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無力①
ご指摘ありがとうございます
「仲間を喪う時程、自分の無力さを思いしらされることはない。ロッシュ、それを乗り越えられるか?」
世話をしてくれたフェリクスから、そう別れ際に言われて、ロッシュは即答出来なかった。
「まだ、分かりません。誰も喪わないように強くなります」
考えて出した返答は、これだった。
フェリクスは、微笑ましい笑みを浮かべた。
「まだ、若いな。いずれパーティーを組む時が来るだろう。俺の言葉の意味を実感しなくていいように祈ろう」
そう言って、フェリクスはロッシュを送り出した。それからロッシュは出身地のマーファに戻り、始めはソロで活動、最初に仲間として受け入れたのは、従兄弟のラーヴだ。それから、知り合いのパーティーが解散したため、シュタインが加わり、一気に戦略が広がった。堅実に依頼をこなし、気が付いたら10年。あっという間だった。パーティーランクもCになり、新人を受ける頃になった。槍士のマアデン、人族では珍しいスコープを持つ弓士のハジェルを引き受けて初めての依頼は、護衛依頼だった。
特に問題はなかった。あと数日で、ユリアレーナに入国と言う時に、ミズサワ一家が護衛と共に移動していたのに鉢合わせ。色々思うことがあったが、好意で分けてもらったカレーがあまりにも旨くて、言葉がでなかった。硬い黒パン、バサバサビスケット、硬い干し肉で凌いでいたので、余計に旨かった。
ミズサワ一家は、見た感じ、お人好しの家族だった。
だが、例のフォレストガーディアンウルフ、クリムゾンジャガーを連れて森から帰って来た時は度肝を抜かれた。同行したシュタインも、詳しい事情は知らないと。ただ、しばらく面倒を見ると言っていたと。
森の守護者と呼ばれるフォレストガーディアンウルフと、歩いた後は血の道ができると言われるクリムゾンジャガーをだ。
5匹の仔達は、かわいいが、あれはない。痩せていたが、デカイ、恐ろしい、歯向かったらダメなやつだ。
(フェリクスさんなら、どうするだろうか?)
かつてのリーダーを思い浮かべて、ロッシュは冷静になった。
ミズサワ一家は、フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーと問題なくコミュニケーションを取れていたし、2匹とも突然牙を剥くことはなかった。
(ここは当たらずさわらずだな。ミズサワさん達と友好的に付き合えば、この2匹は牙を剥かない)
アルブレンでの契約の際に居合わせたが、ユイは怒らせると苛烈な女だと思ったが、あの2匹と仔達の為に怒っていただけだ。
それからパーカー親子と無事にマーファに戻り、依頼は終了。
マアデンとハジェルは時々言う。
「ミズサワさん達、マーファに来るかな?」
「あのカレー食べたいっす」
こら、と嗜めながら過ごすなかで、ギルドから通達。
白い大型のウルフとジャガーが来ると。
ミズサワさん達だ。
はしゃぐマアデンとハジェルに釘をさす。会ったら挨拶くらいが妥当だろう。
そして次の日。
シュタインと共に冒険者ギルドに呼び出された。
どうやらミズサワさん達と接触していたようで、ギルドやパーカーさんの店、冷蔵庫ダンジョンまで案内しただけのようだ。事務局長のリティアさんから、御用聞きの話を受けて、考えて引き受けた。バタバタと引き継ぎが行われた。
そんな中、シュタインが別の冒険者達から声をかけられていた。引き抜きだ。シュタインははっきり断っていた。おそらく火魔法を使うシュタインが欲しいのだろうと思ったが、なんてことない。
「お前の新しい彼女の従魔がすげえから」
たまたまあちこち案内したのが、勘違いされたようだ。話を聞くと、ユイは始終笑顔で楽しそうだったことや、従魔の子供、特にウルフの仔がシュタインに機嫌よく撫でられていたことを見られたための、勘違いだ。あわてて否定して回り、疲れた顔をするシュタイン。
「前の彼女が酷かったからな。お前もいい歳だし、そろそろ身を固めたらどうだ?」
