文字の大きさ
大
中
小
306 / 877
連載
結婚式まで⑩
結婚式まで、大人しく過ごす、わけない。
ビアンカとルージュのリクエストで、日帰りダンジョンに行った。20階、21階をちゅどん、どかん、バキバキ。見てません、目玉なんて見てません。ただ、牛乳や乳製品は多めに引き取る。元気達が飲むし、乳製品はアルブレンに持って行こうと思って。あ、ノータでも買い取ってくれるかも。色々持っていこう。15階は牛で、16階は行ったことない、話に聞いたら羊。17階は山羊でチーズが出た。アルブレンでは山羊のチーズが主流だから、持っていこう。
行動計画立てないと。
それから晃太のアイテムボックスに溜まりに溜まっていた果樹。よくよく考えたら背の高い果樹の世話なんて子供には無理。結局、ハルスフォン伯爵経営の果樹園に販売した。寄付しようと思ったけど、後々ややこしい事になるからと。やんわりお断りされてお金を受け取った。孤児院には背の低いブルーベリーやラズベリー等の木を植えた。管理の仕方は、果樹園から指導の人が来てくれると。植えたのはあの藪だ。子供達が頑張って整地して、ビアンカがちょっと魔法でお手伝い。鮫の堆肥も少し混ぜたのでしばらくはいいはず。収穫したら子供達の栄養元だし、販売に回せれば収入になる。そして子供達に新たな仕事ができた、ハルスフォン伯爵経営の果樹園の害虫駆除だ。これは元スラム街の孤児院の子供達が適宜行って、果樹の幹や根を食い荒らす小さな虫を取ることだ。虫は小さいし、数は多いし、どうしても人手がいるからと。まあ、子供達にしたら虫取りだからね、お小遣い程度の報酬と、適宜規格外の果物を渡することになった。以前はこそこそしていたけど、おおっぴらに出来ると。
そして結婚式前日の夕方。時間通りにオスヴァルトさんが迎えに来てくれた。
「じゃあ、行って来るね」
「失礼のないようにね」
母が心配そうに見送ってくれる。ホークさんを始め鷹の目の皆さんも心配そうだ。
「明日、貴族街の門前でお待ちしてます」
「ホークさん、ありがとうございます」
パーティーハウスの寝室にはサブ・ドアを開けっ放しにしてるし。ルリとクリスとヒスイは、不安そうに私とビアンカとルージュを見ている。こうされると、弱いんよね。もふもふ。
「ミズサワ殿」
「はい、オスヴァルトさん、わざわざありがとうございます」
「職務ですので」
お仕事熱心な人や。
私は用意された馬車に乗り込む。わあ、素敵な内装。
ビアンカとルージュが馬車をがっちりガードしてくれ、馬車はハルスフォン伯爵家に向かって出発した。
無事にハルスフォン伯爵家に到着、そのままゲストハウスに。青い屋根のかわいい一軒家。居間は広くダイニングキッチンと繋がっている。ビアンカとルージュが寝ても大丈夫か。居間の奥に寝室が1つ。お風呂とトイレもある。2階にも寝室が2つ。十分や。到着すると、既にメイドさんがいて案内してくれる。ビアンカとルージュにも驚かず対応している。浮かんでいる汗は気のせい。
「ミズサワ殿」
「あ、はい」
内装が素敵でキョロキョロ。あ、いけない、ビアンカとルージュの足をふきふき。相変わらず凄か爪、と思っていると。オスヴァルトさんが声をかけてきた。
振り返ると、オスヴァルトさんが胸に手を当て、深く頭を下げている。なんや、なんや。
「どうしました?」
「ミズサワ殿、フェリアレーナ王女殿下の護衛、心から感謝します。マーファの護衛から話は伺いました。かなりの手勢だったにもかかわらず、貴女の判断で全てを守る事ができました。フェリアレーナ王女殿下も、ユリアレーナの民もアルティーナの民もです」
「ああ、その事でしたら、もう陛下やカトリーナ様達からお言葉頂きましたし。もう、十分なんです」
私としては恩があるハルスフォン伯爵様に恩返し出来たから、それでいいし。民ってのはきっとフェリアレーナ王女様が、拐われてたり、ディーン皇帝の元で見つかったら、小競り合いが起きるって聞いた。何もなければ、全てよし。
オスヴァルトさんはほっとしたような、安心したような顔。あ、お茶でも淹れて出さんといかんかね。
「あ、オスヴァルトさん、お忙しくなければ、お茶でも………」
「いえ明日の確認をしましたら、お暇します」
あ、やっぱりお忙しいのね。と、思っていたら、既にメイドさんがお茶を出していた。手際いい。
せっかくだしね。どうぞどうぞ。
ソファーに腰掛け、ビアンカとルージュはゴロン。
「まず、明日の時間確認です。フェリアレーナ様は9時30分にハルスフォン伯爵家を出発します。ミズサワ殿にはその前にハルスフォン伯爵家にいらしてもらいます。時間は8時45分にブエルが迎えに上がります」
「はい」
「フェリアレーナ王女殿下との面会後、パーティーハウスまでお送りします。フェリアレーナ王女殿下出発後になります」
「あ、大丈夫です。迎えに来てくれますから、貴族街の門までで構いません」
「そうですか?」
「多分、いや、絶対混むでしょう? のんびり歩いて帰りますよ。ビアンカとルージュがいますから」
「はは、そうですな。下手な護衛より心強い。それからミズサワ殿、ご意見番からも」
職務中だから、ひいおじい様って言わないんだね。まあ、そうか。
「これからしばらくマーファはあちこちからの有力者が滞在します。王家から注意が行っても、貴女に接触を試みる輩がいるかもしれません。そんな時はご意見番の名前を出し、お断りしてもらっても構わないそうです」
「ありがとうございます」
そっか、やっぱりビアンカやルージュ目当てに声をかけられる可能性があるんだ。どうしよう、その都度サエキ様の名前を出すのも、なんだか申し訳ないし。
あ、そうや、ダンジョンに逃げよう。アルブレンやノータに持っていく乳製品やお肉ゲットや。羊はあれや、ジンギスカンや。
