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連載
覚醒⑧
嫌な表現あります、ご注意ください。
次の日。
Gの報酬を受け取りに行く。
私と晃太、ホークさん、ルージュで中に入る。
対応してくれたギルド職員さんが、革袋と書類を持って来た。
「お待たせしましたミズサワ様。こちらが報酬です。ゴブリンは数の確認が取れない分を含めて550とします」
結構いたね、G。
ゴブリン 550匹 22万
ゴブリンポーン 84匹 16万8000
ゴブリンナイト 15匹 30万
ゴブリンルーク 28匹 70万
ゴブリンジェネラル 3匹 90万
ゴブリンクイーン 1匹 180万
ゴブリンシャーマン 1匹 200万
魔石はルークとナイトで21万5000。ジェネラルが3万、クイーンが5万、シャーマン6万。
合計644万3000。そして今回はディラの冒険者ギルドからの依頼で報酬として50万となる。元気達の食費やシャンプー代にしよう。エマちゃんとテオ君のランクも上がる。
書類にサインをして、魔力を流す。
大金貨、金貨、銀貨、よし。
挨拶してギルドを出て、マーファに向かってノワールの牽く爆走馬車が出発した。
順調に馬車は進み、マーファに到着。
「お帰りなさい、テイマーさん」
「はい、どうも」
全員冒険者ギルドカードを提示してスムーズに入る。
ああ、日差しが熱か。
「まずはギルドに到着報告ば」
「はい、ユイさん」
ホークさんが手綱を牽く。
通りを進んでいると、あちこちから「お帰りなさい」が。なんだか嬉しい、恥ずかしい。
ギルドに向かう途中で、どうもどうもとご挨拶する。
あと少しでギルドと言う所で、ビアンカとルージュの注意が飛ぶ。
『ユイ、妙な雌達がこちらに来るのです』
ビアンカは元気のリードを咥えている。
『どうする? 気配的には突っ掛かって来るわよ』
ルージュはコハクのリードだ。
せっかくの嬉しい気分が。
「唸らんよ。ホークさん、ちょっとトラブルになりそうです」
「はい」
鷹の目の皆さんには、マーファで私の妙な噂が流されていることを説明してある。ホークさんは察してくれたようだ。
「ギルドに近いから、止まってくれるかもしれませんけど」
「はい」
話が聞こえていた晃太が馬車の中から覗いている。
ギルド内に入れば、向こうも諦めるかもしれない。無用なトラブルは避けたいしね。
さっさとギルドに入ろう。
『ユイ』
『来るわよ』
「はあ、ダメかあ」
私、その人達に何かしたかね? ちょっとビアンカとルージュが活躍しただけやん。多分それだけよね? 最悪、サエキ様の名前だして、引いてもらおう。
ここであんまり騒ぎを起こしたくない。秋のフェリアレーナ様の件があるし。
「ちょっと待ちなさいよッ」
はあ、来たあ。やっぱり思い止まってくれなかったか。
振り返ると若い、まだ二十歳前後の女性4人。母が言ってた、私の噂を流した人か。ヒラヒラした服装で、聞いたように冒険者には向いてない格好だ。
ビアンカとルージュの喉から低音の唸が響く。ホークさんが私の前に立つ。
「ダメよ。私に何かご用ですか?」
「あんたのせいで恥をかいたじゃないっ」
そうよ、そうよ、同意する女性達。
「何の事やら」
とぼけてみると、私は異常な光景を目の当たりにする。
女性達の後ろにいた人達が、敵意剥き出しの視線を女性達に投げつけているのだ。この人達、なにしたん?
