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連載
再び材料確保⑦
ピンクの女性一行は、リティアさんの気迫に一瞬圧されるが、立て直したみたい。
「冒険者ギルドの職員だろうっ。我が娘がそこの黒髪のテイマーの弟に、キズモノにされたのだぞっ。即刻捕らえよっ」
多分父親よね? いや、あんた、娘がキズモノにされたって、威張って大声で。なんかいややなあ。
「いつ?」
リティアさんの底冷えのするような声。
「まあっ、傷ついた娘が勇気を振り絞って告発しているのにっ。やっぱり冒険者ギルドは、そのテイマーと癒着しているのは本当なのねっ」
いらっ。
「当然です。我々冒険者ギルドは、すべての冒険者と関わりがありますからね。事実確認をしているのです。事態が事態ですからね。で、いつ? 何処で? 時間は? 誰が一緒でした?」
リティアさんが矢継ぎ早に質問。
「そ、そんなっ、思い出したくないのにっ」
「では、証言はなし。その様な事を立証もしないと言うわけですね?」
「そ、それはっ、ひ、ひどいっ、私はっ、私はっ」
よよよ、と泣き崩れるピンクの女性。
『誤魔化そうと動揺しているのだ』
くわっ、とアレスが欠伸。
「なんて非情なっ、被害者である我が娘の健気な気持ちを踏みにじりおってっ」
「でしたら、証言してください。これだけ大声で騒ぎ立てているのですから、相応の覚悟をお持ちなのでしょう? さあ、いつ? 何処で? 時間は? 誰が一緒で?」
リティアさんが鋭く聞いていく。
「くっ、ジョジェフィーナ、辛いだろうが言えるか?」
「ぐすんっ、はいっ、お父様…………」
しらーっ、とした空気の中で、ピンクの女性はいかにも果敢に話します、みたいな感じ。
「先週の火曜日、22時過ぎていましたわ。たまたま一人で夜の空気を吸いたくて、ふらっと家の前に出ましたの。そしたら、この男がいきなり腕を掴んでっ……………」
よよよ、第2弾になる前にリティアさんの言葉が斬り込んでいく。だいたい、私達は2週間、しっかり冷蔵庫ダンジョンに籠り、出てきてないんのに。
「その様な時間に女性一人で出歩くのは勤め帰りか娼婦です」
「なんだとっ、我が娘を侮辱するのかっ」
「常識です」
リティアさんがばっさり。
「この男性で間違いないのですね?」
と、リティアさんは無表情のエドワルドさんを示す。
「ええっ、そうよっ、間違いないわっ」
「22時、周囲は真っ暗ですよね? 街灯があったとしても、そこまでハッキリ分かるものですか?」
「わ、私には見えたわっ、暗闇に慣れてきた所だったしっ」
「暗闇に慣れるまで外にいた、たった一人で? この男性一人だったのですね?」
「そ、それはっ、あの時はよく覚えてないわっ」
「それでよく顔を覚えていましたね」
はんっ、と笑うリティアさん。
「冷蔵庫ダンジョン、警備兵っ」
「「「はっ」」」
?
え? リティアさんの声に、呼応するようにピシャッと出てきた警備の人達。え? リティアさん、上司? まるで、軍隊の隊長さんみたいな言い方だったけど。
「先週の火曜日、この男性が出入りをしましたか?」
「「「いいえっ」」」
揃って否定。
「け、警備兵まで、抱き込んでいるんだっ。なんと卑怯なっ」
と、父親が叫ぶ。
『ん? 数人、空気が変わったのだ』
全く興味ないアレスが顔を上げる。なんで、空気が変わったんやろ?