お茶を一口、あ、美味しい、砂糖なしでも美味しい。さすがプロのメイドさん。
オスヴァルトさんもお茶を飲んで、挨拶して帰って行った。
それからメイドさんから色々話がある。メイドさん達は夕御飯の後片付け後下がると。何かあれば、呼び鈴の魔道具あるのでそれで呼んで、と。見た目、ナースコールなんやけど。
話にあったが、夕御飯と朝御飯まで付けてくれる。ビアンカもルージュにもだ、ありがたい。
夕御飯前に、来客が。シエナ様だ。
「ミズサワ様、本来なら両親かセザールがご挨拶に伺わなくてはならないのですが、どうしても都合がつかず、私が代理で参りました」
「いえ、こんなによくしてもらって、ありがたいです」
結婚式前だもん、忙しいよね。シエナ様とちょっとお話。
「娘達はあのドレスが着たくて、何日も前から見えるところに飾っているんです」
「母が聞いたら喜びます」
かわいか女の子のドレス、夢がある。でも、シエナ様っておいくつなんやろ? お綺麗だけど。シエナ様を見送ると、次に来たのはシェフだ。
ちょっと楽しみだったんだよね。夕御飯だからと、ビアンカとルージュも起きてる。といっても頭だけ起こして見てるだけ。
『今日はなんなのです?』
『エビは無理なら、お肉ね。分厚くね』
横着なんやから。
私は邪魔しないように釘を刺し、椅子に腰掛けて待つ。
あれや、ライブキッチンや。手際のよか。見ながら食べれるなんて贅沢や。
「ワインはどうされます?」
「あまり、お酒強くなくて」
「でしたらカクテルにいたしましょうか? 洋梨のジュースに、白ワインを少し」
「それくらいなら」
メイドさんは私の希望を聞いて、少しだけ白ワインを入れてくれる。ビアンカはアルコールはいいから、私と同じ。ルージュはダメなのでジュースのみ。
お洒落な前菜にスープを楽しみ、魚料理のブルーオイスターのチーズ焼きは熱々。
『あっついのですーっ』
『熱いわーっ』
「がっつくからようもん。少し冷めるまで待ち、頼むけん、静かに食べて」
あつつ。まあ、ビアンカとルージュは私の3倍の量で、さっきまでオーブンに入っていたから熱々だわな。メインのお肉で、ちょっと騒動が起きる。お肉は牛肉だったけど、柔らかく、ほんのり甘さがあった。なんだろう。隠し味的な何か入っていそう。シェフに聞いてみようとしたら。
「ひーっ」
『足りないのです』
『もっと作りなさい』
「こら、ビアンカ、ルージュッ」
綺麗に空になった皿を咥えて、シェフに迫っている。
「すみませんっ、美味しかったみたいでっ」
「そ、そうですか、あ、追加分ありますので。お焼きしますね」
余分に持ってきて良かったと呟くシェフ。
「ほら、焼いてくれるけん、下がり」
『分かったのです』
『分かったわ』
大人しく下がるビアンカとルージュ。
じゅー、といい音が響く。
メイドさんが新しくカクテルを作ってくれる。ワインが少ししか入ってないから、飲みやすい。お肉には赤ワインだろうけど、この洋梨と白ワインのカクテルが美味しい。
「シェフさん。このお肉に何の隠し味が入っているんですか? やっぱり秘密ですか?」
「いえ、そんな事ないですよ。仕込みにジャムを使っているんです。ハルスフォン伯爵家経営の果樹園で採れた無花果のジャムです。販売もされていますから、良かったらどうぞ」
そう言って、焼いたお肉を並べてソースを添える。それから籠からジャムの詰まった瓶を取り出す。
「今年の出来がいい上に、豊作なんですよ。パンにも塗っても美味しいですよ。お一つどうぞ。お気に召したら購入してください」
営業スマイル炸裂のシェフ。
「多分すぐに買いに行くと思います」
パン焼いたら、ジャムなんてすぐになくなる。
追加分のお肉をぺろりと平らげるビアンカとルージュ。綺麗にお皿を舐めてる姿に、シェフもホッとしている。
デザートは洋梨とアーモンドのタルトだ。上品な甘さ、紅茶も美味しい。うーん、ライブキッチンで、至れり尽くせり、贅沢やー。
『ふう、久しぶりにケーキを食べたのです』
『そうね、美味しかったわ』
「だ、そうです」
「良かったです」
シェフは安心したような顔だ。メイドさんと片付けて、先にシェフが帰り、メイドさんはお風呂の準備をしてから帰って行った。
「明日、7時に参ります」
「はい」
ヘアメイクとかしてくれるそうです。
メイドさんを見送って、ルームを開ける。中には晃太が気ままに元気をもふもふしている。
「ああ、姉ちゃん、どうやったね」
「豪華なディナーやったよ」
従魔の部屋を覗くと、皆寝てる。
「お母さんとお父さんは?」
「お袋は花と寝とる。親父は書斎で冷蔵庫ば考えようよ」
「そうな」
父は最近家庭用冷蔵庫を考えているが、パッキンの所でつまずいている。話していると、奥からホークさんも出てきた。
「ユイさん、何か問題でも?」
「いえ、サブ・ドアのリセットに。明日はもしかしたら10時か、もしかしたら過ぎる可能性ありますが」
「はい、大丈夫です。待っていますので」
「じゃあ、おやすみなさい」
ビアンカとルージュは従魔の部屋でゴロン。
私はサブ・ドアをリセットして、ゲストハウスに戻る。ゆっくり湯船に浸かり、寝室でルームを開けっ放しにしてから、ふかふかベッドに横になった。
次の日。
早めに起きて、洗面を済ませる。眠いと訴えるビアンカとルージュを起こす。ルリとクリスが起きて、尻尾プリプリしながら来たので、もふもふ、もふもふ。かわいかあ。名残惜しいが、また後でね、もふもふ。
ルームを閉めて、メイドさんを待つ。時間通りに昨日のシェフと共に籠を抱えてきた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
メイドさんはお茶を淹れてくれる。シェフは早速調理に入る。朝からライブキッチンや。ビアンカとルージュはゴロンしたまま。
『いい匂いなのです』
『出来たら起こして』
