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合流⑤
なんでか分からないが、私はショックだった。苦しくなるのは分からない。あの人とは、違う種類の。
でも、ホークさんは真っ直ぐこちらをみてくる。
あ、そっか。ホークさん、奴隷解放してほしいんや。ホークさんだってしっかりした成人男性やし、とてもいい人やし、そんな風に思える女性がいてもおかしくない。エマちゃんとテオ君を引き取って落ち着いた後に、その女性と一緒になりたかったんやないかな? 私が戦闘奴隷として契約してしまったから、それが出来ない。だから、改まってお願いしてきたのかな?
「い、いいんやないですか? きっと、素敵な」
女性のはず。だって、エマちゃんやテオ君のことを理解して、受け入れているんやない。私はあくまでも、お祝いの表情を作るが、うまく行ってるかな?
「ユイさん」
ホークさんが私の言葉を切る。
「俺は、家庭を築きたい」
私の中から、得たいのしれない何かが、抉り取られる。何でやろう? 何でやろう? 何でやろう?
「やから、いいんやないですか?」
「貴女と」
ホークさんの青みがかった目が、真っ直ぐに私をみる。その言葉に、私の思考が一瞬止まる。抉れた何かに、別の温かいなにかが溢れて来た。
「俺は、ユイさん。貴女と家庭を築きたい」
「……………え?」
わ、私と? 何で? 心臓の音が耳に響き、胸の奥底から温かくなる。あ、エマちゃんとテオ君が私を母親のように慕ってくれているから? 冷静になったつもりだけど、わたわたと言うと、ホークさんは首を横に振る。
「エマとテオは関係ありません。2人は兄の子供で、俺にとっては甥と姪です」
「じゃ、じゃあ、なんで?」
エマちゃんとテオ君の為やないのなら、何や?
「分かりません」
「はい?」
返って来たのは、そんな返事。
「理由は分かりません。ただ、俺は貴女がいい、ユイさんがいいんです」
ぶわわわっ、と嬉しくなり、かっと頬が熱くなる。
「ユイさんがいいんです」
もう一度繰り返すホークさん。
「エマと俺達の窮地を救ってくれた。だから、貴女に尽くそう、そう思っていました」
だけど、と続けるホークさん。
「貴女は俺達を温かく迎え入れてくれた。奴隷だからといっても貴女は、変わらず優しかった。それが嬉しかったんです。心が、沸き立つように嬉しかった」
私も心がぽかぽかしてるけど、すごく嬉しいけど。
「始めは側に仕えるだけで、満足でした。でも、どんどん足りなくなって、ユイさんの旦那だと間違われる度に、貴女の隣にいるだけで、どうしようもなく嬉しくなって」
よく、マルシェで買い物してたら、間違いを受ける。エマちゃんとテオ君がいたら、完全に家族に見えるみたいだ。
「でも、ほら、ホークさん達は、その水澤家の一員やし」
何を言い訳しているのか分からないが、私の口から出るのはそんなみっともない言葉。
「そうじゃないんですよユイさん。貴女がミズサワ家に俺達を受け入れてくれているのは、分かっています。感謝しています。だけど、これは違うんです」
ホークさんの青みがかった目が、動揺して情けない顔を映し出す。
「奴隷の俺が、言ってはいけないことだとは分かっています。抱いてはいけない感情だとは分かっています。だけど、俺は貴女と家庭を築きたい」
いつの間にか、ホークさんの大きくてカサカサした手が、私の頬を包んでいる。
「貴女を守って、貴女が笑っているのを見ているだけで、十分じゃなくなった。ユイさん、貴女を抱き締めたい、キスしたい」
ダイレクトに来た言葉。私の抉れた何かが一気に満たされて、それ以上に溢れ返る。溢れて、溢れて、止まらない。
私の脳裏に浮かぶ。私がおくるみを抱いて、ソファーに座っているのを。花を抱いた母が来て、晃太と父が覗き込む。ビアンカとルージュが後ろから顔出し、元気達がわーっと集まる。エマちゃんとテオ君が、ニコニコしながら私を見て、チュアンさんとマデリーンさんとミゲル君も笑っている。そして、おくるみを抱いていた私の手に、大きくてカサカサした手が添えられる。ホークさんが、私を優しく見ている。そんな光景。
あれ? なんで、こんな有りもしない映像が浮かぶんやろ? なんで、なんで、なんで。なんで、ぼろぼろ涙が零れるんやろ? なんで、こんなに胸が暖かいんやろ?
