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連載
道のり⑥
リアルロッククライミングが進んでいく。
だが、天候不順も度々あり、立ち止まらなくてはならないけど。ビアンカとルージュ曰くそれでも順調だと。回り道のおかげで怖かった高山病にもならず経過している。
足場の安定した場所から、見下ろして見ると、正に緑の絨毯が広がり絶景だ。テレビとかの特集ものの、美しい緑の絨毯。ドローンとかで撮影したら、もっとゆっくり堪能できるんだろうけど。
ビアンカとルージュの話では、後数日したら抜けるそうだ。
『明日が山場なのですよ』
『そうね、そこを抜けたら下りよ。そこさえ抜ければ、魔境に入るわ』
従魔の部屋で寛いでいるビアンカとルージュより情報あり。ホークさんに通訳。
「毎日、ありがとうございます」
こんなに順調なのは、ホークさんの騎乗能力のおかげだ。本来なら年単位でかかる道のりなのに。こんな岩山越えなんて絶対無理だ。
「それが俺の役割ですから」
ホークさんは笑顔でノワールのブラッシングをしている。鷹の目のメンバーは、ミゲル君は母の手伝いでせっせと洋裁している。新作はかわいかぬいぐるみだ。ビアンカとルージュ、仔達のぬいぐるみだ。あまりにもかわいかぬいぐるみなので、お地蔵さんの下の段で、きちんと並んでいる。チュアンさんとマデリーンさんは裁断のお手伝い。エマちゃんとテオ君は矢の製作をしている。適宜戦闘訓練や魔力訓練を行っている。晃太は両方を手伝いながら、仔達の世話をしている。
明日が岩山の山場ね。天気が良ければよかなあ。よし、お地蔵さんにお祈り、と。
その日の夜、夜中、トイレに行って、さ、寝ようと思ったら、中庭に誰かいた。
ホークさんや。ぽつん、とベンチに座っている。
ど、どうしたんやろ? なんか、横顔が無表情と言うか、悩んでいると言うか、考え込んでいるというか。なんやろ。このまま、見なかった事になんてできん雰囲気やけど。
いつも、私が悩んだりした時、励ましてくれる。ここは一応、主人として声をかけた方がよかよね? どうしよう。声をかけたら、逆に嫌な気分にさせてしまったら。ホークさんにしかない悩みとかだったら。
うーん、うーん、声だけかけて、様子でどうするか決めよう。
私は少し足音を立てて、中庭に出る。
その音でホークさんが振り返る。
「ユイさん」
「ホークさん、夜は冷えますよ」
私はホークさんの表情を見ると、少しだけ苦笑い。ばれた、みたいな感じかな。直ぐにいつもの表情。
「もう少ししたら休みます」
と、答えるが、違和感がある。本当にちょっとの違和感。いつもとどこかが違う。やっぱり何か考えていたんや。ど、どうしよう、やっぱり声をかけんほうが良かったかな。
私じゃ、やっぱり無理やったかな? どうしたものかと思ったが、ホークさんの顔が拒絶の表情ではない。
「ホークさん、どうしたんですか?」
咄嗟に出た言葉。
「いえ、なんと言うか、色々思い出しまして」
少し考えてホークさんが話す。
「1年経ったなあ、と」
あ、あの時の痛みとか思い出して、トラウマになったりしてたり? あ、どうしよう、私じゃどうしようもないやつやっ。
ホークさんが、更にぽつりと呟く。
「あの女が消えて、15年も経つのかと」
「あの女?」
まさか、まさか、ホークさんの彼女? いや、礼儀正しいホークさんが、あの女なんて言う? おかしか。
頭の中、クエスチョンマークが浮かぶ。