「あのね」
起き上がりもしない2人、もう。
メイドさんがてきぱきとテーブルセット。
お茶を頂きながら待つ。白パンにジャムが並ぶ。あ、無花果のジャムもあるね。実はコーヒーもあるが、高級品なのでサロンでしか嗜めない。だから見たことなかったのね。昨日頂いた紅茶が美味しかったから紅茶でよか。
「お待たせしました」
出されたのはふかふかのオムレツにかかってるのはケチャップやない、ゴロゴロトマトのソース。白っぽいウインナー、新鮮な生野菜。スープは具だくさんだ。豪華なホテル朝食みたい。
「すぐに従魔様のをお作りしますので」
シェフが高速に動きながら作業を始める。
『まだなのですかー』
『お腹減ったわー』
「あのね、寝たまんま、もう。せっかくだから先に食べるよ。冷めたら失礼やし」
『いいのですよ』
『いいわよ』
「頂きます」
オムレツをトマトソース付けてぱくり。うわあ、ふわふわ、あ、中に柔らかく処理された野菜も入ってる。ソースも適度な酸味があって美味しい。ウインナーは手作り感があり、ハーブの香りがほんのり。生野菜にはオリーブオイルを使用したドレッシングが、いい感じ。
ビアンカとルージュには特大オムレツ。さすがプロ、破れてない。2人ともばくばく食べてる。
パンに無花果ジャム塗って、と。うん、甘いけど自然の甘さ。メイドさんが、ビアンカとルージュにも大丈夫か聞いてきた。もちろん大丈夫。次々に白パンにジャムを塗ってる。ビアンカとルージュの食べ
っぷりがいいもので、追加分のオムレツが並ぶ。
デザートにリンゴのコンポートだ。ふう、満足。
「ご馳走様です。とても美味しかったです。すごく贅沢した気分になります」
「いえいえ。そう言って頂けるとシェフ冥利につきます」
食後、少し休んで今度は私の支度だ。
本日、カラシ色のワンピースにした。ワンピースはこれとモスグリーンの2枚しかないけどね。今度黒か紺のワンピースかスーツ作ってもらおう。
メイドさんがヘアアレンジをしてくれる。しっとりタイプのスタイリング剤を塗ってるから、櫛もよく通る。微かに薔薇の薫りがするやつね。綺麗にアップしてくれ、失礼のないように化粧もしてくれた。真珠のピアスもして、と。よし、準備オッケー。
ビアンカとルージュもばっちりアイロンをかけたバンダナ。よし。ついでにもふもふ。
時間通りにブエルさんが迎えに来てくれた。私はメイドさんにお礼を言って用意してくれた馬車に乗り込む。短い距離なのに、わざわざ馬車なんて贅沢や。
ビアンカとルージュが並走し、すぐに到着。きっと今頃、フェリアレーナ王女様は花嫁衣装を着てるかな。メイドさんに案内されて、屋敷内に入る。うわあ、素敵。なんか映画とか歴史のドキュメント番組とかで出そうな落ち着いて、品のある内装。な、なんだか緊張する。仔達がいなくて良かった、走り回って壁紙や柱にキズが入ったら大変だしね。ハルスフォン伯爵様夫妻は、既に教会で待機して、来賓の皆さんをお出迎えしているそうだ。花婿のご両親だからね、忙しいよね。それなのに、色々してもらってありがたい。
客室の1つに通される。メイドさんがお茶とお菓子を出してくれる間に、落ち着いた内装を見渡す。家具も壁紙もシックな感じで品がいい。テーブルに然り気無く飾ってある花は派手さないが、こぢんまりとして可愛い。淹れていただいたお茶を頂きながら待つ。
『ユイ、それ食べたいのです』
『1つ食べたいわ。1つだけでいいわ』
ビアンカとルージュが出されたお茶菓子をおねだりしている。あれだけオムレツとパン食べたのに。
「もう、1つよ」
私はメイドさんにお断りしようとしたら、ちゃんとビアンカとルージュに用に準備されていた。出されたお茶菓子は中にさくらんぼっぽいのが入ってる。
「これもハルスフォン伯爵様の果樹園のものですか?」
「はい、ダークチェリーを使用したタルトでございます。今年は豊作で味もようございます。是非お召し上がりください」
『ガブガブッ』
『ガフガフッ』
「もう、味わって食べり。ありがとうございます。頂きます」
メイドさんはビアンカとルージュのたべっぷりに嬉しそうだ。あれだけ豪華ホテル朝食食べたのに、別腹。食べてしまった。ふう、満腹。幸せ。
いいのかなあ、お貴族様のお屋敷で、のんびりお茶してるよ。
優雅や。
ガ、ガ、ガ。
ビアンカとルージュが後ろ足で、耳をかきかき。もう、優雅な気分が。もう、かわいかね。私はビアンカとルージュのリクエスト聞きながらかきかきする。
しばらくすると、いよいよ時間になり、私はメイドさんに案内されて、フェリアレーナ王女様の元に。
ドキドキする。
1つの扉の前に。ドキドキする。
「ミズサワ様をご案内しました」
『どうぞ』
ドキドキ、ドキドキ。
メイドさんが扉を開けて、私に入室を促してくれる。
私は緊張しながら、一歩、室内にはいる。
…………………………………………
ああ、やっぱり、綺麗や、いや、美しい花嫁姿のフェリアレーナ王女様が、窓から差し込まれる光に包まれて輝いている。
あの光の加減で模様が浮き出る生地で作られた純白のウェディングドレス。美しい鎖骨が見え、裾はハの字に広がっている。金髪は纏め上げられて、ダイヤモンドと真珠のティアラが飾っている。
キラキラと輝き、息を止めてしまうような美しさ。何より、フェリアレーナ王女様の幸せそうな顔。ああ、良かった。
色々あったけど、全てが丸く収まって、本当に良かった。
周りにいる侍女さん達は既に涙ぐんでるし。
す、とフェリアレーナ王女様が立ち上がる。反射的に私は両膝を突いた。しずしずと私の前に。
「ミズサワ様のお陰で、今日、この時を迎える事ができました。ありがとうございます」
そう言って私の前に、視線を合わせる。え、フェリアレーナ王女様、屈んでいるの? ダメやない? わたしみたいな一般人にそんな事したら?
