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連載
神からの依頼⑧
叩きつけるような雨の中、駆け抜ける。私は乗ってるだけ。マントのわずかな隙間から、雨が侵入してくる。せっかくケルンさんが魔法で水分を飛ばしてくれたのに、どんどん濡れていく。
いままでの最高速度で駆け抜けるノワール。私はがっちりホークさんの腕に守られて、なんとか姿勢を保っている。本当にホークさんの騎乗能力に感謝だ。鞍に衝撃吸収があるが、ものすごく揺れる。平らな場所ではないから余計に。それだけスピードが出ている。前をアレス、左右をビアンカとルージュが、滑るように走っている。イシスは見えないけど、上空だ。
かなりの時間、雨が降っている。いつ、土石流が起きるのだろう。ルームを開けるタイミングを間違わないようにしないと。こんなに長時間、こんな雨を降らせられるなんて、一体なんなんやろう。
いろいろ考えたいが、それどころやない。私はおとなしく餃子の具材に徹する。ううっ、冷たかっ。時々ゴロゴロ、ピカッ、ドカーンッ。ひぃっ、怖かっ。ビアンカや元気の雷をよく耳にするが、やっぱり慣れんっ。
鞍の手摺を握り直したら、転落しそうや。
ひたすら、じっと、ホークさんの腕に挟まれる。
「ブヒヒヒンッ」
『分かったのですっ、アレスッ』
『任せるのだっ』
なんやなんや? ノワールがなにかしらの訴えている。結構走ってからのこれだ。もしかして、土石流やないねっ。
アレスの横に、ビアンカが並走する。
『ノワールッ、続くのですっ』
「ブヒヒヒーンッ」
ひぃっ、スピード上がったっ。同時にホークさんの腕に力が入り、更に抱き込まれる。僅かに前のめりのような姿勢になる。私は抵抗せず、ホークさんにお任せするしかない。鞍の手摺を握り絞めたいが、力が徐々に入らなくなってきた。寒い、冷たい。
雨の中、ゴーグル越しで僅かだけど、前を走るビアンカとアレスの身体に茶色のラインが入るのが分かる。
『『クリエーターモード 大地の構築者(エザフォース)』』
私達が進む先の地面が盛り上がる。それは幅の狭い、急な坂。まるでジェットコースターのレールのような坂道。
あれを登るのっ? ノワール、1t越えてるんよっ。ちょっと細くないねっ、あの坂道っ。
私の不安は何処にやら。その坂道をまずはアレスが、そしてビアンカが駆け上がる。
ノワールが躊躇いもなく、細くて急な坂道を駆け上がる。私はお腹のそこが、きゅー、と冷える。地面が、離れていくのが見えてしまい、身体に力が入る。私の心配やらなんやらを他所に、ノワールは駆け上がる。坂道の先は、一段高い岩場のような場所だ。あと少し、の所でたどり着くと言った時に。地鳴りのような音が響く。視線を向けたいが、無理や、がっちりホークさんに包まれて、視線だけしか動かせない。
だけど、絶対、絶対そうや。
土石流やっ。
脳裏に浮かぶのは、K県で起きた、甚大な被害を出した土石流。テレビ越しで見た最後の土石流。山も、森も、道路も、家も、畑も、人も飲み込んだ土石流。
私は、震える。震えるが、しっかりその震えごと、ホークさんが包み込んでくれる。
『登るのだっ』
『ここで抜けるのですっ』
ノワールが迷いなく、真っ直ぐに急拵えの細くて急な坂道を駆け上がる。内臓に、ぐっ、と圧がかかる。
坂道がノワールの体重に耐えられず、崩れ落ちる危険も、リアルジェットコースターも、雨のせいではない冷たさに私は震える。
浮遊感。
ノワールが跳躍する。そして走る衝撃。
無事に岩場に到着したと理解するのに、僅かに時間を要してしまった。それにビアンカの『抜ける』って言葉。きっと、感知範囲外に到着したんや。あぁぁ、良かったあぁ。肩から力が抜けてしまいそうや。
『ルージュッ』
ビアンカが悲鳴を上げる。
「えっ?」
不安定な中、視線を走らせる。
