387 / 869
連載
魔境③
しおりを挟む
戦闘しています、ご注意ください。
ノワールは快調に駆け抜ける。
私はホークさんに完全にお任せ。手すりだけは離さないように握りしめるだけ。
ビアンカとルージュの姿は既に見えないが、ノワールは迷わず進む。灯火の女神様のブーストのお陰やね。
ビアンカとルージュが通った後なのか、心配したけど、魔物も来ない。
どれくらい走ったか、破壊音が私の耳にまで伝わってくる。ちゅどん、ドカン、だ。まだ、終わってない。ビアンカとルージュが援助に行っているのに。
緊張が、走る。
ぎゅっ、私を支えるホークさんの腕に力が入る。まるで、大丈夫だと、言っているようで安心する。そして、腹を引き締める。
「ブヒヒヒーンッ」
ノワールが木々を密集した場所を縫うように、一気に駆け抜ける。
視野が広がる。
切り開かれたように広がるその場所には、白い毛並みの大型犬が何匹もいる。ビアンカよりもちょっと小さいか同じくらいか。だが、共通しているのは、毛並みが真っ赤に染まっている。そして、チョロチョロと動き回る蜘蛛、何匹もいる黒い蜘蛛は、勿論普通の小さな蜘蛛やない。なんやねん、軽自動車並みにでかいやんっ。あれもう蜘蛛やないっ。ひーっ、私、蜘蛛もダメなんよーっ。
だけど、ビアンカが同族と言った大型犬達。真っ赤に染まっているケガをどうにかせんとッ。
やけど、突然現れた人間の私の言うことを、彼らは受けてくれるか?
「ユイさん、降りますよっ」
「はいっ」
私はホークさんにしがみつく。ホークさんは身軽に私を抱えて飛び降りる。
「ビアンカッ、ルージュッ、大丈夫ねッ」
『私達は問題ないのですッ』
『ノワールッ、奴らの糸に注意しなさいッ』
「ブヒヒヒーンッ」
ノワールが一気に風蹄(ヴァンオーブ)で駆け抜ける。軽自動車並みのデカさを物ともしない。流石としか言いようがない。
私はホークさんから降りて、ルームを開けると、待機していた晃太とチュアンさん達が飛び出してきた。真っ先に飛び出したのは元気だけどね。
「私はケガの治療に回るけん、ビアンカッ、大丈夫やって言ってッ」
『分かったのですッ、皆、先代の娘である私が宣言するのですッ、ユイに、この人型に逆らわないのですッ、言うことに従うのですッ』
ビアンカの声が響く。これで大丈夫なはずっ。
『元気ッ、突っ走ってはならないのですよッ』
『皆は私とユイの側にいなさいッ、ビアンカッ、行ってッ』
『分かったのですッ』
蜘蛛達は任せよう。
私達は治療として走り回る。
こんな時のポーションや。上級ポーションをかけまくる。
何匹も白い大型犬がいるが、ビアンカ程大きいのが一体。戦闘モードらしい赤いラインが浮かび上がっていたが、違う理由で赤くなっている。
口から、鼻から、真っ赤な血を流している白いウルフ。私を見て警戒するように唸り上げるが、前肢から血が噴き出し、ガクン、と崩れ落ちる。
慌てて駆け寄る。私を見上げる目は赤と緑のオッドアイだ。だけど、そのオッドアイは力を失わず、私を睨むが口の端から、血が溢れだす。
『大丈夫よ、心配しないで』
ルージュが言うと、微かに警戒心が薄くなるが、私がキズの具合を見ようとすると、牙を剥き出す。
「くうーん」
元気が心配そうに覗き込むと、驚いたように目を見開く。
『ビアンカの仔よ』
そうルージュが言うと、オッドアイはすう、と睨んでいた力がなくなる。
あ、いかんっ、早く治療ばっ。
ケチケチせん。
これだけの出血、キズ具合がひどい。前肢、特に左前肢はよくこんな状況で立っていられたと疑うレベルだ。恐らく見えてる白いのは、骨やない?
