勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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第三章 祝祭の街

祝祭の夜

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 夜空に浮かぶ沢山の灯篭。
 オレンジ色の光が上へ上へと昇っていく。

 通りは様々な形の灯篭が飾られ、夜なのに明るく活気がある。
 屋台を渡り歩く人々、其処彼処に設けられたテーブル席で食事を楽しむ人、道化師の曲芸に歓声を上げる人、音楽に合わせて踊る人。
 周辺の町や村からも人々が集まり、今日から三日間、王都は更に華やかさを増し祝祭のクライマックスを迎える。

「見てくださいエーリク、あの人の太鼓すごい!」
「凄く早いねぇ」
「あ、ほらあそこ! あの人凄く大きい!」
「あれは竹馬を入れてるんだよ。凄いね、よく歩けるなぁ」
「あ! あの楽器なに!?」
「あれは南の地域で昔から伝わる民族楽器だよ」
「仮面! 仮面がある! 凄い!」
「あれは東部の島々の伝統的な仮面だね」

「どっちが子供か分かりませんね」

 護衛騎士が苦笑しながら私が買っていく珍しい楽器や仮面を持ってくれる。

 いやいや、だって楽しいんだもの!
 色んな国や地域の特産品も見る事が出来るし、至る所で芸術のギフトを持った人々の素晴らしいパフォーマンスも鑑賞できる。
 街全体が大きなバザールのように賑わっていて人々の熱気で興奮してきてしまう。いや、もう興奮してる!

「楽しいばかりではありません、気を付けないと」

 護衛騎士はそう言うと、私とぶつかった人の腕を捕まえて懐からお財布を取り返した。

「あっ」
「ナガセはいいカモなんですよ、気を付けて」

 クスクス笑いながら私のお財布を返してくれた。

「だから持って来なくていいって言ったのに」
「ダメですよ、エーリク。私だって大人なんです、自分のものは自分で買いますから」
「お財布を持って貰えば?」
「……それって凄く子供みたいじゃないですか」
「ぶふっ」

 ムクれると護衛騎士に笑われた。
 何よう。


 灯篭のトンネルを抜け広場に出ると、昼間は練り歩いていた花の山車が灯篭と共に飾られ幻想的な雰囲気。
 山車の周囲には人々がいて、山車の花を一輪ずつ抜いている。

「花は取ってもいいの?」
「ええ、あの花は祝福の花といって、持っていると幸福が訪れると言われているんですよ」
「ナガセ、行ってみよう」

 見上げるほど背の高い山車に小さな花から大振りの花、色とりどりの花が飾られている。

「押し花とか素敵ね」

 押し花に出来そうな花弁が少ない小さめの花をいくつか見繕っていると、小さな声が聞こえてきた。

「あの、すみません……、刺繍はいりませんか?」

 七、八歳くらいの白いシャツを着た男の子が手に籠を持ってこちらを見上げている。

「刺繍?」
「……はい」

 モジモジと俯いて籠からハンカチを一枚取り出す。それはカラフルな花の刺繍がされたハンカチ。

「素敵」

 思わずため息が漏れる。この子のギフトは刺繍なのかな。しゃがみ込んでその子と視線を合わせる。

「あなたが刺繍したの?」
「は、はい、…」

 他にもあると言うので見せてもらうと、写実的なデザインのものからデフォルメされたもの、パターン化されたもの。色を多く使ったものから一色でシンプルに仕上げたものなど様々。

「本当に凄いね、刺繍でお仕事してるの?」
「まだ修行中です。あの、でも、今日は師匠が人の目に触れさせろ、と」

 視線を泳がせて自信なさげに言うこの子の才能を、そのお師匠さんは分かっているんだろうな。

「おいくらですか?」

 尋ねると、パッと顔を赤く染めて値段を教えてくれた。


「これはレオニダスのでこれはお義母様、お義兄様、お義父様に…」
「全部素敵だね」
「本当に! 今度、教えてもらったお店にも行って見ましょう」

 結局、みんなのプレゼントにと沢山ハンカチを買った。男の子は凄く恐縮していたけど、本当に素敵な刺繍だから。護衛騎士も奥様に買っていたしね!

「でも凄いですね、もう自分のやりたい事があって将来の目標を持ってるなんて」

 あの子は将来、今のお師匠さんのように自分の店を持ちたいのだとか。照れながらも話す姿は、年齢よりもずっと大人びてキラキラしていた。

「ナガセ」
「はい?」

 エーリクが、私の前に回り込んで真っ直ぐ見つめて来た。
 階段の一段上に立つエーリクは私と目線がほぼ同じ。
 最近また背が伸びて来て、きっとレオニダスのように背が高くなるんだろうな。


「僕、留学することにしたよ」

 エーリクの後ろで大きな花火が上がった。

「……留学?」
「うん。王子たちが隣国に留学するのにね、ついて来ないかって」

 エーリクを花火の光が赤、青と次々に照らしていく。

「いずれ留学はするつもりだったけど、もう少し先の話だと思ってたんだ…。でも、今行くのがいいタイミングなのかと思って」
「はい」
「王子たちと、べアンハート殿下とクラリッセ嬢と。出会えた今がその時かなって」
「……どのくらい?」
「三年」
「いつからですか?」
「次の春には出発するって。でも」

 エーリクは目を逸らさず真っ直ぐ私を見つめて話してくれる。
 いつもそう。
 私を私として、エーリクは向き合ってくれる。

「バルテンシュタッドは雪が降ると閉ざされて行き来ができなくなる。だから……」
「……帰らない?」
「……うん、そう」

 私は大きく息を吐き出した。無意識に息を止めていたのかもしれない。

「僕、沢山勉強するよ。勉強して、帰って来たら伯父上の元で力をつけたいんだ。だから今、行きたいんだ」

 この世界の子供たちはみんな、凄く大人びているとずっと思っていた。
 ギフトという本人の得意とするものがあって、それを高め、いずれ将来に繋がる。だからこそ将来の事を考える機会もタイミングも早いんだと思うんだけれど、エーリクは特に上昇志向が強い。
 学びたい意欲も、強くなりたい気持ちも。
 次期辺境伯になるための努力を人に言われるのではなく自ら進んでする。

「エーリクは優秀ですから。きっとあっという間に色んな事を学んで帰ってくる事が出来ます」
「ふふ、王子たちに負けたくないから頑張るよ」
「手紙出しますね」
「うん、楽しみにしてる」
「隣国に、私も遊びに行っていいですか?」
「もちろん! ナガセの好きな場所を案内できるようにするよ」
「エーリク」
「うん?」
「……抱き締めてもいいですか」
「…ふふっ、いいよ。ナガセは泣き虫だなぁ」

 笑顔で抱き締めてもいいと言ってくれたエーリクをぎゅうっと抱き締める。
 今はまだ細いこの身体も、大きくなって私の背を抜くんだろうな。肩幅も広くなって、筋肉もついて、きっとエーリクなら女の子たちから憧れの視線を向けられる男性に成長するんだろうな。
 きっと、あっという間に。


「ナガセ、大丈夫だよ。ウルもオッテもいるから」

 よしよし、と言うように、エーリクが私の背中をポンポンと叩く。

 夜空には、大きな花火が沢山咲いていた。
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