はゼリーを少しずつスプーンで口に運ぶ。
ぱくん、こくん、ぱくん、こくん。
喉とか大丈夫かな?
「もういい」
「はい、よく食べました。じゃあ、もうちょっと寝よっか」
「うん。ウルフは?」
「明日、連れてくるからね」
ダイアナちゃんを横たえて、布団を掛けなおす。
眠ったのを確認しフィナさんが、わなわな泣き出す。
「ああ、ミズサワさん、ありがとうございます。ダイアナが食べました。食べました」
「フィナさん、これからですよ」
第一段階かな。
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。