私はアイテムボックスから取り出す、下級エリクサー。
「大丈夫やけんね」
左前肢のキズに躊躇いなくかけると、真っ白い煙が立ち上がり、骨が繋がり、肉が盛り上がる。連動してか、身体のあちこちから煙が上がる。かなりのキズが塞がる。
凄い。薄紫色のエリクサーがすべて左前肢に染み込むと、かなりの深手だったのに、完璧、ではないがほぼ塞がっている。
何より力を失っていたオッドアイが、驚きが溢れている。良かった、ばっちり効いたみたいや。
オッドアイは、もがき、頭を持ち上げようとする。
「動かん方がよかよ」
いくらエリクサーで塞がったとしても無理したら、まだキズが広がったらいややもん。声をかけると、おとなしく頭を下げる。私はお皿に水を入れて差し出す。
「大丈夫よ、飲めるなら飲み」
私は他のウルフ達の治療に回る為に立ち上がる。オッドアイの後ろに、もう一体そこそこ大型のウルフが。だが、他のウルフ達とは様子が違う。なんだろう、初めて会った頃のビアンカとルージュを彷彿とさせるウルフが 視界に入る。
なんや、お腹に、なんかもぞもぞ動いて…………………
あーーーーーッ、赤ちゃんやッ、がちに赤ちゃんやッ 。ちっちゃーいッ。ならあれがお母さんウルフで。あ、いかんっ、こんな状況で、こっちに被弾したら赤ちゃんがどうなるか。
「ルージュッ、赤ちゃんがおるッ」
『分かっているわっ、決めるわよッ』
ルージュが光の貴婦人(リュミライトレディ)になり、閃光を放つ。狙い澄ました閃光は蜘蛛達を直撃していく。ビアンカもずいぶん蹴散らしている。
私は他のウルフ達の治療に回る。晃太がアイテムボックスから上級ポーションを放出しながら、支援を連発。
『蜘蛛に接近してはダメよッ』
ルージュの注意が飛ぶ。
距離を置いての攻撃は、ホークさんの弓、マデリーンさんの魔法、チュアンさんの土の塊を飛ばす魔法。仔達も属性魔法を飛ばす。
ミゲル君とエマちゃん、テオ君は私と共に治療に回る。
ノワールは蜘蛛の糸にはお構い無し。レッサードラゴンの装備品もあるが、風蹄(ヴァンオーブ)のお陰か身体に触れることなく、あっさり糸が切り裂かれていく。
突然、蜘蛛達が撤退を始めた。
やっと追っ払うことが出来たんやね。
『逃さないのですよッ』
『ここまで侵入してきて、無事に返すわけないでしょッ』
ビアンカとルージュが容赦なく追撃していく。
そこに立ちはだかったのは、巨大な蜘蛛。ひーっ、軽自動車やない、大型ワゴン車やーッ。
ワゴン車蜘蛛は、8本ある脚を震わせる。すると周囲の空間も、まるで蜃気楼のように揺らぐ。
『悪足掻きなのですッ』
『防げると思っているのッ』
ビアンカが雷を、ルージュが閃光を放つ。
脚が2本吹き飛び、装甲のような分厚そうな外皮がばっくり裂けて体液が噴き出す。ひーっ、えぐかあっ。
えっ? ワゴン車蜘蛛、倒れない。ビアンカとルージュの攻撃を受けて倒れない。嘘やろ? 大概一撃なのに。
ワゴン車蜘蛛は、脚を震わせることを止めず、そして逃げもせず、その場に佇むのみ。
手負いの獣って、案外どんな抵抗をするかわからないって聞いた事あるけど。この場合蜘蛛だけど。
「ビアンカッ、ルージュッ、あの蜘蛛ッ」
嫌な予感がする。
『ユイ。心配ないのです』
『こいつは全魔力と生命力をすべて防御に回しているのよ』
ビアンカとルージュがワゴン車蜘蛛から目を離さず答える。
『こいつは、囮なのです』
『他の蜘蛛達を逃すためのね』
『そのうち力尽きるのですがッ』
『そこまで待たないわよッ』
