推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《13》

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アポも取らずに訪問するというミスを今回はしなかった。速水さんとメールでやり取りをして、水曜日の午後3時、集学館で会う約束をした。その事をいくちゃんに話すと、速水さんの所に行く前にいくちゃん家に来るように言われた。

何かよからなぬ事を考えているようだったが、言い出したら聞かない事を知っているから、素直に従った。

いくちゃんは単身向けのマンションに住んでいる。間取りは10畳のワンルームで、私の実家の部屋より広くて羨ましい。

「美樹、ちゃんと持って来た?」

玄関ドアから勢いよく出て来たいくちゃんに聞かれた。

「デパートで買った服とコスメ持って来たよ」
「服は着てくれば良かったのに。その方が荷物減るでしょう」

その通りだけど、母と兄にからかわれそうだったし、大学でも目立ちたくなかったので、いつもの電柱色の服を着ている。

「とりあえず、着替えようか」

いくちゃんの部屋に上がり早速着替える事になった。
ショッピングバッグから取り出したのはアイボリーのニットワンピ。

いくちゃん曰く、アイボリーという色はちょっと黄色が入っているらしいけど、私の目から見たらほとんど白だ。

眩し過ぎる。
白い服を着たのは高校で着た学校指定の体操服以来……。

はあ。気が重い。

「いくちゃん、本当に着るの? 私には神々し過ぎるんだけど」
「ちゃんと美樹に似合うから大丈夫だって」
「本当に似合う? ハロウィンの仮装にならない?」
「お店で試着した時、凄く素敵だったよ」
「あれはお店だったからそう見えて」
「ごちゃごちゃうるさい。さっさと着替える。メイクもしなきゃいけないし、髪型も作らないと。ほら、時間ないよ」
「えっ、髪もいじるの?」
「当然でしょ」
「やり過ぎなのでは」
「美樹は何もしなさすぎなの」

いくちゃんに叱られながら、ニットワンピに着替え、ドレッサーの前に座らされた。
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