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連載
偽善者②
孤児院。
身寄りのない子供達が身を寄せる場所。
ユリアレーナでは基本的に教会に併設されている。理由は様々だが、昔の孤児院は名ばかりで、裏で人身売買が当たり前のように横行していた。また、管理が行き届かずに、安易に犯罪に走る子供も少なくなく、社会問題となっていた。
ユリアレーナは建国後、法整備を整えた。孤児院は基本的に教会に併設し、その教会が在る街の領主、マーファでいうハルスフォン様みたいな人達が管理をする、もしくは管理を任せる。そして管理を任せるなら最低限の支援をしなくてはならない。教会併設の理由は様々あるが、やはり昔行われていた人身売買の事があり、神に仕える人が適任とされたそうだ。そして今は孤児院の先生となると、なかなか名誉なんだそうだ。そして、教会なら寄付もそこそこ入る、という思惑もあった。今では読み書き計算を教えてもらい、ある程度の歳になったら各ギルドが見習いとして受けてくれることもある。
そこまでなるのにユリアレーナ建国後、100年以上かかった。
教会併設ではなく、個人で経営している所ももちろんある。在籍している街の領主から許可を得た人だ。
だが、彼らの言う孤児院はそうではない。
無認可の孤児院。いくら法整備が出来ても、なくならない。
理由は理不尽なことに、子供達の境遇だ。
ひどい虐待を受けて逃げてきた子は、その親が引き取りに来たら、帰さないわけにはいかないと。中にはその場で反省したふりをしているが、帰ればその子にとっては地獄だ。そして多額の借金を残して、子供を放置して雲隠れ。その借金は子供にかかる。いく先は借金奴隷だ。見た目のいい女の子は性奴隷、体躯のいい男の子は重労働奴隷になる。借金を未成年の子供が背負う場合、ちゃんとした孤児院なら、行政に掛け合い、親との縁を切ることで免除は可能だが、それを知らない人もいるし、知っていても放置する親がいる。理由は、子供が免除されたら自分にふりかかるからとふざけた理由が多い。それから、口に出せない所からの借金だ。一番可哀想なのは親が犯罪者の子供は、何処にも行き場がない。犯罪者の子供とばれれば理不尽な報復を受ける羽目になる。だから、認可された孤児院を避けて、雑踏にまみれた無認可の孤児院に、自力で生きていく術を身につけるまで、隠れるしかない。そして成人してから、親とは関係ないと新たな身分証を得ることで、やっと日の当たる場所に出られるが、実際にそう簡単に行くわけない。結局爪弾きされて、やさぐれて、犯罪に走ることは多々ある。
彼らはそんな孤児院の子供達だ。
まさか、マーファにもそんな孤児院があるとは。
スラム街の中で、ひっそりと中年夫婦が経営している。何処にも逃げ場のない子達の、最後の砦だ。
そんな孤児院が困窮状態だと。
「どうしてお金が必要なの?」
「実は、前の先生が死んじゃって、その先生が借金してたらしくて」
私に話しかけてきた男の子が、説明してくれる。
「直ぐに準備しないと、次に成人する女子達を、性奴隷にしろって言われてて。そんな事、出来ないって、先生達が必死になってお金を集めているけど、どうしようもなくて」
なんだか由々しき事態だ。
「だからお願いしますッ、なんでもしますからッ」
「「お願いしますッ」」
必死に頭を下げる3人。
『ユイ、嘘ではないようよ』
『切実なのです』
「そうね。ねえ、その借金っていくらくらいなん?」
額にもよるが。
「姉ちゃん、ちょっと………」
晃太が私の腕を引く。
「なんね?」
小声で聞く。
「どうすると? 見た感じまだ未成年やん。そんな子達ば、冷蔵庫ダンジョンに連れていくのはよくないやん。わいらの依頼は、危険が伴うんやけん」
「そうやけど、知らん顔できんよ。せめて話ば聞いて、何か別な方法があるかもしれんし、額によれば私が肩代わりを」
「姉ちゃん、そんな事しよったら、悪い連中から身ぐるみ剥がされるよ。ちょっとは疑わんね」