細い坂道をルージュが駆け上がってくるが、その細い坂道が崩れかけている。
嘘やろっ。
『ルージュッ、飛ぶのだっ』
アレスが叫ぶ。
見たことがない程、ルージュは必死の形相で、跳躍する。跳躍するが、飛距離が足りないっ。そして、すぐそばまで、土石流が迫って来ている。大地や木々や岩や、すべてを飲み込みながら、茶色の土の波が襲いかかってくる。
ルージュ。
悲鳴が喉に張り付く。
手を伸ばそうとしたが、私にどうにかできる、そんな能力はない。ルージュが、飛距離が足りず落ちるか、土石流にのまれるか、どちらかしかない。
冷えていた身体が、更に冷えていく。
歪んだ視界の中で、空から一条の白い筋が走る。
『フンッ』
イシスがルージュの後ろに急降下し、掬い上げるように弾く。なんとか土石流から逃れたが、ルージュはバランスを崩す。
だが、そこは我らのルージュ。黒い触手を伸ばす。伸ばした先にはアレス。
『おおおぉぉぉっ』
黒い触手を口に咥えて、まるで鰹の一本釣りのように、引っ張り上げる。400キロ越えたルージュの身体が舞う。バランスを崩したルージュが、一気に引っ張り上げられて、なんとか体勢を整えて着地する。
「ルージュッ、大丈夫ねっ」
『ふうっ、流石に肝が冷えたわ…………』
良かった、ケガとかないようや。心の奥底から安心してしまい、身体が傾げそうや。
『ユイ、念のため、もう少し進むのです』
「そ、そうやね。ホークさん、もう少しお願いします」
「はい」
「ノワール、もうちょっと頑張ってね」
「ブヒヒンッ」
振り返ると、今まで走っていた大地が、土石流に飲み込まれていた。ルージュと同じ言葉だけど、肝が冷える。魔の森の中だから、町とかないけど、カルーラは雨の影響は大丈夫だろうか?
私達をのせたノワールは進む、少しずつ雨脚が弱くなってきている気がする。感知範囲外に出たんや。しばらくすると、岩がせり出したような場所に出る。
『うむ、主よ、ここならよいぞ』
アレスがさっき釣り上げたルージュにぴったり張り付きながら言う。ルージュは助けてもらった手前何も言わないのか、単に疲れているだけか無言だ。イシスもゆっくり降りてきた。
『ヌシヨ、感知範囲外ダ。ココマデ来レバ』
「良かった。ルーム開けようかね」
私はルームを開ける、ううっ、腕が重かあ。
無事にルームが開く。ホークさんが手綱を軽く扱いながら、ノワールはルームに。ああっ、ほっとするーっ。そして暖房が効いてて暖かい。ビアンカとアレスがぶるぶるするのは仕方ない。
仔達はそれぞれの母に駆け寄る。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
晃太がタオルを手に来てくれる。チュアンさんとミゲル君もだ。父も帰宅していたようで、気遣うような顔。他の皆さんもそんな感じ。
てってれってー
【人型生命体同時30在室確認 特別オプション追加されます】
【ボーナスポイント 300000追加されます】
ポイント祭りや。
『妻よ、妻よっ、寂しくなかったかっ、我は無事なのだぞっ、げふっ』
アリスに高速ですり寄るアレス。シルフィ達が寝ているので、容赦ないアリスの前肢がアレスの顔面命中。アレス、毛並みびちゃびちゃに濡れているしね。アレス、あんた疲れとらんと? イシスも平気そうな顔している。ビアンカとルージュは疲れた顔なのに。レベルの差だろうか。
特別オプションは後で確認しよう。
とにかく濡れた服をどうにかしたい、重かあ。
ホークさんがマントを外す。
「ユイさん」
「あ、はいはい」
降りるのね、恥ずかしかだが、致し方ない。私は重い腕をホークさんの首に回す。
「あの、ユイさんすみません」
ホークさんが耳元で申し訳なさそうに言う。
「腕に力が入らないんです。申し訳ないのですが、チュアンに降りる介助を」
…………………恥ずかしか。よく考えたらそうだよね、私でも腕に力が入らないのに、ずっと私を支えながら手綱をずっと握っていたんやから。