ビアンカとルージュが再び魔法を放つ。脚が吹き飛び、体液が更に噴き出す。
なんや、なんや、残酷な事している気がする。
確かにここを襲った。ビアンカとルージュの同族達にケガを負わせた。迎撃されても文句が言えないかもしれないが。
仲間を逃がそうと、たった1匹残ったあの蜘蛛が、かわいそうになってきた。ビアンカやルージュにしてみたら、私の考えは、甘いかもしれないが。
「ビアンカッ、ルージュッ。せめて、一撃で終わらせてやってッ」
堪らず、私が叫ぶ。
叫んだ瞬間、私の頭上で、バサリッ、と音が。その前に、ワゴン車蜘蛛の前にいたビアンカとルージュが左右に移動し、場所を空ける。
頭上から降り立ったのは、あれは、もこもこのお尻。見たことある、社員旅行で行った先の牧場で見たことある。サイズは段違いにデカイけど、あれはまさしく。
「アルパカーッ」
「姉ちゃん、あれ、違う違うーッ」
私の叫びに、晃太の鋭い突っ込み。
「いや、あのお尻」
「違う違う、グリフォンやっ、あれ、絶対グリフォンやーッ」
確かに、アルパカには翼も嘴も、鋭い爪もなかね。映画でもあんな感じやったね。
………………………………………ファンタジーな名前来たーッ。
でもって、デカイッ。1tを越すノワールよりも更にデカイッ。気がつくと、辺りにいたウルフ達が地面に伏している。
グリフォンはワゴン車蜘蛛の前にお座りし、そして、何やら魔法を一撃。こちらからは、後ろ姿しか見えないけど。
バンッ
破裂音が響き、ワゴン車蜘蛛がゆっくり崩れ落ちる。
ああ、やっと終わったんやね。どこか、ほっとする。
ビアンカとルージュが私達の側に駆け寄ってきた。
「ケガはないね?」
『大丈夫なのです』
『私もよ』
ビアンカとルージュは私達とグリフォンの間に陣取る。
「わんわんっ」
『元気ッ、下がるのですッ』
「きゅ、きゅーん………」
ビアンカのマジのトーンに、元気が私の後ろに。いや、はみ出してるよね、元気君や、100キロ越えてるんやから。コハク、ヒスイ、ルリ、クリスも私達の近くに集まり身を寄せている。
『ユイ、『彼女』なのです』
「え?」
『母からエリアボスの役目を引き継いだ『彼女』よ』
「え?」
私、てっきりウルフ系やとばかり。
だって、種族的に色々さ。グリフォン、他におらんのに。なんだか不思議な光景や。治療したウルフ達が、グリフォンに向かって伏している。
ゆっくり、グリフォンがこちらを振り向く。
うわあ、怖かあ。ノワール以上の体躯に、猛禽類特有の目は、黄金色。耳なのかなあれ? ミミズクの羽角みたいなのも立派やけど、何よりその迫力に箔を付けているのは、額の大きな傷痕。
「種、種族は? グリフォン?」
分かっているのに、聞いてしまうのは、やはり先代がフォレストガーディアンウルフなのに、今がグリフォンだと言うこと。そして、他の種族であるはずのウルフ達が伏しているのが、私には違和感としか思えないからだ。
『グリフォンはグリフォンなのですが』
『『彼女』は更に上位種族、皇帝獅子鷲(エンペラーグリフォン)よ』
なんか、凄そうな名前が出てきた。
グリフォン改め、エンペラーグリフォンは黄金の目を細めてビアンカとルージュを見る。怖かあ。多分、このエンペラーグリフォン、ビアンカとルージュより強いんじゃないかな? 例の雑な扱いのお兄さんにだって勝てないって言っていたのに、そのお兄さんを差し置いてエリアボスになっているんやから。
『久シイナ、先代ノ娘達ヨ』
片言ー。
いや、片言やけど、言葉がわかる。え、なんで?