「う」
返す言葉がございません。
私は考える。浅はかやったな。
おそらくこの子達は、ビアンカやルージュが言うように嘘をついていない。そして私にこんなお願いをしてくるなら、危険を承知で来ているはずだ。それでも、お金が必要なら、切羽詰まった状態なんだろう。私の存在は目立つ、なんせビアンカとルージュがいるからだ。それを知って来たんだろう。
借金。多分、そのスラム街の孤児院の為のものだろうが、女の子達を性奴隷にしろなんて異常だ。
晃太がさとしてくれたおかげで、冷静になってきた。
「ねえ、今日は無理やけど。明日の朝、ここで待ち合わせね。今の先生に詳しく話を聞いて、どうするか判断するけん」
「そ、それは、先生達が知ったら止められます」
「当たり前やろう? 危険と分かっているような事を、率先してやってこい言う人達なら私は援助せんよ。君達が嘘をついてないことや、金策に走る先生や、女の子達の身を案じていることはよう分かるけん。とりあえず今日は帰り。話によっては悪いようにはせんから」
すると、後ろにいた、1人の男の子、ガチに子供が、目に涙を浮かべる。
「助けて、くれないの?」
胸に、刺さる。
「私は君達を助けたい。けどね、ちょっと情報がほしいんよ。悪いようにはせん、大丈夫やからね」
そうは言ってみたが、男の子の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
私はハンカチを出して、涙を拭いてあげる。なんや、私まで泣きそうになるんやけど。
「大丈夫、明日ここにおいで。よかね? 必ず来るけんね」
「ぐずう、ぐずう」
「ね、明日、ここにおいで。よかね?」
私は再度言い聞かせて、3人を帰した。涙を拭いたハンカチは真っ黒だ。
帰り際、この寒い中薄着だった子達に、私と晃太はそれぞれのマフラーを巻いた。1枚足りないので、前に出て話をした子には、膝掛けを肩にかける。
暗いので、ルージュに光のリンゴを出してもらい、帰って行くのを確認して、私達はパーティーハウスに戻った。
身寄りのない子供達が身を寄せる場所。
ユリアレーナでは基本的に教会に併設されている。理由は様々だが、昔の孤児院は名ばかりで、裏で人身売買が当たり前のように横行していた。また、管理が行き届かずに、安易に犯罪に走る子供も少なくなく、社会問題となっていた。
ユリアレーナは建国後、法整備を整えた。孤児院は基本的に教会に併設し、その教会が在る街の領主、マーファでいうハルスフォン様みたいな人達が管理をする、もしくは管理を任せる。そして管理を任せるなら最低限の支援をしなくてはならない。教会併設の理由は様々あるが、やはり昔行われていた人身売買の事があり、神に仕える人が適任とされたそうだ。そして今は孤児院の先生となると、なかなか名誉なんだそうだ。そして、教会なら寄付もそこそこ入る、という思惑もあった。今では読み書き計算を教えてもらい、ある程度の歳になったら各ギルドが見習いとして受けてくれることもある。
そこまでなるのにユリアレーナ建国後、100年以上かかった。
教会併設ではなく、個人で経営している所ももちろんある。在籍している街の領主から許可を得た人だ。
だが、彼らの言う孤児院はそうではない。
無認可の孤児院。いくら法整備が出来ても、なくならない。
理由は理不尽なことに、子供達の境遇だ。
ひどい虐待を受けて逃げてきた子は、その親が引き取りに来たら、帰さないわけにはいかないと。中にはその場で反省したふりをしているが、帰ればその子にとっては地獄だ。そして多額の借金を残して、子供を放置して雲隠れ。その借金は子供にかかる。いく先は借金奴隷だ。見た目のいい女の子は性奴隷、体躯のいい男の子は重労働奴隷になる。借金を未成年の子供が背負う場合、ちゃんとした孤児院なら、行政に掛け合い、親との縁を切ることで免除は可能だが、それを知らない人もいるし、知っていても放置する親がいる。理由は、子供が免除されたら自分にふりかかるからとふざけた理由が多い。それから、口に出せない所からの借金だ。一番可哀想なのは親が犯罪者の子供は、何処にも行き場がない。犯罪者の子供とばれれば理不尽な報復を受ける羽目になる。だから、認可された孤児院を避けて、雑踏にまみれた無認可の孤児院に、自力で生きていく術を身につけるまで、隠れるしかない。そして成人してから、親とは関係ないと新たな身分証を得ることで、やっと日の当たる場所に出られるが、実際にそう簡単に行くわけない。結局爪弾きされて、やさぐれて、犯罪に走ることは多々ある。