「ユイさん。主人の貴女に聞かせる話ではないのですが…………」
「私が聞いたら、気が少しは軽くなります?」
私の口から出たのは、いつも助けて貰っているホークさんの役に立ちたいから出た。
たまには、役に立ちたか。
「……………下らない愚痴ですが。聞いて貰えますか?」
「聞くくらいで、気がはれるなら」
私は失礼して、ホークさんの隣に腰かける。
ホークさんはぽつりぽつりと語りだした。
ホークさんは馬の牧場の飼育員の息子として、お兄さんと一緒に育った。両親はホークさんが10歳の時に立て続けて亡くなった。だけど、お兄さんが飼育員として働き、他のスタッフからもホークさんは可愛がられて育った。だがある日、経営者が代わり、お兄さんとホークさんは牧場から出されてしまった。
「兄は冒険者になりましたが、メンバーも気のいい人達で、俺の事も邪険にしませんでした」
ホークさんはお兄さんにお世話されながら成長。ただ、お世話されるだけではない。未成年でもできる小遣い稼ぎをし、読み書きだって学んだ。家事だってした。
「兄は、しばらくしてある女性と夫婦になりました。赤毛の。エマとテオの母親と」
その女性はミノラさん。ホークさんはミノラと呼び捨てにしてた、やっぱりおかしか、ミノラさんはホークさんにしてみたら、お義姉さんよね。
「ミノラは直ぐに妊娠し、出産、俺の成人する2ヶ月前です」
難産だったが、無事に男女の双子を出産。それが、エマちゃんとテオ君だ。
「エマとテオは今では顔立ちが違って見えますが、生まれた時は区別がつかないくらいにそっくりで、かわいくて」
ホークさんの顔が、すごく優しい。
「難産だったミノラの為に、俺も兄も毎日がてんてこ舞いで、大変でした」
懐かしむようにホークさんが続ける。
「ですが、俺が冒険者になった頃からミノラの様子がおかしくなって」
十分に栄養と休養をして、母乳の出も悪くなかった。だけど、ホークさんが冒険者になることを大反対した。
「理由は、エマとテオの世話をするのに、自分一人じゃ無理だから、俺に家に残れと言うんです」
分からない訳ではない。おそらくホークさんが手伝ってくれるのに、ミノラさんが頼っていたんだろう。初めての子育て、しかも双子。不安で仕方なかったのではないだろうか。
ミノラさんには近くに頼れる親類も友達もおらず、旦那さんとその義弟のホークさんしか頼る人がいなかった。
「でも、俺には俺の生活がありました。だから、出産前から話をしていたんです。成人して、冒険者資格を取ると。そして、新人試験を受けて、合格したらそれを受け入れると」
ホークさんは無事に一発合格。
だけど、ミノラさんは断固として反対した。ホークさんは軽くしか話さないが、ミノラさん、かなりきつい性格に感じる。でもねえ、子育てしてたら、誰だってきつい性格になりそうやけど。
そして、お兄さんも冒険者活動しなくては、そろそろ蓄えが厳しい状況だった。
「兄は、ミノラの反対を気にすることないって、俺を送り出してくれました。2ヶ月も手伝ってくれたから、と。先代のリーダーに挨拶して、兄は、ファルコンは町を出る俺を見送ってくれました。それが、兄を最後にみた姿です」
最後、って事は。もう、亡くなったって事かな。
「5年後、俺が二十歳になり、町に戻ってみたら、家は別の人がすんでいて、兄家族の行方が心配だったんです」
息を吐き出すホークさん。
「直ぐに分かりました。俺は、兄と生き写しのようにそっくりなんです。それで近所の人が血相変えて来ました」
ファルコンさん、あんた、生きていたのっ?