『シバラク見ヌウチニ、オオキクナッタナ』
なんや、やけに微笑ましい会話や。
『横ニ』
『余計なお世話なのですッ』
『ほっといてちょうだいッ』
ビアンカとルージュの切り返し、早かあ。
ノワールは快調に駆け抜ける。
私はホークさんに完全にお任せ。手すりだけは離さないように握りしめるだけ。
ビアンカとルージュの姿は既に見えないが、ノワールは迷わず進む。灯火の女神様のブーストのお陰やね。
ビアンカとルージュが通った後なのか、心配したけど、魔物も来ない。
どれくらい走ったか、破壊音が私の耳にまで伝わってくる。ちゅどん、ドカン、だ。まだ、終わってない。ビアンカとルージュが援助に行っているのに。
緊張が、走る。
ぎゅっ、私を支えるホークさんの腕に力が入る。まるで、大丈夫だと、言っているようで安心する。そして、腹を引き締める。
「ブヒヒヒーンッ」
ノワールが木々を密集した場所を縫うように、一気に駆け抜ける。
視野が広がる。
切り開かれたように広がるその場所には、白い毛並みの大型犬が何匹もいる。ビアンカよりもちょっと小さいか同じくらいか。だが、共通しているのは、毛並みが真っ赤に染まっている。そして、チョロチョロと動き回る蜘蛛、何匹もいる黒い蜘蛛は、勿論普通の小さな蜘蛛やない。なんやねん、軽自動車並みにでかいやんっ。あれもう蜘蛛やないっ。ひーっ、私、蜘蛛もダメなんよーっ。
だけど、ビアンカが同族と言った大型犬達。真っ赤に染まっているケガをどうにかせんとッ。
やけど、突然現れた人間の私の言うことを、彼らは受けてくれるか?
「ユイさん、降りますよっ」
「はいっ」
私はホークさんにしがみつく。ホークさんは身軽に私を抱えて飛び降りる。
「ビアンカッ、ルージュッ、大丈夫ねッ」
『私達は問題ないのですッ』
『ノワールッ、奴らの糸に注意しなさいッ』
「ブヒヒヒーンッ」
ノワールが一気に風蹄(ヴァンオーブ)で駆け抜ける。軽自動車並みのデカさを物ともしない。流石としか言いようがない。
私はホークさんから降りて、ルームを開けると、待機していた晃太とチュアンさん達が飛び出してきた。真っ先に飛び出したのは元気だけどね。
「私はケガの治療に回るけん、ビアンカッ、大丈夫やって言ってッ」
『分かったのですッ、皆、先代の娘である私が宣言するのですッ、ユイに、この人型に逆らわないのですッ、言うことに従うのですッ』
ビアンカの声が響く。これで大丈夫なはずっ。
『元気ッ、突っ走ってはならないのですよッ』
『皆は私とユイの側にいなさいッ、ビアンカッ、行ってッ』
『分かったのですッ』
蜘蛛達は任せよう。
私達は治療として走り回る。
こんな時のポーションや。上級ポーションをかけまくる。
何匹も白い大型犬がいるが、ビアンカ程大きいのが一体。戦闘モードらしい赤いラインが浮かび上がっていたが、違う理由で赤くなっている。
口から、鼻から、真っ赤な血を流している白いウルフ。私を見て警戒するように唸り上げるが、前肢から血が噴き出し、ガクン、と崩れ落ちる。
慌てて駆け寄る。私を見上げる目は赤と緑のオッドアイだ。だけど、そのオッドアイは力を失わず、私を睨むが口の端から、血が溢れだす。
『大丈夫よ、心配しないで』
ルージュが言うと、微かに警戒心が薄くなるが、私がキズの具合を見ようとすると、牙を剥き出す。
「くうーん」
元気が心配そうに覗き込むと、驚いたように目を見開く。
『ビアンカの仔よ』
そうルージュが言うと、オッドアイはすう、と睨んでいた力がなくなる。
あ、いかんっ、早く治療ばっ。
ケチケチせん。
これだけの出血、キズ具合がひどい。前肢、特に左前肢はよくこんな状況で立っていられたと疑うレベルだ。恐らく見えてる白いのは、骨やない?