彼らはそんな孤児院の子供達だ。
まさか、マーファにもそんな孤児院があるとは。
スラム街の中で、ひっそりと中年夫婦が経営している。何処にも逃げ場のない子達の、最後の砦だ。
そんな孤児院が困窮状態だと。
「どうしてお金が必要なの?」
「実は、前の先生が死んじゃって、その先生が借金してたらしくて」
私に話しかけてきた男の子が、説明してくれる。
「直ぐに準備しないと、次に成人する女子達を、性奴隷にしろって言われてて。そんな事、出来ないって、先生達が必死になってお金を集めているけど、どうしようもなくて」
なんだか由々しき事態だ。
「だからお願いしますッ、なんでもしますからッ」
「「お願いしますッ」」
必死に頭を下げる3人。
『ユイ、嘘ではないようよ』
『切実なのです』
「そうね。ねえ、その借金っていくらくらいなん?」
額にもよるが。
「姉ちゃん、ちょっと………」
晃太が私の腕を引く。
「なんね?」
小声で聞く。
「どうすると? 見た感じまだ未成年やん。そんな子達ば、冷蔵庫ダンジョンに連れていくのはよくないやん。わいらの依頼は、危険が伴うんやけん」
「そうやけど、知らん顔できんよ。せめて話ば聞いて、何か別な方法があるかもしれんし、額によれば私が肩代わりを」
「姉ちゃん、そんな事しよったら、悪い連中から身ぐるみ剥がされるよ。ちょっとは疑わんね」
「う」
返す言葉がございません。
私は考える。浅はかやったな。
おそらくこの子達は、ビアンカやルージュが言うように嘘をついていない。そして私にこんなお願いをしてくるなら、危険を承知で来ているはずだ。それでも、お金が必要なら、切羽詰まった状態なんだろう。私の存在は目立つ、なんせビアンカとルージュがいるからだ。それを知って来たんだろう。
借金。多分、そのスラム街の孤児院の為のものだろうが、女の子達を性奴隷にしろなんて異常だ。
晃太がさとしてくれたおかげで、冷静になってきた。
「ねえ、今日は無理やけど。明日の朝、ここで待ち合わせね。今の先生に詳しく話を聞いて、どうするか判断するけん」
「そ、それは、先生達が知ったら止められます」
「当たり前やろう? 危険と分かっているような事を、率先してやってこい言う人達なら私は援助せんよ。君達が嘘をついてないことや、金策に走る先生や、女の子達の身を案じていることはよう分かるけん。とりあえず今日は帰り。話によっては悪いようにはせんから」
すると、後ろにいた、1人の男の子、ガチに子供が、目に涙を浮かべる。
「助けて、くれないの?」
胸に、刺さる。
「私は君達を助けたい。けどね、ちょっと情報がほしいんよ。悪いようにはせん、大丈夫やからね」
そうは言ってみたが、男の子の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
私はハンカチを出して、涙を拭いてあげる。なんや、私まで泣きそうになるんやけど。
「大丈夫、明日ここにおいで。よかね? 必ず来るけんね」
「ぐずう、ぐずう」
「ね、明日、ここにおいで。よかね?」
私は再度言い聞かせて、3人を帰した。涙を拭いたハンカチは真っ黒だ。
帰り際、この寒い中薄着だった子達に、私と晃太はそれぞれのマフラーを巻いた。1枚足りないので、前に出て話をした子には、膝掛けを肩にかける。
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