その言葉で、ホークさんは悟った。兄はもういないのだと。茫然自失になるホークさんの代わりに、当時の鷹の目のリーダー・ワゾーさんが話を聞いて回った。
ファルコンさん家族は、ホークさんが冒険者として旅立った後も、なんとか生活していたそうだ。双子育児に、ミノラさんはずっと悲鳴をあげていた。だけど、ミノラさんは器用な人ではなく、人見知りもあり、ご近所さんに助けを求めなかった。
エマちゃんとテオ君が生後1年と半年を過ぎて、稼ぐ為にファルコンさんはパーティーメンバーと共にダンジョンに。
「兄達は、帰って来なかった」
私は言葉が出ない。
しばらく、ミノラさんはエマちゃんとテオ君を育てながら、ファルコンさんを待った。待って、待って、待って。
半年後、姿を消した。
金目のものを根こそぎ持ち、家に鍵、窓に閂。エマちゃんとテオ君は近所の人が、泣き声はするが、窓が開かないのに気がついて、警備を呼び、家を確認。そして、弱っていたエマちゃんとテオ君を発見、保護。
「ミノラは、元冒険者でしたが、そのカードは破損して見つかっています。別の国で、別の名前で登録されたら、ミノラ当人と証明できないのを知っていたんです」
冒険者カードは、身分証明書だ。ただ、正確にその人だと証明するには、登録した国で、専用魔道具に魔力を流すこと。人の魔力っていうのは、けっして同じものはない。例えば一卵性双生児でもだ。魔力情報は登録した国でしか管理されない。期限は10年でリセット。例えば私が今ある冒険者カードを割って、別の国で別の名前での登録も可能。只しばれたら罰則あり。
「エマとテオは孤児院で保護されていました」
その孤児院に直ぐに行くと、庭で遊んでいた数人のうち、赤毛の幼児2人がホークさんを見たとたんに泣き出した。ホークさんの顔を覚えていたわけではない、表情を見て直感した。
自分を守ってくれる人だと。だから、叫んだ。
「おとうさん、おいていかないでっ」
「おとうさんっ、おとうさんっ」
泣いてすがる双子を抱き締めるしかなかったホークさん。
「胸が、抉られそうでした」
当時を思い出したのか、ホークさんの顔が、歪む。
だが、こんな小さい子どもを連れて、冒険者なんて不可能だし、まだホークをリーダーであるワゾーさんが手離すつもりもなかった。やっと無属性魔法を覚醒し、一人前になったばかりで貴重な戦力だったからだ。ワゾーさんは泣きじゃくるエマちゃんとテオ君に、根気よく話をした。
今は渡してやれんが、坊主達が成人した頃には、いっぱしの冒険者に仕上げてみせる。そして、必ず迎えに越させると。
「それからが大変でした」
まずしたのは、今後の行動計画。
本当はチュアンさんは修道院に戻る予定だったのだけど、エマちゃんとテオ君を引き取るまでは付き合うことになった。
「本当にチュアンには感謝しています。神官の道を閉ざしてしまって。今でも申し訳ない気持ちで一杯です」
ホークさんの話を聞きながら、私は以前チュアンさんから聞いた、友に巡りあったって話を思い出す。チュアンさんは、ホークさんが思うように受け取ってないと思うけど。私の印象ではね。
そして、10年。ホークさんが鷹の目のリーダーとなり、ワゾーさんから鎧を受け継いだ。サブ・リーダーだったマデリーンさんのお姉さんも引退し、杖を受け継いだ。
エマちゃんとテオ君を引き取り、冒険者登録や装備品の準備。いずれにしてもチュアンさんの故郷に行く予定を考えていた時に、馬車の護衛依頼があり受けた。私達がディレナスから出た馬車の依頼だ。なるほど。
「エマとテオは素直に育ってくれて、本当に孤児院には感謝しています。だから、余計にあの女が許せなくて」
息を吐き出すホークさん。
「確かに赤ん坊の世話が大変なのは、2ヶ月世話した俺でも分かります。でも、何も、家に閉じ込めるなんて。少しでも発見が遅かったら、どうなっていたか。エマとテオは、兄が遺してくれた宝物なんです」
いつも礼儀正しく頼りになるホークさんの顔に、浮かぶのは、怒り。
ミノラさんは、結局帰って来なかった。一時の気の迷いで、置いていったかと思ったが、結局2人が成人するまで姿を現さず、現在に至る。
「だから、俺はあの女が許せなくて」
「そう、ですか」
私はそう答えるしかない。だけど、ミノラさんの気持ちも分からない訳ではない。実際に私は出産経験も子育て経験もないが。
うーん、なんて言おうか。
エマちゃんとテオ君は、素直で、とってもいい子やけど。
