推しの速水さん

コハラ

文字の大きさ
上 下
29 / 150
2話 速水さんからのオファー

《13》

しおりを挟む
「ゆりさん、その話、よく覚えていたね」
「印象的だったから覚えていたのよ。速水くん、新人の子に自宅マンションまで来られたって言ってたじゃない。そのせいで引っ越す事になったんでしょ?」
「あの時は作品作りに熱心になり過ぎたというか。彼女の中で付き合っている事になっていたとは思わなかった」
「今回もそんな事にならないように気をつけなよ。速水くんって昔から変な子に好かれるのよね」
「あれから、作家さんとはちゃんと線を引いて付き合うようになったよ。それに『今日ドキ』の作家さんは僕を怖がっているようだったし、そんな感情は抱かないよ」
「だといいけど」
「あ、でも『好き』って言われた」
「ちょっと速水くん、気をつけなよ。またナイフ向けられる事になるよ」
「あんな事にはもうならないって」

ハハっと笑う速水さんの声を聞いて、いろいろと自分がヤバイ事をしている事に気づく。

まず『速水さん、好き』を速水さんがちゃんと聞いていたとは思わなかった。スルーされたから聞こえなかったと思っていたのに。

それに新人の子の話……。
背筋がゾクッとした。

速水さん、明るい調子で話していたけど、自宅まで来られて、ナイフまで向けられたなんて、かなり怖い思いをしたはず。

私の推し活を知ったら、速水さん、私をストーカーだと思うよね。それで前の事を思い出して、きっと嫌な思いをさせる。もしかしたらトラウマになるレベルかも。

推しの速水さんに精神的ダメージを与える訳にはいかない。
私の存在が速水さんの迷惑になるなら、これ以上、関わってはいけない。

私に幸せをくれた速水さんを不幸にしたくない。速水さんにはいつも幸せでいて欲しい。

悲しいけど、推し活は今日で終わりにしよう。
TL小説もお断りして、速水さんとの関わりを完全に絶った方がいい。そうすれば私の推し活がバレる事もきっとない。
しおりを挟む

処理中です...