妻帯者のラーヴがぽつり。
「え? シュタインさん、彼女いたんですか?」
「初耳っす」
「黙れ」
事情を知らないマアデンとハジェルが興味を引いたが、シュタインはバッサリ。
確かに、シュタインの元彼女は酷かった。彼女自身も冒険者なのに、シュタインを拘束したがり、そして物欲が激しかった。冒険者故に、時間や依頼の為にどうしても不規則な生活なのに、自分の時間にシュタインを合わせようとして癇癪を起こした。見た目がよく、初めは気立てのよい雰囲気だったが、直ぐにその本性が現れ、シュタインも嫌気が差し別れた。その後も元彼女はシュタインに言い寄っていた。おそらく、シュタインの顔が好みだったのだろう。諦めが悪く、自分のパーティーメンバーまで引き連れて言い募り、逆効果になり、そのパーティー自体、評判を落とす結果となっていた。
それで懲りたシュタインは、あれから特定の相手は作らない。顔立ちがよく、基本的に女性には紳士な性格、冒険者としても順調で、いくつか話があったがどうしても乗り気にならなかったようだ。
「今は、この状況で満足している」
シュタインはそう言っていた。だが、御用聞きの間で、シュタインのユイに対する視線が変わっていくのに、ロッシュとラーヴは薄々気が付いていた。ただ、本人に自覚がないし、何より御用聞き中だ。あえて言わなかったが。
その御用聞きの間に色々あった。一番はドラゴンだった。まさか生きている間に、生でお目にかかるとは思わなかった。しかも、それが宙に舞った。物量とか無視の、まさに一撃で。やはり、やばい従魔だ。友好的に接しようとした自分の決断は間違っていなかった。
それから、パーカーさんの娘さん、孤児院の少年を救う薬を作り上げて2人とも助かった事だ。
ハジェルに対しては、本来ならげんこつで済まされない事態だった。御用聞きが対象に望むのはあくまで警備上必要な事以外は厳禁だ。それが前提条件の御用聞きなのだ。それをハジェルが破った。それは結局、パーティーの信頼を脅かすものになる。山風はユイの知り合いと言う理由もあるが、御用聞きに問題のないパーティーだとギルドから信頼されて任されたのだから。だが、ユイがあまり怒らないで欲しいと言った事で、ロッシュは拳を引っ込め、ハジェルの話を聞いた。
「ハジェル、何故、ミズサワさんにあんなことを言った? あの人達のことだ、見捨てるなんて事はしないのは、パーカーさんの娘さんの件で分かっていたはずだ」
「…………………」
静かに聞いたつもりだが、ハジェルは小刻みに震えていた。成り行きを見守っているメンバーは黙っているしかない。
「……………デニスが、泣くんだ……………」
やっと絞り出すように話し出すハジェル。
毎年、孤児院では誰かが死ぬ。感染性の疾患で。
ハジェルの育った孤児院は孤児が多く、それだけでも感染リスクがある。いくら気をつけても、幼い子供が感染予防の徹底なんて無理な話だ。それから、やはり栄養面の問題もあり、孤児院の子供達だけではないが、この世界の子供達は常に低栄養状態にある。現代日本でさえもつい数十年前まではそうだったように。そうなれば、抵抗力だって低い。そして大人でも飲むのが嫌な漢方を、小さな子供が飲むのが難しい。つまり、治療の手がほぼない状態ないのだ。それをユイ達は小さな錠剤にして、飲みやすい形態にした。
ハジェルは毎年誰かを見送っていた。次は自分じゃないかと怯えながら。
「デニスが、泣くんだ、今年は自分の番なのかなって…………」
ハジェルの言葉を、ロッシュは静かに聞いた。
確か、デニスという少年は12歳。その僅か12歳の少年から出る言葉。ロッシュでも身につまされるような言葉だ。だが、デニスを幼い頃から知り、孤児院で毎年誰かを見送って来たハジェルには、とても冷静でいられなかった。つい最近まで未成年だったハジェルが悩んだ末に出た行動だ。
「ダ、ダイアナちゃんを、助けたユイさんなら、きっと、デニスも助けてくれるって、そう、思って……………ご、ごめんなさい、ごめんなさいリーダー……………」
ロッシュは息をついた。