私がそもそも言う資格は、ないのは分かっているが。かつて育児ノイローゼになった人達の特集とか見たし、実際にあの気丈な従姉妹ですらなりかけて、従姉妹の娘と共に母がしばらく引き取ったこともあった。従姉妹の母親は、癌で早くに亡くなり、父親は私の父以上に仕事人間だったために、気が付かず。旦那さんは海外赴任もしていて、異常に気付いたのは、私の母。当時私は寮にいて、後日落ち着いた頃に会ったけど、頬が窶れた従姉妹に、どう言葉をかけていいか、分からなかった。あれだけ高校生時代に助けてもらったのに、なんの役にも立てなくて申し訳なかった。自分の無力さを痛感した。
後日、従姉妹の父親、つまり母の兄は、祖母に電話口で相当しかられ、母からも絞られ、他県に在住する兄妹達にも叱られた。今では、家事をするいいお爺ちゃんだ。
だから、ミノラさんがあの時の従姉妹と重なる。勝手な想像なのは、分かっているけど。どうしてもホークさんの様に思えないのは、やはり、エマちゃんとテオ君がいい子やってこと。
「でも、ミノラさんは、ミノラさんなりにエマちゃんとテオ君を愛していたと思いますよ。まあ、閉じ込めて、姿消したのは許される事ではないですけど」
私の発した言葉に、ホークさんは顔を上げる。
「事情を知らない私が言うのは間違いだと思いますが、エマちゃんとテオ君見てるとそう感じるんです」
「何故ですか?」
ホークさんの声が少し硬い気がするのは、間違いではない。
「三つ子の魂百までって言葉、知ってます?」
「いいえ」
やっぱりこっちにないかあ。
「私がいた日本の言葉です。小さい頃にどれだけ大事にしたかで、その子の性格が決まるって意味です。昔からの諺で、実際にそうだとは限らないって考えもあります。でも、エマちゃんもテオ君も、とってもいい子じゃないですか。それは、ミノラさんが精一杯の愛情を注いで育てたんではないでしょうか」
「でも、ミノラは、あの女は、エマとテオを閉じ込めて」
「そうです。それは確かに許せませんよね。だけど、そこまで追い詰められたミノラさんの気持ち分かります? 難産だったんでしょ? そんな苦しい思いをして生んだ我が子を残して、閉じ込める精神状況って、ホークさんに分かります?」
だが、天候不順も度々あり、立ち止まらなくてはならないけど。ビアンカとルージュ曰くそれでも順調だと。回り道のおかげで怖かった高山病にもならず経過している。
足場の安定した場所から、見下ろして見ると、正に緑の絨毯が広がり絶景だ。テレビとかの特集ものの、美しい緑の絨毯。ドローンとかで撮影したら、もっとゆっくり堪能できるんだろうけど。
ビアンカとルージュの話では、後数日したら抜けるそうだ。
『明日が山場なのですよ』
『そうね、そこを抜けたら下りよ。そこさえ抜ければ、魔境に入るわ』
従魔の部屋で寛いでいるビアンカとルージュより情報あり。ホークさんに通訳。
「毎日、ありがとうございます」
こんなに順調なのは、ホークさんの騎乗能力のおかげだ。本来なら年単位でかかる道のりなのに。こんな岩山越えなんて絶対無理だ。
「それが俺の役割ですから」
ホークさんは笑顔でノワールのブラッシングをしている。鷹の目のメンバーは、ミゲル君は母の手伝いでせっせと洋裁している。新作はかわいかぬいぐるみだ。ビアンカとルージュ、仔達のぬいぐるみだ。あまりにもかわいかぬいぐるみなので、お地蔵さんの下の段で、きちんと並んでいる。チュアンさんとマデリーンさんは裁断のお手伝い。エマちゃんとテオ君は矢の製作をしている。適宜戦闘訓練や魔力訓練を行っている。晃太は両方を手伝いながら、仔達の世話をしている。
明日が岩山の山場ね。天気が良ければよかなあ。よし、お地蔵さんにお祈り、と。
その日の夜、夜中、トイレに行って、さ、寝ようと思ったら、中庭に誰かいた。
ホークさんや。ぽつん、とベンチに座っている。
ど、どうしたんやろ? なんか、横顔が無表情と言うか、悩んでいると言うか、考え込んでいるというか。なんやろ。このまま、見なかった事になんてできん雰囲気やけど。
いつも、私が悩んだりした時、励ましてくれる。ここは一応、主人として声をかけた方がよかよね? どうしよう。声をかけたら、逆に嫌な気分にさせてしまったら。ホークさんにしかない悩みとかだったら。
うーん、うーん、声だけかけて、様子でどうするか決めよう。
私は少し足音を立てて、中庭に出る。
その音でホークさんが振り返る。
「ユイさん」
「ホークさん、夜は冷えますよ」
私はホークさんの表情を見ると、少しだけ苦笑い。ばれた、みたいな感じかな。直ぐにいつもの表情。
