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連載
帰宅しましょう⑦
パーヴェル様は、すうっと背筋を伸ばす。
な、なんやろ?
「ミズサワ殿」
「はい」
「もう少しお時間を頂けますか?」
「はい、大丈夫です」
パーヴェル様の顔が、なんとも言えない表情に。困ったような、感じがする。
「実は、首都の貴族間で貴女に対する噂が流れています」
「噂?」
「はい」
頷くパーヴェル様。
「カルーラはユリアレーナの首都から離れております。そのため、数人の文官を派遣しています」
このカルーラは第三都市とは言え、ユリアレーナの端であるのは変わりない。なんで端なのに?って事だけど、カルーラは隣国アスラ王国と、マーランと接し交易の要所となっている。そして、巨大な魔の森と接しているため、イコスティ辺境伯が治めている。だけどネットワーク技術の限られた世界。いくら端の辺境伯とはいえ、中央の情報を把握してなくてはならない、優秀な文官達を派遣しているそうだ。特に今はイコスティ辺境伯の末のお姫様が、ゲオルグ王子の正室に婚約が決まり、特に把握しておきたい。転移門より毎月首都の文官達から送られる、様々な情報の中に私の事が書かれていた。もともと私達がカルーラに到着していることは、文官達も知っていたため、わざわざ情報を得て知らせてくれたそうだ。
「貴女を空いているセレドニア陛下の第二側室に、と」
「はあぁぁぁぁぁ?」
私の口から、はしたない声が。母が肘でつく。失礼、失礼。
「どうしてそんな話に?」
そうや、そうや、なんでそんな事に?
「恐らく、後見人のサエキ様が、国を出られているからではないかと」
「でも、宰相様の補佐官やってるアルベルトさんが」
「確かに彼はサエキ様の曾孫ですし、優秀な方です。現宰相様も一目置く方ですが。立場がまだ弱い」
パーヴェル様の説明はこう。
アルベルトさんは子爵当主さんだけど、貴族社会での立場は低めであるそうだ。しかもまだ新しい貴族、新興貴族。先代本家のウルガー伯爵家がある子爵家から爵位を買い取り与えられた為に、正式な社交界にも出れない。リティアさんと同じ位置だ。ご意見番のサエキ様の曾孫、宰相補佐官と言う立場があっても、どうしてもその爵位のせいで、こいつになら私に対して色々言えると思う上位貴族が出てくると。
そこでなんで私が第二側室なんかに? と言うのは、私を貴族の養女にしてしまおう、とする人達がいる。爵位の低めから段階的に上位貴族に順番に養女にして、側室ってね。平民が側室になんて入れない、愛人、つまり愛妾ね。だから、養女にって。
………………………………………………言葉は、悪いが、私を養女にして寄生するんやない。その貴族達。
「当然、アルベルト殿は突っぱねました。それに宰相も大反対。貴女をそのような醜い貴族達の犠牲に等できないと。なにより、それを赦さなかったのは、セレドニア陛下を始め、王家の方々です。貴女はフェリアレーナ様を守り、アルティーナ帝国との均衡を守ってくれた大恩人。そんな貴女に、その様な無体を働けぬと。それは厳しく叱責されたそうです」
良かった。ユリアレーナ王家の皆様が、そんな事を言う貴族達と違って。マーファでお会いしたが、あの時出来るだけ守ってくれる的な事を言ってくれた。安心した。
ふう、と息をつくパーヴェル様。
「それで下心のあるバカ連中はある程度黙りました」
ちょっと、パーヴェル様の言葉にトゲが。
「ただ、問題はユリアレーナ王国に、王家に真に忠誠を誓い、民を想う者達です」
「それは、ユリアレーナにとってはいい人では?」
「国や民にしたらそうでしょう。ただ、貴女にとっては迷惑かもしれません」
「具体的には?」
「貴女をユリアレーナに繋ぎ止める為に、相応の伴侶を持たせるべきだと」
「余計なお世話ー」
母の肘が入る。しまった、口に出てしまった。
「そもそもどうして私に、その、伴侶をと?」
「ここには、貴族特有の考え方があります。貴族は国と王家に尽くし、民の模範となり、その生活を守る義務がある。そして家の継承です。彼らの言い分はこうです。『国に忠義を尽くす、テイマーの立場を理解し、年齢が釣り合い、従魔に認められる程の気骨のある者を』と。そうすれば、もしユリアレーナで何かあれば、貴女が助力すると」
「いるのですか? そんな希少な人」
ドラゴン並みやない?
