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連載
結婚式まで⑩
結婚式まで、大人しく過ごす、わけない。
ビアンカとルージュのリクエストで、日帰りダンジョンに行った。20階、21階をちゅどん、どかん、バキバキ。見てません、目玉なんて見てません。ただ、牛乳や乳製品は多めに引き取る。元気達が飲むし、乳製品はアルブレンに持って行こうと思って。あ、ノータでも買い取ってくれるかも。色々持っていこう。15階は牛で、16階は行ったことない、話に聞いたら羊。17階は山羊でチーズが出た。アルブレンでは山羊のチーズが主流だから、持っていこう。
行動計画立てないと。
それから晃太のアイテムボックスに溜まりに溜まっていた果樹。よくよく考えたら背の高い果樹の世話なんて子供には無理。結局、ハルスフォン伯爵経営の果樹園に販売した。寄付しようと思ったけど、後々ややこしい事になるからと。やんわりお断りされてお金を受け取った。孤児院には背の低いブルーベリーやラズベリー等の木を植えた。管理の仕方は、果樹園から指導の人が来てくれると。植えたのはあの藪だ。子供達が頑張って整地して、ビアンカがちょっと魔法でお手伝い。鮫の堆肥も少し混ぜたのでしばらくはいいはず。収穫したら子供達の栄養元だし、販売に回せれば収入になる。そして子供達に新たな仕事ができた、ハルスフォン伯爵経営の果樹園の害虫駆除だ。これは元スラム街の孤児院の子供達が適宜行って、果樹の幹や根を食い荒らす小さな虫を取ることだ。虫は小さいし、数は多いし、どうしても人手がいるからと。まあ、子供達にしたら虫取りだからね、お小遣い程度の報酬と、適宜規格外の果物を渡することになった。以前はこそこそしていたけど、おおっぴらに出来ると。
そして結婚式前日の夕方。時間通りにオスヴァルトさんが迎えに来てくれた。
「じゃあ、行って来るね」
「失礼のないようにね」
母が心配そうに見送ってくれる。ホークさんを始め鷹の目の皆さんも心配そうだ。
「明日、貴族街の門前でお待ちしてます」
「ホークさん、ありがとうございます」
パーティーハウスの寝室にはサブ・ドアを開けっ放しにしてるし。ルリとクリスとヒスイは、不安そうに私とビアンカとルージュを見ている。こうされると、弱いんよね。もふもふ。
「ミズサワ殿」
「はい、オスヴァルトさん、わざわざありがとうございます」
「職務ですので」
お仕事熱心な人や。
私は用意された馬車に乗り込む。わあ、素敵な内装。
ビアンカとルージュが馬車をがっちりガードしてくれ、馬車はハルスフォン伯爵家に向かって出発した。
無事にハルスフォン伯爵家に到着、そのままゲストハウスに。青い屋根のかわいい一軒家。居間は広くダイニングキッチンと繋がっている。ビアンカとルージュが寝ても大丈夫か。居間の奥に寝室が1つ。お風呂とトイレもある。2階にも寝室が2つ。十分や。到着すると、既にメイドさんがいて案内してくれる。ビアンカとルージュにも驚かず対応している。浮かんでいる汗は気のせい。
「ミズサワ殿」
「あ、はい」
内装が素敵でキョロキョロ。あ、いけない、ビアンカとルージュの足をふきふき。相変わらず凄か爪、と思っていると。オスヴァルトさんが声をかけてきた。
振り返ると、オスヴァルトさんが胸に手を当て、深く頭を下げている。なんや、なんや。
「どうしました?」
「ミズサワ殿、フェリアレーナ王女殿下の護衛、心から感謝します。マーファの護衛から話は伺いました。かなりの手勢だったにもかかわらず、貴女の判断で全てを守る事ができました。フェリアレーナ王女殿下も、ユリアレーナの民もアルティーナの民もです」
「ああ、その事でしたら、もう陛下やカトリーナ様達からお言葉頂きましたし。もう、十分なんです」
私としては恩があるハルスフォン伯爵様に恩返し出来たから、それでいいし。民ってのはきっとフェリアレーナ王女様が、拐われてたり、ディーン皇帝の元で見つかったら、小競り合いが起きるって聞いた。何もなければ、全てよし。
オスヴァルトさんはほっとしたような、安心したような顔。あ、お茶でも淹れて出さんといかんかね。
「あ、オスヴァルトさん、お忙しくなければ、お茶でも………」
「いえ明日の確認をしましたら、お暇します」
あ、やっぱりお忙しいのね。と、思っていたら、既にメイドさんがお茶を出していた。手際いい。
せっかくだしね。どうぞどうぞ。
ソファーに腰掛け、ビアンカとルージュはゴロン。
「まず、明日の時間確認です。フェリアレーナ様は9時30分にハルスフォン伯爵家を出発します。ミズサワ殿にはその前にハルスフォン伯爵家にいらしてもらいます。時間は8時45分にブエルが迎えに上がります」
「はい」
「フェリアレーナ王女殿下との面会後、パーティーハウスまでお送りします。フェリアレーナ王女殿下出発後になります」