「これで、私はセザール様の元に嫁げます」
そう言ったフェリアレーナ王女様のオレンジの瞳に、綺麗な涙が浮かぶ。ああ、良かった、本当に良かった。
「フェリアレーナ王女様、私は最後にちょっと参加しただけです。セザール様とフェリアレーナ王女様が想い合ったからですよ」
そう、紆余曲折あったが、セザール様とフェリアレーナ王女様がお互いを大事に想い、それを守ろうといろんな人が動いた結果だ。きっかけは転移門献上だったかもしれないが、結局それは私の力やない。私達にちょっかいかけないでほしいと言う、注意をしてもらいたいからしただけなんだから。
あの時、あの折り畳み傘を使って要求した事が、こんな結果を招いた。セザール様とフェリアレーナ王女様が結婚できる。素敵な結果やん。嬉しい事や。今回の護衛だって、私が自分の判断で受けたんだから。
「お言葉を頂けただけで私は十分なんです。さあ、フェリアレーナ様、せっかくのドレスに皺が入りますよ」
私はフェリアレーナ様にたって頂く、皺、大丈夫かな。あ、ドレスに小さなダイヤモンドが縫い付けられている。キラキラや。だけど、フェリアレーナ王女様自身の美しさを引き立てている。
侍女さん、マーニさんだね、そっと声をかける。
「王女殿下、お時間です」
「はい、分かりました」
フェリアレーナ王女様は私に一礼し、マーニさんに手を引かれて部屋を出る。私も最後尾で続く。
時間通りに玄関に向かい、用意された花で飾られた馬車に乗り込む。フェリアレーナ王女様は乗り込む前に、私に振り返り嬉しそうに微笑む。私まで幸せになってきた。私は笑顔が我慢できなくて、お辞儀する。馬車は白いマントの騎士とマーファの騎士の皆さんに守られて出発。
私は馬車が見えなくなるまで見送った。
これで、良かったんや。本当に良かった。
フェリアレーナ王女様、綺麗やったなあ、ああ、よかなあ、ウェディングドレス。憧れるなあ。私には、縁遠い話や。
私はしばらくしてブエルさんに案内されて、貴族街の門まで案内されて、ホークさん達と合流し、幸せな気持ちに包まれたままパーティーハウスに戻った。
ビアンカとルージュのリクエストで、日帰りダンジョンに行った。20階、21階をちゅどん、どかん、バキバキ。見てません、目玉なんて見てません。ただ、牛乳や乳製品は多めに引き取る。元気達が飲むし、乳製品はアルブレンに持って行こうと思って。あ、ノータでも買い取ってくれるかも。色々持っていこう。15階は牛で、16階は行ったことない、話に聞いたら羊。17階は山羊でチーズが出た。アルブレンでは山羊のチーズが主流だから、持っていこう。
行動計画立てないと。
それから晃太のアイテムボックスに溜まりに溜まっていた果樹。よくよく考えたら背の高い果樹の世話なんて子供には無理。結局、ハルスフォン伯爵経営の果樹園に販売した。寄付しようと思ったけど、後々ややこしい事になるからと。やんわりお断りされてお金を受け取った。孤児院には背の低いブルーベリーやラズベリー等の木を植えた。管理の仕方は、果樹園から指導の人が来てくれると。植えたのはあの藪だ。子供達が頑張って整地して、ビアンカがちょっと魔法でお手伝い。鮫の堆肥も少し混ぜたのでしばらくはいいはず。収穫したら子供達の栄養元だし、販売に回せれば収入になる。そして子供達に新たな仕事ができた、ハルスフォン伯爵経営の果樹園の害虫駆除だ。これは元スラム街の孤児院の子供達が適宜行って、果樹の幹や根を食い荒らす小さな虫を取ることだ。虫は小さいし、数は多いし、どうしても人手がいるからと。まあ、子供達にしたら虫取りだからね、お小遣い程度の報酬と、適宜規格外の果物を渡することになった。以前はこそこそしていたけど、おおっぴらに出来ると。
そして結婚式前日の夕方。時間通りにオスヴァルトさんが迎えに来てくれた。
「じゃあ、行って来るね」
「失礼のないようにね」
母が心配そうに見送ってくれる。ホークさんを始め鷹の目の皆さんも心配そうだ。
「明日、貴族街の門前でお待ちしてます」
「ホークさん、ありがとうございます」
パーティーハウスの寝室にはサブ・ドアを開けっ放しにしてるし。ルリとクリスとヒスイは、不安そうに私とビアンカとルージュを見ている。こうされると、弱いんよね。もふもふ。
「ミズサワ殿」
「はい、オスヴァルトさん、わざわざありがとうございます」
「職務ですので」
お仕事熱心な人や。
私は用意された馬車に乗り込む。わあ、素敵な内装。
ビアンカとルージュが馬車をがっちりガードしてくれ、馬車はハルスフォン伯爵家に向かって出発した。
無事にハルスフォン伯爵家に到着、そのままゲストハウスに。青い屋根のかわいい一軒家。居間は広くダイニングキッチンと繋がっている。ビアンカとルージュが寝ても大丈夫か。居間の奥に寝室が1つ。お風呂とトイレもある。2階にも寝室が2つ。十分や。到着すると、既にメイドさんがいて案内してくれる。ビアンカとルージュにも驚かず対応している。浮かんでいる汗は気のせい。