「ユイさん。俺は、貴女を愛しています」
嬉しい。
ただ、その一言。ただ、ひたすらに嬉しい。嬉しい。嬉しい。
さっき、胸を抉られるような思いも、この嬉しい思いも、勘違いじゃないと思いたい。ホークさんがいるとある、安心感、それから依存心。ドキドキしていた気持ちとか全部全部が綺麗にまとまっていく。あんまりにも近くに、側にありすぎて、当たり前のようにいてくれて。私だって、勘違いされて、嬉しくなる。勘違いされるのは必ずホークさんだけ。チュアンさんはそんなことは一度もない。ホークさんはいつも側にいてくれて、的確なアドバイスしてくれて、支えてくれて、ありがたいと思いながらも、当たり前にいてくれて。
気がつかないふりをしていたのかな? あまりにも側に居てくれるから。ホークさんは私の奴隷だから、職務としていてくれているだけという、思い込みが、自分のホークさんに対する思いや考えをおかしくしていたのかな。
ああ、どんどん胸が温かくなる。生まれて初めての感覚。看護師の国家試験が合格したとはまた別物だ
ホークさんが、私の名前を呼ぶ。だけど、私は声がうまく出ない、だって、嬉し過ぎて。それに、口、塞がれてるから。
何にって?
察してください。
それから、どうしたか。
ぼんやりとベンチで、ホークさんに抱き寄せられてじっとしていた。温かい。
「ユイさん。冷えますから、部屋に戻りましょう」
さっきの私のセリフなんなけど、色々恥ずかしくて、ホークさんの顔が見れない。手を引かれて部屋に行く途中、従魔の部屋からビアンカとルージュがこちらを見ていた。ものすごくびっくりした。真っ暗な中で、特にルージュの赤い目は目立つからね。だけど、2人は私を見て、従魔の部屋に戻っていく。なんやったんやろ? そして、ホークさんの額に汗浮かんでいるのは気のせいかな?
自室まで連れられる。なんやろ。ドキドキ。
「ユイさん」
「あ、はい、はい」
ドキドキッ。ホークさんのいつもの声が、心臓に響く。
「さっきのこと、忘れてください」
「…………………………え?」
な、なんで? 一気に、頭から血が落ちる。
「本来、あんなこと言ったり、したりしたら、俺は処罰対象なんです。ユイさんが望めば俺は受けます」
「処罰って? なんで?」
「俺は主人である、貴女に手を出した」
「いやいや、本格的に何もしてないやないですか」
ほら、ちょっとだけやん。処罰ってなに? なんや、すごく嫌な響き。
確か、契約の時にそんなこと聞いたようなないような。
「それは、主人に対してのことやないですか?」
「ユイさん。それは男の主人と、女の奴隷に対してのものですよ。ユイさんは女で、俺は男だ。俺が処罰対象なんです」
「処罰って」
嫌な響きや。すごく嫌な。
「わ、私はそんなの望みません」
「ありがとうございます」
ホークさんがほっとした、少しだけ残念な顔。
「でも、忘れません」
「ユイさん」
ホークさんが顔を上げる。だって、いややもん、忘れるとか。あんなに嬉しい気持ちになったことなかった。だから忘れたくない。大事にしたい。
「もし。ホークさんが忘れても、私は覚えてます。ホークさんが嘘であんなこと言ったなら、考えますけど」
そんなことないと分かっている。真面目なホークさんが、あんな事を私を騙すような事を言うわけない。分かっているけど、私は意地になってた。忘れろ、なんて無理、私には絶対無理。だって嬉しかった、ものすごく嬉しかった。あの嬉しい気持ちを忘れたくない。
「嘘? 俺が、ユイさんに?」
「そうです」
「言うわけないでしょう」
ぶわわわっ、と嬉しくなる。
ホークさんの顔がぐっと近くに、頬に、ちゅ。くわあっ、これはこれで恥ずかしくて嬉しいかっ。だけど、ほら頑張れ私の足っ。
「嘘偽りはありません。俺は貴女を愛しています」
くわあっ、恥ずかしくて嬉しかっ。
私は小さくありがとうございますと言うしかない。
「貴女に相応しくなって見せます。それまでは」
「あ、あ、内緒ですねっ、はい、内緒にしますっ」
私は壊れた人形のようにカタカタ頷く。
ホークさんは、静かに微笑んでる。なんでこの人こんなに余裕があるんやろ。私の中の私はさっきから大パニックなのに。
「それから」
「まだあるんですか。もうお腹いっぱいなんですがっ」
満腹通り越してますよ。
私の様子に、ホークさんは、くすり。
「以前ユイさんが俺に言いましたよね。『全てを委ねます』って」
「えーっと、ああ、山越えの時の?」
魔境に入る前のロッククライミングね。
「あれは絶対に他の男の前では、言わないでください」
「え?」
なんで?