「あ、大丈夫です。迎えに来てくれますから、貴族街の門までで構いません」
「そうですか?」
「多分、いや、絶対混むでしょう? のんびり歩いて帰りますよ。ビアンカとルージュがいますから」
「はは、そうですな。下手な護衛より心強い。それからミズサワ殿、ご意見番からも」
職務中だから、ひいおじい様って言わないんだね。まあ、そうか。
「これからしばらくマーファはあちこちからの有力者が滞在します。王家から注意が行っても、貴女に接触を試みる輩がいるかもしれません。そんな時はご意見番の名前を出し、お断りしてもらっても構わないそうです」
「ありがとうございます」
そっか、やっぱりビアンカやルージュ目当てに声をかけられる可能性があるんだ。どうしよう、その都度サエキ様の名前を出すのも、なんだか申し訳ないし。
あ、そうや、ダンジョンに逃げよう。アルブレンやノータに持っていく乳製品やお肉ゲットや。羊はあれや、ジンギスカンや。
お茶を一口、あ、美味しい、砂糖なしでも美味しい。さすがプロのメイドさん。
オスヴァルトさんもお茶を飲んで、挨拶して帰って行った。
それからメイドさんから色々話がある。メイドさん達は夕御飯の後片付け後下がると。何かあれば、呼び鈴の魔道具あるのでそれで呼んで、と。見た目、ナースコールなんやけど。
話にあったが、夕御飯と朝御飯まで付けてくれる。ビアンカもルージュにもだ、ありがたい。
夕御飯前に、来客が。シエナ様だ。
「ミズサワ様、本来なら両親かセザールがご挨拶に伺わなくてはならないのですが、どうしても都合がつかず、私が代理で参りました」
「いえ、こんなによくしてもらって、ありがたいです」
結婚式前だもん、忙しいよね。シエナ様とちょっとお話。
「娘達はあのドレスが着たくて、何日も前から見えるところに飾っているんです」
「母が聞いたら喜びます」
かわいか女の子のドレス、夢がある。でも、シエナ様っておいくつなんやろ? お綺麗だけど。シエナ様を見送ると、次に来たのはシェフだ。
ちょっと楽しみだったんだよね。夕御飯だからと、ビアンカとルージュも起きてる。といっても頭だけ起こして見てるだけ。
『今日はなんなのです?』
『エビは無理なら、お肉ね。分厚くね』
横着なんやから。
私は邪魔しないように釘を刺し、椅子に腰掛けて待つ。
あれや、ライブキッチンや。手際のよか。見ながら食べれるなんて贅沢や。
「ワインはどうされます?」
「あまり、お酒強くなくて」
「でしたらカクテルにいたしましょうか? 洋梨のジュースに、白ワインを少し」
「それくらいなら」
メイドさんは私の希望を聞いて、少しだけ白ワインを入れてくれる。ビアンカはアルコールはいいから、私と同じ。ルージュはダメなのでジュースのみ。
お洒落な前菜にスープを楽しみ、魚料理のブルーオイスターのチーズ焼きは熱々。
『あっついのですーっ』
『熱いわーっ』
「がっつくからようもん。少し冷めるまで待ち、頼むけん、静かに食べて」
あつつ。まあ、ビアンカとルージュは私の3倍の量で、さっきまでオーブンに入っていたから熱々だわな。メインのお肉で、ちょっと騒動が起きる。お肉は牛肉だったけど、柔らかく、ほんのり甘さがあった。なんだろう。隠し味的な何か入っていそう。シェフに聞いてみようとしたら。
「ひーっ」
『足りないのです』
『もっと作りなさい』
「こら、ビアンカ、ルージュッ」
綺麗に空になった皿を咥えて、シェフに迫っている。
「すみませんっ、美味しかったみたいでっ」
「そ、そうですか、あ、追加分ありますので。お焼きしますね」
余分に持ってきて良かったと呟くシェフ。
「ほら、焼いてくれるけん、下がり」
『分かったのです』
『分かったわ』
大人しく下がるビアンカとルージュ。
じゅー、といい音が響く。
メイドさんが新しくカクテルを作ってくれる。ワインが少ししか入ってないから、飲みやすい。お肉には赤ワインだろうけど、この洋梨と白ワインのカクテルが美味しい。
「シェフさん。このお肉に何の隠し味が入っているんですか? やっぱり秘密ですか?」
「いえ、そんな事ないですよ。仕込みにジャムを使っているんです。ハルスフォン伯爵家経営の果樹園で採れた無花果のジャムです。販売もされていますから、良かったらどうぞ」
そう言って、焼いたお肉を並べてソースを添える。それから籠からジャムの詰まった瓶を取り出す。
「今年の出来がいい上に、豊作なんですよ。パンにも塗っても美味しいですよ。お一つどうぞ。お気に召したら購入してください」
営業スマイル炸裂のシェフ。
「多分すぐに買いに行くと思います」
パン焼いたら、ジャムなんてすぐになくなる。
追加分のお肉をぺろりと平らげるビアンカとルージュ。綺麗にお皿を舐めてる姿に、シェフもホッとしている。
デザートは洋梨とアーモンドのタルトだ。上品な甘さ、紅茶も美味しい。うーん、ライブキッチンで、至れり尽くせり、贅沢やー。