「ミズサワ殿」
「あ、はい」
内装が素敵でキョロキョロ。あ、いけない、ビアンカとルージュの足をふきふき。相変わらず凄か爪、と思っていると。オスヴァルトさんが声をかけてきた。
振り返ると、オスヴァルトさんが胸に手を当て、深く頭を下げている。なんや、なんや。
「どうしました?」
「ミズサワ殿、フェリアレーナ王女殿下の護衛、心から感謝します。マーファの護衛から話は伺いました。かなりの手勢だったにもかかわらず、貴女の判断で全てを守る事ができました。フェリアレーナ王女殿下も、ユリアレーナの民もアルティーナの民もです」
「ああ、その事でしたら、もう陛下やカトリーナ様達からお言葉頂きましたし。もう、十分なんです」
私としては恩があるハルスフォン伯爵様に恩返し出来たから、それでいいし。民ってのはきっとフェリアレーナ王女様が、拐われてたり、ディーン皇帝の元で見つかったら、小競り合いが起きるって聞いた。何もなければ、全てよし。
オスヴァルトさんはほっとしたような、安心したような顔。あ、お茶でも淹れて出さんといかんかね。
「あ、オスヴァルトさん、お忙しくなければ、お茶でも………」
「いえ明日の確認をしましたら、お暇します」
あ、やっぱりお忙しいのね。と、思っていたら、既にメイドさんがお茶を出していた。手際いい。
せっかくだしね。どうぞどうぞ。
ソファーに腰掛け、ビアンカとルージュはゴロン。
「まず、明日の時間確認です。フェリアレーナ様は9時30分にハルスフォン伯爵家を出発します。ミズサワ殿にはその前にハルスフォン伯爵家にいらしてもらいます。時間は8時45分にブエルが迎えに上がります」
「はい」
「フェリアレーナ王女殿下との面会後、パーティーハウスまでお送りします。フェリアレーナ王女殿下出発後になります」
「あ、大丈夫です。迎えに来てくれますから、貴族街の門までで構いません」
「そうですか?」
「多分、いや、絶対混むでしょう? のんびり歩いて帰りますよ。ビアンカとルージュがいますから」
「はは、そうですな。下手な護衛より心強い。それからミズサワ殿、ご意見番からも」
職務中だから、ひいおじい様って言わないんだね。まあ、そうか。
「これからしばらくマーファはあちこちからの有力者が滞在します。王家から注意が行っても、貴女に接触を試みる輩がいるかもしれません。そんな時はご意見番の名前を出し、お断りしてもらっても構わないそうです」
「ありがとうございます」
そっか、やっぱりビアンカやルージュ目当てに声をかけられる可能性があるんだ。どうしよう、その都度サエキ様の名前を出すのも、なんだか申し訳ないし。
あ、そうや、ダンジョンに逃げよう。アルブレンやノータに持っていく乳製品やお肉ゲットや。羊はあれや、ジンギスカンや。
お茶を一口、あ、美味しい、砂糖なしでも美味しい。さすがプロのメイドさん。
オスヴァルトさんもお茶を飲んで、挨拶して帰って行った。
それからメイドさんから色々話がある。メイドさん達は夕御飯の後片付け後下がると。何かあれば、呼び鈴の魔道具あるのでそれで呼んで、と。見た目、ナースコールなんやけど。
話にあったが、夕御飯と朝御飯まで付けてくれる。ビアンカもルージュにもだ、ありがたい。
夕御飯前に、来客が。シエナ様だ。
「ミズサワ様、本来なら両親かセザールがご挨拶に伺わなくてはならないのですが、どうしても都合がつかず、私が代理で参りました」
「いえ、こんなによくしてもらって、ありがたいです」
結婚式前だもん、忙しいよね。シエナ様とちょっとお話。
「娘達はあのドレスが着たくて、何日も前から見えるところに飾っているんです」
「母が聞いたら喜びます」
かわいか女の子のドレス、夢がある。でも、シエナ様っておいくつなんやろ? お綺麗だけど。シエナ様を見送ると、次に来たのはシェフだ。
ちょっと楽しみだったんだよね。夕御飯だからと、ビアンカとルージュも起きてる。といっても頭だけ起こして見てるだけ。
『今日はなんなのです?』
『エビは無理なら、お肉ね。分厚くね』
横着なんやから。
私は邪魔しないように釘を刺し、椅子に腰掛けて待つ。
あれや、ライブキッチンや。手際のよか。見ながら食べれるなんて贅沢や。
「ワインはどうされます?」
「あまり、お酒強くなくて」
「でしたらカクテルにいたしましょうか? 洋梨のジュースに、白ワインを少し」
「それくらいなら」
メイドさんは私の希望を聞いて、少しだけ白ワインを入れてくれる。ビアンカはアルコールはいいから、私と同じ。ルージュはダメなのでジュースのみ。
お洒落な前菜にスープを楽しみ、魚料理のブルーオイスターのチーズ焼きは熱々。
『あっついのですーっ』
『熱いわーっ』