「す、すみません、気がつかなくて…………」
私はチュアンさんに支えてもらいながら降りる。小さな子供を高い高いする体勢で、下ろしてもらう。床に無事に降りると、どっと疲れが出る。膝がガクガクしてしまい、座り込む。
「姉ちゃんっ」
「優衣っ」
晃太と父が慌てて側にくる。
「ちょっと、疲れただけやから…………」
身体が冷たい。服を脱いで、温かいお風呂に浸かって、暖かいベッドに横になりたい。
ホークさんもチュアンさんの手を借りて、ノワールから降りる。降りるが、やはり崩れ落ちるように座り込む。ミゲル君が慌てている。私も駆け寄りたいが、自分の事で精一杯や。
「2人とも疲れとるな。休ませよう」
父が私とホークさんを見て鑑定。
ケルンさんが再び水分を飛ばしてくれるからありがたい。
「姉ちゃん、歩ける?」
「何とかね、肩ば貸して」
「よかよ」
私は晃太に肩を借りると、へっへっと元気が私の横にぴったり張り付く。
「なんね元気? 歩くの手伝ってくれると?」
「わふんっ」
「いい子やね」
足取りが危ないので、がっちりと腕を回して晃太が支えてくれる。元気が反対側で私を支えてくれる。ホークさんはまず鎧を外してからチュアンさんに支えられて立ち上がろうとするが、うまくいかず。ミゲル君が支えようとしたが、ロッシュさんが変わり、両サイドからがっちりホークさんを支えている。テオ君がおろおろと後に続く。もう引き摺られているようや。あれや、宇宙人が連行されている雰囲気。アルスさんが小さくユイちゃんと呼ぶ。心配してくれているんや。シュタインさんもや。ラーヴさんもマアデン君もハジェル君もや。心配してくれる、申し訳ないのと、ありがたいのだが、今は休みたい。
「優衣っ」
母が鷹の目のスペースから出てくる。おそらくエマちゃんのお世話をしていたんやろう。母も一緒になって、私の部屋に、晃太がベッドに座らせてから元気と部屋を出る。私は母に手伝ってもらい、服を脱ぎ、出されたパジャマに着替える。
「お母さん、エマちゃんは?」
着替えながら聞く。
「薬ば飲んで、今は寝とるよ」
「そうな、ありがとう」
今は身体を休ませて、取れるなら栄養ば取らせて。あ、スポーツ飲料水、それから喉ごしのいいゼリー。あったっけ?
「全部枕元に置いてきたけん、あんたもねらんね」
「分かった」
流石母、安心して私はベッドに横になる。
「お母さん、皆疲れとるんよ」
「分かっとるよ、さ、寝り」
「うん」
私は目を閉じると、すぐに眠ってしまった。
いままでの最高速度で駆け抜けるノワール。私はがっちりホークさんの腕に守られて、なんとか姿勢を保っている。本当にホークさんの騎乗能力に感謝だ。鞍に衝撃吸収があるが、ものすごく揺れる。平らな場所ではないから余計に。それだけスピードが出ている。前をアレス、左右をビアンカとルージュが、滑るように走っている。イシスは見えないけど、上空だ。
かなりの時間、雨が降っている。いつ、土石流が起きるのだろう。ルームを開けるタイミングを間違わないようにしないと。こんなに長時間、こんな雨を降らせられるなんて、一体なんなんやろう。
いろいろ考えたいが、それどころやない。私はおとなしく餃子の具材に徹する。ううっ、冷たかっ。時々ゴロゴロ、ピカッ、ドカーンッ。ひぃっ、怖かっ。ビアンカや元気の雷をよく耳にするが、やっぱり慣れんっ。
鞍の手摺を握り直したら、転落しそうや。
ひたすら、じっと、ホークさんの腕に挟まれる。
「ブヒヒヒンッ」
『分かったのですっ、アレスッ』
『任せるのだっ』
なんやなんや? ノワールがなにかしらの訴えている。結構走ってからのこれだ。もしかして、土石流やないねっ。
アレスの横に、ビアンカが並走する。
『ノワールッ、続くのですっ』
「ブヒヒヒーンッ」
