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連載
神からの依頼⑥
雨がどんどん強くなる。
あれからしばらくして、ビアンカとルージュも妙な気配と視線を感じるようになったと。アリスはわからないそうだ。それにノワールも。神様が心配していたことやろうけど。イシスが言ってた、潜むものやないかな? 視線が来る先は、王冠山だと言うし。魔境が形成されるころからあるのに、今頃何かが起きたのだろうか。分からないが、雨がひどかっ。
ポンチョのフードを被っているが、いろいろびしゃびしゃだ。冷たい。冷たい。冷たい。
私達は固まって移動する。シルフィ達は抱っこ紐の中だ。晃太と、チュアンさんとミゲル君、テオ君が手分けして抱えている。濡れないように必死に抱えている。
雷が近くに落ちた時はどうしようかと思ったけど、イシスがうまく流してくれたから良かったけど。
私は足元の悪いなか、ビアンカの毛並みに掴まりながら歩く。
『ユイ、しっかりするのです』
「うん、分かっとう。ごめんね、毛に掴まって。エマちゃん、大丈夫ね?」
「うん…………」
ビアンカの反対側にいるエマちゃんは、言葉少なく歩いている。エマちゃんもビアンカに掴まりながら歩いている。
かなりの時間、雨の中、私達はぞろぞろと移動する。だんだん雨脚が強くなり、今ではたたきつけるような感じだ。
『かあか、冷たい』
『ヒスイ、しっかりしなさい』
仔達もびしょ濡れで着いてきている。元気は晃太に寄り添い、ルリとクリスはお互いを支え合いながら歩き、コハクはヒスイに寄り添うように歩いている。どうしよう、この前みたいに、元気が具合悪くなったら。元気だけやない、ルリやクリス、コハクやヒスイだってリスクがある。抱っこ紐に抱えたシルフィ達はもっと小さい、私でも濡れているから、抱っこ紐の中だって濡れているはず。どうしよう、シルフィ達が具合悪くなったら。アリスだって体調悪くなったら。そのアリスには、アレスが支えるように歩いている。
「リーダーッ」
悲鳴が上がる、振り返ると、フェリクスさんが膝を着いている。雨の中でも分かる、顔色、悪すぎや。雨脚が強くなり、フェリクスさんはアンドレアスさんの肩を借りて歩いていた。
「晃太、エリクサーば出して」
晃太は無言で自分のエリクサーを取り出す。恐らくポーション連用して、中毒なんだと思う。さっき休んでいた時に、フェリクスさん自身がそう言ってた。中毒時は、いくらポーション飲んでも意味はない。だが、エリクサーはそういった中毒症状無視して改善する。ただ、高価で貴重だから、使用するには向こうの許可がいる。シュタインさんの時は緊急時だったからね。
私は肩で息をしているフェリクスさんの元に。
「はあっ、足手、まとい、ですね……………置いていってください、はあっ、後で追い付きますから」
サーッと他のメンバーの顔から血の気が引く。
「なんば言いようんですかっ」
私は問答無用にエリクサーをフェリクスさんの口に突っ込む。
「さあ、フェリクスさん、飲んでくださいっ」
突っ込んだけど、角度に注意して傾ける。アンドレアスさんが盾を掲げて、エリクサーを飲むフェリクスさんを雨から守る。
何とか3割程飲んでからフェリクスさんに異変が起きる。顔色が確実に良くなっている。
「はあっ、ミズサワ殿、これは? まさかエリクサーでは?」
「そうですよ。勝手に飲ませましたから、後で買取価格の半分頂きますからねっ。さ、行きますよ」
私はエリクサーに蓋をして、フェリクスさんに押し付ける。回復したフェリクスさんは自力で立ち上がる。
だけど、この状況よろしくない。
皆さん、疲労困憊している。私もきつい。冷たい。歩くのしんどい、座りたい。
「ねえ、少し休める場所なか?」
私はビアンカに聞いてみる。
『少し先に洞穴があるのですが、あまりこの気配の中、とどまるのは止めた方がいいのですが』
「とにかく、一旦雨宿りしようっ。このままやったらもたんっ。皆さんっ、いいですかっ」
聞くも誰も反対しない。