「がっつくからようもん。少し冷めるまで待ち、頼むけん、静かに食べて」
あつつ。まあ、ビアンカとルージュは私の3倍の量で、さっきまでオーブンに入っていたから熱々だわな。メインのお肉で、ちょっと騒動が起きる。お肉は牛肉だったけど、柔らかく、ほんのり甘さがあった。なんだろう。隠し味的な何か入っていそう。シェフに聞いてみようとしたら。
「ひーっ」
『足りないのです』
『もっと作りなさい』
「こら、ビアンカ、ルージュッ」
綺麗に空になった皿を咥えて、シェフに迫っている。
「すみませんっ、美味しかったみたいでっ」
「そ、そうですか、あ、追加分ありますので。お焼きしますね」
余分に持ってきて良かったと呟くシェフ。
「ほら、焼いてくれるけん、下がり」
『分かったのです』
『分かったわ』
大人しく下がるビアンカとルージュ。
じゅー、といい音が響く。
メイドさんが新しくカクテルを作ってくれる。ワインが少ししか入ってないから、飲みやすい。お肉には赤ワインだろうけど、この洋梨と白ワインのカクテルが美味しい。
「シェフさん。このお肉に何の隠し味が入っているんですか? やっぱり秘密ですか?」
「いえ、そんな事ないですよ。仕込みにジャムを使っているんです。ハルスフォン伯爵家経営の果樹園で採れた無花果のジャムです。販売もされていますから、良かったらどうぞ」
そう言って、焼いたお肉を並べてソースを添える。それから籠からジャムの詰まった瓶を取り出す。
「今年の出来がいい上に、豊作なんですよ。パンにも塗っても美味しいですよ。お一つどうぞ。お気に召したら購入してください」
営業スマイル炸裂のシェフ。
「多分すぐに買いに行くと思います」
パン焼いたら、ジャムなんてすぐになくなる。
追加分のお肉をぺろりと平らげるビアンカとルージュ。綺麗にお皿を舐めてる姿に、シェフもホッとしている。
デザートは洋梨とアーモンドのタルトだ。上品な甘さ、紅茶も美味しい。うーん、ライブキッチンで、至れり尽くせり、贅沢やー。
『ふう、久しぶりにケーキを食べたのです』
『そうね、美味しかったわ』
「だ、そうです」
「良かったです」
シェフは安心したような顔だ。メイドさんと片付けて、先にシェフが帰り、メイドさんはお風呂の準備をしてから帰って行った。
「明日、7時に参ります」
「はい」
ヘアメイクとかしてくれるそうです。
メイドさんを見送って、ルームを開ける。中には晃太が気ままに元気をもふもふしている。
「ああ、姉ちゃん、どうやったね」
「豪華なディナーやったよ」
従魔の部屋を覗くと、皆寝てる。
「お母さんとお父さんは?」
「お袋は花と寝とる。親父は書斎で冷蔵庫ば考えようよ」
「そうな」
父は最近家庭用冷蔵庫を考えているが、パッキンの所でつまずいている。話していると、奥からホークさんも出てきた。
「ユイさん、何か問題でも?」
「いえ、サブ・ドアのリセットに。明日はもしかしたら10時か、もしかしたら過ぎる可能性ありますが」
「はい、大丈夫です。待っていますので」
「じゃあ、おやすみなさい」
ビアンカとルージュは従魔の部屋でゴロン。
私はサブ・ドアをリセットして、ゲストハウスに戻る。ゆっくり湯船に浸かり、寝室でルームを開けっ放しにしてから、ふかふかベッドに横になった。
次の日。
早めに起きて、洗面を済ませる。眠いと訴えるビアンカとルージュを起こす。ルリとクリスが起きて、尻尾プリプリしながら来たので、もふもふ、もふもふ。かわいかあ。名残惜しいが、また後でね、もふもふ。
ルームを閉めて、メイドさんを待つ。時間通りに昨日のシェフと共に籠を抱えてきた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
メイドさんはお茶を淹れてくれる。シェフは早速調理に入る。朝からライブキッチンや。ビアンカとルージュはゴロンしたまま。
『いい匂いなのです』
『出来たら起こして』
「あのね」
起き上がりもしない2人、もう。
メイドさんがてきぱきとテーブルセット。
お茶を頂きながら待つ。白パンにジャムが並ぶ。あ、無花果のジャムもあるね。実はコーヒーもあるが、高級品なのでサロンでしか嗜めない。だから見たことなかったのね。昨日頂いた紅茶が美味しかったから紅茶でよか。
「お待たせしました」
出されたのはふかふかのオムレツにかかってるのはケチャップやない、ゴロゴロトマトのソース。白っぽいウインナー、新鮮な生野菜。スープは具だくさんだ。豪華なホテル朝食みたい。
「すぐに従魔様のをお作りしますので」
シェフが高速に動きながら作業を始める。
『まだなのですかー』
『お腹減ったわー』
「あのね、寝たまんま、もう。せっかくだから先に食べるよ。冷めたら失礼やし」
『いいのですよ』
『いいわよ』
「頂きます」