「ちょっと強い従魔がいるからって偉そうにっ、何様なのよっ、男侍らせていい気になるんじゃないわよっ」
うん、こりゃ、頭に血が上ってるな。顔つき、おかしいもん。馬車から晃太とチュアンさんとマデリーンさんとミゲル君が降り、私の周りを固める。馬車の中では、エマちゃんとテオ君がヒスイ達をしっかり守っている。
だけど、この女性は一体どこのどなたさんかね? 面識ないんやけど。
「私はフォレストガーディアンウルフと、クリムゾンジャガーを従魔に持つテイマー。ユイ・ミズサワや、私に何か? お宅はどちら様?」
私の問いに、女性の1人、髪が肩くらいのが、ふん、と鼻で嗤う。
「私はナージサ侯爵家の三女よっ」
「ふーん」
声に出さないけど、顔に出たのか肩くらいの、おかっぱでいいや、おかっぱの顔に怒りが沸き上がる。
「無礼なっ、我がナージサ侯爵家はエレオノーラ様の生家であるぞっ」
「ふーん」
あのエレオノーラ様のね。と、言うことはエレオノーラ様の姪と言うわけね。
………………………
はあ? 今、エレオノーラ様を始めとする王家の人達って、フェリアレーナ様の輿入れで、神経尖らせているんじゃないの? 私をあんな所まで呼び出して、フェリアレーナ様の護衛を依頼した。それはすべてユリアレーナの為、アルティーナの為、薬物中毒にされたガーガリア妃の為。そして、やっとセザール様に嫁ぐことができるフェリアレーナ様の為。いくら事情を知らなくても、今のこの時期になれば察するもんじゃないの?
「私はウルガー伯爵家よッ」
次に叫んだのは、ロングヘアーの赤毛。赤毛でよか。ウルガーってことは首都でお世話になったオスヴァルトさんの妹? 似てない。
「私はオスヴァルト様とあのエドワルド様の従姉妹よっ」
「ふーん」
腹、立ってきた。もしかしたらサエキ様とも血縁者かと思ったが、これ絶対違うでしょ。
フェリアレーナ様の護衛に、オスヴァルトさんが含まれていた。だけど、色々あって付けなくなった。相当歯痒い思いをしているはずだ。エドワルドさんはオークション会場で挨拶しただけで、あんまり印象がない。オスヴァルトさんそっくりさんくらいしかない。残りの二人、金髪と茶髪もどこどこ伯爵と叫ぶが、通り過ぎていく。
だが、爵位のある人達には、順次私達に対しての警告がなされているはず。知らないの?
この女性達は、自分達の目先の事で、私に怒りをぶつけている。浅はかだ、本当に浅はかだ。私にすがるようにお願いしてきたエレオノーラ様を思い出す。自分の為じゃない、たくさんの人達の為にフェリアレーナ様の護衛をお願いしてきた。地位も何にもない私に、最後は私の手を握って感謝してきた。
もし、何かしらの問題が起きて、今回の輿入れが延期になれば、フェリアレーナ様は修道院行きだ。そうしないために、色々な人達が動いている。
この女性達は、それを踏みにじってる。
腹が、立つ。
『ユイ、怒っているのですね』
『噛みましょう』
「ダメよ」
私は息を出す。
「相手にしない方向で」
私はそう決断する。そして、出そう印籠を。
「何か私に文句があれば、後見人のダイチ・サエキ様に言ってください」
それにおかっぱ以外は引くが、おかっぱは鼻で嗤う。
「ふん。あんな骨董品がなんだって言うのよ。わからない訳? 我がナージサ侯爵の血筋が王になるのよ。私は王の従姉妹になるわけ? 私が言えば、あんたなんか追放でも何でもできるのよ」
「好きにすればよかろう。私はどこに行こうが生活できる」
腹が立って言い返す。
サーッと周りの空気が凍りつく。
次に王になるのはカトリーナ様が産んだ第一王子のジークフリード様で、エレオノーラ様のゲオルグ様は第二だ。つまり、ジークフリード様に何かなければゲオルグ様は王になれない。
このおかっぱは、何かあるからそういっているのか、どうかは分からないが、それはユリアレーナ内での混乱が起こる可能性を示唆している。結局、大変な目に遭うのは周りの人達や。
このおかっぱ、本当にあのエレオノーラ様の姪なわけ?
浅はかすぎない? 同時に腹がどんどんヤカンのように立ってきた。
「この私に口答えして只で済むと思っているのっ」
今度は私が鼻で嗤う。
「ケンカを先に売ったのはそっちや」
よく考えもせんと、いろんな名前を出して、その人達に迷惑かけてる自覚はないんかね? ああ、腹が立つ。
そこにギルドからリティアさんが飛び出してくる。
「また、貴方達ですかっ。冒険者たるもの爵位を振りかざして脅迫はペナルティの対象だとっ」
「黙れっ、子爵風情がっ」
え、リティアさん、子爵さんなの?