「もう少ししたら休みます」
と、答えるが、違和感がある。本当にちょっとの違和感。いつもとどこかが違う。やっぱり何か考えていたんや。ど、どうしよう、やっぱり声をかけんほうが良かったかな。
私じゃ、やっぱり無理やったかな? どうしたものかと思ったが、ホークさんの顔が拒絶の表情ではない。
「ホークさん、どうしたんですか?」
咄嗟に出た言葉。
「いえ、なんと言うか、色々思い出しまして」
少し考えてホークさんが話す。
「1年経ったなあ、と」
あ、あの時の痛みとか思い出して、トラウマになったりしてたり? あ、どうしよう、私じゃどうしようもないやつやっ。
ホークさんが、更にぽつりと呟く。
「あの女が消えて、15年も経つのかと」
「あの女?」
まさか、まさか、ホークさんの彼女? いや、礼儀正しいホークさんが、あの女なんて言う? おかしか。
頭の中、クエスチョンマークが浮かぶ。
「ユイさん。主人の貴女に聞かせる話ではないのですが…………」
「私が聞いたら、気が少しは軽くなります?」
私の口から出たのは、いつも助けて貰っているホークさんの役に立ちたいから出た。
たまには、役に立ちたか。
「……………下らない愚痴ですが。聞いて貰えますか?」
「聞くくらいで、気がはれるなら」
私は失礼して、ホークさんの隣に腰かける。
ホークさんはぽつりぽつりと語りだした。
ホークさんは馬の牧場の飼育員の息子として、お兄さんと一緒に育った。両親はホークさんが10歳の時に立て続けて亡くなった。だけど、お兄さんが飼育員として働き、他のスタッフからもホークさんは可愛がられて育った。だがある日、経営者が代わり、お兄さんとホークさんは牧場から出されてしまった。
「兄は冒険者になりましたが、メンバーも気のいい人達で、俺の事も邪険にしませんでした」
ホークさんはお兄さんにお世話されながら成長。ただ、お世話されるだけではない。未成年でもできる小遣い稼ぎをし、読み書きだって学んだ。家事だってした。
「兄は、しばらくしてある女性と夫婦になりました。赤毛の。エマとテオの母親と」
その女性はミノラさん。ホークさんはミノラと呼び捨てにしてた、やっぱりおかしか、ミノラさんはホークさんにしてみたら、お義姉さんよね。
「ミノラは直ぐに妊娠し、出産、俺の成人する2ヶ月前です」
難産だったが、無事に男女の双子を出産。それが、エマちゃんとテオ君だ。
「エマとテオは今では顔立ちが違って見えますが、生まれた時は区別がつかないくらいにそっくりで、かわいくて」
ホークさんの顔が、すごく優しい。
「難産だったミノラの為に、俺も兄も毎日がてんてこ舞いで、大変でした」
懐かしむようにホークさんが続ける。
「ですが、俺が冒険者になった頃からミノラの様子がおかしくなって」
十分に栄養と休養をして、母乳の出も悪くなかった。だけど、ホークさんが冒険者になることを大反対した。
「理由は、エマとテオの世話をするのに、自分一人じゃ無理だから、俺に家に残れと言うんです」
分からない訳ではない。おそらくホークさんが手伝ってくれるのに、ミノラさんが頼っていたんだろう。初めての子育て、しかも双子。不安で仕方なかったのではないだろうか。
ミノラさんには近くに頼れる親類も友達もおらず、旦那さんとその義弟のホークさんしか頼る人がいなかった。
「でも、俺には俺の生活がありました。だから、出産前から話をしていたんです。成人して、冒険者資格を取ると。そして、新人試験を受けて、合格したらそれを受け入れると」
ホークさんは無事に一発合格。
だけど、ミノラさんは断固として反対した。ホークさんは軽くしか話さないが、ミノラさん、かなりきつい性格に感じる。でもねえ、子育てしてたら、誰だってきつい性格になりそうやけど。
そして、お兄さんも冒険者活動しなくては、そろそろ蓄えが厳しい状況だった。
「兄は、ミノラの反対を気にすることないって、俺を送り出してくれました。2ヶ月も手伝ってくれたから、と。先代のリーダーに挨拶して、兄は、ファルコンは町を出る俺を見送ってくれました。それが、兄を最後にみた姿です」
最後、って事は。もう、亡くなったって事かな。
「5年後、俺が二十歳になり、町に戻ってみたら、家は別の人がすんでいて、兄家族の行方が心配だったんです」
息を吐き出すホークさん。
「直ぐに分かりました。俺は、兄と生き写しのようにそっくりなんです。それで近所の人が血相変えて来ました」
ファルコンさん、あんた、生きていたのっ?