『ふう、久しぶりにケーキを食べたのです』
『そうね、美味しかったわ』
「だ、そうです」
「良かったです」
シェフは安心したような顔だ。メイドさんと片付けて、先にシェフが帰り、メイドさんはお風呂の準備をしてから帰って行った。
「明日、7時に参ります」
「はい」
ヘアメイクとかしてくれるそうです。
メイドさんを見送って、ルームを開ける。中には晃太が気ままに元気をもふもふしている。
「ああ、姉ちゃん、どうやったね」
「豪華なディナーやったよ」
従魔の部屋を覗くと、皆寝てる。
「お母さんとお父さんは?」
「お袋は花と寝とる。親父は書斎で冷蔵庫ば考えようよ」
「そうな」
父は最近家庭用冷蔵庫を考えているが、パッキンの所でつまずいている。話していると、奥からホークさんも出てきた。
「ユイさん、何か問題でも?」
「いえ、サブ・ドアのリセットに。明日はもしかしたら10時か、もしかしたら過ぎる可能性ありますが」
「はい、大丈夫です。待っていますので」
「じゃあ、おやすみなさい」
ビアンカとルージュは従魔の部屋でゴロン。
私はサブ・ドアをリセットして、ゲストハウスに戻る。ゆっくり湯船に浸かり、寝室でルームを開けっ放しにしてから、ふかふかベッドに横になった。
次の日。
早めに起きて、洗面を済ませる。眠いと訴えるビアンカとルージュを起こす。ルリとクリスが起きて、尻尾プリプリしながら来たので、もふもふ、もふもふ。かわいかあ。名残惜しいが、また後でね、もふもふ。
ルームを閉めて、メイドさんを待つ。時間通りに昨日のシェフと共に籠を抱えてきた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
メイドさんはお茶を淹れてくれる。シェフは早速調理に入る。朝からライブキッチンや。ビアンカとルージュはゴロンしたまま。
『いい匂いなのです』
『出来たら起こして』
「あのね」
起き上がりもしない2人、もう。
メイドさんがてきぱきとテーブルセット。
お茶を頂きながら待つ。白パンにジャムが並ぶ。あ、無花果のジャムもあるね。実はコーヒーもあるが、高級品なのでサロンでしか嗜めない。だから見たことなかったのね。昨日頂いた紅茶が美味しかったから紅茶でよか。
「お待たせしました」
出されたのはふかふかのオムレツにかかってるのはケチャップやない、ゴロゴロトマトのソース。白っぽいウインナー、新鮮な生野菜。スープは具だくさんだ。豪華なホテル朝食みたい。
「すぐに従魔様のをお作りしますので」
シェフが高速に動きながら作業を始める。
『まだなのですかー』
『お腹減ったわー』
「あのね、寝たまんま、もう。せっかくだから先に食べるよ。冷めたら失礼やし」
『いいのですよ』
『いいわよ』
「頂きます」
オムレツをトマトソース付けてぱくり。うわあ、ふわふわ、あ、中に柔らかく処理された野菜も入ってる。ソースも適度な酸味があって美味しい。ウインナーは手作り感があり、ハーブの香りがほんのり。生野菜にはオリーブオイルを使用したドレッシングが、いい感じ。
ビアンカとルージュには特大オムレツ。さすがプロ、破れてない。2人ともばくばく食べてる。
パンに無花果ジャム塗って、と。うん、甘いけど自然の甘さ。メイドさんが、ビアンカとルージュにも大丈夫か聞いてきた。もちろん大丈夫。次々に白パンにジャムを塗ってる。ビアンカとルージュの食べ
っぷりがいいもので、追加分のオムレツが並ぶ。
デザートにリンゴのコンポートだ。ふう、満足。
「ご馳走様です。とても美味しかったです。すごく贅沢した気分になります」
「いえいえ。そう言って頂けるとシェフ冥利につきます」
食後、少し休んで今度は私の支度だ。
本日、カラシ色のワンピースにした。ワンピースはこれとモスグリーンの2枚しかないけどね。今度黒か紺のワンピースかスーツ作ってもらおう。
メイドさんがヘアアレンジをしてくれる。しっとりタイプのスタイリング剤を塗ってるから、櫛もよく通る。微かに薔薇の薫りがするやつね。綺麗にアップしてくれ、失礼のないように化粧もしてくれた。真珠のピアスもして、と。よし、準備オッケー。
ビアンカとルージュもばっちりアイロンをかけたバンダナ。よし。ついでにもふもふ。
時間通りにブエルさんが迎えに来てくれた。私はメイドさんにお礼を言って用意してくれた馬車に乗り込む。短い距離なのに、わざわざ馬車なんて贅沢や。
ビアンカとルージュが並走し、すぐに到着。きっと今頃、フェリアレーナ王女様は花嫁衣装を着てるかな。メイドさんに案内されて、屋敷内に入る。うわあ、素敵。なんか映画とか歴史のドキュメント番組とかで出そうな落ち着いて、品のある内装。な、なんだか緊張する。仔達がいなくて良かった、走り回って壁紙や柱にキズが入ったら大変だしね。ハルスフォン伯爵様夫妻は、既に教会で待機して、来賓の皆さんをお出迎えしているそうだ。花婿のご両親だからね、忙しいよね。それなのに、色々してもらってありがたい。
