勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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最終章 深淵

白い闇2

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 深夜、アルベルトからあの男達が動き出したと報告があった。そのまま遠くから監視を続けるよう指示をする。

「オッテ」

 呼ぶとすぐに寄り添う相棒は、真っ直ぐ深淵の森を見つめている。
 森には闇に紛れ黒い軍服に身を包んだ部下達が、それぞれ位置につき息を殺して潜んでいる。


 あの男達の警戒が届かない距離に控え、人数と位置を把握する。
 視力は離れた場所で警戒し聴力は声、腕力、脚力と行動を共にしているとの報告があった。潜伏先の監視はクラウスの指示のもと全ての出入り口を抑え、いつでも踏み込めるようになっている。

 己のギフトを解放し、目を凝らす。
 今も誘き寄せられた魔物達が殺し合い、共食いを続けている。深淵のすぐ側のためか、これまでとは桁外れの大きさの魔物が現れていた。あの男達を制するよりも厄介な相手だ。

 側に部下が駆け寄り全員位置についたと報告を受けた。息を吐き出しオッテの頭をひと撫でする。

「やれ」



 闇に紛れた部下達が一斉に動いた。





 制圧は一瞬だった。
 ただ、聴力のギフトの男だけがいち早くこちらの動きに気が付き森に逃げ、アルベルトの隊が追っている。

「どうだ」
「厄介。うちの兵士だよ」
「第五か」
「そう」
「……クラウス、聞こえたか。そちらの制圧が済んだらすぐに来い」
「それから、赤い包みを口にした」
「……生け捕りは難しいな」
「そうだね」

 捕らえられこの先に待ち受ける苦痛の日々を思い、薬を口にしたか。いずれにせよ、もう戻ることは出来ない。

「他の人間は」
「捕まえたよ。砦に連行してる」
「ならば男の生死は問わない。…そいつの名は」

 アルベルトが聴力の男の名を口にする。クラウスに届いただろうか。


「アルベルト、この場に討伐部隊を残して後は砦に戻れ。潜伏先の制圧が終わったらベアンハートを連れて調査をさせろ」
「分かった。でも僕もここに残るよ」

 アルベルトは森の切れた向こう、深淵の淵を紫眼をギラギラ光らせて見つめたまま、帰るつもりはないともう一度言った。
 見つめる先には誘き寄せられた魔物達の咆哮と殺し合う音、肉を裂き骨が砕かれる音。このままでは魔物がいつまでも湧いてくる。早く魔物を誘き寄せているあの場を浄化しなければならない。

「好きにしろ。まずは奴らを駆逐する。聖水を持った兵士もすぐ側まで来させろ」

 アルベルトは素早く闇に紛れた。

「オッテ、行くぞ」

 森から深淵の手前の開けた場所へ飛び出す。
 魔物が何体かこちらに気が付き襲い掛かってくるのを、剣を抜いて薙ぎ倒し身体を両断する。

 オッテが駆け抜け襲い掛かってくる魔物の目を潰し噛み付いていく。

 犬のような大きさから馬や牛のような大きさ、馬車よりも大きな魔物もいる。とにかく数が多くて厄介だ。

「予備の剣を持って来い、数が多い!」

 俺の声は各隊の耳が拾っている。
 その指示はそのまま後方へ伝えられ部下達は闇の中でも指示通りに動く。

「全員深淵の淵に出て湧いてくる魔物を排除しろ! 共食いをしている場に近付けるな! 第二小隊は浄化作業を進める為に援護しろ!!」

 早くあの誘き寄せる匂いを消さなければいつまでも終わらない。今なお殺し合いの続く場へ一気に距離を詰め飛び込んだ。
 殺し合っている魔物をとにかく両断していく。
 魔物の血脂でどんどん剣の切れ味も落ち、最早切るのではなく叩き潰すに近い。