おかっぱ以外は少し分が悪いと思っているのか、示し合わせて、立ち去りたいようだけど。
本当にこのおかっぱ、腹が立つ。
馬車のドアが開き、ヒスイとルリ、クリスが飛び降りてくる。エマちゃんとテオ君がしがみついてるけど、ものともせずに飛び降りてくる。
「ご、ごめんなさいユイさん」
「ヒスイちゃんがドアノブを」
猫あるある。
三人娘は私にすり寄って来る。どうしたどうした。
『ユイが怒っているのを分かっているのです』
『不安になったみたいね』
「なんね、なんね、心配したとね」
もふもふ、もふもふ。
『ねえね、ねえね~』
『おやつゅ、おやつゅ』
『にゅー、にゅー』
ん? ん? ん? ん? ん?
リティアさんとおかっぱの言い合いが抜けていく。
『おやつゅ~』
『にゅー、にゅー』
ん? ん? ん? ん? ん?
舌足らずな女の子の声。
こ、これは、まさか、まさか。
晃太も、ぐりん、と振り返る。
『お腹が減ったようなのですね』
『おやつの時間ね』
『ねえね、ゆいねえね、おやつ』
『おやつゅ、おやつゅ』
『にゅー、にゅー』
いや、そんな時間やろうけどさ。
おやつの時間だけどさ。
おかっぱ、完全無視。
首をこてん、としたルリとクリス。
『おやつゅ~』
『にゅー、にゅーっ』
ぐはぁぁぁぁぁっ。
やっぱりーっ。ルリとクリスがしゃべったーっ。
わんわん言ってたルリとクリスがーっ。
あははははははん、あははははははん。かわいかあ。うれしかあ。ダブルパンチや、超強力な、ダブルパンチやねん。
「おやつね? にゅーは、牛乳ね? ルリちゃん、クリスちゃん」
私は自分を必死に指差す。
同じ動作で首をこてん、かわいかあ。たまらん、かわいか。
『………ねぇね?』
『………ねーね?』
「そうよっ、ねえねよーッ」
たまらんっ。私は首都のギルドと同じように周りの目も憚らず、ルリとクリスを抱き締める。あははははははん、かわいかあ。頬擦り。
ドン引きされようが、お構い無し。かわいかもん。ルリとクリスはかわいかのよ。頬擦り。もふもふ、もふもふ、もふもふーん。
「ルリ、クリス、わいは? わいは?」
『……………にぃに?』
『……………にーに?』
壊れたおもちゃのようにぶるぶる震える晃太。
「姉ちゃん、お祝いや」
「そうやっ。ヒスイの時もしたけんねっ。ルリちゃん、クリスちゃん、今日はおしゃべり記念よー。私の気が変わらんうちに帰るよっ」
私は立ち上がる。おかっぱの顔がおかしなくらいに歪んでるが、無視。他のギルド職員さんが取り囲んで喚いている。
「リティアさん」
「はい、ミズサワ様」
一瞬可笑しな生き物を見る目だったリティアさん、通常モードに。
「只今帰りました。到着報告は?」
「もう確認してますので大丈夫です。そちらが『鷹の目』で宜しいですか?」
「はい、そうです。リティアさん、また相談したいことと、上層階に挑むので、私達でも出来そうな依頼のピックアップを」
「このリティアにお任せを」
はい、帰ろう。
おかっぱが懲りずに叫んでいる。
「只のテイマーの癖にッ」
「だから、それが何や?」
腹、立つなあ。
『いい加減にするのです』
バリバリ、バリバリ。ビアンカが雷女帝(エル・カテリーナ)になり、おかっぱを見下ろす。
『私達のマスターを侮辱して、只で済むと思っているの?』
ルージュは火炎姫(フレアジャンヌ)で低音の唸り声を出す。
いつの間にかリードは、ホークさんとチュアンさんが持ってる。
『私のかわいいルリとクリスのおしゃべり記念をダメにする気なのですか?』
『容赦しないわよ』