ビアンカの少し先は、少しではないが、どしゃ降りの中、歩を進める。具合が悪いのはフェリクスさんだけやない。ファングさんは足を引きずるガリストさんを支えている。ポーションとフリンダさんの魔法で、キズは塞がっているが、痛みはまだ残っているんやろう。急激に塞ぐと痛みまで取り除けないことがあるって。そのフリンダさんもアルスさんに手を引かれ、必死に歩いている。山風とラスチャーニエの皆さんは、なんとか全員自力で歩いている。エマちゃんはビアンカに寄りかかりながら、マデリーンさんはシルフィを抱えたチュアンさんに支えられている。
やっとこさ洞穴が見えてきた、もう、精魂尽き果てた感じなんやけど。
ああっ、雨から解放されたっ。
元気が私の隣でぶるぶる。あはははーん、びしゃびしゃー。ビアンカやアレス、アリスもぶるぶる。ひーんっ。
「はあっ、はあっ……………」
皆さん、やっと休めると座り込む。
温かいお茶でも出したいが、晃太も疲労困憊している。イシス達も洞穴内に入って来た。
『ヌシヨ、早急ナ撤退ヲ提案スル』
「分かっとるよ、ちょっと待って……………」
私も足が限界で座り込む。寒い、冷たい。雨で、もう寒くて寒くてたまらない。
「ミズサワ殿」
呼ばれて顔を上げると、ケルンさんがなにやら魔法をかけてくれた。途端に髪と服の水分が飛ぶ。あ、全然違う。
「ありがとうございます」
「いえ。生活魔法ですから」
ケルンさんは他の人たちにも魔法を使っている。便利や。魔法を使う人がレベルが高いと、すごかなあ。
落ち着いた晃太がお湯を入れたポットと蜂蜜生姜ティーの元を出す。カップが足りないが、各パーティーにホット蜂蜜生姜ティーを提供する。皆さん、ほっとした表情だ。ビアンカやルージュ達、仔達にも適温にして出す。シルフィ達もタオルで拭き上げる。
雨、全然止まない。
「この雨さえなかったら、すぐに移動できるんやけど」
私の独り言をイシスが拾う。
『ヌシヨ、恐ラクコノ雨ハ、降ラサレテイル。我々ニ向カッテ』
「え? 雨って降らせられるの?」
小雨なら分かるけど、どしゃ降りよ。
「なら、降らせている相手を、どうにかできん?」
『無理ダナ。ココニアル戦力全テヲブツケテモ』
そんなあ。嘘やろ。厄災クラスの魔物が2体もいるのにっ。ビアンカとルージュもいるのにっ。
「それはやっぱり王冠山におる?」
『断定ハデキナイガ、視線ノ先ハアノ山ダ』
ああ、始祖神様に報告事案や。
『ヌシヨ、コノ雨カラ逃レルニハ、向コウノ感知範囲カラ逃レル事ダ』
「向こうから気配を分からんようにできん? ほら、ルージュの魔法のカーテンで」
『私の闇魔法では無理よ。あの防御魔法を無視してイシスやアレスを察知したんだから。向こうがずっと上手よ』
この雨の中、また移動は辛い。どうにかならんかな。
『ヌシヨ、言イ難イガ、コノ気配ノモノニ我々ハ目ヲ着ケラレテイル。感知範囲カラ逃レテモ、再ビノ接近ハ。相当ノ覚悟ガ』
気配を感じているのはイシス、アレス、ビアンカ、ルージュ。
「それは、感知範囲から逃げてから考えよう」
私は考える。酷い考えが浮かぶ。私がルームを開けて、気配を感じるイシス達だけ、感知範囲に出てもらう。雨があがった後で、私達が追いかける。灯火の女神様のブーストがあるノワールがいるし。
我ながら酷い考え。
『ユイ、早く移動した方がいいわ』
ルージュがせっついてくる。
「ちょっとごめん、私くたくたなんやけど」
もうちょっと休ませて、膝ががくがくしているんよ。
『分かっているのですが、この洞穴、長くもたないのです』
「「ええっ」」
ビアンカの不吉な言葉に、私と晃太の声が重なる。
『これだけ雨が降っているのです。直に大地が耐えられず流れるのですよ。ここら辺りは飲み込まれるのです』
「大地が流れる?」
とんでもなく不吉な言葉。
「姉ちゃん、土石流やないね?」
晃太が真っ青になって聞いてくる。
かつて、日本にいたころテレビを通じて何度も見たことある。大地を飲み込み、甚大な被害をもたらす、自然災害。
あれが、ここで起きるの? ルームに逃げ込むの無理や、ルームのドアは私が中にいると移動しない。いや、反則技使えばなんとかなる。サブ・ドア使えばなんとかなる。
『ヌシヨ、ルームデ我々ノ気配ヲ完全遮断シテモ、向コウハソレガワカルハズ』
つまり、ルームは外界から気配感知はされない。逆を言わせれば、感知能力が高い者からしたら、異常事態だ。いきなり、目を着けていた気配が突然分からなくなれば、余計に範囲を広げて探すだけだと。雨が降る範囲が広がるだけ、被害が広がるだけ。