客室の1つに通される。メイドさんがお茶とお菓子を出してくれる間に、落ち着いた内装を見渡す。家具も壁紙もシックな感じで品がいい。テーブルに然り気無く飾ってある花は派手さないが、こぢんまりとして可愛い。淹れていただいたお茶を頂きながら待つ。
『ユイ、それ食べたいのです』
『1つ食べたいわ。1つだけでいいわ』
ビアンカとルージュが出されたお茶菓子をおねだりしている。あれだけオムレツとパン食べたのに。
「もう、1つよ」
私はメイドさんにお断りしようとしたら、ちゃんとビアンカとルージュに用に準備されていた。出されたお茶菓子は中にさくらんぼっぽいのが入ってる。
「これもハルスフォン伯爵様の果樹園のものですか?」
「はい、ダークチェリーを使用したタルトでございます。今年は豊作で味もようございます。是非お召し上がりください」
『ガブガブッ』
『ガフガフッ』
「もう、味わって食べり。ありがとうございます。頂きます」
メイドさんはビアンカとルージュのたべっぷりに嬉しそうだ。あれだけ豪華ホテル朝食食べたのに、別腹。食べてしまった。ふう、満腹。幸せ。
いいのかなあ、お貴族様のお屋敷で、のんびりお茶してるよ。
優雅や。
ガ、ガ、ガ。
ビアンカとルージュが後ろ足で、耳をかきかき。もう、優雅な気分が。もう、かわいかね。私はビアンカとルージュのリクエスト聞きながらかきかきする。
しばらくすると、いよいよ時間になり、私はメイドさんに案内されて、フェリアレーナ王女様の元に。
ドキドキする。
1つの扉の前に。ドキドキする。
「ミズサワ様をご案内しました」
『どうぞ』
ドキドキ、ドキドキ。
メイドさんが扉を開けて、私に入室を促してくれる。
私は緊張しながら、一歩、室内にはいる。
…………………………………………
ああ、やっぱり、綺麗や、いや、美しい花嫁姿のフェリアレーナ王女様が、窓から差し込まれる光に包まれて輝いている。
あの光の加減で模様が浮き出る生地で作られた純白のウェディングドレス。美しい鎖骨が見え、裾はハの字に広がっている。金髪は纏め上げられて、ダイヤモンドと真珠のティアラが飾っている。
キラキラと輝き、息を止めてしまうような美しさ。何より、フェリアレーナ王女様の幸せそうな顔。ああ、良かった。
色々あったけど、全てが丸く収まって、本当に良かった。
周りにいる侍女さん達は既に涙ぐんでるし。
す、とフェリアレーナ王女様が立ち上がる。反射的に私は両膝を突いた。しずしずと私の前に。
「ミズサワ様のお陰で、今日、この時を迎える事ができました。ありがとうございます」
そう言って私の前に、視線を合わせる。え、フェリアレーナ王女様、屈んでいるの? ダメやない? わたしみたいな一般人にそんな事したら?
「これで、私はセザール様の元に嫁げます」
そう言ったフェリアレーナ王女様のオレンジの瞳に、綺麗な涙が浮かぶ。ああ、良かった、本当に良かった。
「フェリアレーナ王女様、私は最後にちょっと参加しただけです。セザール様とフェリアレーナ王女様が想い合ったからですよ」
そう、紆余曲折あったが、セザール様とフェリアレーナ王女様がお互いを大事に想い、それを守ろうといろんな人が動いた結果だ。きっかけは転移門献上だったかもしれないが、結局それは私の力やない。私達にちょっかいかけないでほしいと言う、注意をしてもらいたいからしただけなんだから。
あの時、あの折り畳み傘を使って要求した事が、こんな結果を招いた。セザール様とフェリアレーナ王女様が結婚できる。素敵な結果やん。嬉しい事や。今回の護衛だって、私が自分の判断で受けたんだから。
「お言葉を頂けただけで私は十分なんです。さあ、フェリアレーナ様、せっかくのドレスに皺が入りますよ」
私はフェリアレーナ様にたって頂く、皺、大丈夫かな。あ、ドレスに小さなダイヤモンドが縫い付けられている。キラキラや。だけど、フェリアレーナ王女様自身の美しさを引き立てている。
侍女さん、マーニさんだね、そっと声をかける。
「王女殿下、お時間です」
「はい、分かりました」
フェリアレーナ王女様は私に一礼し、マーニさんに手を引かれて部屋を出る。私も最後尾で続く。
時間通りに玄関に向かい、用意された花で飾られた馬車に乗り込む。フェリアレーナ王女様は乗り込む前に、私に振り返り嬉しそうに微笑む。私まで幸せになってきた。私は笑顔が我慢できなくて、お辞儀する。馬車は白いマントの騎士とマーファの騎士の皆さんに守られて出発。
私は馬車が見えなくなるまで見送った。
これで、良かったんや。本当に良かった。
フェリアレーナ王女様、綺麗やったなあ、ああ、よかなあ、ウェディングドレス。憧れるなあ。私には、縁遠い話や。
私はしばらくしてブエルさんに案内されて、貴族街の門まで案内されて、ホークさん達と合流し、幸せな気持ちに包まれたままパーティーハウスに戻った。