「それは、警備兵を統括している領主ハルスフォン侯爵への不敬、でよろしいですかな?」
あ、気がつかなかったけど、タージェルさんまでやって来ていた。
「相応の覚悟がおありのようですな」
うわ、タージェルさん、怒ってるぅ。
「私が質疑応答に答えますっ」
警備兵さんが前に。いつも転移の魔法陣の小屋の扉を開けてくれる人や。
「どうやら、我々警備の役割もご存知ないようですからっ」
ちらっ、と言葉にトゲが潜む。
そんな中で、母親とメイドは黙ったままや。なんや、周りのしらーっ、とした雰囲気に気がついたみたいやな。
「では改めて、先週の火曜日、まあその前後、この男性が出入りしましたか?」
「いいえっ」
「嘘よっ、だって、ダンジョンなんて1日にたくさんの人達が出入りするのにっ、いちいち覚えているわけないじゃないっ」
ピンクの女性が叫ぶ。必死や。
「貴女は何を言っているんですか? 私はスキップシステムの使用を踏まえて、彼に聞いているのですよ」
そう。私達は基本的にはスキップシステムを使用する。だって、地道に下から行くと時間かかるからね。うちには、ほら、魔力豊富な頼もしい家族が。
がっがっがっ。
とうとうアリスまで、つまらないと顔に出して、耳の後ろをかきかき。
そうそう、私達の冷蔵庫ダンジョンアタックは基本的にはスキップシステムを使用する。リティアさんやギルドの人達、警備の人達はみんな知っている。時々スライム部屋に挑むけど、日帰りだしね。
「ス、スキップ?」
知らないみたいやな、ピンクの女性が奇妙な顔になる。
「我々警備兵は冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちた魔物の対応意外にも様々な業務があります。その一つがスキップシステムを使用した冒険者の通行の管理です。特に冷蔵庫ダンジョンにスキップシステムを使用して入る時は、注意しています」
何でも、実力も魔力もないのに上層階にスキップシステムを使おうとしたぼんくら冒険者がいて、魔法陣が一時機能不能になったことがあるからだそう。その際、脱出も出来なくなり、最悪なことに大ケガを負った冒険者が間に合わず助からなかった。その事が教訓となり、警備の人達がしっかり監視している。ちなみに脱出ではトラブルにはならない。
「先週は誰もスキップシステムを使用して、冷蔵庫ダンジョンに入っていませんっ。お疑いなら日誌の提示もしますっ」
はっきり言い放つ警備の人。
「なら、下から行ったのよっ」
「どうやって? まさか、一人で下から? 貴方にお伺いします」
先週の火曜日なら、逆算して8日や。
リティアさんはエドワルドさんに向く。
「貴方は先週火曜日前後、どちらの階にいましたか?」
「25階」
そう。その頃は木材確保の為に25階にいた。
たった一週間で下から25階まで上がるのは、いくらユリアレーナ最強の冒険者でも無理だよ。だって、広さもあれば、ボス部屋だってある。私みたいに非常識な戦力もなければ、移動手段もないのだから。
「嘘よっ、嘘を吐いていているのよっ」
「では、彼がその頃に25階にいたことを証明できる方は?」
そこで、手を上げたのは山風のリーダーロッシュさん。
「俺達、山風は、こちらの方と2週間一緒に行動していました」
ロッシュさんは真面目に強面で宣言する。
「嘘よっ、そいつが嘘を吐いているのよっ」
金切り声をあげるピンクの女性。
『主よ~、あの雌、きゃんきゃんうるさいのだ。嘘だと言うくせに、自分は嘘ばっかりなのだ~、めんどくさいのだ、黙らせるのだ~』
アレスが私をちょんちょんし始める。黙らせるってあんた、物騒な。でも、確かになんや、めんどくさい事に、収拾が付かない感じになってる。
私は、はあ、とため息。まずは、そっとホークさんとお話する。
「あの女性、嘘ばっかりみたいで埒が明かないので、私、リティアさんと話します」
「そうですね。ここは彼女に任せた方がいいでしょう」
エドワルドさんも後ろ手でオッケーサイン。
リティアさんは女性の言い分を一つ一つ論破している。
「あのリティアさん」
「はい。ミズサワ様」
「その女性、嘘ばっかりのようです」
「はい。そのようです」
「嘘よっ、嘘よっ、そっちが嘘をーっ」
『めんどうなのだ』
アレスがいらっ、とした、声を出して、前に出る。さすがに巨体のアレスに、後退る女性達。私はアレスの毛並みを掴み、それ以上進まないようにする。
「ちなみに、私の弟が誰か知ってます?」
私が後退るピンクの女性に聞いてみる。
「はぁっ、なに言ってるのよっ、そいつでしょっ」
と、指差したのはエドワルドさん。
「俺は彼女の弟ではない」
淡々と答えるエドワルドさん。
「俺はエドワルド・ウルガー。ダイチ・サエキのひ孫、それともウルガー三兄弟と言った方がいいか?」
途端に、サーッ、と青ざめるピンクの女性達。遅いがな。
「こんな騒ぎを起こして只で済むと思わないことだな。相応の対処をさせて貰おう」
