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第一部
01 私だけの「ロボットさん」
しおりを挟むマキナとの出会いは正に運命的なものだと誰もが感じた。当の本人は「そんなの」と鼻で笑うような、すれた幼女だった。
五歳のロゼは、ある晩、孤児院からこっそり抜け出そうと試みた。
柵の隙間を探して敷地内を歩いていると、契約して間もないマキナにあっさり見つかってしまった。
『叱られる』ロゼは瞬時に悟った。
しかしマキナは、小さな主人を叱るのではなく、連れ戻しもせず
「ロゼ、お外へ出たいのですか?」
と質問を一つ投げかけた。
「べ、べつに?」
そっぽを向くロゼは、つまらなそうに柵から手を離した。
マキナは、そんな態度のよろしくない少女を無表情で見つめた。
そして柵に目を移すと
「ロゼ、こちらへ」
と言って主人を手招いた。
ロゼがちっとも動じないので、マキナの方から近づいて目を瞑る少女の体を抱きあげた。
「しっかりと捕まっていてください!」
マキナはそう言った途端、孤児院の柵を少女を抱きかかえたまま飛び越えた。
メイド服ドレスはふわりと宙を舞い、外の石畳へ着地した銀のローファーはカツンと音を鳴らした。
「え、マキナ……!?」
幼女は突然の出来事に驚愕した。
「あ、怖がらせましたか?」
ロボットは無表情で問うた。
ロゼが首を振るのを見てニッコリ笑い
「そうですか」と言った。
ロゼはゆっくりと地面へ降ろしてもらい、力持ちのロボットを見上げた。
「それでは――」
マキナは小さな主人を見下げ
「目的の場所は何処でしょう?」と問いかけた。
「えっ」
「主人の赴くままに。私は何処までも付き従いますよ」
「え、でも……『寝る時間ですよ』、言わないの?」
「そうですね。就寝時間です」
小さな主人はパジャマの袖をギュッと掴んだ。
「ですが――それは、〝孤児院にいるのであれば〟です。今私たちは孤児院の外です」
「でも見つかったら!」ハッとして声のボリュームを抑え「怒られちゃうよ? お外にいるの……」と言って俯いた。
マキナは表情を変えないまま
「大丈夫ですよ。デヴォート神父は、今は休憩中です」と言った。
ロゼはマキナを見上げた。とても頼もしく思えた。
すっかり安心してマキナの手を取ると、更に心が軽くなった。
少女とロボットは、手を繋いで歩き始めた。
「何処へ行きますか?」
「ううん、どこでもないよ」
「では……夜のお散歩ですね?」
「……うん。そう!」
ロゼはマキナの手をしっかり握って月明かりに反射する石畳の道を歩んでいった。
「マキナぁ……」
ロゼは目を覚ますと、孤児院の自室のベットの中だった。
体を起こして目を擦った。着ているのはいつもの寝間着だ。
あれは夢だったのだろうか。
やや残念がり、仕方なく起き上がって、椅子に腰かける休眠中のロボットに近づく。
「あ……」
ロボットのスカートの裾に小さなほつれを見つけた。
「おはようございます、ロゼ」
「あ、おはよう、マキナ……」
目覚めたロボットは主人に朝の挨拶をした。
立ち上がった彼女の所作を、ロゼはじっと見つめる。
「着替えをしましょう、ロゼ」
「う、うん……」
淡々といつも通りに仕事をするマキナを見て、やっぱりあれは夢だったのだなと幼い心で考え、少しがっかりとした気持ちになった。
「ロゼ」
「ん、なに? マキナ」
「寝不足はありませんか?」
「え……――」
それはつまり、だ。
「昨夜は随分遅かったですし、それに――」
「マ、マキナ、それって……!」
「――歩き疲れたかと。小さな体で、頑張りましたね」
無機質な笑顔だった。でもそれがすごくうれしい。
小さな胸がいっぱいになって「マキナ!」とロボットの名を叫ぶと、機械の柔らかい胸に飛び込んだ。
「はい、ロゼ」
ロボットの無機質な返答にも、ロゼは自然と笑顔がこぼれた。
顔を上げると、無表情な彼女と目が合った。
ロゼは、マキナを自分のロボットにしようと決めた。もう二度と、返品しようとは考えない。
彼女と暮らす日常を想像して、期待に想いを膨らませた。
小さな体に抱きつかれても平然としたままのマキナは、その小さな頭を撫でてあげた。
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