パーヴェル様が、ため息。
「いるんですよ、たった一人」
「どちらのドラゴン様?」
「人族ですよ。オスヴァルト・ウルガー准将ですよ」
「オ、オスヴァルトさんっ?」
首都では散々お世話になった、あの強面警察官みたいなオスヴァルトさんっ?
「彼は国に、王家に忠誠を誓っています。それに騎士としてももちろん、指導力、指揮力も高くいずれ将軍は確実です。サエキ様の曾孫に当たりますし」
「えっと、オスヴァルトさんは、まさか、独身?」
「いえ、奥方を亡くされています。次期将軍候補程の男です。後妻の話はありますが、本人が拒否しています」
それは亡くなった奥さんを愛しているからやない? オスヴァルトさん、顔はちょっと怖いが、真面目で誠実そうだったし。なら、申し訳ない。
「まあ、これはあくまで噂です。当の准将は噂の話を直接持ってきた先走りのバカの前で、リンゴを握り潰して無言で追い返したそうですから」
パーヴェル様の言葉に、トゲがちらほら。
「首都の貴族間の噂ですが、いつどう流れるか分かりません。知らずに耳に入りミズサワ殿が、不快な思いをされないか愚考しまして、お話しました」
「そうですか」
しばらく、首都避けようかな?
「しかし、ミズサワ殿」
「はい」
パーヴェル様は改まる。
「ユリアレーナ王家の皆様は貴女の味方です。特にほぼご隠居されていたミッシェル王太后が」
「ミッシェル王太后が?」
「そうです。色々ご苦労されていますからね」
アルティーナ帝国の支援に頼らざるを得なかった天災のこと。ガーガリア元妃のこと。カムル王子のこと。孫娘フェリアレーナ様のこと。きっと私が一生で処理できない程の苦労をされているはず。セレドニア陛下が、即位されてから、王妃の役割はカトリーナ様とエレオノーラ様に引き継がれて、お仕事、つまり公務は減り、数年前から社交界には出ず、体調を見ながら慈善事業に参加されている。だが、今回私の伴侶の件で一悶着あり、ミッシェル王太后は、社交界に復帰。色々動いてくれているそうだ。主に牽制。
私に手を出すんやないよ、セレドニア国王陛下のお考えに何か不満でもあるん? みたいな感じでね。
「ミッシェル王太后様にまで、ご迷惑が」
「それは、まあ、そうかもしれませんね。ミズサワ殿、ミッシェル王太后は王家の人間、先代国王の正室であり国母であらせられる。これぐらいはやりこなせるだけの器量は持ち合わせています」
「でも、かなりご高齢で」
マーファで足を引きずっていた姿が浮かぶ。
「ミズサワ殿。それが王家です」
まるで、言い聞かせるようにパーヴェル様は続ける。
「王家は、死ぬまでその責務をはたさなければならない。その姿勢こそが、我々貴族の原本ですね」
一般人の私には、とてもどうしようもない世界一なんや。
「さて、長話になってしまいました。私はこれで失礼します」
「はい、色々ありがとうございます」
パーヴェル様がお帰りの支度をする。見送りの為に出ると、振り返る。
「ミズサワ殿。我がイコスティ辺境伯は貴女の力となりましょう。何かお困りの事があれば、我らが出来る全てで貴女方をお守りします」
わあ、かっこいいなあ。パーヴェル様が一礼。私達もぺこり。
馬車をお見送りする。
「ユイさん」
ずっと黙って待機していたホークさんが、パーヴェル様の馬車が見えなくなってやっと口を開く。
「どうされますか?」
「どう?」
「このままユリアレーナで活動を続けるか、です。パーヴェル様はああ仰っていましたが、おそらく末端の爵位を持つ連中が、騒ぐやもしれませんよ」
「その時はその時ですよ」
転移門を献上した時に、色々私に手を出さないように言ってくれている。だから、今回は首都の貴族間だけの話で終わっているはず。私には何も言ってこれないはずだから、国王にそんな話がいったんだろう。オスヴァルトさん、完全にとばっちりだ。申し訳ない。
「何かあれば、私に接近する前にビアンカとルージュが気がつくはずですし」
『そうなのです』
『色々止めるわよ』
何を? 息の根?
「穏便にね。ホークさん達もいますから」
「ユイさん……………」
「それに、私は、ユリアレーナ王家の皆様を信じます。サエキ様や、ハルスフォン伯爵様やイコスティ辺境伯様も」
それ以外だって、色んな人達が私達の側にいてくれると言ってくれた。リティアさんやタージェルさんを始めとしたマーファのギルドの人達、ノータのギルドマスターの言葉。
私は、それを信じるだけ。
な、なんやろ?