「だったら、違う黒髪の男よっ、そうよっ、違う黒髪の男よーっ」
うわあ、悪足掻き。女性は必死の形相で叫ぶが、誰も、気の毒って顔じゃない。
『主よ。この雌、黙らせるのだ』
もう、めんどうくさいを通り越したようなアレス。
「Sランク冒険者、エドワルド・ウルガーが命ずるっ。この女達の拘束をっ」
咄嗟だろう、アレスの気配に勘づいたエドワルドさんが叫ぶ。
「アレスッ、傷つけんよっ」
『分かっているのだ』
すぅっ、と息を吸い込み。
『跪け』
ヒュンッ
なんやっ、強烈冷気の様な冷たくて、軽い衝撃波みたいなのが、アレスから放たれる。
そして、アレスの前にいたピンクの女性達、4人はまるで重力に押し潰されたように地面に倒れこむ。ガタガタ震えて、歯がガチガチ鳴ってる。目は焦点が合わず、さ迷い、顔面蒼白や。
周囲を見ると、やはり影響を受けたのか数人が震えている。ただ、女性達とは距離を置いていたので、倒れたりはない。ほっ。リティアさんとタージェルさんもエドワルドさんの、拘束の言葉で、一気に後ろに下がっていた。
「アレス? なんばしたん?」
『ん? 跪けと言っただけなのだ。ただ、本気で睨んだだけなのだ、それだけなのだ』
レベル700越えの厄災クラスの睨みか。
女性達はガタガタ震えたまま、警備の人達に腕を掴まれ、連れていかれた。
「はあ」
とため息をつくエドワルドさん。
「あ、エドワルドさん、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、厄介のに絡まれたなと思って」
「すみません」
「ミズサワ殿のせいではないでしょう? 今回の件は兄に報告案件です、後で首都に連絡を取るように手配しましょう」
「はい」
晃太も出てきて、エドワルドさんにぺこり。
それからリティアさん、タージェルさん、警備の人達にもお礼を伝える。
それからもバタバタ。ノワールと、アリス、シルフィ達は先にパーティーハウスに行って貰う。チュアンさん、マデリーンさん、エマちゃんとテオ君に行ってもらう。
ギルドで事情聴取。珍しく怒った父も来て、話をして、裏の役場に向かっていた。エドワルドさんも、色々手続きしている。
この件で数日、私達はバタバタすることになった。
「冒険者ギルドの職員だろうっ。我が娘がそこの黒髪のテイマーの弟に、キズモノにされたのだぞっ。即刻捕らえよっ」
多分父親よね? いや、あんた、娘がキズモノにされたって、威張って大声で。なんかいややなあ。
「いつ?」
リティアさんの底冷えのするような声。
「まあっ、傷ついた娘が勇気を振り絞って告発しているのにっ。やっぱり冒険者ギルドは、そのテイマーと癒着しているのは本当なのねっ」
いらっ。
「当然です。我々冒険者ギルドは、すべての冒険者と関わりがありますからね。事実確認をしているのです。事態が事態ですからね。で、いつ? 何処で? 時間は? 誰が一緒でした?」
リティアさんが矢継ぎ早に質問。
「そ、そんなっ、思い出したくないのにっ」
「では、証言はなし。その様な事を立証もしないと言うわけですね?」
「そ、それはっ、ひ、ひどいっ、私はっ、私はっ」
よよよ、と泣き崩れるピンクの女性。
『誤魔化そうと動揺しているのだ』
くわっ、とアレスが欠伸。
「なんて非情なっ、被害者である我が娘の健気な気持ちを踏みにじりおってっ」
「でしたら、証言してください。これだけ大声で騒ぎ立てているのですから、相応の覚悟をお持ちなのでしょう? さあ、いつ? 何処で? 時間は? 誰が一緒で?」
リティアさんが鋭く聞いていく。
「くっ、ジョジェフィーナ、辛いだろうが言えるか?」
「ぐすんっ、はいっ、お父様…………」
しらーっ、とした空気の中で、ピンクの女性はいかにも果敢に話します、みたいな感じ。
「先週の火曜日、22時過ぎていましたわ。たまたま一人で夜の空気を吸いたくて、ふらっと家の前に出ましたの。そしたら、この男がいきなり腕を掴んでっ……………」
よよよ、第2弾になる前にリティアさんの言葉が斬り込んでいく。だいたい、私達は2週間、しっかり冷蔵庫ダンジョンに籠り、出てきてないんのに。
「その様な時間に女性一人で出歩くのは勤め帰りか娼婦です」
「なんだとっ、我が娘を侮辱するのかっ」
「常識です」
リティアさんがばっさり。
「この男性で間違いないのですね?」
と、リティアさんは無表情のエドワルドさんを示す。
「ええっ、そうよっ、間違いないわっ」
「22時、周囲は真っ暗ですよね? 街灯があったとしても、そこまでハッキリ分かるものですか?」
「わ、私には見えたわっ、暗闇に慣れてきた所だったしっ」
「暗闇に慣れるまで外にいた、たった一人で? この男性一人だったのですね?」
「そ、それはっ、あの時はよく覚えてないわっ」
「それでよく顔を覚えていましたね」
はんっ、と笑うリティアさん。
「冷蔵庫ダンジョン、警備兵っ」
「「「はっ」」」
?