 視線を周囲に向けるといくつかの小隊が森から開けた深淵の淵に出て来てこちらに魔物を近付けないよう両断していく。

「第二小隊はまだか!!」

 その時、わあぁぁああんっと耳に不快な音が響いた。
 第二小隊の声だ。
 共食いをしていた魔物が怯んだ。

「遅い!!」
「申し訳ありません!!」
「閣下!」

 第二小隊の兵士がこちらに新しい剣を投げた。
 それを受け取り持っていた剣を投げ渡す。その隙に襲い掛かってくる魔物にオッテが喰らい付き、魔物が叫び声を上げて仰け反ったところを回し蹴りで吹き飛ばした。

「さーっすが、祝福を受けてるだけある、オッテの牙は凄いね」

 アルベルトが脇へスッと戻って来た。

「男はどうした」
「まだ逃げてる」
「チッ、何してる」
「王都のアイツより厄介だよ。訓練した兵士だし、ギフトが聴力なんだ。でも、多分ここに来るよ」
「……人ではないからな」

 あの赤い包みを口にしたのなら、最早人ではない。この匂いに釣られてここに誘き寄せられるのだろう。

「それよりレオニダス、あれ見て」

 アルベルトは前を見据えたまま腰の剣を抜いた。

「デカいな」
「そうだけど違う。僕達はアイツを殺さないと」

 よく見て、とアルベルトは魔物の死骸が転がる血溜まりで魔物を殺し喰らっている家のような大きさの魔物を顎で示す。
 大きな身体には幾つも瘤のような頭が付いており、見えているのかいないのか、白く濁った目玉が幾つもギョロギョロと動いている。
 腕は確認出来るだけで五本、真っ黒な身体には太い木の枝や石が食い込んでいる。
 そしてその身体には見覚えのあるものも。

「あれは」

 魔物の脇腹部分に突き刺さっている
 深々と突き刺さっている、それは。

「……奴が、父を殺したのか」

 それは間違いなく父、ジークムントの剣だった。

 震える拳をグッと握り締め大きく息を吸った。この大きな魔物をまずはここから離さなければならない。アルベルトに視線を向けるとこちらを見て頷いた。

「オッテ!!」

 オッテが魔物の頭に食らい付く。

 ギャアアアアッッッ!!!

 魔物がオッテを引き剥がそうと手に持っていた他の魔物の死骸を投げ捨てる。その腕を両断して身体を蹴り上げた。叫び声を上げながら後退するのをアルベルトが回り込み脚に剣を叩き付けると、魔物はバランスを崩し身体を傾けた。
 その身体を支える腕を更に薙ぎ払っていく。
 思うように身体を動かせない魔物は咆哮を上げ何本もの腕、脚を打ち付けて来る。

「硬い! レオニダス、僕に両断は無理!」

 アルベルトが攻撃を躱しながらイライラと声を上げた。
 オッテがまた違う頭に食らい付く。
 魔物が振り下ろした腕をギリギリで躱し、地面にめり込んだ所を両断する。叫び声を上げ更に後退した身体に強烈な蹴りを入れ横に吹き飛ばした。

 第二小隊の腕力が魔物に飛び込みその身体に剣を叩き付ける。
 剣は途中までめり込むとそこで止まってしまい、魔物の身体に取り込まれた。
 だが剣には加護が付いている。苦しいのか魔物はのたうち回り、ズルズルと深淵に向かって動き出した。

「深淵に落とすな! ここでけりを付けるぞ!!」

 腕力と共に魔物の脚を掴み森の方へ引き摺るが、物凄い力で引っ張られ引き止められない。

「剣を突き立てろ!!」

 次々と兵士達が飛び込み魔物に剣を突き立てていく。魔物から咆哮が上がる。

 ドオオォンッ

 土埃を上げその巨体が遂に地面に倒れた。

 兵士が腕を両断する。

 動けなくなった魔物は毒を撒き散らすように咆哮を上げた。その巨体に駆け上り、深く突き刺さった父の剣の柄を握り込む。

「これで終わりだ!!!!!」

 俺は一気に剣を横に薙ぎ払った。


 空気が震える程の断末魔を上げ、身体を両断された魔物はビクビクと痙攣し、やがて動かなくなった。

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