だってホークさんば頼りにしてますって、意味で言ったんやけど。
「やっぱり分かってなかったですね。あの言葉は、女性が男性に対しての口説き文句みたいなものですよ。特に『委ねます』って言葉は」
「…………………………え?」
「ですから『全てを委ねます』って事は、そういう関係になることを了承するって言うか………………」
ホークさんが口ごもる。
「まあ、そういうことです」
誤魔化した。誤魔化したけど、はい、理解しました、あの時のホークさんのびっくり具合がっ。ホークさんは地域によって違うと思いますが、なんて続けてる。ユリアレーナやその付近の国では、そう取られるニュアンスなんだって。ただ、『委ねます』の前に置く言葉で、全く意味が異なる。例えば何かしらの判断を任せる時に『判断を貴方の考えに委ねます』って使うと、下された決定に反論も出来ない。皆ちゃんと分かって使っているそうだ。
私の頭が、桜島の様に噴火する。
し、知らなかったとは言え、なんて恥ずかしいっ、恥知らずな事をーッ。
「ユイさんはまだこちらに来て間もない事だからと思ってました。ですから、他の男に言ってはダメですよ」
「き、肝に命じます」
かっかっする顔を俯かせて返事をする。
「ユイさん」
「はい」
再び、頬に、ちゅ。
なんや恥ずか、嬉か。
「お休みなさい」
「は、はい……………」
ぱたん、とドアを閉める。
………………………明日から、どんな顔しよう。
でも、ホークさんは真っ直ぐこちらをみてくる。
あ、そっか。ホークさん、奴隷解放してほしいんや。ホークさんだってしっかりした成人男性やし、とてもいい人やし、そんな風に思える女性がいてもおかしくない。エマちゃんとテオ君を引き取って落ち着いた後に、その女性と一緒になりたかったんやないかな? 私が戦闘奴隷として契約してしまったから、それが出来ない。だから、改まってお願いしてきたのかな?
「い、いいんやないですか? きっと、素敵な」
女性のはず。だって、エマちゃんやテオ君のことを理解して、受け入れているんやない。私はあくまでも、お祝いの表情を作るが、うまく行ってるかな?
「ユイさん」
ホークさんが私の言葉を切る。
「俺は、家庭を築きたい」
私の中から、得たいのしれない何かが、抉り取られる。何でやろう? 何でやろう? 何でやろう?
「やから、いいんやないですか?」
「貴女と」
ホークさんの青みがかった目が、真っ直ぐに私をみる。その言葉に、私の思考が一瞬止まる。抉れた何かに、別の温かいなにかが溢れて来た。
「俺は、ユイさん。貴女と家庭を築きたい」
「……………え?」
わ、私と? 何で? 心臓の音が耳に響き、胸の奥底から温かくなる。あ、エマちゃんとテオ君が私を母親のように慕ってくれているから? 冷静になったつもりだけど、わたわたと言うと、ホークさんは首を横に振る。
「エマとテオは関係ありません。2人は兄の子供で、俺にとっては甥と姪です」
「じゃ、じゃあ、なんで?」
エマちゃんとテオ君の為やないのなら、何や?