(ここ数日、様子がおかしかったのはこれか。俺の配慮も足りなかったな。フェリクスさんなら、落ち込んでいたら、とことん話を聞いてくれたな。俺の柄じゃないが、俺ができること、リーダーとして年長者として)
そして肩を震わすハジェルに手を伸ばす。
びくり、と震えるハジェル。そして、咄嗟に目を閉じるメンバー。
ぽん。
赤茶けたハジェルの頭を、ロッシュのゴツゴツした手がぽん、ぽん。
「分かった。分かったから、もう泣くなハジェル。だが、今回だけだ。いいな、今回だけだぞ。次は何かあれば俺に一番に言え。いいな?」
ぽん。ぽん。
途端にぼろぼろと我慢していた涙を溢すハジェル。
「う、うん………」
「こういう場合は、はい、だ」
「は、はい……………」
「よし。マアデン。ハジェルに顔を洗わせてから、今日はもう寝かせろ」
「はいっ」
見守っていたマアデンが、ハジェルを洗面所に連れていく。
お前がいなくなったら、寂しいじゃん、とマアデンがハジェルに小さく声をかけながら。
「ずいぶん、今回優しいな」
黙って成り行きを見守っていたラーヴが声をかける。
「ユイさんが、反省しているだろうから、あまり怒ってやるなってな。それに昔世話になった人が言ったんだ。どうしてそんな行動を起こしたか、話を聞いて、そいつの身になってみろってな。ラーヴ、お前なら、ハジェルの気持ちが痛い程わかるだろ?」
「まあ、ね」
ラーヴには幼い娘が1人いる。そしてロッシュ自身にも妻と半成人も迎えていない息子が2人。だから、ハジェルの言葉は胸に嫌というほど突き刺さった。
もし、自分の子供だったらと。
もし、そうなったら、ミズサワさんの足にすがり付いてでも、薬を欲しただろう。
だから、ハジェルの気持ちが、痛い程分かった。パーカー夫婦の嘆きも、胸を締め付けた。それは決して他人事ではない。
「今回だけだ。パーカーさんの娘さんも助かった。あのデニスって子も助かるさ」
そうであって欲しい。
自分の子供と大して歳の変わらない、幼い子供達。
助かる、きっと、あのお人好しの家族が作った薬が、きっと。
「仲間を喪う時程、自分の無力さを思いしらされることはない。ロッシュ、それを乗り越えられるか?」
世話をしてくれたフェリクスから、そう別れ際に言われて、ロッシュは即答出来なかった。
「まだ、分かりません。誰も喪わないように強くなります」
考えて出した返答は、これだった。
フェリクスは、微笑ましい笑みを浮かべた。
「まだ、若いな。いずれパーティーを組む時が来るだろう。俺の言葉の意味を実感しなくていいように祈ろう」
そう言って、フェリクスはロッシュを送り出した。それからロッシュは出身地のマーファに戻り、始めはソロで活動、最初に仲間として受け入れたのは、従兄弟のラーヴだ。それから、知り合いのパーティーが解散したため、シュタインが加わり、一気に戦略が広がった。堅実に依頼をこなし、気が付いたら10年。あっという間だった。パーティーランクもCになり、新人を受ける頃になった。槍士のマアデン、人族では珍しいスコープを持つ弓士のハジェルを引き受けて初めての依頼は、護衛依頼だった。
特に問題はなかった。あと数日で、ユリアレーナに入国と言う時に、ミズサワ一家が護衛と共に移動していたのに鉢合わせ。色々思うことがあったが、好意で分けてもらったカレーがあまりにも旨くて、言葉がでなかった。硬い黒パン、バサバサビスケット、硬い干し肉で凌いでいたので、余計に旨かった。
ミズサワ一家は、見た感じ、お人好しの家族だった。
だが、例のフォレストガーディアンウルフ、クリムゾンジャガーを連れて森から帰って来た時は度肝を抜かれた。同行したシュタインも、詳しい事情は知らないと。ただ、しばらく面倒を見ると言っていたと。
森の守護者と呼ばれるフォレストガーディアンウルフと、歩いた後は血の道ができると言われるクリムゾンジャガーをだ。
5匹の仔達は、かわいいが、あれはない。痩せていたが、デカイ、恐ろしい、歯向かったらダメなやつだ。
(フェリクスさんなら、どうするだろうか?)
