お嬢様って呼ばないで

佐伯朝美

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プロローグ

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「じゃあ行ってきます」
 そういって玄関を閉めるといつものように伊都が車の前に立っている。
「ではいきましょうか、お嬢様」
 開けてあってドアから車に乗り込む。
 やはり乗り心地がいい。車は同じでも、伊都が運転するとそのほかの使用人が運転するのでは乗り心地が全く違うのだ。
「やっぱり、伊都が運転すると落ち着くわ」
「そうなんですね。お嬢様にそう言ってもらえると嬉しいです」
「そうかしら」
 何気ない会話をしながら学校へ行く大通りを走る。
 ふと窓の外を見る。なんだか混んでいる気がする。
「ねぇ、今日ってなんか行事があったかしら?」
「ないと思いますが……」
 時間を確認する。まだ8時過ぎだった。
 今日は朝練がないので、8時50分までに学校につければ良い。
 車は一向に進む気配がない。
「でも道混んでない?」
「確かにめずらしく混んでますね」
 この大通りが混んでいることはめったにない。
「工事区間になっていた気がします」
 多少は進んでいるが、待機時間のほうが長い気がする。
「もうすぐ抜けられるんじゃないでしょうか」
 水道管の工事をしていた。外では作業員や警備員がせわしなく動いていた。
「お嬢様お時間大丈夫ですか?」
 もう一度スマホを見る。8時30分前。
 でもここから学校までは10分で着くので一安心する。
「心配ないわ。10分足らずで着くでしょう」
「はい」
 確認しつつ、教科書を鞄にしまう。
「お嬢様、つきましたよ」
 ドアを開けながら言う。

 教室につくとクラスのみんなから
「ごきげんよう」
とまばらに言われる。とっさに
「ごきげんよう」
 と返す。
 ここは県内で唯一のお嬢様学校。みんな自分よりもお金持ちの家庭。
「今日来るの遅かったわね」
 外を眺めてそんなことを考えていたら、茉莉に話しかけられた。
「あぁ、ちょっと道が混んでてね」
 この子もお嬢様で、世界で有名な自動車会社『クウガ』のご令嬢なのだ。そして私の幼馴染で気の合う大親友でもある。
「インスタ見てくれた?」
「あ、ごめん。今見る」
 インスタを開き、茉莉からのメッセージを読む。"明日このパフェ食べに行かない?"という一文とともに、メロン一個分盛られた画像が表示されている。
「行きたいけど……」
 行きたかったことを告げ、ごめんと謝る。夏生の誕生日でお祝いしないわけにはいかないのだ。夏生はこの錦城家の使用人の家系だ。現在も父と兄が働いており、錦城家で寝泊まりしているのでこういうお祝いごとや行事などは毎回小山内家と合同で行っているのだ。
「じゃあしょうがないね、また今度にしよ!」
「ほんとにごめんね」
 申し訳ない。ずっと茉莉とお出かけしていなかったのでなんだか悲しい気持ちになった。でもこれからは何時いつでも茉莉とお出かけできるでまあ、いっかという感情も同時に生まれる。

 ここでチャイムが鳴り、一時間目が始まることを知らせる。
 皆、友達との他愛もない会話を切り上げそれぞれ自分の席に着席し英語の準備をする。全員が着席し英語の用具を机上に置いたところで教室に先生が入室する。
 誇りには思っていないが、わが校は留学する生徒や留学生が多く英語の授業はネイティブアメリカンが教えてくれるのでありがたい。でも英語が全く分からない人はつまらないようでうわの空で受けている。

 チャイムが鳴って帰宅時間になる。今日はすべての部活動がなく、お迎えの車が到着するまで待機スペースと呼ばれる正門から少し離れたロータリーで友達と会話を楽しむ人や真っ先にお迎えの車に乗り込む人の姿が見受けられる。花実と茉莉もお迎えの車が到着するまで二人がはまっている推しの話やYouTuberの話題で盛り上がり待ち時間を楽しむ。突然茉莉の携帯が鳴り、お迎えの車が来たことを告げる。
「お迎えきたからお先に」
 そういいながら、茉莉は歩き出す。
 もちろん待機スペースに車をつけることはできず、直接正門に横付けするため登下校の際は多くの車で埋め尽くされる。だからこそ学校付近に着いたら運転手が知らせなければいけないのだ。
「また明日」
 茉莉に手を振る。
 花実はというとあと10分ほどで着くそうだが、鞄からワイヤレスイヤホンを取り出しSpotifyを開く。とりあえず日本のトップ50を再生する。
 ちょうど一曲が終わったところでLINEの通知音が鳴り、伊都から到着しましたという文が送られてきた。私も茉莉と同様に待機スペースを出て校門へと足を運ばせ、少し離れたところで車を見つけ助手席の窓をこんこんと叩く。その音に気が付いた伊都が後ろのドアを開け
「遅くなり申し訳ございません」
 と不愛想に言いお辞儀をする。
「今日は許してあげる。久しぶりに茉莉と話せたから」
「ありがとうございます」
 という言葉が返ってきた。
「伊都、今日はこれで帰っていいから」
 忘れないように先に行っておく。
 お祝いや行事ごとが行われときはほかの使用人たちはよほどのことがない限りいつもより早めに家に帰すようにしている。料理も夏生のお母さんの担当なので、シェフも返してしまう。
「そうですね、錦城家と小山内家の邪魔をしてはいけませんもんね」
 うれしくも悲しくもない声色でぼっそとそういったが花実は音楽を聴いていたので聞こえてはいなかった。
 大通りは朝の工事が終わったようで家には15分ほどで到着し伊都に「ありがとう」と言って家に帰した。
「ただいま」
 玄関を開けながら元気よく言う。
「あら、花実様おかえりなさい」
 今から帰るところだといわんばかりの格好をしている使用人に真正面で言われ少し戸惑うが、
「私たちはこれで帰りますので……」
 と言い放ち早々と出て行った。
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.12 花雨

作品登録しときますね(^^)

2021.08.12 佐伯朝美

ありがとうございます

解除

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