ここからでは見えないが、ビアンカもルージュも恐ろしい形相のはず。拘束しようとしていたギルド職員さんまで真っ青だ。ぐるぐると唸り声をあげて、とうとうおかっぱが白眼向く。
「もうよかろう。ビアンカ、ルージュ帰るよー」
『待ってなのです』
『今、行くわ』
きゅるるるるーん。
この変わりよう。
もう、かわいかね。
女性達が連行されるが、どうでもよか。
さ、帰ったら、両親のばあば、じいじ攻撃が待ってるよ。
次の日。
Gの報酬を受け取りに行く。
私と晃太、ホークさん、ルージュで中に入る。
対応してくれたギルド職員さんが、革袋と書類を持って来た。
「お待たせしましたミズサワ様。こちらが報酬です。ゴブリンは数の確認が取れない分を含めて550とします」
結構いたね、G。
ゴブリン 550匹 22万
ゴブリンポーン 84匹 16万8000
ゴブリンナイト 15匹 30万
ゴブリンルーク 28匹 70万
ゴブリンジェネラル 3匹 90万
ゴブリンクイーン 1匹 180万
ゴブリンシャーマン 1匹 200万
魔石はルークとナイトで21万5000。ジェネラルが3万、クイーンが5万、シャーマン6万。
合計644万3000。そして今回はディラの冒険者ギルドからの依頼で報酬として50万となる。元気達の食費やシャンプー代にしよう。エマちゃんとテオ君のランクも上がる。
書類にサインをして、魔力を流す。
大金貨、金貨、銀貨、よし。
挨拶してギルドを出て、マーファに向かってノワールの牽く爆走馬車が出発した。
順調に馬車は進み、マーファに到着。
「お帰りなさい、テイマーさん」
「はい、どうも」
全員冒険者ギルドカードを提示してスムーズに入る。
ああ、日差しが熱か。
「まずはギルドに到着報告ば」
「はい、ユイさん」
ホークさんが手綱を牽く。
通りを進んでいると、あちこちから「お帰りなさい」が。なんだか嬉しい、恥ずかしい。
ギルドに向かう途中で、どうもどうもとご挨拶する。
あと少しでギルドと言う所で、ビアンカとルージュの注意が飛ぶ。
『ユイ、妙な雌達がこちらに来るのです』
ビアンカは元気のリードを咥えている。
『どうする? 気配的には突っ掛かって来るわよ』
ルージュはコハクのリードだ。
せっかくの嬉しい気分が。
「唸らんよ。ホークさん、ちょっとトラブルになりそうです」
「はい」
鷹の目の皆さんには、マーファで私の妙な噂が流されていることを説明してある。ホークさんは察してくれたようだ。
「ギルドに近いから、止まってくれるかもしれませんけど」
「はい」
話が聞こえていた晃太が馬車の中から覗いている。
ギルド内に入れば、向こうも諦めるかもしれない。無用なトラブルは避けたいしね。
さっさとギルドに入ろう。
『ユイ』
『来るわよ』
「はあ、ダメかあ」
私、その人達に何かしたかね? ちょっとビアンカとルージュが活躍しただけやん。多分それだけよね? 最悪、サエキ様の名前だして、引いてもらおう。
ここであんまり騒ぎを起こしたくない。秋のフェリアレーナ様の件があるし。
「ちょっと待ちなさいよッ」
はあ、来たあ。やっぱり思い止まってくれなかったか。
振り返ると若い、まだ二十歳前後の女性4人。母が言ってた、私の噂を流した人か。ヒラヒラした服装で、聞いたように冒険者には向いてない格好だ。
ビアンカとルージュの喉から低音の唸が響く。ホークさんが私の前に立つ。
「ダメよ。私に何かご用ですか?」
「あんたのせいで恥をかいたじゃないっ」
そうよ、そうよ、同意する女性達。
「何の事やら」
とぼけてみると、私は異常な光景を目の当たりにする。
女性達の後ろにいた人達が、敵意剥き出しの視線を女性達に投げつけているのだ。この人達、なにしたん?