え? リティアさんの声に、呼応するようにピシャッと出てきた警備の人達。え? リティアさん、上司? まるで、軍隊の隊長さんみたいな言い方だったけど。
「先週の火曜日、この男性が出入りをしましたか?」
「「「いいえっ」」」
揃って否定。
「け、警備兵まで、抱き込んでいるんだっ。なんと卑怯なっ」
と、父親が叫ぶ。
『ん? 数人、空気が変わったのだ』
全く興味ないアレスが顔を上げる。なんで、空気が変わったんやろ?
「それは、警備兵を統括している領主ハルスフォン侯爵への不敬、でよろしいですかな?」
あ、気がつかなかったけど、タージェルさんまでやって来ていた。
「相応の覚悟がおありのようですな」
うわ、タージェルさん、怒ってるぅ。
「私が質疑応答に答えますっ」
警備兵さんが前に。いつも転移の魔法陣の小屋の扉を開けてくれる人や。
「どうやら、我々警備の役割もご存知ないようですからっ」
ちらっ、と言葉にトゲが潜む。
そんな中で、母親とメイドは黙ったままや。なんや、周りのしらーっ、とした雰囲気に気がついたみたいやな。
「では改めて、先週の火曜日、まあその前後、この男性が出入りしましたか?」
「いいえっ」
「嘘よっ、だって、ダンジョンなんて1日にたくさんの人達が出入りするのにっ、いちいち覚えているわけないじゃないっ」
ピンクの女性が叫ぶ。必死や。
「貴女は何を言っているんですか? 私はスキップシステムの使用を踏まえて、彼に聞いているのですよ」
そう。私達は基本的にはスキップシステムを使用する。だって、地道に下から行くと時間かかるからね。うちには、ほら、魔力豊富な頼もしい家族が。
がっがっがっ。
とうとうアリスまで、つまらないと顔に出して、耳の後ろをかきかき。
そうそう、私達の冷蔵庫ダンジョンアタックは基本的にはスキップシステムを使用する。リティアさんやギルドの人達、警備の人達はみんな知っている。時々スライム部屋に挑むけど、日帰りだしね。
「ス、スキップ?」
知らないみたいやな、ピンクの女性が奇妙な顔になる。
「我々警備兵は冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちた魔物の対応意外にも様々な業務があります。その一つがスキップシステムを使用した冒険者の通行の管理です。特に冷蔵庫ダンジョンにスキップシステムを使用して入る時は、注意しています」
何でも、実力も魔力もないのに上層階にスキップシステムを使おうとしたぼんくら冒険者がいて、魔法陣が一時機能不能になったことがあるからだそう。その際、脱出も出来なくなり、最悪なことに大ケガを負った冒険者が間に合わず助からなかった。その事が教訓となり、警備の人達がしっかり監視している。ちなみに脱出ではトラブルにはならない。
「先週は誰もスキップシステムを使用して、冷蔵庫ダンジョンに入っていませんっ。お疑いなら日誌の提示もしますっ」
はっきり言い放つ警備の人。
「なら、下から行ったのよっ」
「どうやって? まさか、一人で下から? 貴方にお伺いします」
先週の火曜日なら、逆算して8日や。
リティアさんはエドワルドさんに向く。
「貴方は先週火曜日前後、どちらの階にいましたか?」
「25階」
そう。その頃は木材確保の為に25階にいた。
たった一週間で下から25階まで上がるのは、いくらユリアレーナ最強の冒険者でも無理だよ。だって、広さもあれば、ボス部屋だってある。私みたいに非常識な戦力もなければ、移動手段もないのだから。
「嘘よっ、嘘を吐いていているのよっ」
「では、彼がその頃に25階にいたことを証明できる方は?」
そこで、手を上げたのは山風のリーダーロッシュさん。
「俺達、山風は、こちらの方と2週間一緒に行動していました」
ロッシュさんは真面目に強面で宣言する。
「嘘よっ、そいつが嘘を吐いているのよっ」