ビアンカとルージュのリクエストで、日帰りダンジョンに行った。20階、21階をちゅどん、どかん、バキバキ。見てません、目玉なんて見てません。ただ、牛乳や乳製品は多めに引き取る。元気達が飲むし、乳製品はアルブレンに持って行こうと思って。あ、ノータでも買い取ってくれるかも。色々持っていこう。15階は牛で、16階は行ったことない、話に聞いたら羊。17階は山羊でチーズが出た。アルブレンでは山羊のチーズが主流だから、持っていこう。
行動計画立てないと。
それから晃太のアイテムボックスに溜まりに溜まっていた果樹。よくよく考えたら背の高い果樹の世話なんて子供には無理。結局、ハルスフォン伯爵経営の果樹園に販売した。寄付しようと思ったけど、後々ややこしい事になるからと。やんわりお断りされてお金を受け取った。孤児院には背の低いブルーベリーやラズベリー等の木を植えた。管理の仕方は、果樹園から指導の人が来てくれると。植えたのはあの藪だ。子供達が頑張って整地して、ビアンカがちょっと魔法でお手伝い。鮫の堆肥も少し混ぜたのでしばらくはいいはず。収穫したら子供達の栄養元だし、販売に回せれば収入になる。そして子供達に新たな仕事ができた、ハルスフォン伯爵経営の果樹園の害虫駆除だ。これは元スラム街の孤児院の子供達が適宜行って、果樹の幹や根を食い荒らす小さな虫を取ることだ。虫は小さいし、数は多いし、どうしても人手がいるからと。まあ、子供達にしたら虫取りだからね、お小遣い程度の報酬と、適宜規格外の果物を渡することになった。以前はこそこそしていたけど、おおっぴらに出来ると。
そして結婚式前日の夕方。時間通りにオスヴァルトさんが迎えに来てくれた。
「じゃあ、行って来るね」
「失礼のないようにね」
母が心配そうに見送ってくれる。ホークさんを始め鷹の目の皆さんも心配そうだ。
「明日、貴族街の門前でお待ちしてます」
「ホークさん、ありがとうございます」
パーティーハウスの寝室にはサブ・ドアを開けっ放しにしてるし。ルリとクリスとヒスイは、不安そうに私とビアンカとルージュを見ている。こうされると、弱いんよね。もふもふ。
「ミズサワ殿」
「はい、オスヴァルトさん、わざわざありがとうございます」
「職務ですので」
お仕事熱心な人や。
私は用意された馬車に乗り込む。わあ、素敵な内装。
ビアンカとルージュが馬車をがっちりガードしてくれ、馬車はハルスフォン伯爵家に向かって出発した。
無事にハルスフォン伯爵家に到着、そのままゲストハウスに。青い屋根のかわいい一軒家。居間は広くダイニングキッチンと繋がっている。ビアンカとルージュが寝ても大丈夫か。居間の奥に寝室が1つ。お風呂とトイレもある。2階にも寝室が2つ。十分や。到着すると、既にメイドさんがいて案内してくれる。ビアンカとルージュにも驚かず対応している。浮かんでいる汗は気のせい。
「ミズサワ殿」
「あ、はい」
内装が素敵でキョロキョロ。あ、いけない、ビアンカとルージュの足をふきふき。相変わらず凄か爪、と思っていると。オスヴァルトさんが声をかけてきた。
振り返ると、オスヴァルトさんが胸に手を当て、深く頭を下げている。なんや、なんや。
「どうしました?」
「ミズサワ殿、フェリアレーナ王女殿下の護衛、心から感謝します。マーファの護衛から話は伺いました。かなりの手勢だったにもかかわらず、貴女の判断で全てを守る事ができました。フェリアレーナ王女殿下も、ユリアレーナの民もアルティーナの民もです」
「ああ、その事でしたら、もう陛下やカトリーナ様達からお言葉頂きましたし。もう、十分なんです」
私としては恩があるハルスフォン伯爵様に恩返し出来たから、それでいいし。民ってのはきっとフェリアレーナ王女様が、拐われてたり、ディーン皇帝の元で見つかったら、小競り合いが起きるって聞いた。何もなければ、全てよし。
オスヴァルトさんはほっとしたような、安心したような顔。あ、お茶でも淹れて出さんといかんかね。
「あ、オスヴァルトさん、お忙しくなければ、お茶でも………」
「いえ明日の確認をしましたら、お暇します」
あ、やっぱりお忙しいのね。と、思っていたら、既にメイドさんがお茶を出していた。手際いい。
せっかくだしね。どうぞどうぞ。
ソファーに腰掛け、ビアンカとルージュはゴロン。
「まず、明日の時間確認です。フェリアレーナ様は9時30分にハルスフォン伯爵家を出発します。ミズサワ殿にはその前にハルスフォン伯爵家にいらしてもらいます。時間は8時45分にブエルが迎えに上がります」
「はい」
「フェリアレーナ王女殿下との面会後、パーティーハウスまでお送りします。フェリアレーナ王女殿下出発後になります」
「あ、大丈夫です。迎えに来てくれますから、貴族街の門までで構いません」
「そうですか?」
「多分、いや、絶対混むでしょう? のんびり歩いて帰りますよ。ビアンカとルージュがいますから」
