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軽い男
グライスナー卿に案内され、騎士の鍛錬場を初めて見学した。
多くの騎士が、数人、または一人で鍛錬を行っている。走り込む者、剣を合わせる者。
そして私の神、イヴァン様は案内された場所から一番離れた場所で、友人と剣の稽古を行っていた。
なんて美しいのかしら! 汗までもがキラキラと光り輝いているわ!
叫び出しそうになる衝動を抑えじっと訓練を見つめていると、隣に立っていたグライスナー卿がふっと笑った。
「……何か?」
「あ、いや……、貴女もやはりイヴァン目当てですか?」
その言葉に顔を向けると、アデル・グライスナーは困ったように眉尻を下げている。
「分かっていて通されたのでは?」
「あ、うーん、そうかもなとは思ったんですけど、でも貴女はちょっと違うかなって。やっぱり違ったからなんか嬉しくて」
「何を仰いたいの?」
「イヴァンを見ると、女性ってみんな叫ぶんですよねぇ。何とかアイツに自分を見てもらおうと必死って言うか。でも貴女は違いますよね。さっきも、貴族ってだけで規則から逸脱しようとした令嬢を撃退してくれたし」
鍛錬場に視線を向けながら話すグライスナー卿の横顔をぼんやりと見上げる。やっぱりこの人、凄く素敵じゃない……? ものすごく顔が好みだわ。隊服も似合ってるしスタイルもいいしちょっとノリが軽いけどものすごくタイプだわ! じゃなくて! 何考えてるの私⁉
ぱっと視線を訓練場に戻しイヴァン様を見る。鍛錬場で同僚の騎士と楽しそうに話をしている姿が見えた。貴重だわ。貴重な笑顔だわ! 尊い……! こっちに集中しなさいカタリーナ!
「……私はイヴァン様と知り合いたいなどと思っていませんから」
「そうなんですか?」
「ただ、こうして遠くから見ていたいだけです。邪魔になりたくないし、邪魔をする者が許せないだけです」
「それはイヴァンを好きっていう事とは違うんですか?」
「違うわ! 押しかけてくる人たちと一緒にしないで」
「してませんよ。……かっこいいですね、ドルマン嬢」
私を見てふわりと優し気に微笑むその顔に、グッと息をのむ。何かしらこの美丈夫は! かっこいいだなんてレディに言う言葉じゃないわよ!
ぱっと視線を逸らしイヴァン様のお姿を見つめる。
集中よ、集中! こんな機会めったにないんだから、神のお姿をこの目に焼き付けるのよ!
「かっこいいだなんて、は、初めて言われたわ」
「美しいのにかっこいいなんて、そんな素敵な女性に俺も初めてお会いしました」
カッと顔が熱くなる。
「わ、私は気が強くてっ! 女性らしさが足りないと言われるものですから!」
「ほんとに? あなたほどの女性なら夜会では多くの男性に声を掛けられるでしょう?」
「それは社交ですから! 社交辞令よ!」
「気が強いことは褒めてくれない?」
隣のグライスナー卿が首を傾げて私の顔を覗き込んできた。近い! ちょっと近いわ!
「そっ、そういうグライスナー卿だって女性に人気ではありませんか!」
「アデル」
「あ、え?」
「アデルと呼んで下さい、カタリーナ嬢」
「か、勝手に私の名前を呼ばないでちょうだい!」
「どうして? 折角お近づきになれたんだからいいじゃないですか。俺のこともアデルって呼んで下さいよ」
「いやよ!」
「え~! そんな全力で拒否しないで下さいよ! 傷付くじゃないですか~」
「他の方に呼んでもらえばいいのよ!」
「俺は貴女がいいんですってば」
「いや!」
「ひどい、イヴァンのことは呼ぶのに!」
「そ、それは……!」
ぐうっと返事に困ると、俯く私の視界に首を傾げて無理やり視線を合わせてくる。
「ね、お近付きのしるしにまたここに来てもいいですから。アデルって呼んで下さい」
「呼ばないわ! ここには、今日のお礼として来ただけです! そ、そんな、特別扱いみたいなのは駄目です!」
「え~、貴女は特別なのにぃ」
口を尖らせて拗ねたように言う美丈夫。何よその顔⁉ 可愛いつもり⁉
「何言ってるの⁉ もう帰ります! 行くわよあなたたち!」
「あっ、カタリーナ嬢!」
「名前を呼ばないでって言ったでしょう!」
グイっと近付いてきたグライスナー卿を押し返し、急いでその場を後にした。後ろで友人たちが何を話しているかなんて分からないほど、私は混乱していた。
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