金切り声をあげるピンクの女性。
『主よ~、あの雌、きゃんきゃんうるさいのだ。嘘だと言うくせに、自分は嘘ばっかりなのだ~、めんどくさいのだ、黙らせるのだ~』
アレスが私をちょんちょんし始める。黙らせるってあんた、物騒な。でも、確かになんや、めんどくさい事に、収拾が付かない感じになってる。
私は、はあ、とため息。まずは、そっとホークさんとお話する。
「あの女性、嘘ばっかりみたいで埒が明かないので、私、リティアさんと話します」
「そうですね。ここは彼女に任せた方がいいでしょう」
エドワルドさんも後ろ手でオッケーサイン。
リティアさんは女性の言い分を一つ一つ論破している。
「あのリティアさん」
「はい。ミズサワ様」
「その女性、嘘ばっかりのようです」
「はい。そのようです」
「嘘よっ、嘘よっ、そっちが嘘をーっ」
『めんどうなのだ』
アレスがいらっ、とした、声を出して、前に出る。さすがに巨体のアレスに、後退る女性達。私はアレスの毛並みを掴み、それ以上進まないようにする。
「ちなみに、私の弟が誰か知ってます?」
私が後退るピンクの女性に聞いてみる。
「はぁっ、なに言ってるのよっ、そいつでしょっ」
と、指差したのはエドワルドさん。
「俺は彼女の弟ではない」
淡々と答えるエドワルドさん。
「俺はエドワルド・ウルガー。ダイチ・サエキのひ孫、それともウルガー三兄弟と言った方がいいか?」
途端に、サーッ、と青ざめるピンクの女性達。遅いがな。
「こんな騒ぎを起こして只で済むと思わないことだな。相応の対処をさせて貰おう」
「だったら、違う黒髪の男よっ、そうよっ、違う黒髪の男よーっ」
うわあ、悪足掻き。女性は必死の形相で叫ぶが、誰も、気の毒って顔じゃない。
『主よ。この雌、黙らせるのだ』
もう、めんどうくさいを通り越したようなアレス。
「Sランク冒険者、エドワルド・ウルガーが命ずるっ。この女達の拘束をっ」
咄嗟だろう、アレスの気配に勘づいたエドワルドさんが叫ぶ。
「アレスッ、傷つけんよっ」
『分かっているのだ』
すぅっ、と息を吸い込み。
『跪け』
ヒュンッ
なんやっ、強烈冷気の様な冷たくて、軽い衝撃波みたいなのが、アレスから放たれる。
そして、アレスの前にいたピンクの女性達、4人はまるで重力に押し潰されたように地面に倒れこむ。ガタガタ震えて、歯がガチガチ鳴ってる。目は焦点が合わず、さ迷い、顔面蒼白や。
周囲を見ると、やはり影響を受けたのか数人が震えている。ただ、女性達とは距離を置いていたので、倒れたりはない。ほっ。リティアさんとタージェルさんもエドワルドさんの、拘束の言葉で、一気に後ろに下がっていた。
「アレス? なんばしたん?」
『ん? 跪けと言っただけなのだ。ただ、本気で睨んだだけなのだ、それだけなのだ』
レベル700越えの厄災クラスの睨みか。
女性達はガタガタ震えたまま、警備の人達に腕を掴まれ、連れていかれた。
「はあ」
とため息をつくエドワルドさん。
「あ、エドワルドさん、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、厄介のに絡まれたなと思って」
「すみません」
「ミズサワ殿のせいではないでしょう? 今回の件は兄に報告案件です、後で首都に連絡を取るように手配しましょう」
「はい」
晃太も出てきて、エドワルドさんにぺこり。
それからリティアさん、タージェルさん、警備の人達にもお礼を伝える。
それからもバタバタ。ノワールと、アリス、シルフィ達は先にパーティーハウスに行って貰う。チュアンさん、マデリーンさん、エマちゃんとテオ君に行ってもらう。
ギルドで事情聴取。珍しく怒った父も来て、話をして、裏の役場に向かっていた。エドワルドさんも、色々手続きしている。
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