私はアイテムボックスから取り出す、下級エリクサー。
「大丈夫やけんね」
左前肢のキズに躊躇いなくかけると、真っ白い煙が立ち上がり、骨が繋がり、肉が盛り上がる。連動してか、身体のあちこちから煙が上がる。かなりのキズが塞がる。
凄い。薄紫色のエリクサーがすべて左前肢に染み込むと、かなりの深手だったのに、完璧、ではないがほぼ塞がっている。
何より力を失っていたオッドアイが、驚きが溢れている。良かった、ばっちり効いたみたいや。
オッドアイは、もがき、頭を持ち上げようとする。
「動かん方がよかよ」
いくらエリクサーで塞がったとしても無理したら、まだキズが広がったらいややもん。声をかけると、おとなしく頭を下げる。私はお皿に水を入れて差し出す。
「大丈夫よ、飲めるなら飲み」
私は他のウルフ達の治療に回る為に立ち上がる。オッドアイの後ろに、もう一体そこそこ大型のウルフが。だが、他のウルフ達とは様子が違う。なんだろう、初めて会った頃のビアンカとルージュを彷彿とさせるウルフが 視界に入る。
なんや、お腹に、なんかもぞもぞ動いて…………………
あーーーーーッ、赤ちゃんやッ、がちに赤ちゃんやッ 。ちっちゃーいッ。ならあれがお母さんウルフで。あ、いかんっ、こんな状況で、こっちに被弾したら赤ちゃんがどうなるか。
「ルージュッ、赤ちゃんがおるッ」
『分かっているわっ、決めるわよッ』
ルージュが光の貴婦人(リュミライトレディ)になり、閃光を放つ。狙い澄ました閃光は蜘蛛達を直撃していく。ビアンカもずいぶん蹴散らしている。
私は他のウルフ達の治療に回る。晃太がアイテムボックスから上級ポーションを放出しながら、支援を連発。
『蜘蛛に接近してはダメよッ』
ルージュの注意が飛ぶ。
距離を置いての攻撃は、ホークさんの弓、マデリーンさんの魔法、チュアンさんの土の塊を飛ばす魔法。仔達も属性魔法を飛ばす。
ミゲル君とエマちゃん、テオ君は私と共に治療に回る。
ノワールは蜘蛛の糸にはお構い無し。レッサードラゴンの装備品もあるが、風蹄(ヴァンオーブ)のお陰か身体に触れることなく、あっさり糸が切り裂かれていく。
突然、蜘蛛達が撤退を始めた。
やっと追っ払うことが出来たんやね。
『逃さないのですよッ』
『ここまで侵入してきて、無事に返すわけないでしょッ』
ビアンカとルージュが容赦なく追撃していく。
そこに立ちはだかったのは、巨大な蜘蛛。ひーっ、軽自動車やない、大型ワゴン車やーッ。
ワゴン車蜘蛛は、8本ある脚を震わせる。すると周囲の空間も、まるで蜃気楼のように揺らぐ。
『悪足掻きなのですッ』
『防げると思っているのッ』
ビアンカが雷を、ルージュが閃光を放つ。
脚が2本吹き飛び、装甲のような分厚そうな外皮がばっくり裂けて体液が噴き出す。ひーっ、えぐかあっ。
えっ? ワゴン車蜘蛛、倒れない。ビアンカとルージュの攻撃を受けて倒れない。嘘やろ? 大概一撃なのに。
ワゴン車蜘蛛は、脚を震わせることを止めず、そして逃げもせず、その場に佇むのみ。
手負いの獣って、案外どんな抵抗をするかわからないって聞いた事あるけど。この場合蜘蛛だけど。
「ビアンカッ、ルージュッ、あの蜘蛛ッ」
嫌な予感がする。
『ユイ。心配ないのです』
『こいつは全魔力と生命力をすべて防御に回しているのよ』
ビアンカとルージュがワゴン車蜘蛛から目を離さず答える。
『こいつは、囮なのです』
『他の蜘蛛達を逃すためのね』
『そのうち力尽きるのですがッ』
『そこまで待たないわよッ』
ビアンカとルージュが再び魔法を放つ。脚が吹き飛び、体液が更に噴き出す。
なんや、なんや、残酷な事している気がする。