「はは、そうですな。下手な護衛より心強い。それからミズサワ殿、ご意見番からも」
職務中だから、ひいおじい様って言わないんだね。まあ、そうか。
「これからしばらくマーファはあちこちからの有力者が滞在します。王家から注意が行っても、貴女に接触を試みる輩がいるかもしれません。そんな時はご意見番の名前を出し、お断りしてもらっても構わないそうです」
「ありがとうございます」
そっか、やっぱりビアンカやルージュ目当てに声をかけられる可能性があるんだ。どうしよう、その都度サエキ様の名前を出すのも、なんだか申し訳ないし。
あ、そうや、ダンジョンに逃げよう。アルブレンやノータに持っていく乳製品やお肉ゲットや。羊はあれや、ジンギスカンや。
お茶を一口、あ、美味しい、砂糖なしでも美味しい。さすがプロのメイドさん。
オスヴァルトさんもお茶を飲んで、挨拶して帰って行った。
それからメイドさんから色々話がある。メイドさん達は夕御飯の後片付け後下がると。何かあれば、呼び鈴の魔道具あるのでそれで呼んで、と。見た目、ナースコールなんやけど。
話にあったが、夕御飯と朝御飯まで付けてくれる。ビアンカもルージュにもだ、ありがたい。
夕御飯前に、来客が。シエナ様だ。
「ミズサワ様、本来なら両親かセザールがご挨拶に伺わなくてはならないのですが、どうしても都合がつかず、私が代理で参りました」
「いえ、こんなによくしてもらって、ありがたいです」
結婚式前だもん、忙しいよね。シエナ様とちょっとお話。
「娘達はあのドレスが着たくて、何日も前から見えるところに飾っているんです」
「母が聞いたら喜びます」
かわいか女の子のドレス、夢がある。でも、シエナ様っておいくつなんやろ? お綺麗だけど。シエナ様を見送ると、次に来たのはシェフだ。
ちょっと楽しみだったんだよね。夕御飯だからと、ビアンカとルージュも起きてる。といっても頭だけ起こして見てるだけ。
『今日はなんなのです?』
『エビは無理なら、お肉ね。分厚くね』
横着なんやから。
私は邪魔しないように釘を刺し、椅子に腰掛けて待つ。
あれや、ライブキッチンや。手際のよか。見ながら食べれるなんて贅沢や。
「ワインはどうされます?」
「あまり、お酒強くなくて」
「でしたらカクテルにいたしましょうか? 洋梨のジュースに、白ワインを少し」
「それくらいなら」
メイドさんは私の希望を聞いて、少しだけ白ワインを入れてくれる。ビアンカはアルコールはいいから、私と同じ。ルージュはダメなのでジュースのみ。
お洒落な前菜にスープを楽しみ、魚料理のブルーオイスターのチーズ焼きは熱々。
『あっついのですーっ』
『熱いわーっ』
「がっつくからようもん。少し冷めるまで待ち、頼むけん、静かに食べて」
あつつ。まあ、ビアンカとルージュは私の3倍の量で、さっきまでオーブンに入っていたから熱々だわな。メインのお肉で、ちょっと騒動が起きる。お肉は牛肉だったけど、柔らかく、ほんのり甘さがあった。なんだろう。隠し味的な何か入っていそう。シェフに聞いてみようとしたら。
「ひーっ」
『足りないのです』
『もっと作りなさい』
「こら、ビアンカ、ルージュッ」
綺麗に空になった皿を咥えて、シェフに迫っている。
「すみませんっ、美味しかったみたいでっ」
「そ、そうですか、あ、追加分ありますので。お焼きしますね」
余分に持ってきて良かったと呟くシェフ。
「ほら、焼いてくれるけん、下がり」
『分かったのです』
『分かったわ』
大人しく下がるビアンカとルージュ。
じゅー、といい音が響く。
メイドさんが新しくカクテルを作ってくれる。ワインが少ししか入ってないから、飲みやすい。お肉には赤ワインだろうけど、この洋梨と白ワインのカクテルが美味しい。
「シェフさん。このお肉に何の隠し味が入っているんですか? やっぱり秘密ですか?」
「いえ、そんな事ないですよ。仕込みにジャムを使っているんです。ハルスフォン伯爵家経営の果樹園で採れた無花果のジャムです。販売もされていますから、良かったらどうぞ」
そう言って、焼いたお肉を並べてソースを添える。それから籠からジャムの詰まった瓶を取り出す。
「今年の出来がいい上に、豊作なんですよ。パンにも塗っても美味しいですよ。お一つどうぞ。お気に召したら購入してください」
営業スマイル炸裂のシェフ。
「多分すぐに買いに行くと思います」
パン焼いたら、ジャムなんてすぐになくなる。
追加分のお肉をぺろりと平らげるビアンカとルージュ。綺麗にお皿を舐めてる姿に、シェフもホッとしている。
デザートは洋梨とアーモンドのタルトだ。上品な甘さ、紅茶も美味しい。うーん、ライブキッチンで、至れり尽くせり、贅沢やー。
『ふう、久しぶりにケーキを食べたのです』
『そうね、美味しかったわ』
「だ、そうです」
「良かったです」