「分かりません」
「はい?」
返って来たのは、そんな返事。
「理由は分かりません。ただ、俺は貴女がいい、ユイさんがいいんです」
ぶわわわっ、と嬉しくなり、かっと頬が熱くなる。
「ユイさんがいいんです」
もう一度繰り返すホークさん。
「エマと俺達の窮地を救ってくれた。だから、貴女に尽くそう、そう思っていました」
だけど、と続けるホークさん。
「貴女は俺達を温かく迎え入れてくれた。奴隷だからといっても貴女は、変わらず優しかった。それが嬉しかったんです。心が、沸き立つように嬉しかった」
私も心がぽかぽかしてるけど、すごく嬉しいけど。
「始めは側に仕えるだけで、満足でした。でも、どんどん足りなくなって、ユイさんの旦那だと間違われる度に、貴女の隣にいるだけで、どうしようもなく嬉しくなって」
よく、マルシェで買い物してたら、間違いを受ける。エマちゃんとテオ君がいたら、完全に家族に見えるみたいだ。
「でも、ほら、ホークさん達は、その水澤家の一員やし」
何を言い訳しているのか分からないが、私の口から出るのはそんなみっともない言葉。
「そうじゃないんですよユイさん。貴女がミズサワ家に俺達を受け入れてくれているのは、分かっています。感謝しています。だけど、これは違うんです」
ホークさんの青みがかった目が、動揺して情けない顔を映し出す。
「奴隷の俺が、言ってはいけないことだとは分かっています。抱いてはいけない感情だとは分かっています。だけど、俺は貴女と家庭を築きたい」
いつの間にか、ホークさんの大きくてカサカサした手が、私の頬を包んでいる。
「貴女を守って、貴女が笑っているのを見ているだけで、十分じゃなくなった。ユイさん、貴女を抱き締めたい、キスしたい」
ダイレクトに来た言葉。私の抉れた何かが一気に満たされて、それ以上に溢れ返る。溢れて、溢れて、止まらない。
私の脳裏に浮かぶ。私がおくるみを抱いて、ソファーに座っているのを。花を抱いた母が来て、晃太と父が覗き込む。ビアンカとルージュが後ろから顔出し、元気達がわーっと集まる。エマちゃんとテオ君が、ニコニコしながら私を見て、チュアンさんとマデリーンさんとミゲル君も笑っている。そして、おくるみを抱いていた私の手に、大きくてカサカサした手が添えられる。ホークさんが、私を優しく見ている。そんな光景。
あれ? なんで、こんな有りもしない映像が浮かぶんやろ? なんで、なんで、なんで。なんで、ぼろぼろ涙が零れるんやろ? なんで、こんなに胸が暖かいんやろ?
「ユイさん。俺は、貴女を愛しています」
嬉しい。
ただ、その一言。ただ、ひたすらに嬉しい。嬉しい。嬉しい。
さっき、胸を抉られるような思いも、この嬉しい思いも、勘違いじゃないと思いたい。ホークさんがいるとある、安心感、それから依存心。ドキドキしていた気持ちとか全部全部が綺麗にまとまっていく。あんまりにも近くに、側にありすぎて、当たり前のようにいてくれて。私だって、勘違いされて、嬉しくなる。勘違いされるのは必ずホークさんだけ。チュアンさんはそんなことは一度もない。ホークさんはいつも側にいてくれて、的確なアドバイスしてくれて、支えてくれて、ありがたいと思いながらも、当たり前にいてくれて。
気がつかないふりをしていたのかな? あまりにも側に居てくれるから。ホークさんは私の奴隷だから、職務としていてくれているだけという、思い込みが、自分のホークさんに対する思いや考えをおかしくしていたのかな。
ああ、どんどん胸が温かくなる。生まれて初めての感覚。看護師の国家試験が合格したとはまた別物だ
ホークさんが、私の名前を呼ぶ。だけど、私は声がうまく出ない、だって、嬉し過ぎて。それに、口、塞がれてるから。
何にって?
察してください。
それから、どうしたか。
ぼんやりとベンチで、ホークさんに抱き寄せられてじっとしていた。温かい。
「ユイさん。冷えますから、部屋に戻りましょう」
さっきの私のセリフなんなけど、色々恥ずかしくて、ホークさんの顔が見れない。手を引かれて部屋に行く途中、従魔の部屋からビアンカとルージュがこちらを見ていた。ものすごくびっくりした。真っ暗な中で、特にルージュの赤い目は目立つからね。だけど、2人は私を見て、従魔の部屋に戻っていく。なんやったんやろ? そして、ホークさんの額に汗浮かんでいるのは気のせいかな?