さっきの酷い考えは無理やな。
振り返ると、皆さん心配そうだ。
「私の速さで逃れられる?」
聞こうとしたら、ルリとクリスがやって来た。
『ねぇね~』
『ねーね~』
「ん? どうしたね? 今、ちょっと話ば」
『エマが~』
『へんだよ~』
「え?」
言われて慌ててエマちゃんの元に駆け寄る。
エマちゃんは座り込み、短い息を繰り返している。元気が側に寄り添い、そっと顔を舐めている。コハクとヒスイもどうしたものかと、私を見ている。
「エマちゃん、どうしたね?」
駆け寄ると、エマちゃんは無理な笑顔を浮かべる。
「だ、大丈夫…………」
そう言うが、首の制約紋が真っ赤になってる。
「触るよ」
断るが返事を待たずにエマちゃんの首筋を触る。
やっぱりっ、熱発してるっ。
「熱があるやないねっ」
「大丈夫…………私、大丈夫………………」
絶対大丈夫やない。そう言えば、さっきからエマちゃんの言葉数が少なかった。
なんで気がつかんかったんやっ。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
私はエマちゃんを抱き寄せる。小柄のエマちゃんの身体が小刻みに震えている。これ、悪寒や。まだ、熱が出るんや。
ホークさんとテオ君も心配そうにみてるけど。どうしよう。こんな状況で雨の中で移動なんて無理や。回りをみる。皆さんくたくたの疲労困憊だ。
気配を感じるビアンカとルージュ達だけで、範囲内を抜けてもらい合流も、すぐに出来ない。サブ・ドアを利用して、カルーラから合流となれば数日かかるはず。ただでさえびしょ濡れなのに、更にこれから移動しても、その先に温かい温泉があるわけでもない。温かい食事があるわけでもない。ビアンカとルージュは魔法でどうにかすると言ったが、こんな悪天候の中を放り出し続ける訳にはいかない。
『ヌシヨ、動ケヌモノハ切リ捨テナケレバ』
イシスが残酷な現実を告げる。
だが、その言葉が私を決断させる。
ぐだぐだ悩んだって、自分の望む結果は同じや。
「私は誰も切り捨てん。皆で助かるよ」
腕の中で、エマちゃんが掠れた声で私の名を呼ぶ。
「ルームを開けるよ」
あれからしばらくして、ビアンカとルージュも妙な気配と視線を感じるようになったと。アリスはわからないそうだ。それにノワールも。神様が心配していたことやろうけど。イシスが言ってた、潜むものやないかな? 視線が来る先は、王冠山だと言うし。魔境が形成されるころからあるのに、今頃何かが起きたのだろうか。分からないが、雨がひどかっ。
ポンチョのフードを被っているが、いろいろびしゃびしゃだ。冷たい。冷たい。冷たい。
私達は固まって移動する。シルフィ達は抱っこ紐の中だ。晃太と、チュアンさんとミゲル君、テオ君が手分けして抱えている。濡れないように必死に抱えている。
雷が近くに落ちた時はどうしようかと思ったけど、イシスがうまく流してくれたから良かったけど。
私は足元の悪いなか、ビアンカの毛並みに掴まりながら歩く。
『ユイ、しっかりするのです』
「うん、分かっとう。ごめんね、毛に掴まって。エマちゃん、大丈夫ね?」
「うん…………」
ビアンカの反対側にいるエマちゃんは、言葉少なく歩いている。エマちゃんもビアンカに掴まりながら歩いている。
かなりの時間、雨の中、私達はぞろぞろと移動する。だんだん雨脚が強くなり、今ではたたきつけるような感じだ。
『かあか、冷たい』
『ヒスイ、しっかりしなさい』
仔達もびしょ濡れで着いてきている。元気は晃太に寄り添い、ルリとクリスはお互いを支え合いながら歩き、コハクはヒスイに寄り添うように歩いている。どうしよう、この前みたいに、元気が具合悪くなったら。元気だけやない、ルリやクリス、コハクやヒスイだってリスクがある。抱っこ紐に抱えたシルフィ達はもっと小さい、私でも濡れているから、抱っこ紐の中だって濡れているはず。どうしよう、シルフィ達が具合悪くなったら。アリスだって体調悪くなったら。そのアリスには、アレスが支えるように歩いている。
「リーダーッ」
悲鳴が上がる、振り返ると、フェリクスさんが膝を着いている。雨の中でも分かる、顔色、悪すぎや。雨脚が強くなり、フェリクスさんはアンドレアスさんの肩を借りて歩いていた。
