私が死んであなたがほかの人と幸せになるくらいなら呪い殺してこちらに来てもらう所存ですのであしからず

かほなみり

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 翌日、それは大騒ぎになった。
 アデルが言っていたとおり、彼がほかの騎士を伴って部屋へ突撃した際に蹴り壊した扉は内側からはめ込まれ、さらに大きな家具で何重にも塞がれていた。
 お陰で、日が高く昇っても出てこない私たちを心配した彼の部下が扉を破るまで、私たちは外の様子をまったく分かっていなかったのだ。
 抱き潰されてほぼ意識を失うように眠っていた私と、連日の激務で疲弊していたうえに薬の影響もあって熟睡していたアデル。
 扉を壊されて医療班を伴った彼の部下が飛び込んでくるまで、私たちは全裸で、のんきにベッドで眠ったままだったのだ。

「ひどい目に遭ったわ……」
 自室のベッドの上で、はぁっとため息を吐きだす。
 往診に来た医師から、もう起き上がって大丈夫だとやっと許可をもらうことができた。ずっと横になっていたせいか、起きても身体がふわふわするし、すぐに疲れてしまう。 
 あのあと、薬の影響なのか、体調を崩して高熱を出した私は、三日ほどで寝込んでいた。
(半分はアデルのせいもありそうだけれど)
 本人はなんとか理性を保とうと努力していたのかもしれないけれど、結局、一晩中求められることになってしまった。相当、彼のあちこちを噛んだはずなんだけれど、まったく止まってくれなかった。
(でも仕方ないわ、あの辛さは私もよく分かるから)
 強制的に、自分の意思とは関係のないところで獣のように発情するのは、とんでもなく辛かった。あれのどこが愛の秘薬なのか、理解に苦しむ。
 夜会で私に声を掛けてきたカインズ卿は、あの秘薬を購入しては気に入った女性へ配っている人物だったことが分かった。
 だから私と踊って、あの香りに気が付いたのだ。
 さらに彼は、知り合いの貴族たちに媚薬を高値で売り付けていたらしい。
(でも、黒幕ではなかったというわ)
 彼は薬を仕入れていただけで、製造元はまだ判明していない。
 そしてそうとは知らず、私に勧めてきた友人は、先日、真っ青な顔で謝罪に来た。
 けれど、彼女も被害者なのだ。
 媚薬とは知らず、婚約者と共に二人で楽しめていたうちはまだいいだろう。
 けれど、アデルの言うとおり、あの香水は男性のために作られた都合のいいもの。
 彼女に使用するだけでは物足りなくなった彼は、娼館でもそれを使用していたことが分かり、婚約は破談となった。
 碌でもない婚約者と別れることができたのだから、それだけは救いだと思う。
(早く、元気になってくれたらいいわ)
 しばらくは田舎の領地で療養するのだと言って、彼女は静かに王都を去っていった。

「「カタリーナさま、大変申し訳ありませんでした……!」」
 起き上がれるようになった翌日、友人二人が揃って見舞いにきてくれた。
「どうして謝るの? あなたたちのお陰で私は助かったのよ」
 カインズ卿からダンスに誘われた私を見た彼女たちは、ちょうど巡回でその場を離れていたアデルを探し出して、急いで戻るよう進言してくれたのだ。
「いいえ、せめて私たちどちらかが残るべきだったのです! グライスナー卿にあんなに頼まれていたのに、目を離してしまうなんて……!」
「頼まれていたってなに?」
「「えっ!?」」
 暖かい日が差し込むコンサバトリーで彼女たちに向かって首を傾げると、二人とも視線を泳がせた。
 なんて分かりやすい人たちだろう。
「口止めされていたのね」
 ため息を吐きだす私に向かって、二人は慌てて身を乗り出す。
「約束ですから!」
「決して取引をして引き受けたわけではなく、私たちは心からカタリーナさまの身のご安全をお守りしたいと思ったのです!」
 どんな取引をしたのだろう。
 恐らく、騎士団の出入りをさせてもらうとか、そんなところだろう。
「いずれにせよ助かったわ。ありがとう」
 アデルが来てくれなかったら、私はどうなっていたか分からない。
 改めて礼を言えば、なにかを思い出したように二人はほうっ、とため息をついた。
「でも、本当にカタリーナさまは愛されているのですね」
「本当に。カタリーナさまの危機を聞いて駆けつけたグライスナー卿の勇ましさと言ったら、本当に素敵でしたわ」
「扉を蹴破るお姿なんて、物語に出てくるヒーローそのものでしたもの!」
「え、あなたたち、あの場にいたの?」
「もちろんですわ! 推しカプの行く末を見届けずにファンは名乗れませんもの!」
「ファン」
「捕らえられたカインズ卿に向かって、抑えきれない怒りを滲ませて詰め寄るお姿なんて、もう最高な舞台を間近で見させていただいた気分ですわ!」
「カタリーナさまのお姿は自分だけのものだからって、周囲の騎士たちを帰らせたのも本当に……!」
「なにそれ私も見たかったわ! ずるいわあなたたち! そんなのを近くで見ていたなんて!」
「いいではありませんか、カタリーナさまはヒロインなんですもの」
「そうですわ、私たちは純粋に推しカプを推しているだけですのよ」
 アデルが怒るなんて見たことがない。そんな貴重な場面にを見逃すなんて!
「お嬢さま、グライスナー卿がお見えになりました」
「そう……、えっ!? どうして!? 来るなんて聞いていないわ!」
 そんな約束をしていただろうか。簡素な部屋着しか着ていないし、化粧だって少ししかしていない!
「あらあら」
「まぁ!」
 友人たちは嬉しそうな声を上げると、サッと立ち上がった。
「それでは私たち、これで失礼いたしますわ!」
「えっ、待って、まだ聞きたいことが……」
 そのときの様子をもう少し詳しく!
「ご本人にお聞きになればいいじゃないですか」
「あらでも、二人きりになるとそれどころではないかもしれませんものねぇ」
 二人は「ねぇ~」と、顔を合わせて意味深な笑みを浮かべた。
「それではこれで失礼いたしますわ!」
「あっ、私たちは裏口から出ますのでお構いなく!」
「ちょ、ちょっと……!?」
「お嬢さま、グライスナー卿をお通ししてもよろしいですか?」
「えっ!? いっ、いいわよもう!」
(お化粧くらい直したかった!)
 慌てて近くに置いていたストールを肩からかけて、ガラスに映った姿を確認する。
 部屋着なのでゆったりしているし、色も地味で野暮ったい。化粧も薄くて子どもっぽい気がする。
(こんな姿、見せたくないのに!)
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