かつてのリーダーを思い浮かべて、ロッシュは冷静になった。
ミズサワ一家は、フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーと問題なくコミュニケーションを取れていたし、2匹とも突然牙を剥くことはなかった。
(ここは当たらずさわらずだな。ミズサワさん達と友好的に付き合えば、この2匹は牙を剥かない)
アルブレンでの契約の際に居合わせたが、ユイは怒らせると苛烈な女だと思ったが、あの2匹と仔達の為に怒っていただけだ。
それからパーカー親子と無事にマーファに戻り、依頼は終了。
マアデンとハジェルは時々言う。
「ミズサワさん達、マーファに来るかな?」
「あのカレー食べたいっす」
こら、と嗜めながら過ごすなかで、ギルドから通達。
白い大型のウルフとジャガーが来ると。
ミズサワさん達だ。
はしゃぐマアデンとハジェルに釘をさす。会ったら挨拶くらいが妥当だろう。
そして次の日。
シュタインと共に冒険者ギルドに呼び出された。
どうやらミズサワさん達と接触していたようで、ギルドやパーカーさんの店、冷蔵庫ダンジョンまで案内しただけのようだ。事務局長のリティアさんから、御用聞きの話を受けて、考えて引き受けた。バタバタと引き継ぎが行われた。
そんな中、シュタインが別の冒険者達から声をかけられていた。引き抜きだ。シュタインははっきり断っていた。おそらく火魔法を使うシュタインが欲しいのだろうと思ったが、なんてことない。
「お前の新しい彼女の従魔がすげえから」
たまたまあちこち案内したのが、勘違いされたようだ。話を聞くと、ユイは始終笑顔で楽しそうだったことや、従魔の子供、特にウルフの仔がシュタインに機嫌よく撫でられていたことを見られたための、勘違いだ。あわてて否定して回り、疲れた顔をするシュタイン。
「前の彼女が酷かったからな。お前もいい歳だし、そろそろ身を固めたらどうだ?」
妻帯者のラーヴがぽつり。
「え? シュタインさん、彼女いたんですか?」
「初耳っす」
「黙れ」
事情を知らないマアデンとハジェルが興味を引いたが、シュタインはバッサリ。
確かに、シュタインの元彼女は酷かった。彼女自身も冒険者なのに、シュタインを拘束したがり、そして物欲が激しかった。冒険者故に、時間や依頼の為にどうしても不規則な生活なのに、自分の時間にシュタインを合わせようとして癇癪を起こした。見た目がよく、初めは気立てのよい雰囲気だったが、直ぐにその本性が現れ、シュタインも嫌気が差し別れた。その後も元彼女はシュタインに言い寄っていた。おそらく、シュタインの顔が好みだったのだろう。諦めが悪く、自分のパーティーメンバーまで引き連れて言い募り、逆効果になり、そのパーティー自体、評判を落とす結果となっていた。
それで懲りたシュタインは、あれから特定の相手は作らない。顔立ちがよく、基本的に女性には紳士な性格、冒険者としても順調で、いくつか話があったがどうしても乗り気にならなかったようだ。
「今は、この状況で満足している」
シュタインはそう言っていた。だが、御用聞きの間で、シュタインのユイに対する視線が変わっていくのに、ロッシュとラーヴは薄々気が付いていた。ただ、本人に自覚がないし、何より御用聞き中だ。あえて言わなかったが。
その御用聞きの間に色々あった。一番はドラゴンだった。まさか生きている間に、生でお目にかかるとは思わなかった。しかも、それが宙に舞った。物量とか無視の、まさに一撃で。やはり、やばい従魔だ。友好的に接しようとした自分の決断は間違っていなかった。
それから、パーカーさんの娘さん、孤児院の少年を救う薬を作り上げて2人とも助かった事だ。
ハジェルに対しては、本来ならげんこつで済まされない事態だった。御用聞きが対象に望むのはあくまで警備上必要な事以外は厳禁だ。それが前提条件の御用聞きなのだ。それをハジェルが破った。それは結局、パーティーの信頼を脅かすものになる。山風はユイの知り合いと言う理由もあるが、御用聞きに問題のないパーティーだとギルドから信頼されて任されたのだから。だが、ユイがあまり怒らないで欲しいと言った事で、ロッシュは拳を引っ込め、ハジェルの話を聞いた。