「晃太、エリクサーば出して」
晃太は無言で自分のエリクサーを取り出す。恐らくポーション連用して、中毒なんだと思う。さっき休んでいた時に、フェリクスさん自身がそう言ってた。中毒時は、いくらポーション飲んでも意味はない。だが、エリクサーはそういった中毒症状無視して改善する。ただ、高価で貴重だから、使用するには向こうの許可がいる。シュタインさんの時は緊急時だったからね。
私は肩で息をしているフェリクスさんの元に。
「はあっ、足手、まとい、ですね……………置いていってください、はあっ、後で追い付きますから」
サーッと他のメンバーの顔から血の気が引く。
「なんば言いようんですかっ」
私は問答無用にエリクサーをフェリクスさんの口に突っ込む。
「さあ、フェリクスさん、飲んでくださいっ」
突っ込んだけど、角度に注意して傾ける。アンドレアスさんが盾を掲げて、エリクサーを飲むフェリクスさんを雨から守る。
何とか3割程飲んでからフェリクスさんに異変が起きる。顔色が確実に良くなっている。
「はあっ、ミズサワ殿、これは? まさかエリクサーでは?」
「そうですよ。勝手に飲ませましたから、後で買取価格の半分頂きますからねっ。さ、行きますよ」
私はエリクサーに蓋をして、フェリクスさんに押し付ける。回復したフェリクスさんは自力で立ち上がる。
だけど、この状況よろしくない。
皆さん、疲労困憊している。私もきつい。冷たい。歩くのしんどい、座りたい。
「ねえ、少し休める場所なか?」
私はビアンカに聞いてみる。
『少し先に洞穴があるのですが、あまりこの気配の中、とどまるのは止めた方がいいのですが』
「とにかく、一旦雨宿りしようっ。このままやったらもたんっ。皆さんっ、いいですかっ」
聞くも誰も反対しない。
ビアンカの少し先は、少しではないが、どしゃ降りの中、歩を進める。具合が悪いのはフェリクスさんだけやない。ファングさんは足を引きずるガリストさんを支えている。ポーションとフリンダさんの魔法で、キズは塞がっているが、痛みはまだ残っているんやろう。急激に塞ぐと痛みまで取り除けないことがあるって。そのフリンダさんもアルスさんに手を引かれ、必死に歩いている。山風とラスチャーニエの皆さんは、なんとか全員自力で歩いている。エマちゃんはビアンカに寄りかかりながら、マデリーンさんはシルフィを抱えたチュアンさんに支えられている。
やっとこさ洞穴が見えてきた、もう、精魂尽き果てた感じなんやけど。
ああっ、雨から解放されたっ。
元気が私の隣でぶるぶる。あはははーん、びしゃびしゃー。ビアンカやアレス、アリスもぶるぶる。ひーんっ。
「はあっ、はあっ……………」
皆さん、やっと休めると座り込む。
温かいお茶でも出したいが、晃太も疲労困憊している。イシス達も洞穴内に入って来た。
『ヌシヨ、早急ナ撤退ヲ提案スル』
「分かっとるよ、ちょっと待って……………」
私も足が限界で座り込む。寒い、冷たい。雨で、もう寒くて寒くてたまらない。
「ミズサワ殿」
呼ばれて顔を上げると、ケルンさんがなにやら魔法をかけてくれた。途端に髪と服の水分が飛ぶ。あ、全然違う。
「ありがとうございます」
「いえ。生活魔法ですから」
ケルンさんは他の人たちにも魔法を使っている。便利や。魔法を使う人がレベルが高いと、すごかなあ。
落ち着いた晃太がお湯を入れたポットと蜂蜜生姜ティーの元を出す。カップが足りないが、各パーティーにホット蜂蜜生姜ティーを提供する。皆さん、ほっとした表情だ。ビアンカやルージュ達、仔達にも適温にして出す。シルフィ達もタオルで拭き上げる。
雨、全然止まない。
「この雨さえなかったら、すぐに移動できるんやけど」
私の独り言をイシスが拾う。
『ヌシヨ、恐ラクコノ雨ハ、降ラサレテイル。我々ニ向カッテ』
「え? 雨って降らせられるの?」
小雨なら分かるけど、どしゃ降りよ。
「なら、降らせている相手を、どうにかできん?」
『無理ダナ。ココニアル戦力全テヲブツケテモ』
そんなあ。嘘やろ。厄災クラスの魔物が2体もいるのにっ。ビアンカとルージュもいるのにっ。
「それはやっぱり王冠山におる?」
『断定ハデキナイガ、視線ノ先ハアノ山ダ』
ああ、始祖神様に報告事案や。