「ちょっと強い従魔がいるからって偉そうにっ、何様なのよっ、男侍らせていい気になるんじゃないわよっ」
うん、こりゃ、頭に血が上ってるな。顔つき、おかしいもん。馬車から晃太とチュアンさんとマデリーンさんとミゲル君が降り、私の周りを固める。馬車の中では、エマちゃんとテオ君がヒスイ達をしっかり守っている。
だけど、この女性は一体どこのどなたさんかね? 面識ないんやけど。
「私はフォレストガーディアンウルフと、クリムゾンジャガーを従魔に持つテイマー。ユイ・ミズサワや、私に何か? お宅はどちら様?」
私の問いに、女性の1人、髪が肩くらいのが、ふん、と鼻で嗤う。
「私はナージサ侯爵家の三女よっ」
「ふーん」
声に出さないけど、顔に出たのか肩くらいの、おかっぱでいいや、おかっぱの顔に怒りが沸き上がる。
「無礼なっ、我がナージサ侯爵家はエレオノーラ様の生家であるぞっ」
「ふーん」
あのエレオノーラ様のね。と、言うことはエレオノーラ様の姪と言うわけね。
………………………
はあ? 今、エレオノーラ様を始めとする王家の人達って、フェリアレーナ様の輿入れで、神経尖らせているんじゃないの? 私をあんな所まで呼び出して、フェリアレーナ様の護衛を依頼した。それはすべてユリアレーナの為、アルティーナの為、薬物中毒にされたガーガリア妃の為。そして、やっとセザール様に嫁ぐことができるフェリアレーナ様の為。いくら事情を知らなくても、今のこの時期になれば察するもんじゃないの?
「私はウルガー伯爵家よッ」
次に叫んだのは、ロングヘアーの赤毛。赤毛でよか。ウルガーってことは首都でお世話になったオスヴァルトさんの妹? 似てない。
「私はオスヴァルト様とあのエドワルド様の従姉妹よっ」
「ふーん」
腹、立ってきた。もしかしたらサエキ様とも血縁者かと思ったが、これ絶対違うでしょ。
フェリアレーナ様の護衛に、オスヴァルトさんが含まれていた。だけど、色々あって付けなくなった。相当歯痒い思いをしているはずだ。エドワルドさんはオークション会場で挨拶しただけで、あんまり印象がない。オスヴァルトさんそっくりさんくらいしかない。残りの二人、金髪と茶髪もどこどこ伯爵と叫ぶが、通り過ぎていく。
だが、爵位のある人達には、順次私達に対しての警告がなされているはず。知らないの?
この女性達は、自分達の目先の事で、私に怒りをぶつけている。浅はかだ、本当に浅はかだ。私にすがるようにお願いしてきたエレオノーラ様を思い出す。自分の為じゃない、たくさんの人達の為にフェリアレーナ様の護衛をお願いしてきた。地位も何にもない私に、最後は私の手を握って感謝してきた。
もし、何かしらの問題が起きて、今回の輿入れが延期になれば、フェリアレーナ様は修道院行きだ。そうしないために、色々な人達が動いている。
この女性達は、それを踏みにじってる。
腹が、立つ。
『ユイ、怒っているのですね』
『噛みましょう』
「ダメよ」
私は息を出す。
「相手にしない方向で」
私はそう決断する。そして、出そう印籠を。
「何か私に文句があれば、後見人のダイチ・サエキ様に言ってください」
それにおかっぱ以外は引くが、おかっぱは鼻で嗤う。
「ふん。あんな骨董品がなんだって言うのよ。わからない訳? 我がナージサ侯爵の血筋が王になるのよ。私は王の従姉妹になるわけ? 私が言えば、あんたなんか追放でも何でもできるのよ」
「好きにすればよかろう。私はどこに行こうが生活できる」
腹が立って言い返す。
サーッと周りの空気が凍りつく。
次に王になるのはカトリーナ様が産んだ第一王子のジークフリード様で、エレオノーラ様のゲオルグ様は第二だ。つまり、ジークフリード様に何かなければゲオルグ様は王になれない。
このおかっぱは、何かあるからそういっているのか、どうかは分からないが、それはユリアレーナ内での混乱が起こる可能性を示唆している。結局、大変な目に遭うのは周りの人達や。
このおかっぱ、本当にあのエレオノーラ様の姪なわけ?
浅はかすぎない? 同時に腹がどんどんヤカンのように立ってきた。
「この私に口答えして只で済むと思っているのっ」
今度は私が鼻で嗤う。
「ケンカを先に売ったのはそっちや」
よく考えもせんと、いろんな名前を出して、その人達に迷惑かけてる自覚はないんかね? ああ、腹が立つ。
そこにギルドからリティアさんが飛び出してくる。
「また、貴方達ですかっ。冒険者たるもの爵位を振りかざして脅迫はペナルティの対象だとっ」
「黙れっ、子爵風情がっ」
え、リティアさん、子爵さんなの?