「ハジェル、何故、ミズサワさんにあんなことを言った? あの人達のことだ、見捨てるなんて事はしないのは、パーカーさんの娘さんの件で分かっていたはずだ」
「…………………」
静かに聞いたつもりだが、ハジェルは小刻みに震えていた。成り行きを見守っているメンバーは黙っているしかない。
「……………デニスが、泣くんだ……………」
やっと絞り出すように話し出すハジェル。
毎年、孤児院では誰かが死ぬ。感染性の疾患で。
ハジェルの育った孤児院は孤児が多く、それだけでも感染リスクがある。いくら気をつけても、幼い子供が感染予防の徹底なんて無理な話だ。それから、やはり栄養面の問題もあり、孤児院の子供達だけではないが、この世界の子供達は常に低栄養状態にある。現代日本でさえもつい数十年前まではそうだったように。そうなれば、抵抗力だって低い。そして大人でも飲むのが嫌な漢方を、小さな子供が飲むのが難しい。つまり、治療の手がほぼない状態ないのだ。それをユイ達は小さな錠剤にして、飲みやすい形態にした。
ハジェルは毎年誰かを見送っていた。次は自分じゃないかと怯えながら。
「デニスが、泣くんだ、今年は自分の番なのかなって…………」
ハジェルの言葉を、ロッシュは静かに聞いた。
確か、デニスという少年は12歳。その僅か12歳の少年から出る言葉。ロッシュでも身につまされるような言葉だ。だが、デニスを幼い頃から知り、孤児院で毎年誰かを見送って来たハジェルには、とても冷静でいられなかった。つい最近まで未成年だったハジェルが悩んだ末に出た行動だ。
「ダ、ダイアナちゃんを、助けたユイさんなら、きっと、デニスも助けてくれるって、そう、思って……………ご、ごめんなさい、ごめんなさいリーダー……………」
ロッシュは息をついた。
(ここ数日、様子がおかしかったのはこれか。俺の配慮も足りなかったな。フェリクスさんなら、落ち込んでいたら、とことん話を聞いてくれたな。俺の柄じゃないが、俺ができること、リーダーとして年長者として)
そして肩を震わすハジェルに手を伸ばす。
びくり、と震えるハジェル。そして、咄嗟に目を閉じるメンバー。
ぽん。
赤茶けたハジェルの頭を、ロッシュのゴツゴツした手がぽん、ぽん。
「分かった。分かったから、もう泣くなハジェル。だが、今回だけだ。いいな、今回だけだぞ。次は何かあれば俺に一番に言え。いいな?」
ぽん。ぽん。
途端にぼろぼろと我慢していた涙を溢すハジェル。
「う、うん………」
「こういう場合は、はい、だ」
「は、はい……………」
「よし。マアデン。ハジェルに顔を洗わせてから、今日はもう寝かせろ」
「はいっ」
見守っていたマアデンが、ハジェルを洗面所に連れていく。
お前がいなくなったら、寂しいじゃん、とマアデンがハジェルに小さく声をかけながら。
「ずいぶん、今回優しいな」
黙って成り行きを見守っていたラーヴが声をかける。
「ユイさんが、反省しているだろうから、あまり怒ってやるなってな。それに昔世話になった人が言ったんだ。どうしてそんな行動を起こしたか、話を聞いて、そいつの身になってみろってな。ラーヴ、お前なら、ハジェルの気持ちが痛い程わかるだろ?」
「まあ、ね」
ラーヴには幼い娘が1人いる。そしてロッシュ自身にも妻と半成人も迎えていない息子が2人。だから、ハジェルの言葉は胸に嫌というほど突き刺さった。
もし、自分の子供だったらと。
もし、そうなったら、ミズサワさんの足にすがり付いてでも、薬を欲しただろう。
だから、ハジェルの気持ちが、痛い程分かった。パーカー夫婦の嘆きも、胸を締め付けた。それは決して他人事ではない。
「今回だけだ。パーカーさんの娘さんも助かった。あのデニスって子も助かるさ」
そうであって欲しい。
自分の子供と大して歳の変わらない、幼い子供達。
助かる、きっと、あのお人好しの家族が作った薬が、きっと。
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