その言葉で、ホークさんは悟った。兄はもういないのだと。茫然自失になるホークさんの代わりに、当時の鷹の目のリーダー・ワゾーさんが話を聞いて回った。
ファルコンさん家族は、ホークさんが冒険者として旅立った後も、なんとか生活していたそうだ。双子育児に、ミノラさんはずっと悲鳴をあげていた。だけど、ミノラさんは器用な人ではなく、人見知りもあり、ご近所さんに助けを求めなかった。
エマちゃんとテオ君が生後1年と半年を過ぎて、稼ぐ為にファルコンさんはパーティーメンバーと共にダンジョンに。
「兄達は、帰って来なかった」
私は言葉が出ない。
しばらく、ミノラさんはエマちゃんとテオ君を育てながら、ファルコンさんを待った。待って、待って、待って。
半年後、姿を消した。
金目のものを根こそぎ持ち、家に鍵、窓に閂。エマちゃんとテオ君は近所の人が、泣き声はするが、窓が開かないのに気がついて、警備を呼び、家を確認。そして、弱っていたエマちゃんとテオ君を発見、保護。
「ミノラは、元冒険者でしたが、そのカードは破損して見つかっています。別の国で、別の名前で登録されたら、ミノラ当人と証明できないのを知っていたんです」
冒険者カードは、身分証明書だ。ただ、正確にその人だと証明するには、登録した国で、専用魔道具に魔力を流すこと。人の魔力っていうのは、けっして同じものはない。例えば一卵性双生児でもだ。魔力情報は登録した国でしか管理されない。期限は10年でリセット。例えば私が今ある冒険者カードを割って、別の国で別の名前での登録も可能。只しばれたら罰則あり。
「エマとテオは孤児院で保護されていました」
その孤児院に直ぐに行くと、庭で遊んでいた数人のうち、赤毛の幼児2人がホークさんを見たとたんに泣き出した。ホークさんの顔を覚えていたわけではない、表情を見て直感した。
自分を守ってくれる人だと。だから、叫んだ。
「おとうさん、おいていかないでっ」
「おとうさんっ、おとうさんっ」
泣いてすがる双子を抱き締めるしかなかったホークさん。
「胸が、抉られそうでした」
当時を思い出したのか、ホークさんの顔が、歪む。
だが、こんな小さい子どもを連れて、冒険者なんて不可能だし、まだホークをリーダーであるワゾーさんが手離すつもりもなかった。やっと無属性魔法を覚醒し、一人前になったばかりで貴重な戦力だったからだ。ワゾーさんは泣きじゃくるエマちゃんとテオ君に、根気よく話をした。
今は渡してやれんが、坊主達が成人した頃には、いっぱしの冒険者に仕上げてみせる。そして、必ず迎えに越させると。
「それからが大変でした」
まずしたのは、今後の行動計画。
本当はチュアンさんは修道院に戻る予定だったのだけど、エマちゃんとテオ君を引き取るまでは付き合うことになった。
「本当にチュアンには感謝しています。神官の道を閉ざしてしまって。今でも申し訳ない気持ちで一杯です」
ホークさんの話を聞きながら、私は以前チュアンさんから聞いた、友に巡りあったって話を思い出す。チュアンさんは、ホークさんが思うように受け取ってないと思うけど。私の印象ではね。
そして、10年。ホークさんが鷹の目のリーダーとなり、ワゾーさんから鎧を受け継いだ。サブ・リーダーだったマデリーンさんのお姉さんも引退し、杖を受け継いだ。
エマちゃんとテオ君を引き取り、冒険者登録や装備品の準備。いずれにしてもチュアンさんの故郷に行く予定を考えていた時に、馬車の護衛依頼があり受けた。私達がディレナスから出た馬車の依頼だ。なるほど。