おかっぱ以外は少し分が悪いと思っているのか、示し合わせて、立ち去りたいようだけど。
本当にこのおかっぱ、腹が立つ。
馬車のドアが開き、ヒスイとルリ、クリスが飛び降りてくる。エマちゃんとテオ君がしがみついてるけど、ものともせずに飛び降りてくる。
「ご、ごめんなさいユイさん」
「ヒスイちゃんがドアノブを」
猫あるある。
三人娘は私にすり寄って来る。どうしたどうした。
『ユイが怒っているのを分かっているのです』
『不安になったみたいね』
「なんね、なんね、心配したとね」
もふもふ、もふもふ。
『ねえね、ねえね~』
『おやつゅ、おやつゅ』
『にゅー、にゅー』
ん? ん? ん? ん? ん?
リティアさんとおかっぱの言い合いが抜けていく。
『おやつゅ~』
『にゅー、にゅー』
ん? ん? ん? ん? ん?
舌足らずな女の子の声。
こ、これは、まさか、まさか。
晃太も、ぐりん、と振り返る。
『お腹が減ったようなのですね』
『おやつの時間ね』
『ねえね、ゆいねえね、おやつ』
『おやつゅ、おやつゅ』
『にゅー、にゅー』
いや、そんな時間やろうけどさ。
おやつの時間だけどさ。
おかっぱ、完全無視。
首をこてん、としたルリとクリス。
『おやつゅ~』
『にゅー、にゅーっ』
ぐはぁぁぁぁぁっ。
やっぱりーっ。ルリとクリスがしゃべったーっ。
わんわん言ってたルリとクリスがーっ。
あははははははん、あははははははん。かわいかあ。うれしかあ。ダブルパンチや、超強力な、ダブルパンチやねん。
「おやつね? にゅーは、牛乳ね? ルリちゃん、クリスちゃん」
私は自分を必死に指差す。
同じ動作で首をこてん、かわいかあ。たまらん、かわいか。
『………ねぇね?』
『………ねーね?』
「そうよっ、ねえねよーッ」
たまらんっ。私は首都のギルドと同じように周りの目も憚らず、ルリとクリスを抱き締める。あははははははん、かわいかあ。頬擦り。
ドン引きされようが、お構い無し。かわいかもん。ルリとクリスはかわいかのよ。頬擦り。もふもふ、もふもふ、もふもふーん。
「ルリ、クリス、わいは? わいは?」
『……………にぃに?』
『……………にーに?』
壊れたおもちゃのようにぶるぶる震える晃太。
「姉ちゃん、お祝いや」
「そうやっ。ヒスイの時もしたけんねっ。ルリちゃん、クリスちゃん、今日はおしゃべり記念よー。私の気が変わらんうちに帰るよっ」
私は立ち上がる。おかっぱの顔がおかしなくらいに歪んでるが、無視。他のギルド職員さんが取り囲んで喚いている。
「リティアさん」
「はい、ミズサワ様」
一瞬可笑しな生き物を見る目だったリティアさん、通常モードに。
「只今帰りました。到着報告は?」
「もう確認してますので大丈夫です。そちらが『鷹の目』で宜しいですか?」
「はい、そうです。リティアさん、また相談したいことと、上層階に挑むので、私達でも出来そうな依頼のピックアップを」
「このリティアにお任せを」
はい、帰ろう。
おかっぱが懲りずに叫んでいる。
「只のテイマーの癖にッ」
「だから、それが何や?」
腹、立つなあ。
『いい加減にするのです』
バリバリ、バリバリ。ビアンカが雷女帝(エル・カテリーナ)になり、おかっぱを見下ろす。
『私達のマスターを侮辱して、只で済むと思っているの?』
ルージュは火炎姫(フレアジャンヌ)で低音の唸り声を出す。
いつの間にかリードは、ホークさんとチュアンさんが持ってる。
『私のかわいいルリとクリスのおしゃべり記念をダメにする気なのですか?』
『容赦しないわよ』
ここからでは見えないが、ビアンカもルージュも恐ろしい形相のはず。拘束しようとしていたギルド職員さんまで真っ青だ。ぐるぐると唸り声をあげて、とうとうおかっぱが白眼向く。
「もうよかろう。ビアンカ、ルージュ帰るよー」
『待ってなのです』
『今、行くわ』
きゅるるるるーん。
この変わりよう。
もう、かわいかね。
女性達が連行されるが、どうでもよか。
さ、帰ったら、両親のばあば、じいじ攻撃が待ってるよ。
感想 867
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怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。