推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《20》

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ところで、ゆりさんはもう帰ったのかな? 少しだけって言ってたし、ちょっとした用事だったのかな。

振り返って公園の方を見る。ゆりさんらしき人影はない。

「卯月先生、どうされました?」

ゆりさんの事を聞きたいけど、聞いたら私の推し活がバレる切っ掛けになるかもしれない……。

余計な事は言わないでおこう。

「いえ、何でもないです」
「本当、お待たせしてすみませんでした。実は知り合いに掴まっていまして」

ゆりさんの事だ。速水さんから言ってくれたから、ちょっとだけ聞いても大丈夫だよね。

「いえ。全然。あの、知り合いの方はもうお帰りに?」
「ええ。用事は済みましたから」

良かった。ゆりさん帰ったんだ。

速水さんが僅かに左の口端を上げ微笑む。

キュン!

色気と可愛らしさを感じる完璧な微笑み!

くぅー速水さん、カッコイイ!

こんな近くで速水さんが見られるなんて幸せ♡
背中に羽根が生えてるみたいに足が軽い。

ふわふわした足取りで駅に向かっていたら、前から歩いてくる女性たちの視線が速水さんに向いている事に気づいた。

あの人カッコイイ。なんて声も聞こえてくる。

でしょ。でしょ。私の推しの速水さんは素敵なのよ。

あっ、また速水さんの事をカッコイイって通り過ぎた子たちが話してた。

うふふ。そのカッコイイ速水さんを今、独占出来ている事が嬉しい。

「卯月先生、聞いてましたか?」

駅前のロータリーで立ち止まった速水さんが私を見た。

「え、えーと。すみません」

速水さんの麗しい横顔を観察するのに夢中で全く聞いていませんでした。

「電車ではなく、タクシーに乗りますと言ったんです」
「あ、はい。タクシー。了解しました」

え……。

速水さんとタクシー!
タクシーって事は速水さんとほぼ二人きりの密室空間!

う、嬉しいけど、緊張する。
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