ひぃっ、スピード上がったっ。同時にホークさんの腕に力が入り、更に抱き込まれる。僅かに前のめりのような姿勢になる。私は抵抗せず、ホークさんにお任せするしかない。鞍の手摺を握り絞めたいが、力が徐々に入らなくなってきた。寒い、冷たい。
雨の中、ゴーグル越しで僅かだけど、前を走るビアンカとアレスの身体に茶色のラインが入るのが分かる。
『『クリエーターモード 大地の構築者(エザフォース)』』
私達が進む先の地面が盛り上がる。それは幅の狭い、急な坂。まるでジェットコースターのレールのような坂道。
あれを登るのっ? ノワール、1t越えてるんよっ。ちょっと細くないねっ、あの坂道っ。
私の不安は何処にやら。その坂道をまずはアレスが、そしてビアンカが駆け上がる。
ノワールが躊躇いもなく、細くて急な坂道を駆け上がる。私はお腹のそこが、きゅー、と冷える。地面が、離れていくのが見えてしまい、身体に力が入る。私の心配やらなんやらを他所に、ノワールは駆け上がる。坂道の先は、一段高い岩場のような場所だ。あと少し、の所でたどり着くと言った時に。地鳴りのような音が響く。視線を向けたいが、無理や、がっちりホークさんに包まれて、視線だけしか動かせない。
だけど、絶対、絶対そうや。
土石流やっ。
脳裏に浮かぶのは、K県で起きた、甚大な被害を出した土石流。テレビ越しで見た最後の土石流。山も、森も、道路も、家も、畑も、人も飲み込んだ土石流。
私は、震える。震えるが、しっかりその震えごと、ホークさんが包み込んでくれる。
『登るのだっ』
『ここで抜けるのですっ』
ノワールが迷いなく、真っ直ぐに急拵えの細くて急な坂道を駆け上がる。内臓に、ぐっ、と圧がかかる。
坂道がノワールの体重に耐えられず、崩れ落ちる危険も、リアルジェットコースターも、雨のせいではない冷たさに私は震える。
浮遊感。
ノワールが跳躍する。そして走る衝撃。
無事に岩場に到着したと理解するのに、僅かに時間を要してしまった。それにビアンカの『抜ける』って言葉。きっと、感知範囲外に到着したんや。あぁぁ、良かったあぁ。肩から力が抜けてしまいそうや。
『ルージュッ』
ビアンカが悲鳴を上げる。
「えっ?」
不安定な中、視線を走らせる。
細い坂道をルージュが駆け上がってくるが、その細い坂道が崩れかけている。
嘘やろっ。
『ルージュッ、飛ぶのだっ』
アレスが叫ぶ。
見たことがない程、ルージュは必死の形相で、跳躍する。跳躍するが、飛距離が足りないっ。そして、すぐそばまで、土石流が迫って来ている。大地や木々や岩や、すべてを飲み込みながら、茶色の土の波が襲いかかってくる。
ルージュ。
悲鳴が喉に張り付く。
手を伸ばそうとしたが、私にどうにかできる、そんな能力はない。ルージュが、飛距離が足りず落ちるか、土石流にのまれるか、どちらかしかない。
冷えていた身体が、更に冷えていく。
歪んだ視界の中で、空から一条の白い筋が走る。
『フンッ』
イシスがルージュの後ろに急降下し、掬い上げるように弾く。なんとか土石流から逃れたが、ルージュはバランスを崩す。
だが、そこは我らのルージュ。黒い触手を伸ばす。伸ばした先にはアレス。
『おおおぉぉぉっ』
黒い触手を口に咥えて、まるで鰹の一本釣りのように、引っ張り上げる。400キロ越えたルージュの身体が舞う。バランスを崩したルージュが、一気に引っ張り上げられて、なんとか体勢を整えて着地する。
「ルージュッ、大丈夫ねっ」
『ふうっ、流石に肝が冷えたわ…………』
良かった、ケガとかないようや。心の奥底から安心してしまい、身体が傾げそうや。
『ユイ、念のため、もう少し進むのです』
「そ、そうやね。ホークさん、もう少しお願いします」
「はい」
「ノワール、もうちょっと頑張ってね」
「ブヒヒンッ」
振り返ると、今まで走っていた大地が、土石流に飲み込まれていた。ルージュと同じ言葉だけど、肝が冷える。魔の森の中だから、町とかないけど、カルーラは雨の影響は大丈夫だろうか?
