【完結】イケメン好きだけどあなたの顔がいいと思っていることは知られたくありません!

かほなみり

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マナーについて

 
「カタリーナ様!」
「おはよう。どうかしたの?」

 近くの公園に馬車を横付けし、そこから徒歩で騎士団の詰め所に向かっていると、すでに騎士団に来ていた友人二人が小走りに近付いてきた。

「カタリーナ様、見てくださいませ、あの馬車!」

 視線で指し示す騎士団の入り口を見ると、大きな黒い馬車が入り口を塞ぐように路上に停まっている。

「あの家紋は……」
「非常識ですわ! あそこは騎士の方たちが出入りする入口でもあるのに!」

 入口周辺には他の貴族令嬢もいるが、恐らくあの家よりも家格が下か付き合いのある家門なのだろう。言い出しにくいのかチラチラと横目で見るだけで誰も何も注意する者がいない。御者と従者はその視線を分かっているのかいないのか、気にする様子もなく世間話をしている。
 私はスカートの裾を少し持ち上げて、大股で馬車に近付いた。友人たちが小走りで後をついてくる。

「ちょっとあなたたち! ここは公道であり騎士団の詰め所入り口前よ。一体どんな有事があってこんな愚かなことをしているの⁉」

 腰に手を当てて馬車の御者席を見上げながらそう言うと、煙草を吸っていた御者が眉根を寄せて見下ろしてきた。

「おいお嬢さん、この馬車がどこの馬車か分かって言ってんのか」

 ぎろりと睨みつけてくる従者の男。騎士団には平民の女性も多く集まるので、私もあまり派手になりすぎないデイドレスにシンプルなボンネットをかぶっている。そのためか、私がただの通りすがりくらいにしか思わないのだろう。

「そうね、こんな素養のない人間を雇うなんて、大したことのない家門なんじゃないかしら」
「なんだと⁉」

 御者席から従者が飛び降りた。「ひっ」と小さく悲鳴を上げて友人たちが後ろに下がる。

「ホラン子爵様は素晴らしい御仁だとお聞きしているけれど、お忙しすぎて屋敷の事には手が回らないのね」
「おい、黙ってりゃ調子乗りやがって……!」
「貴族の家に仕えると言うのなら、まずは自分自身の振舞いを省みなさい!」

 ビシッと人差し指を従者に向けると、従者はわなわなと肩を震わせ顔を赤くした。こんなに人が大勢いる前で何かすることはないだろう。あ、でも頭が悪そうだから分からないわね?

「おやめなさい」

 そこに、騎士団の入口から声がかかった。ちらりと視線を向けると、胸元が大きく開いたドレスを纏った、赤い髪の令嬢がやって来た。後ろには困った顔の衛兵がいる。

「わたくしの従者がどうかしましたか?」
 
 にっこりと微笑み首を傾げるその顔は、やはり私が誰だか分かっていないようだ。品定めをするように目を細め、私をじっくりと見ている。まさか貴族の自分が文句を言われるなんて思っていなかったんでしょうね。

「このような場所に馬車を停めていては騎士団のご迷惑になります」
「まあ、そんな……騎士様に日頃の感謝を込めて差し入れをお持ちしただけですわ」

 令嬢はわざとらしく振り返り、後ろにいた衛兵に視線を送る。衛兵は困ったように頭を掻いた。
 
「騎士団では個人的な差し入れは受け入れておりませんわ。差し入れをすると言うのなら、家門を通して正式に騎士団へお送りすべきです。こんな風に突然やって来るのは非常識ではありませんか?」

 その言葉に令嬢はすっと表情を鋭くした。
 
「騎士様がご判断なさることですわ。どうかはお気になさらず」

 あ。これ、私が貴族ではないと判断したわね。
 令嬢は私に背を向けると、下から覗き込む様に衛兵の顔を覗き込んだ。完全に顔を赤くする衛兵。
 ちょっと衛兵! しっかりしてよ! 何なのよ、ほんと男って!
 
「騎士様……今回だけ、こちらを受け取っていただけません? このままでは無駄になってしまいますし……、あ、もちろん中へ運ぶのをお手伝いいたしますわ」

 なるほど、中に入ろうとこんな事をしているのね。見た目とおり手口が姑息ね!

「規則は規則です、お持ち帰りになってください」

 常より少し低い声で念押しすると、令嬢の瞳が鋭くこちらを睨みつけた。

「この場に置いていくわけにもいきませんもの、とりあえず中に運びましょう」

 その言葉を合図のように、従者が馬車から荷物を運び出し始めた。

「ちょっと、いい加減になさい!」

 従者の前に立ち塞がり、その両手に抱えていた箱をグッと抑えると、行く手を阻まれた従者が険しい顔で私を睨みつけた。

「邪魔だ、どけ!」

 従者は持っていた箱を乱暴に横に振り、私の身体を箱で振り払うように押しのけた。

「きゃ……っ!」

 身体を押しのけられ大きくバランスを崩し、衝撃に備えてギュッと目を瞑る。
 けれど次の瞬間、ふわりと身体が柔らかく受け止められた。
 驚いて背後の人間を見上げると、濃紺の詰襟の隊服に金の釦、肩章。王都騎士団の隊服を身に纏った騎士が私を背後から抱き留めていた。くすんだ金色の髪がふわりと揺れ、青灰色の瞳がふわりと細められた。
 
「大丈夫ですか」

 途端、周囲でハラハラと見守っていた女性たちから、きゃーっと黄色い声が上がった。
 なに、有名人なのね? 確かに凄く美丈夫だとは思うわ、イヴァン様には敵わないけれど。
 騎士はふっと息を吐きだすと、周囲を見渡した。
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