「エマとテオは素直に育ってくれて、本当に孤児院には感謝しています。だから、余計にあの女が許せなくて」
息を吐き出すホークさん。
「確かに赤ん坊の世話が大変なのは、2ヶ月世話した俺でも分かります。でも、何も、家に閉じ込めるなんて。少しでも発見が遅かったら、どうなっていたか。エマとテオは、兄が遺してくれた宝物なんです」
いつも礼儀正しく頼りになるホークさんの顔に、浮かぶのは、怒り。
ミノラさんは、結局帰って来なかった。一時の気の迷いで、置いていったかと思ったが、結局2人が成人するまで姿を現さず、現在に至る。
「だから、俺はあの女が許せなくて」
「そう、ですか」
私はそう答えるしかない。だけど、ミノラさんの気持ちも分からない訳ではない。実際に私は出産経験も子育て経験もないが。
うーん、なんて言おうか。
エマちゃんとテオ君は、素直で、とってもいい子やけど。
私がそもそも言う資格は、ないのは分かっているが。かつて育児ノイローゼになった人達の特集とか見たし、実際にあの気丈な従姉妹ですらなりかけて、従姉妹の娘と共に母がしばらく引き取ったこともあった。従姉妹の母親は、癌で早くに亡くなり、父親は私の父以上に仕事人間だったために、気が付かず。旦那さんは海外赴任もしていて、異常に気付いたのは、私の母。当時私は寮にいて、後日落ち着いた頃に会ったけど、頬が窶れた従姉妹に、どう言葉をかけていいか、分からなかった。あれだけ高校生時代に助けてもらったのに、なんの役にも立てなくて申し訳なかった。自分の無力さを痛感した。
後日、従姉妹の父親、つまり母の兄は、祖母に電話口で相当しかられ、母からも絞られ、他県に在住する兄妹達にも叱られた。今では、家事をするいいお爺ちゃんだ。
だから、ミノラさんがあの時の従姉妹と重なる。勝手な想像なのは、分かっているけど。どうしてもホークさんの様に思えないのは、やはり、エマちゃんとテオ君がいい子やってこと。
「でも、ミノラさんは、ミノラさんなりにエマちゃんとテオ君を愛していたと思いますよ。まあ、閉じ込めて、姿消したのは許される事ではないですけど」
私の発した言葉に、ホークさんは顔を上げる。
「事情を知らない私が言うのは間違いだと思いますが、エマちゃんとテオ君見てるとそう感じるんです」
「何故ですか?」
ホークさんの声が少し硬い気がするのは、間違いではない。
「三つ子の魂百までって言葉、知ってます?」
「いいえ」
やっぱりこっちにないかあ。
「私がいた日本の言葉です。小さい頃にどれだけ大事にしたかで、その子の性格が決まるって意味です。昔からの諺で、実際にそうだとは限らないって考えもあります。でも、エマちゃんもテオ君も、とってもいい子じゃないですか。それは、ミノラさんが精一杯の愛情を注いで育てたんではないでしょうか」
「でも、ミノラは、あの女は、エマとテオを閉じ込めて」
「そうです。それは確かに許せませんよね。だけど、そこまで追い詰められたミノラさんの気持ち分かります? 難産だったんでしょ? そんな苦しい思いをして生んだ我が子を残して、閉じ込める精神状況って、ホークさんに分かります?」
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三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。