雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と仙台出張

《4》

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仙台は東北地方一の大都会というイメージがあったけど、広がる景色は山、山、山……。

雨宮課長が運転する5人乗りのコンパクトカーから見える景色は山ばかり。
仙台市街を離れるとこんなに自然豊かなのかと思う。

それにしても運転に慣れた感じでハンドルを握る課長、素敵。

進行方向に視線を向ける鼻筋の通った横顔が麗しい。なんて尊い姿を私は今、見ているのだろう。助手席がこんなに特等席だとは知らなかった。人気アーティストのコンサートを最前列で見る以上に興奮する。追い詰められる事ばかり続いたけど、雨宮課長と仙台に来られて良かった。

「山奥でびっくりした?」

静かな声で課長が口にした。

「いえ。あの。自然がとても豊かでほっとします」
「そうだね。これだけの自然を普段は見ないからね。本当に懐かしいな。ここに来たのは15年、いや、10年ぶりか」

課長が独り言のように呟く。

「課長、こちらにはよくお越しに?」

課長の口ぶりから頻繁に来ていたような気がした。

「『フラワームーンの願い』は今から行く映画館で撮影したんだ」

知らなかった。
課長、撮影の時から関わりがあったのかな。

「映画館が出てくるお話なんですか?」
「うん」

課長は運転しながら映画のストーリーを話してくれた。

フラワームーンとは5月の満月の事で、5月の満月の日に、過去に強い未練がある者がある映画館で映画を観ると過去に戻れる。

主人公の中年男はそんな映画館の事を知らずに古びた映画館で映画を観る。そして、気づくと20年前の過去の世界にいた。

男は20年前に別れた恋人の事をずっと引きずっていた。しかし、その恋人が亡くなったという事を聞き、付き合っていた頃によく足を運んだ映画館に行ったのだった。

そして過去の世界で若いままの恋人と出会い、自分たちが別れた原因がすれ違いだった事を知る。男は満月に願う。恋人が幸せな人生を送れるようにと。

願いながら男が目を覚ますと元の古びた映画館にいた。そして過去から戻って来たその世界では亡くなったはずの恋人が生き返り、他の誰かと結婚していたという結末を迎えるが、男は恋人の幸せな現状を知り満足するという話だった。

「この映画で佐伯リカコは恋人役を演じていたんだ。そして脚本を書いたのは雨宮拓海。つまりこの俺」

さらっと付け足すように課長が言った映画情報にハッとする。

「えっ! 雨宮課長が書いたんですか!」

驚きのあまり、声が大きくなった。
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