シェフは安心したような顔だ。メイドさんと片付けて、先にシェフが帰り、メイドさんはお風呂の準備をしてから帰って行った。
「明日、7時に参ります」
「はい」
ヘアメイクとかしてくれるそうです。
メイドさんを見送って、ルームを開ける。中には晃太が気ままに元気をもふもふしている。
「ああ、姉ちゃん、どうやったね」
「豪華なディナーやったよ」
従魔の部屋を覗くと、皆寝てる。
「お母さんとお父さんは?」
「お袋は花と寝とる。親父は書斎で冷蔵庫ば考えようよ」
「そうな」
父は最近家庭用冷蔵庫を考えているが、パッキンの所でつまずいている。話していると、奥からホークさんも出てきた。
「ユイさん、何か問題でも?」
「いえ、サブ・ドアのリセットに。明日はもしかしたら10時か、もしかしたら過ぎる可能性ありますが」
「はい、大丈夫です。待っていますので」
「じゃあ、おやすみなさい」
ビアンカとルージュは従魔の部屋でゴロン。
私はサブ・ドアをリセットして、ゲストハウスに戻る。ゆっくり湯船に浸かり、寝室でルームを開けっ放しにしてから、ふかふかベッドに横になった。
次の日。
早めに起きて、洗面を済ませる。眠いと訴えるビアンカとルージュを起こす。ルリとクリスが起きて、尻尾プリプリしながら来たので、もふもふ、もふもふ。かわいかあ。名残惜しいが、また後でね、もふもふ。
ルームを閉めて、メイドさんを待つ。時間通りに昨日のシェフと共に籠を抱えてきた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
メイドさんはお茶を淹れてくれる。シェフは早速調理に入る。朝からライブキッチンや。ビアンカとルージュはゴロンしたまま。
『いい匂いなのです』
『出来たら起こして』
「あのね」
起き上がりもしない2人、もう。
メイドさんがてきぱきとテーブルセット。
お茶を頂きながら待つ。白パンにジャムが並ぶ。あ、無花果のジャムもあるね。実はコーヒーもあるが、高級品なのでサロンでしか嗜めない。だから見たことなかったのね。昨日頂いた紅茶が美味しかったから紅茶でよか。
「お待たせしました」
出されたのはふかふかのオムレツにかかってるのはケチャップやない、ゴロゴロトマトのソース。白っぽいウインナー、新鮮な生野菜。スープは具だくさんだ。豪華なホテル朝食みたい。
「すぐに従魔様のをお作りしますので」
シェフが高速に動きながら作業を始める。
『まだなのですかー』
『お腹減ったわー』
「あのね、寝たまんま、もう。せっかくだから先に食べるよ。冷めたら失礼やし」
『いいのですよ』
『いいわよ』
「頂きます」
オムレツをトマトソース付けてぱくり。うわあ、ふわふわ、あ、中に柔らかく処理された野菜も入ってる。ソースも適度な酸味があって美味しい。ウインナーは手作り感があり、ハーブの香りがほんのり。生野菜にはオリーブオイルを使用したドレッシングが、いい感じ。
ビアンカとルージュには特大オムレツ。さすがプロ、破れてない。2人ともばくばく食べてる。
パンに無花果ジャム塗って、と。うん、甘いけど自然の甘さ。メイドさんが、ビアンカとルージュにも大丈夫か聞いてきた。もちろん大丈夫。次々に白パンにジャムを塗ってる。ビアンカとルージュの食べ
っぷりがいいもので、追加分のオムレツが並ぶ。
デザートにリンゴのコンポートだ。ふう、満足。
「ご馳走様です。とても美味しかったです。すごく贅沢した気分になります」
「いえいえ。そう言って頂けるとシェフ冥利につきます」
食後、少し休んで今度は私の支度だ。
本日、カラシ色のワンピースにした。ワンピースはこれとモスグリーンの2枚しかないけどね。今度黒か紺のワンピースかスーツ作ってもらおう。
メイドさんがヘアアレンジをしてくれる。しっとりタイプのスタイリング剤を塗ってるから、櫛もよく通る。微かに薔薇の薫りがするやつね。綺麗にアップしてくれ、失礼のないように化粧もしてくれた。真珠のピアスもして、と。よし、準備オッケー。
ビアンカとルージュもばっちりアイロンをかけたバンダナ。よし。ついでにもふもふ。
時間通りにブエルさんが迎えに来てくれた。私はメイドさんにお礼を言って用意してくれた馬車に乗り込む。短い距離なのに、わざわざ馬車なんて贅沢や。
ビアンカとルージュが並走し、すぐに到着。きっと今頃、フェリアレーナ王女様は花嫁衣装を着てるかな。メイドさんに案内されて、屋敷内に入る。うわあ、素敵。なんか映画とか歴史のドキュメント番組とかで出そうな落ち着いて、品のある内装。な、なんだか緊張する。仔達がいなくて良かった、走り回って壁紙や柱にキズが入ったら大変だしね。ハルスフォン伯爵様夫妻は、既に教会で待機して、来賓の皆さんをお出迎えしているそうだ。花婿のご両親だからね、忙しいよね。それなのに、色々してもらってありがたい。
