34 / 49
第二部 後編
07 親愛なるあなたへ
しおりを挟む「ロゼ、先ほどから何をしているのですか?」
孤児院の一室にて、ロボットは自分の主人が何をしているのか気になって仕方がなくなってしまい、声を掛けた。
年に一度のクリスマスイブだというのに、他の子どもたちと違って浮かれ遊んでいない。ロボットの目からしても不思議であった。
ロゼは机に向かって今朝から何か書き物をしていた。
時々唸ったり、椅子にもたれ掛かった。
「んー? 内緒」ペンを動かしながら答えた。
そう言われて、マキナは机を覗き込んだ。
「……書き物、ですか?」
「うん、そう。うふ、手紙だよ」
切りの良いところまで書き終えると、ようやく顔を上げた。
「誰にですか?」
「えーっと……」
マキナに真っ直ぐ見つめられ、少女は頬を真っ赤にした。
「誰に宛てた手紙ですか?」
ロボットは、質問が上手く伝わらなかったのであろうと考え、もう一度詳しく質問した。
「う~ん」
「ロゼ?」
「あーわかった! もう……」
ロゼは観念したようにロボットに向き合った。
「マキナ、これはね、私の大事な人たちへ向けた手紙なの! だから、あんまり見ないでー?」
大げさに語尾を伸ばして、まるで子ども相手に注意するような言い方だった。
「あ……はい、わかりました」
マキナは何も理解できていなかった。
主人が何かを隠そうとしていることだけはかろうじて理解できたので、ご命令通り放っておいて離れた椅子へ着席した。
ロゼはそれを見届けて、再び書きかけの便せんへ向き直った。
「……えっと……」
三人へのお礼と思いを、多少ごちゃごちゃしても構わないと、手が動くままに書き出す。
「ロゼは――……クリスマスは、楽しみではありませんか?」
「え?」背もたれを掴んで振り返った。
「もう、そこまで子どもじゃない、ということでしょうか?」
マキナは目を丸くしていた。ロゼは目を見開き、やがて笑い声を上げた。
「キャハハ! 違うよ。クリスマス――……!」
ひらめきが舞い降りて、再び手紙へ向き直った。「――うん。プレゼントは、もう、貰っちゃったから」
「え?」
「うふふ。あわてんぼなサンタさんたちだよね~」
「サンタさんに……複数形、ですか?」
ロボットは目をぱちくり瞬きした。
「うふふ、いいのいいの」
ロゼは良い文句を思い付き、手紙へ書き足した。
それ以降話しかけられなかったので、集中して一気に書き上げた。達成感で「よし……!」を声を漏らした。
しかし重要なことを思い出し固まった。
「あっ……マキナ、どうしよう!」
後ろで待つロボットに助けを求めた。
急に主人が大声を出したので、休憩中の状態にいたマキナはびっくりして飛び起きた。
「は、はい!」
主人が困っているようなので、急いで傍へ駆けると、机の上の出来上がった三通の便せんとにらめっこしていた。
「はい。ロゼ」マキナはもう一度返事をした。
「私……ポールの住所しか知らない」
「はい?」
「これだよ! エリオとダグラスの!」
と言って、二つの封筒をマキナの目の前に差し出した。
「どーしよー」折角書いたのにと残念がった。
「そうですね。エリオたちも、届けばとても喜ぶと思います」
「うんー……」
ロゼが聞きたいのは、今はその言葉ではない。
マキナは少し考える仕草をした後「ロゼ」と明るい声を出した。
「なに~……」
完全にやる気を失くしてしまったようだ。
「この三つを――」ロゼの手から手紙を抜き取った。
「んー?」不思議そうにそれを見上げた。
「一つにしては、どうですか?」
重ねられた手紙に視線を落とす。
「ええー? それじゃあ意味ないじゃん。三人それぞれに書いたん、だ、から、ね?……――あ!」
妙案を思いついたのか、机の引き出しから大きめの封筒を取り出して宛先を書き始めた。
マキナに覗かれたまま書いた宛名は「ポール・ゼファー」だった。
「マキナ、それ貸して」
「はい」
ロゼは受け取った三つの封筒を重ね、先程の大きめの封筒へ収めた。
マキナは興味ありそうに、封されるのを覗き込んで見守った。
「できた!」と小さな主人が言ったのが、まるで自分事のように嬉しかった。
「はい! できましたね」小さく拍手を送った。
ロゼは、封筒を大事そうに見つめ、そして祈るように目を閉じた。
ポストへ投函する時も「お願いします。無事に届けてください」と念じて、三人へ届くことを祈った。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる