0と1の感情

ミズイロアシ

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第二部

04 ロボットのいる社会

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 料理が運ばれてくると、ダグラスの言った通りエリオは黙々とカレーを食べ始めた。

 いつの間にか追加で注文していたくらいだ。
 しかし顔色は晴れないようでどうしたのかと訊いたみた。するとこのような答えが返ってきた。

「いーや。ここ、俺も前から知ってんだけど……」

 ロゼは小首を傾げた。

 浮かない顔のエリオは言葉を続ける。
「シェフが死んだって聞いたから、足を運ばなくなったんだよな……」

 そう言って味を確かめるようにスプーンを口に運び、首を傾げた。

「レシピだけでここまでできるか?」
「あーそれはね」

 ロゼが謎を解いてあげた。

 所有していたロボットが生前のシェフの作り方を模して作っているらしかった。

「そっか。やっぱ死んじまったのな」

 寂しげに笑いながら、ため息をついた。
「再現度は凄えけど、この味――食べてると余計悲しくなるな」

「エリオ……」ダグラスのスプーンを持つ手が止まった。

 ロゼはカレーを食べながら
「シェフのおじいさんは亡くなったけど、このカレーは生きてるって思うんだ、私」
と言った。

「ん?」エリオは顔を上げた。

「永遠の命を得たみたいで……かっこよくない?」

「そーだね。そういう考え方もあるかも」
 ポールはそう言うとエリオの隣でパクッとスプーンを頬張った。

「……フ、そうだな。そうかも」

「うん?」ダグラスはエリオの反応にいささか驚いた。

「失った、思い出にならねえって考えると、今でも食べられるってことに感謝しねえとな」

 多少は元気を取り戻し笑ったエリオを見て、ロゼは心なしか胸の奥が熱くなった気がした。



 皆の皿の底が見え始めた頃、エリオが会話のきっかけを作った。

「俺は、今の社会――特に、ロボットサンには、疑念を持ちすぎてんのかもな」
「ここ十年くらいで、様々なことが変化したからね」とダグラスが続く。

「ロボットが登場したのもそれくらいだっけ?」

 ポールの質問にはダグラスが答えた。
「八年くらい前か。ロボットの登場イコール終戦って認識なんだけど。戦後復興期を『奇跡の五年間』と言うの、習ったばかりだろ?――」


 奇跡の五年間とは、現代社会の黎明期を指す言葉だ。
 かのアマレティアが世界中に向けて『アスカデバイス』を売り出したのが今から八年前のことだ。


「――インフラ整備や教育まで……ロボットがいなければ、今頃もきっと、ごたごたな生活だったんじゃない?」

 皆、彼の意見には納得して頷いた。

 エリオは目の前の少女を見た。

「ロゼは、その頃四、五歳か。ロボット社会は当たり前だろう?」
「うん」

「でも俺たちも十歳くらいだったから、周りは馴染んでたよ?」とポールが言った。

「おいおい、盛るな盛るな。お前はそん時、七歳のチビだったじゃねぇか」
「四捨五入すれば、俺もエリオたちも変わんないかと思ってー」
「へー……大雑把だなぁ。子どもの時の一歳って結構大きくね?」
「それを言うなら、今だってそうじゃん」
「うぇえ? そう返してくるか……」

 ダグラスは話を戻す。
「あの時も町の皆あっさり、自分のロボットだって浮足立ってた。俺らの方がはみ出し者だぞ?」
と嘲笑った。
「はあーあ、じじくさい」

「アナログ人間って言えよな!」エリオが一音一音を強調しながら言った。

「ロボット、持ってないの?」
 ロゼはまるで珍しい物を目にしたかのように三人の青年を見た。

「いいや」
「家にはいるよ。けど」
「『自家用』って感じ。お前のマキナとわけが違う」

 エリオとダグラスのお宅は、一応ロボット『アスカデバイス』がいるらしかった。

「俺ん家はまだ。じいちゃんがうるさくて」

 ポールの家は古典的のようだ。
 彼は、言い草とは裏腹に、楽しそうに笑っていた。今の生活に充分満足しているようだし、祖父との関係も良好そうだ。

 マキナの話題が出て、そろそろ退席することにした。
 
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