自室まで連れられる。なんやろ。ドキドキ。
「ユイさん」
「あ、はい、はい」
ドキドキッ。ホークさんのいつもの声が、心臓に響く。
「さっきのこと、忘れてください」
「…………………………え?」
な、なんで? 一気に、頭から血が落ちる。
「本来、あんなこと言ったり、したりしたら、俺は処罰対象なんです。ユイさんが望めば俺は受けます」
「処罰って? なんで?」
「俺は主人である、貴女に手を出した」
「いやいや、本格的に何もしてないやないですか」
ほら、ちょっとだけやん。処罰ってなに? なんや、すごく嫌な響き。
確か、契約の時にそんなこと聞いたようなないような。
「それは、主人に対してのことやないですか?」
「ユイさん。それは男の主人と、女の奴隷に対してのものですよ。ユイさんは女で、俺は男だ。俺が処罰対象なんです」
「処罰って」
嫌な響きや。すごく嫌な。
「わ、私はそんなの望みません」
「ありがとうございます」
ホークさんがほっとした、少しだけ残念な顔。
「でも、忘れません」
「ユイさん」
ホークさんが顔を上げる。だって、いややもん、忘れるとか。あんなに嬉しい気持ちになったことなかった。だから忘れたくない。大事にしたい。
「もし。ホークさんが忘れても、私は覚えてます。ホークさんが嘘であんなこと言ったなら、考えますけど」
そんなことないと分かっている。真面目なホークさんが、あんな事を私を騙すような事を言うわけない。分かっているけど、私は意地になってた。忘れろ、なんて無理、私には絶対無理。だって嬉しかった、ものすごく嬉しかった。あの嬉しい気持ちを忘れたくない。
「嘘? 俺が、ユイさんに?」
「そうです」
「言うわけないでしょう」
ぶわわわっ、と嬉しくなる。
ホークさんの顔がぐっと近くに、頬に、ちゅ。くわあっ、これはこれで恥ずかしくて嬉しいかっ。だけど、ほら頑張れ私の足っ。
「嘘偽りはありません。俺は貴女を愛しています」
くわあっ、恥ずかしくて嬉しかっ。
私は小さくありがとうございますと言うしかない。
「貴女に相応しくなって見せます。それまでは」
「あ、あ、内緒ですねっ、はい、内緒にしますっ」
私は壊れた人形のようにカタカタ頷く。
ホークさんは、静かに微笑んでる。なんでこの人こんなに余裕があるんやろ。私の中の私はさっきから大パニックなのに。
「それから」
「まだあるんですか。もうお腹いっぱいなんですがっ」
満腹通り越してますよ。
私の様子に、ホークさんは、くすり。
「以前ユイさんが俺に言いましたよね。『全てを委ねます』って」
「えーっと、ああ、山越えの時の?」
魔境に入る前のロッククライミングね。
「あれは絶対に他の男の前では、言わないでください」
「え?」
なんで?
だってホークさんば頼りにしてますって、意味で言ったんやけど。
「やっぱり分かってなかったですね。あの言葉は、女性が男性に対しての口説き文句みたいなものですよ。特に『委ねます』って言葉は」
「…………………………え?」
「ですから『全てを委ねます』って事は、そういう関係になることを了承するって言うか………………」
ホークさんが口ごもる。
「まあ、そういうことです」
誤魔化した。誤魔化したけど、はい、理解しました、あの時のホークさんのびっくり具合がっ。ホークさんは地域によって違うと思いますが、なんて続けてる。ユリアレーナやその付近の国では、そう取られるニュアンスなんだって。ただ、『委ねます』の前に置く言葉で、全く意味が異なる。例えば何かしらの判断を任せる時に『判断を貴方の考えに委ねます』って使うと、下された決定に反論も出来ない。皆ちゃんと分かって使っているそうだ。
私の頭が、桜島の様に噴火する。
し、知らなかったとは言え、なんて恥ずかしいっ、恥知らずな事をーッ。
「ユイさんはまだこちらに来て間もない事だからと思ってました。ですから、他の男に言ってはダメですよ」
「き、肝に命じます」
かっかっする顔を俯かせて返事をする。
「ユイさん」
「はい」
再び、頬に、ちゅ。
なんや恥ずか、嬉か。
「お休みなさい」
「は、はい……………」
ぱたん、とドアを閉める。
………………………明日から、どんな顔しよう。
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