『ヌシヨ、コノ雨カラ逃レルニハ、向コウノ感知範囲カラ逃レル事ダ』
「向こうから気配を分からんようにできん? ほら、ルージュの魔法のカーテンで」
『私の闇魔法では無理よ。あの防御魔法を無視してイシスやアレスを察知したんだから。向こうがずっと上手よ』
この雨の中、また移動は辛い。どうにかならんかな。
『ヌシヨ、言イ難イガ、コノ気配ノモノニ我々ハ目ヲ着ケラレテイル。感知範囲カラ逃レテモ、再ビノ接近ハ。相当ノ覚悟ガ』
気配を感じているのはイシス、アレス、ビアンカ、ルージュ。
「それは、感知範囲から逃げてから考えよう」
私は考える。酷い考えが浮かぶ。私がルームを開けて、気配を感じるイシス達だけ、感知範囲に出てもらう。雨があがった後で、私達が追いかける。灯火の女神様のブーストがあるノワールがいるし。
我ながら酷い考え。
『ユイ、早く移動した方がいいわ』
ルージュがせっついてくる。
「ちょっとごめん、私くたくたなんやけど」
もうちょっと休ませて、膝ががくがくしているんよ。
『分かっているのですが、この洞穴、長くもたないのです』
「「ええっ」」
ビアンカの不吉な言葉に、私と晃太の声が重なる。
『これだけ雨が降っているのです。直に大地が耐えられず流れるのですよ。ここら辺りは飲み込まれるのです』
「大地が流れる?」
とんでもなく不吉な言葉。
「姉ちゃん、土石流やないね?」
晃太が真っ青になって聞いてくる。
かつて、日本にいたころテレビを通じて何度も見たことある。大地を飲み込み、甚大な被害をもたらす、自然災害。
あれが、ここで起きるの? ルームに逃げ込むの無理や、ルームのドアは私が中にいると移動しない。いや、反則技使えばなんとかなる。サブ・ドア使えばなんとかなる。
『ヌシヨ、ルームデ我々ノ気配ヲ完全遮断シテモ、向コウハソレガワカルハズ』
つまり、ルームは外界から気配感知はされない。逆を言わせれば、感知能力が高い者からしたら、異常事態だ。いきなり、目を着けていた気配が突然分からなくなれば、余計に範囲を広げて探すだけだと。雨が降る範囲が広がるだけ、被害が広がるだけ。
さっきの酷い考えは無理やな。
振り返ると、皆さん心配そうだ。
「私の速さで逃れられる?」
聞こうとしたら、ルリとクリスがやって来た。
『ねぇね~』
『ねーね~』
「ん? どうしたね? 今、ちょっと話ば」
『エマが~』
『へんだよ~』
「え?」
言われて慌ててエマちゃんの元に駆け寄る。
エマちゃんは座り込み、短い息を繰り返している。元気が側に寄り添い、そっと顔を舐めている。コハクとヒスイもどうしたものかと、私を見ている。
「エマちゃん、どうしたね?」
駆け寄ると、エマちゃんは無理な笑顔を浮かべる。
「だ、大丈夫…………」
そう言うが、首の制約紋が真っ赤になってる。
「触るよ」
断るが返事を待たずにエマちゃんの首筋を触る。
やっぱりっ、熱発してるっ。
「熱があるやないねっ」
「大丈夫…………私、大丈夫………………」
絶対大丈夫やない。そう言えば、さっきからエマちゃんの言葉数が少なかった。
なんで気がつかんかったんやっ。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
私はエマちゃんを抱き寄せる。小柄のエマちゃんの身体が小刻みに震えている。これ、悪寒や。まだ、熱が出るんや。
ホークさんとテオ君も心配そうにみてるけど。どうしよう。こんな状況で雨の中で移動なんて無理や。回りをみる。皆さんくたくたの疲労困憊だ。
気配を感じるビアンカとルージュ達だけで、範囲内を抜けてもらい合流も、すぐに出来ない。サブ・ドアを利用して、カルーラから合流となれば数日かかるはず。ただでさえびしょ濡れなのに、更にこれから移動しても、その先に温かい温泉があるわけでもない。温かい食事があるわけでもない。ビアンカとルージュは魔法でどうにかすると言ったが、こんな悪天候の中を放り出し続ける訳にはいかない。
『ヌシヨ、動ケヌモノハ切リ捨テナケレバ』
イシスが残酷な現実を告げる。
だが、その言葉が私を決断させる。
ぐだぐだ悩んだって、自分の望む結果は同じや。
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