「ミズサワ殿」
「はい」
「もう少しお時間を頂けますか?」
「はい、大丈夫です」
パーヴェル様の顔が、なんとも言えない表情に。困ったような、感じがする。
「実は、首都の貴族間で貴女に対する噂が流れています」
「噂?」
「はい」
頷くパーヴェル様。
「カルーラはユリアレーナの首都から離れております。そのため、数人の文官を派遣しています」
このカルーラは第三都市とは言え、ユリアレーナの端であるのは変わりない。なんで端なのに?って事だけど、カルーラは隣国アスラ王国と、マーランと接し交易の要所となっている。そして、巨大な魔の森と接しているため、イコスティ辺境伯が治めている。だけどネットワーク技術の限られた世界。いくら端の辺境伯とはいえ、中央の情報を把握してなくてはならない、優秀な文官達を派遣しているそうだ。特に今はイコスティ辺境伯の末のお姫様が、ゲオルグ王子の正室に婚約が決まり、特に把握しておきたい。転移門より毎月首都の文官達から送られる、様々な情報の中に私の事が書かれていた。もともと私達がカルーラに到着していることは、文官達も知っていたため、わざわざ情報を得て知らせてくれたそうだ。
「貴女を空いているセレドニア陛下の第二側室に、と」
「はあぁぁぁぁぁ?」
私の口から、はしたない声が。母が肘でつく。失礼、失礼。
「どうしてそんな話に?」
そうや、そうや、なんでそんな事に?
「恐らく、後見人のサエキ様が、国を出られているからではないかと」
「でも、宰相様の補佐官やってるアルベルトさんが」
「確かに彼はサエキ様の曾孫ですし、優秀な方です。現宰相様も一目置く方ですが。立場がまだ弱い」
パーヴェル様の説明はこう。
アルベルトさんは子爵当主さんだけど、貴族社会での立場は低めであるそうだ。しかもまだ新しい貴族、新興貴族。先代本家のウルガー伯爵家がある子爵家から爵位を買い取り与えられた為に、正式な社交界にも出れない。リティアさんと同じ位置だ。ご意見番のサエキ様の曾孫、宰相補佐官と言う立場があっても、どうしてもその爵位のせいで、こいつになら私に対して色々言えると思う上位貴族が出てくると。
そこでなんで私が第二側室なんかに? と言うのは、私を貴族の養女にしてしまおう、とする人達がいる。爵位の低めから段階的に上位貴族に順番に養女にして、側室ってね。平民が側室になんて入れない、愛人、つまり愛妾ね。だから、養女にって。
………………………………………………言葉は、悪いが、私を養女にして寄生するんやない。その貴族達。
「当然、アルベルト殿は突っぱねました。それに宰相も大反対。貴女をそのような醜い貴族達の犠牲に等できないと。なにより、それを赦さなかったのは、セレドニア陛下を始め、王家の方々です。貴女はフェリアレーナ様を守り、アルティーナ帝国との均衡を守ってくれた大恩人。そんな貴女に、その様な無体を働けぬと。それは厳しく叱責されたそうです」
良かった。ユリアレーナ王家の皆様が、そんな事を言う貴族達と違って。マーファでお会いしたが、あの時出来るだけ守ってくれる的な事を言ってくれた。安心した。
ふう、と息をつくパーヴェル様。
「それで下心のあるバカ連中はある程度黙りました」
ちょっと、パーヴェル様の言葉にトゲが。
「ただ、問題はユリアレーナ王国に、王家に真に忠誠を誓い、民を想う者達です」
「それは、ユリアレーナにとってはいい人では?」
「国や民にしたらそうでしょう。ただ、貴女にとっては迷惑かもしれません」
「具体的には?」
「貴女をユリアレーナに繋ぎ止める為に、相応の伴侶を持たせるべきだと」
「余計なお世話ー」
母の肘が入る。しまった、口に出てしまった。
「そもそもどうして私に、その、伴侶をと?」
「ここには、貴族特有の考え方があります。貴族は国と王家に尽くし、民の模範となり、その生活を守る義務がある。そして家の継承です。彼らの言い分はこうです。『国に忠義を尽くす、テイマーの立場を理解し、年齢が釣り合い、従魔に認められる程の気骨のある者を』と。そうすれば、もしユリアレーナで何かあれば、貴女が助力すると」
「いるのですか? そんな希少な人」
ドラゴン並みやない?