客室の1つに通される。メイドさんがお茶とお菓子を出してくれる間に、落ち着いた内装を見渡す。家具も壁紙もシックな感じで品がいい。テーブルに然り気無く飾ってある花は派手さないが、こぢんまりとして可愛い。淹れていただいたお茶を頂きながら待つ。
『ユイ、それ食べたいのです』
『1つ食べたいわ。1つだけでいいわ』
ビアンカとルージュが出されたお茶菓子をおねだりしている。あれだけオムレツとパン食べたのに。
「もう、1つよ」
私はメイドさんにお断りしようとしたら、ちゃんとビアンカとルージュに用に準備されていた。出されたお茶菓子は中にさくらんぼっぽいのが入ってる。
「これもハルスフォン伯爵様の果樹園のものですか?」
「はい、ダークチェリーを使用したタルトでございます。今年は豊作で味もようございます。是非お召し上がりください」
『ガブガブッ』
『ガフガフッ』
「もう、味わって食べり。ありがとうございます。頂きます」
メイドさんはビアンカとルージュのたべっぷりに嬉しそうだ。あれだけ豪華ホテル朝食食べたのに、別腹。食べてしまった。ふう、満腹。幸せ。
いいのかなあ、お貴族様のお屋敷で、のんびりお茶してるよ。
優雅や。
ガ、ガ、ガ。
ビアンカとルージュが後ろ足で、耳をかきかき。もう、優雅な気分が。もう、かわいかね。私はビアンカとルージュのリクエスト聞きながらかきかきする。
しばらくすると、いよいよ時間になり、私はメイドさんに案内されて、フェリアレーナ王女様の元に。
ドキドキする。
1つの扉の前に。ドキドキする。
「ミズサワ様をご案内しました」
『どうぞ』
ドキドキ、ドキドキ。
メイドさんが扉を開けて、私に入室を促してくれる。
私は緊張しながら、一歩、室内にはいる。
…………………………………………
ああ、やっぱり、綺麗や、いや、美しい花嫁姿のフェリアレーナ王女様が、窓から差し込まれる光に包まれて輝いている。
あの光の加減で模様が浮き出る生地で作られた純白のウェディングドレス。美しい鎖骨が見え、裾はハの字に広がっている。金髪は纏め上げられて、ダイヤモンドと真珠のティアラが飾っている。
キラキラと輝き、息を止めてしまうような美しさ。何より、フェリアレーナ王女様の幸せそうな顔。ああ、良かった。
色々あったけど、全てが丸く収まって、本当に良かった。
周りにいる侍女さん達は既に涙ぐんでるし。
す、とフェリアレーナ王女様が立ち上がる。反射的に私は両膝を突いた。しずしずと私の前に。
「ミズサワ様のお陰で、今日、この時を迎える事ができました。ありがとうございます」
そう言って私の前に、視線を合わせる。え、フェリアレーナ王女様、屈んでいるの? ダメやない? わたしみたいな一般人にそんな事したら?
「これで、私はセザール様の元に嫁げます」
そう言ったフェリアレーナ王女様のオレンジの瞳に、綺麗な涙が浮かぶ。ああ、良かった、本当に良かった。
「フェリアレーナ王女様、私は最後にちょっと参加しただけです。セザール様とフェリアレーナ王女様が想い合ったからですよ」
そう、紆余曲折あったが、セザール様とフェリアレーナ王女様がお互いを大事に想い、それを守ろうといろんな人が動いた結果だ。きっかけは転移門献上だったかもしれないが、結局それは私の力やない。私達にちょっかいかけないでほしいと言う、注意をしてもらいたいからしただけなんだから。
あの時、あの折り畳み傘を使って要求した事が、こんな結果を招いた。セザール様とフェリアレーナ王女様が結婚できる。素敵な結果やん。嬉しい事や。今回の護衛だって、私が自分の判断で受けたんだから。
「お言葉を頂けただけで私は十分なんです。さあ、フェリアレーナ様、せっかくのドレスに皺が入りますよ」
私はフェリアレーナ様にたって頂く、皺、大丈夫かな。あ、ドレスに小さなダイヤモンドが縫い付けられている。キラキラや。だけど、フェリアレーナ王女様自身の美しさを引き立てている。
侍女さん、マーニさんだね、そっと声をかける。
「王女殿下、お時間です」
「はい、分かりました」
フェリアレーナ王女様は私に一礼し、マーニさんに手を引かれて部屋を出る。私も最後尾で続く。
時間通りに玄関に向かい、用意された花で飾られた馬車に乗り込む。フェリアレーナ王女様は乗り込む前に、私に振り返り嬉しそうに微笑む。私まで幸せになってきた。私は笑顔が我慢できなくて、お辞儀する。馬車は白いマントの騎士とマーファの騎士の皆さんに守られて出発。
私は馬車が見えなくなるまで見送った。
これで、良かったんや。本当に良かった。
フェリアレーナ王女様、綺麗やったなあ、ああ、よかなあ、ウェディングドレス。憧れるなあ。私には、縁遠い話や。
私はしばらくしてブエルさんに案内されて、貴族街の門まで案内されて、ホークさん達と合流し、幸せな気持ちに包まれたままパーティーハウスに戻った。
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