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うたた寝
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『ジンリュウ様、ご自宅に着きましたよ』
うっすらと開いた瞼の隙間から見えたのは、眼鏡をかけ知的な表情をしている女の顔だった。
『うむ…』
ジンリュウは背もたれに預けていた身体をおもむろに起こすと、視線だけを動かして馬車内を見回した。
『うたた寝なんて珍しいですね。
今日という日は、流石の超人もお疲れになりましたか?』
扉を開けて外に立つ女は、ジンリュウへと微笑みかける。
『昔の夢を見ていた…。
超人…いや、化け物と呼ばれていた頃の懐かしい夢じゃ…』
『今でも、ジンリュウ様は十分に…化け物ですよ』
女が促すように、右手を差し出すと
、ジンリュウは両手で杖を握って立ち上がり馬車から降りる。
そこには、女の他にもう1人の男が立っていた。
ジンリュウを見下ろす程の巨体のその男は、堅い表情のまま大木のように聳えている。
すっかり夜も更けて、ぽっかりと浮かぶ満月に照らしだされたのは、シャーハン中心地にある王宮付近の閑静な高級住宅地。
『ほら、何ぼーっと立っていますの*バイパー*。
門を開けて、ジンリュウ様をお連れしますわよ』
『俺に命令するな*アパッチ*。
俺はジンリュウ様にしか従わん』
バイパーと呼ばれた男が堅い表情のまま返す。
『貴方、そんなことでよく内警が務まりますわね』
アパッチが眼鏡に指を添えながらバイパーを睨む。
『お前こそ、そんな貧弱メガネのくせに、よく内警が務まるな』
『はい~?眼鏡は関係ありませんよね?自分に合うサイズの眼鏡が無いからって妬まないでくださる?
だいたい、図体だけが取り柄の貴方と馬車に乗ったら、狭くて狭くてしょうがないんですよ。
少しは自重してくださらないかしら?』
『別に視力に問題があるわけではないから、俺に眼鏡は必要ない。
というか、そういうお前も最近少し太っ…』
『うぉらぁあああーーー!!』
アパッチのドスの効いた声がバイパーの声を掻き消す。
そんな二人の様子にジンリュウは特に反応も見せずスタスタと歩き、自ら木製の門を開けて中に入ってゆく。
『ああ、お待ちくださいジンリュウ様!』
アパッチが慌てて駆け寄るが、ジンリュウは掌を見せてそれを制した。
『例の件…ぬかるでないぞ』
ジンリュウのその言葉に、一瞬にして場の空気が変わる。
『お任せください。
必ずや御期待に添えて見せます』
アパッチがそう微笑むと、後ろに立っているバイパーが無言で頷いたのだった━━━…。
『こんな所で何をしておる』
戸を開けたジンリュウは、一面木製の床が敷き詰まった広い部屋の中央で正座している人物へと声を投げた。
ジンリュウは元老院の長老という職の傍ら、門下生80人を抱える剣術道場の師範代でもある。
そして、自宅と隣接しているここは稽古場であり、この時間消えているはずの灯りに呼ばれてジンリュウがやって来たのだ。
『聞こえぬのか?』
ジンリュウの呼びかけに返答はなく、数本の蝋燭の炎が揺らめく薄暗い部屋の中で、その人物は正座の姿勢のまま微動だにしない。
その様子に何かを察知したように溜め息をついたジンリュウは、道場内へと足を踏み入れると、音を立てぬようにゆっくりと戸を閉めたのだった。
うっすらと開いた瞼の隙間から見えたのは、眼鏡をかけ知的な表情をしている女の顔だった。
『うむ…』
ジンリュウは背もたれに預けていた身体をおもむろに起こすと、視線だけを動かして馬車内を見回した。
『うたた寝なんて珍しいですね。
今日という日は、流石の超人もお疲れになりましたか?』
扉を開けて外に立つ女は、ジンリュウへと微笑みかける。
『昔の夢を見ていた…。
超人…いや、化け物と呼ばれていた頃の懐かしい夢じゃ…』
『今でも、ジンリュウ様は十分に…化け物ですよ』
女が促すように、右手を差し出すと
、ジンリュウは両手で杖を握って立ち上がり馬車から降りる。
そこには、女の他にもう1人の男が立っていた。
ジンリュウを見下ろす程の巨体のその男は、堅い表情のまま大木のように聳えている。
すっかり夜も更けて、ぽっかりと浮かぶ満月に照らしだされたのは、シャーハン中心地にある王宮付近の閑静な高級住宅地。
『ほら、何ぼーっと立っていますの*バイパー*。
門を開けて、ジンリュウ様をお連れしますわよ』
『俺に命令するな*アパッチ*。
俺はジンリュウ様にしか従わん』
バイパーと呼ばれた男が堅い表情のまま返す。
『貴方、そんなことでよく内警が務まりますわね』
アパッチが眼鏡に指を添えながらバイパーを睨む。
『お前こそ、そんな貧弱メガネのくせに、よく内警が務まるな』
『はい~?眼鏡は関係ありませんよね?自分に合うサイズの眼鏡が無いからって妬まないでくださる?
だいたい、図体だけが取り柄の貴方と馬車に乗ったら、狭くて狭くてしょうがないんですよ。
少しは自重してくださらないかしら?』
『別に視力に問題があるわけではないから、俺に眼鏡は必要ない。
というか、そういうお前も最近少し太っ…』
『うぉらぁあああーーー!!』
アパッチのドスの効いた声がバイパーの声を掻き消す。
そんな二人の様子にジンリュウは特に反応も見せずスタスタと歩き、自ら木製の門を開けて中に入ってゆく。
『ああ、お待ちくださいジンリュウ様!』
アパッチが慌てて駆け寄るが、ジンリュウは掌を見せてそれを制した。
『例の件…ぬかるでないぞ』
ジンリュウのその言葉に、一瞬にして場の空気が変わる。
『お任せください。
必ずや御期待に添えて見せます』
アパッチがそう微笑むと、後ろに立っているバイパーが無言で頷いたのだった━━━…。
『こんな所で何をしておる』
戸を開けたジンリュウは、一面木製の床が敷き詰まった広い部屋の中央で正座している人物へと声を投げた。
ジンリュウは元老院の長老という職の傍ら、門下生80人を抱える剣術道場の師範代でもある。
そして、自宅と隣接しているここは稽古場であり、この時間消えているはずの灯りに呼ばれてジンリュウがやって来たのだ。
『聞こえぬのか?』
ジンリュウの呼びかけに返答はなく、数本の蝋燭の炎が揺らめく薄暗い部屋の中で、その人物は正座の姿勢のまま微動だにしない。
その様子に何かを察知したように溜め息をついたジンリュウは、道場内へと足を踏み入れると、音を立てぬようにゆっくりと戸を閉めたのだった。
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