オムレツをトマトソース付けてぱくり。うわあ、ふわふわ、あ、中に柔らかく処理された野菜も入ってる。ソースも適度な酸味があって美味しい。ウインナーは手作り感があり、ハーブの香りがほんのり。生野菜にはオリーブオイルを使用したドレッシングが、いい感じ。
ビアンカとルージュには特大オムレツ。さすがプロ、破れてない。2人ともばくばく食べてる。
パンに無花果ジャム塗って、と。うん、甘いけど自然の甘さ。メイドさんが、ビアンカとルージュにも大丈夫か聞いてきた。もちろん大丈夫。次々に白パンにジャムを塗ってる。ビアンカとルージュの食べ
っぷりがいいもので、追加分のオムレツが並ぶ。
デザートにリンゴのコンポートだ。ふう、満足。
「ご馳走様です。とても美味しかったです。すごく贅沢した気分になります」
「いえいえ。そう言って頂けるとシェフ冥利につきます」
食後、少し休んで今度は私の支度だ。
本日、カラシ色のワンピースにした。ワンピースはこれとモスグリーンの2枚しかないけどね。今度黒か紺のワンピースかスーツ作ってもらおう。
メイドさんがヘアアレンジをしてくれる。しっとりタイプのスタイリング剤を塗ってるから、櫛もよく通る。微かに薔薇の薫りがするやつね。綺麗にアップしてくれ、失礼のないように化粧もしてくれた。真珠のピアスもして、と。よし、準備オッケー。
ビアンカとルージュもばっちりアイロンをかけたバンダナ。よし。ついでにもふもふ。
時間通りにブエルさんが迎えに来てくれた。私はメイドさんにお礼を言って用意してくれた馬車に乗り込む。短い距離なのに、わざわざ馬車なんて贅沢や。
ビアンカとルージュが並走し、すぐに到着。きっと今頃、フェリアレーナ王女様は花嫁衣装を着てるかな。メイドさんに案内されて、屋敷内に入る。うわあ、素敵。なんか映画とか歴史のドキュメント番組とかで出そうな落ち着いて、品のある内装。な、なんだか緊張する。仔達がいなくて良かった、走り回って壁紙や柱にキズが入ったら大変だしね。ハルスフォン伯爵様夫妻は、既に教会で待機して、来賓の皆さんをお出迎えしているそうだ。花婿のご両親だからね、忙しいよね。それなのに、色々してもらってありがたい。
客室の1つに通される。メイドさんがお茶とお菓子を出してくれる間に、落ち着いた内装を見渡す。家具も壁紙もシックな感じで品がいい。テーブルに然り気無く飾ってある花は派手さないが、こぢんまりとして可愛い。淹れていただいたお茶を頂きながら待つ。
『ユイ、それ食べたいのです』
『1つ食べたいわ。1つだけでいいわ』
ビアンカとルージュが出されたお茶菓子をおねだりしている。あれだけオムレツとパン食べたのに。
「もう、1つよ」
私はメイドさんにお断りしようとしたら、ちゃんとビアンカとルージュに用に準備されていた。出されたお茶菓子は中にさくらんぼっぽいのが入ってる。
「これもハルスフォン伯爵様の果樹園のものですか?」
「はい、ダークチェリーを使用したタルトでございます。今年は豊作で味もようございます。是非お召し上がりください」
『ガブガブッ』
『ガフガフッ』
「もう、味わって食べり。ありがとうございます。頂きます」
メイドさんはビアンカとルージュのたべっぷりに嬉しそうだ。あれだけ豪華ホテル朝食食べたのに、別腹。食べてしまった。ふう、満腹。幸せ。
いいのかなあ、お貴族様のお屋敷で、のんびりお茶してるよ。
優雅や。
ガ、ガ、ガ。
ビアンカとルージュが後ろ足で、耳をかきかき。もう、優雅な気分が。もう、かわいかね。私はビアンカとルージュのリクエスト聞きながらかきかきする。
しばらくすると、いよいよ時間になり、私はメイドさんに案内されて、フェリアレーナ王女様の元に。
ドキドキする。
1つの扉の前に。ドキドキする。
「ミズサワ様をご案内しました」
『どうぞ』
ドキドキ、ドキドキ。
メイドさんが扉を開けて、私に入室を促してくれる。
私は緊張しながら、一歩、室内にはいる。
…………………………………………
ああ、やっぱり、綺麗や、いや、美しい花嫁姿のフェリアレーナ王女様が、窓から差し込まれる光に包まれて輝いている。
あの光の加減で模様が浮き出る生地で作られた純白のウェディングドレス。美しい鎖骨が見え、裾はハの字に広がっている。金髪は纏め上げられて、ダイヤモンドと真珠のティアラが飾っている。
キラキラと輝き、息を止めてしまうような美しさ。何より、フェリアレーナ王女様の幸せそうな顔。ああ、良かった。
色々あったけど、全てが丸く収まって、本当に良かった。
周りにいる侍女さん達は既に涙ぐんでるし。
す、とフェリアレーナ王女様が立ち上がる。反射的に私は両膝を突いた。しずしずと私の前に。
「ミズサワ様のお陰で、今日、この時を迎える事ができました。ありがとうございます」
そう言って私の前に、視線を合わせる。え、フェリアレーナ王女様、屈んでいるの? ダメやない? わたしみたいな一般人にそんな事したら?
