夏至祭・BL短編集

つらつらつらら

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暴力表現を含む作品

夜が来る

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 無理やり連れ込まれた小部屋……というより牢屋と呼ぶ方がしっくりくる狭い場所で、少年は夜の訪れをなんとはなしに迎えていた。

 手首に太い縄を巻いて、さらに鎖で動きを封じてある。両手を動かすと金属の音がガチャガチャと石壁に響いた。
 こんなに厳重に閉じ込めなくったって、ぼくは逃げ出す気なんてないんだから。そんな意思も薄弱として頭がぼんやりしている。

 町の長老たちが集まっていた部屋の陰では香がかれていて、妙な匂いがした。心の隙間から奥の方へ忍び込んでくる「何か」は容易に少年の弱い場所を支配した。自分で何かを決めたり嫌だと言ったりする気力がえた。長老の最後の質問に無言でうなずいていたところまでは覚えている。

 食事は先ほど済ませた。量は満足いくものではないが、きちんとパンとスープが皿に盛られて出てきたので、少しは人間扱いしてくれているのかなと首をかしげながら、こり固まった両手をどうにか伸ばして床に置かれた盆からパンを取った。

 いつ殺されるのだろう。

 いのちを延ばす食事をしながら、少年はいのちの終わりについて考えていた。
 皿はあっという間に空になった。あとは寝るだけだ。部屋の隅にささやかにわらが敷いてある。石の上で寝るよりはましだろう。少年はっていくと、ごろりと横になった。ため息がもれる。

 ここは暗くて採光窓から入ってくる月明かりしか頼りにならない。ちょっと振り返って部屋の外を見れば、通路をだいぶ歩いた先にろうそくの赤い光がチラチラ揺れている。そのわずかな光は遠く、目を細めても文字のひとつ読めたものではない。冷たい壁に釘か何かで刻み込まれた過去の誰かの叫びは少年の目に入らなかった。

 少年は目を閉じた。光を求めるのはやめた。
 明日になれば勝手に明るくなるのだ。

 看守の見回りは滅多になく、少年は周りにわずらわされることなく眠りについた。
 すう、と寝息を立てていくらかすると、カチャン、と背中で固い音がした。少年は気がつかない。ぐんぐん深い眠りへ泳ぎ進んでいっている彼の後ろに、大きな人影が幽霊のようにたたずんでいた。

 その男は明かりも持たず、暗闇の中でひざまずくと、規則正しく上下する少年の肩に手を置いた。ゴツゴツとした、野良仕事で黒くなった大きな手だ。長老が手配した看守は見回りと称して少年の身体をまさぐっていく。
 少年は一度身じろぎして、やはり目をまさなかった。疲れている。

 大きな手は少年の柔らかな肉の感触を確かめるように二、三度指を肌に食い込ませ、そのまま斜めに滑り下りて腰周りを探った。迷いなく少年のズボンに手を忍び込ませる。小さなぬくもりは無防備に横たわっており、背後の男の意のまま外へさらけ出された。

 突然痛い所をつかまれて、少年は悲鳴と共に飛び起きた。いや、飛び起きたかったのだが、実際はなにか大きなものに押さえ込まれていて首を巡らすのがやっとだった。暗くて見えない。人だ。少年は体が痛い理由を知ってさらにゾッとした。
 自分におおいかぶさっているのは大人の男だというのは体格でわかった。生暖かい息が間断なく耳元をめる。本当に舌で舐められるのではないだろうかと思うと逃げ出したかった。

 必死で抗議してもぞもぞと身もだえするも力の差は歴然としていて男はびくともしない。かまわずに少年のしんを丁寧にさすって火を点けようとしている。
 眠りから醒めたばかりの少年はすぐには反応できなかったが、だんだん意識がはっきりしてくると自分が何をされているのか理解して声を上げた。しかし誰にも聞こえない。

 服を半分脱がされて、いいようになぶられている抜き身は少年の意志を裏切ってついに感応を始めた。
 少年の体に変化が起きたことで男はいよいよ呼吸が荒くなり、体を密着させて抜き身をしっかり握った。強く上下されると少年も否が応でもその刺激に甘んじてしまう。油断すると身を委ねてしまいそうだった。男の手は的確に雄の弱点を極めていた。知らない男、初めての感覚に少年は戸惑いと不本意な好奇心で身震いした。

 男は少年を痛め付けようとしているわけではないようだった。ただ貪欲に手を動かして思春期の欲求を身体の内側から引きずり出してくる。抗えなかった。隠そうとしても逃げようとしても、恥ずかしさなど意にも介さず男は少年を追いかけ、追いつめ、秘められた慾望をあらわにする。

 時間と共に積み重なっていく快楽は理性をねじ伏せ、やがて少年の呼吸も大きくなり、陰湿な牢獄で過熱した密事が行われる。少年の黒髪は汗を含んで、千々に乱れた。
 いまや少年の身体は上にかぶさる男が支配する物であり、与えられる痛みはすべて快と感じた。

 少年の二の脚が痙攣けいれんを始めた。だが男は快感を巧みに操って慾望の解放を阻止した。反動で少年は夢中で腰を振る。どうにかしてこの苦痛から飛び出したい一心で男の手に意識を集中させた。もう恥もなにもあったものではない。下を向いて半開きになった口から唾液が垂れる。かまわずに腰を振った。


 力が抜けてぐったりと藁の上に突っ伏して、ようやく目を開けるまでどれくらい時間が経っただろう。やってしまったこと、過ぎてしまったこと、許してしまったこと、すべてを肯定できる全能感に包まれて、少年は呼吸が落ち着くのを待った。

 男は少年の身体が一段落したのを見届けると、素早く身を起こし歩いて牢の門を開けて、バンと閉めた。ガチャリと鍵をかける。始まりも終わりも一言もなく、一方的に少年の身体を翻弄ほんろうして去っていった。看守は振り返りもせず小さく足音を立てて所定の位置に戻っていった。

 残された少年は余韻を味わいながら薄目を開ける。起き上がる気力は残っていなかった。ごろりと仰向けに寝返りをうつと、かせをはめられた不自由な手で服を整えた。何も考えたくない。黒い天井をどんよりと見上げ、もう半回転して石の床へ身を投げ出した。冷たい肌触りが火照った顔に心地好かった。もう今夜はここで寝てしまおう。少年は再び目を閉じる。まぶたの裏は真っ暗闇。光が差すのはまだ何時間も先だ。


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