確かにここを襲った。ビアンカとルージュの同族達にケガを負わせた。迎撃されても文句が言えないかもしれないが。
仲間を逃がそうと、たった1匹残ったあの蜘蛛が、かわいそうになってきた。ビアンカやルージュにしてみたら、私の考えは、甘いかもしれないが。
「ビアンカッ、ルージュッ。せめて、一撃で終わらせてやってッ」
堪らず、私が叫ぶ。
叫んだ瞬間、私の頭上で、バサリッ、と音が。その前に、ワゴン車蜘蛛の前にいたビアンカとルージュが左右に移動し、場所を空ける。
頭上から降り立ったのは、あれは、もこもこのお尻。見たことある、社員旅行で行った先の牧場で見たことある。サイズは段違いにデカイけど、あれはまさしく。
「アルパカーッ」
「姉ちゃん、あれ、違う違うーッ」
私の叫びに、晃太の鋭い突っ込み。
「いや、あのお尻」
「違う違う、グリフォンやっ、あれ、絶対グリフォンやーッ」
確かに、アルパカには翼も嘴も、鋭い爪もなかね。映画でもあんな感じやったね。
………………………………………ファンタジーな名前来たーッ。
でもって、デカイッ。1tを越すノワールよりも更にデカイッ。気がつくと、辺りにいたウルフ達が地面に伏している。
グリフォンはワゴン車蜘蛛の前にお座りし、そして、何やら魔法を一撃。こちらからは、後ろ姿しか見えないけど。
バンッ
破裂音が響き、ワゴン車蜘蛛がゆっくり崩れ落ちる。
ああ、やっと終わったんやね。どこか、ほっとする。
ビアンカとルージュが私達の側に駆け寄ってきた。
「ケガはないね?」
『大丈夫なのです』
『私もよ』
ビアンカとルージュは私達とグリフォンの間に陣取る。
「わんわんっ」
『元気ッ、下がるのですッ』
「きゅ、きゅーん………」
ビアンカのマジのトーンに、元気が私の後ろに。いや、はみ出してるよね、元気君や、100キロ越えてるんやから。コハク、ヒスイ、ルリ、クリスも私達の近くに集まり身を寄せている。
『ユイ、『彼女』なのです』
「え?」
『母からエリアボスの役目を引き継いだ『彼女』よ』
「え?」
私、てっきりウルフ系やとばかり。
だって、種族的に色々さ。グリフォン、他におらんのに。なんだか不思議な光景や。治療したウルフ達が、グリフォンに向かって伏している。
ゆっくり、グリフォンがこちらを振り向く。
うわあ、怖かあ。ノワール以上の体躯に、猛禽類特有の目は、黄金色。耳なのかなあれ? ミミズクの羽角みたいなのも立派やけど、何よりその迫力に箔を付けているのは、額の大きな傷痕。
「種、種族は? グリフォン?」
分かっているのに、聞いてしまうのは、やはり先代がフォレストガーディアンウルフなのに、今がグリフォンだと言うこと。そして、他の種族であるはずのウルフ達が伏しているのが、私には違和感としか思えないからだ。
『グリフォンはグリフォンなのですが』
『『彼女』は更に上位種族、皇帝獅子鷲(エンペラーグリフォン)よ』
なんか、凄そうな名前が出てきた。
グリフォン改め、エンペラーグリフォンは黄金の目を細めてビアンカとルージュを見る。怖かあ。多分、このエンペラーグリフォン、ビアンカとルージュより強いんじゃないかな? 例の雑な扱いのお兄さんにだって勝てないって言っていたのに、そのお兄さんを差し置いてエリアボスになっているんやから。
『久シイナ、先代ノ娘達ヨ』
片言ー。
いや、片言やけど、言葉がわかる。え、なんで?
『シバラク見ヌウチニ、オオキクナッタナ』
なんや、やけに微笑ましい会話や。
『横ニ』
『余計なお世話なのですッ』
『ほっといてちょうだいッ』
ビアンカとルージュの切り返し、早かあ。
3,058
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。