パーヴェル様が、ため息。
「いるんですよ、たった一人」
「どちらのドラゴン様?」
「人族ですよ。オスヴァルト・ウルガー准将ですよ」
「オ、オスヴァルトさんっ?」
首都では散々お世話になった、あの強面警察官みたいなオスヴァルトさんっ?
「彼は国に、王家に忠誠を誓っています。それに騎士としてももちろん、指導力、指揮力も高くいずれ将軍は確実です。サエキ様の曾孫に当たりますし」
「えっと、オスヴァルトさんは、まさか、独身?」
「いえ、奥方を亡くされています。次期将軍候補程の男です。後妻の話はありますが、本人が拒否しています」
それは亡くなった奥さんを愛しているからやない? オスヴァルトさん、顔はちょっと怖いが、真面目で誠実そうだったし。なら、申し訳ない。
「まあ、これはあくまで噂です。当の准将は噂の話を直接持ってきた先走りのバカの前で、リンゴを握り潰して無言で追い返したそうですから」
パーヴェル様の言葉に、トゲがちらほら。
「首都の貴族間の噂ですが、いつどう流れるか分かりません。知らずに耳に入りミズサワ殿が、不快な思いをされないか愚考しまして、お話しました」
「そうですか」
しばらく、首都避けようかな?
「しかし、ミズサワ殿」
「はい」
パーヴェル様は改まる。
「ユリアレーナ王家の皆様は貴女の味方です。特にほぼご隠居されていたミッシェル王太后が」
「ミッシェル王太后が?」
「そうです。色々ご苦労されていますからね」
アルティーナ帝国の支援に頼らざるを得なかった天災のこと。ガーガリア元妃のこと。カムル王子のこと。孫娘フェリアレーナ様のこと。きっと私が一生で処理できない程の苦労をされているはず。セレドニア陛下が、即位されてから、王妃の役割はカトリーナ様とエレオノーラ様に引き継がれて、お仕事、つまり公務は減り、数年前から社交界には出ず、体調を見ながら慈善事業に参加されている。だが、今回私の伴侶の件で一悶着あり、ミッシェル王太后は、社交界に復帰。色々動いてくれているそうだ。主に牽制。
私に手を出すんやないよ、セレドニア国王陛下のお考えに何か不満でもあるん? みたいな感じでね。
「ミッシェル王太后様にまで、ご迷惑が」
「それは、まあ、そうかもしれませんね。ミズサワ殿、ミッシェル王太后は王家の人間、先代国王の正室であり国母であらせられる。これぐらいはやりこなせるだけの器量は持ち合わせています」
「でも、かなりご高齢で」
マーファで足を引きずっていた姿が浮かぶ。
「ミズサワ殿。それが王家です」
まるで、言い聞かせるようにパーヴェル様は続ける。
「王家は、死ぬまでその責務をはたさなければならない。その姿勢こそが、我々貴族の原本ですね」
一般人の私には、とてもどうしようもない世界一なんや。
「さて、長話になってしまいました。私はこれで失礼します」
「はい、色々ありがとうございます」
パーヴェル様がお帰りの支度をする。見送りの為に出ると、振り返る。
「ミズサワ殿。我がイコスティ辺境伯は貴女の力となりましょう。何かお困りの事があれば、我らが出来る全てで貴女方をお守りします」
わあ、かっこいいなあ。パーヴェル様が一礼。私達もぺこり。
馬車をお見送りする。
「ユイさん」
ずっと黙って待機していたホークさんが、パーヴェル様の馬車が見えなくなってやっと口を開く。
「どうされますか?」
「どう?」
「このままユリアレーナで活動を続けるか、です。パーヴェル様はああ仰っていましたが、おそらく末端の爵位を持つ連中が、騒ぐやもしれませんよ」
「その時はその時ですよ」
転移門を献上した時に、色々私に手を出さないように言ってくれている。だから、今回は首都の貴族間だけの話で終わっているはず。私には何も言ってこれないはずだから、国王にそんな話がいったんだろう。オスヴァルトさん、完全にとばっちりだ。申し訳ない。
「何かあれば、私に接近する前にビアンカとルージュが気がつくはずですし」
『そうなのです』
『色々止めるわよ』
何を? 息の根?
「穏便にね。ホークさん達もいますから」
「ユイさん……………」
「それに、私は、ユリアレーナ王家の皆様を信じます。サエキ様や、ハルスフォン伯爵様やイコスティ辺境伯様も」
それ以外だって、色んな人達が私達の側にいてくれると言ってくれた。リティアさんやタージェルさんを始めとしたマーファのギルドの人達、ノータのギルドマスターの言葉。
私は、それを信じるだけ。
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