「これで、私はセザール様の元に嫁げます」
そう言ったフェリアレーナ王女様のオレンジの瞳に、綺麗な涙が浮かぶ。ああ、良かった、本当に良かった。
「フェリアレーナ王女様、私は最後にちょっと参加しただけです。セザール様とフェリアレーナ王女様が想い合ったからですよ」
そう、紆余曲折あったが、セザール様とフェリアレーナ王女様がお互いを大事に想い、それを守ろうといろんな人が動いた結果だ。きっかけは転移門献上だったかもしれないが、結局それは私の力やない。私達にちょっかいかけないでほしいと言う、注意をしてもらいたいからしただけなんだから。
あの時、あの折り畳み傘を使って要求した事が、こんな結果を招いた。セザール様とフェリアレーナ王女様が結婚できる。素敵な結果やん。嬉しい事や。今回の護衛だって、私が自分の判断で受けたんだから。
「お言葉を頂けただけで私は十分なんです。さあ、フェリアレーナ様、せっかくのドレスに皺が入りますよ」
私はフェリアレーナ様にたって頂く、皺、大丈夫かな。あ、ドレスに小さなダイヤモンドが縫い付けられている。キラキラや。だけど、フェリアレーナ王女様自身の美しさを引き立てている。
侍女さん、マーニさんだね、そっと声をかける。
「王女殿下、お時間です」
「はい、分かりました」
フェリアレーナ王女様は私に一礼し、マーニさんに手を引かれて部屋を出る。私も最後尾で続く。
時間通りに玄関に向かい、用意された花で飾られた馬車に乗り込む。フェリアレーナ王女様は乗り込む前に、私に振り返り嬉しそうに微笑む。私まで幸せになってきた。私は笑顔が我慢できなくて、お辞儀する。馬車は白いマントの騎士とマーファの騎士の皆さんに守られて出発。
私は馬車が見えなくなるまで見送った。
これで、良かったんや。本当に良かった。
フェリアレーナ王女様、綺麗やったなあ、ああ、よかなあ、ウェディングドレス。憧れるなあ。私には、縁遠い話や。
私はしばらくしてブエルさんに案内されて、貴族街の門まで案内されて、ホークさん達と合流し、幸せな気持ちに包まれたままパーティーハウスに戻った。
感想 854
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、王都の端で小さな香水店を開きます 〜「匂いしか分からない無能令嬢」と捨てられましたが、実は人の嘘と運命を嗅ぎ分ける王国唯
鳳凰院暁月刃夜婚約破棄されたので、王都の端で小さな香水店を開きます
〜「匂いしか分からない無能令嬢」と捨てられましたが、実は人の嘘と運命を嗅ぎ分ける王国唯一の調香師でした〜
☆あらすじ☆
王太子から婚約破棄され、家族にも見捨てられた公爵令嬢リリアーナ。
妹をいじめた悪女。
匂いしか分からない無能令嬢。
王妃にふさわしくない女。
夜会場でそう笑われた彼女は、すべてを失った――はずだった。
けれどリリアーナの嗅覚は、ただ香りを嗅ぎ分けるだけのものではない。
人の嘘。
隠された悪意。
病の兆し。
呪いの残り香。
そして、運命の匂いまで嗅ぎ分ける、王国唯一の異能だった。
公爵家を出たリリアーナは、亡き祖母が残した王都の端の小さな香水店「夜明けの瓶」を開く。
最初は誰にも見向きされない店だった。
けれど、眠れない少女を救い、毒を盛られた貴婦人を助け、夫婦の嘘をほどいていくうちに、店は王都中の秘密が集まる場所になっていく。
そんな彼女の前に現れたのは、冷血公爵と恐れられる辺境公爵ヴァルト。
彼は王宮由来の呪いに蝕まれていた。
リリアーナは彼の呪いを解くため、契約婚約を結ぶことになる。
不器用すぎる公爵に守られ、時に振り回されながら、彼女は王宮に隠された大きな嘘へと近づいていく。
なぜ王太子は婚約破棄を急いだのか。
なぜ妹は姉を憎み続けるのか。
なぜ王宮には、焦げた薔薇の匂いが漂っているのか。
無能と捨てられた令嬢は、もう誰かの言いなりにはならない。
「私は、私の鼻で生きていきます」
香水店から始まる、婚約破棄令嬢の逆転恋愛ファンタジー。
ざまぁあり、契約婚約あり、冷血公爵の不器用な溺愛あり。
最後には、彼女を捨てた者たちが気づくことになる。
本当に失ってはいけなかったのは、彼女だったのだと。
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
聖女って無給で無休なんですか?じゃあやらないです
こじまき異世界に聖女として召喚されたイラストレーターのチヒロ。しかし聖女には給料も休みもないことを知って「じゃあやらないです」と聖女就任を断る。
「国と人を救う崇高な仕事には、私どもからの感謝を捧げよう」
「心底いらないです」
異世界でまで、やりがい搾取されてたまるかよ。
※小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
妹を踏みにじった奴らに、復讐の花束を
楠ノ木雫 妹を傷つけたやつは誰だ。
隣国に嫁いだこの国の王女であり双子の妹でもあるクラリスが2年後に亡き人となって帰ってきた。死因すら伝えられず嫁ぎ先の墓にも入れてもらえずに隣国の使者が連れてきた。
この事実に信じられずにいると、クラリスが帰ってくる半年前に戻っていた。
一体隣国でクラリスの身に何があったのか。
絶対に、もうクラリスのあんな姿を見たくない。堅く決意し使節団の使者として隣国に乗りこむ事になった。
※一話で過激なシーンがあります。
【第1回新エンタメ小説大賞】にエントリー中です。
五年も笑わなかった辺境伯の娘が、追放された保育係の令嬢の前で初めて笑った
歩人(あゆと)侯爵令嬢クラリスは、五年間、兄夫婦の公爵家で三人の御子の保育を任されてきた。表向きは「下女扱い」だったが、彼女の保育記録には毎日の歌・手作りの絵札・夜泣きの記録が綿密に綴られていた。「育児など侍女の手伝い。本物の貴族のすることではないわ」兄嫁の侮辱に、クラリスは保育記録帳を置いて去る。訪ねた先は、妻を亡くした辺境伯ロタールの屋敷だった。彼の娘リーリャは六歳、母を亡くして以来、誰の前でも笑わなかった。「五年、御子さま方を見続けたあなたなら、リーリャの心も読めるだろうか」ロタールの不器用な依頼に、クラリスは静かに頷く。春が来る頃、リーリャは初めて声を上げて笑った。クラリスの隣で、ロタールも気づくと微笑んでいた——五年ぶりに。
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!