私達をのせたノワールは進む、少しずつ雨脚が弱くなってきている気がする。感知範囲外に出たんや。しばらくすると、岩がせり出したような場所に出る。
『うむ、主よ、ここならよいぞ』
アレスがさっき釣り上げたルージュにぴったり張り付きながら言う。ルージュは助けてもらった手前何も言わないのか、単に疲れているだけか無言だ。イシスもゆっくり降りてきた。
『ヌシヨ、感知範囲外ダ。ココマデ来レバ』
「良かった。ルーム開けようかね」
私はルームを開ける、ううっ、腕が重かあ。
無事にルームが開く。ホークさんが手綱を軽く扱いながら、ノワールはルームに。ああっ、ほっとするーっ。そして暖房が効いてて暖かい。ビアンカとアレスがぶるぶるするのは仕方ない。
仔達はそれぞれの母に駆け寄る。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
晃太がタオルを手に来てくれる。チュアンさんとミゲル君もだ。父も帰宅していたようで、気遣うような顔。他の皆さんもそんな感じ。
てってれってー
【人型生命体同時30在室確認 特別オプション追加されます】
【ボーナスポイント 300000追加されます】
ポイント祭りや。
『妻よ、妻よっ、寂しくなかったかっ、我は無事なのだぞっ、げふっ』
アリスに高速ですり寄るアレス。シルフィ達が寝ているので、容赦ないアリスの前肢がアレスの顔面命中。アレス、毛並みびちゃびちゃに濡れているしね。アレス、あんた疲れとらんと? イシスも平気そうな顔している。ビアンカとルージュは疲れた顔なのに。レベルの差だろうか。
特別オプションは後で確認しよう。
とにかく濡れた服をどうにかしたい、重かあ。
ホークさんがマントを外す。
「ユイさん」
「あ、はいはい」
降りるのね、恥ずかしかだが、致し方ない。私は重い腕をホークさんの首に回す。
「あの、ユイさんすみません」
ホークさんが耳元で申し訳なさそうに言う。
「腕に力が入らないんです。申し訳ないのですが、チュアンに降りる介助を」
…………………恥ずかしか。よく考えたらそうだよね、私でも腕に力が入らないのに、ずっと私を支えながら手綱をずっと握っていたんやから。
「す、すみません、気がつかなくて…………」
私はチュアンさんに支えてもらいながら降りる。小さな子供を高い高いする体勢で、下ろしてもらう。床に無事に降りると、どっと疲れが出る。膝がガクガクしてしまい、座り込む。
「姉ちゃんっ」
「優衣っ」
晃太と父が慌てて側にくる。
「ちょっと、疲れただけやから…………」
身体が冷たい。服を脱いで、温かいお風呂に浸かって、暖かいベッドに横になりたい。
ホークさんもチュアンさんの手を借りて、ノワールから降りる。降りるが、やはり崩れ落ちるように座り込む。ミゲル君が慌てている。私も駆け寄りたいが、自分の事で精一杯や。
「2人とも疲れとるな。休ませよう」
父が私とホークさんを見て鑑定。
ケルンさんが再び水分を飛ばしてくれるからありがたい。
「姉ちゃん、歩ける?」
「何とかね、肩ば貸して」
「よかよ」
私は晃太に肩を借りると、へっへっと元気が私の横にぴったり張り付く。
「なんね元気? 歩くの手伝ってくれると?」
「わふんっ」
「いい子やね」
足取りが危ないので、がっちりと腕を回して晃太が支えてくれる。元気が反対側で私を支えてくれる。ホークさんはまず鎧を外してからチュアンさんに支えられて立ち上がろうとするが、うまくいかず。ミゲル君が支えようとしたが、ロッシュさんが変わり、両サイドからがっちりホークさんを支えている。テオ君がおろおろと後に続く。もう引き摺られているようや。あれや、宇宙人が連行されている雰囲気。アルスさんが小さくユイちゃんと呼ぶ。心配してくれているんや。シュタインさんもや。ラーヴさんもマアデン君もハジェル君もや。心配してくれる、申し訳ないのと、ありがたいのだが、今は休みたい。
「優衣っ」
母が鷹の目のスペースから出てくる。おそらくエマちゃんのお世話をしていたんやろう。母も一緒になって、私の部屋に、晃太がベッドに座らせてから元気と部屋を出る。私は母に手伝ってもらい、服を脱ぎ、出されたパジャマに着替える。
「お母さん、エマちゃんは?」
着替えながら聞く。
「薬ば飲んで、今は寝とるよ」
「そうな、ありがとう」
今は身体を休ませて、取れるなら栄養ば取らせて。あ、スポーツ飲料水、それから喉ごしのいいゼリー。あったっけ?
「全部枕元に置いてきたけん、あんたもねらんね」
「分かった」
流石母、安心して私はベッドに横になる。
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