創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

文字の大きさ
43 / 49
第二部 後編

08 戦争の焦げ跡

しおりを挟む
 
 
「あの頃は終戦間際で――……大量の無人機が、鉄の雨を降らせてた。想像もできない残忍なやり方で、人が……大勢死んだ。あそこに――」

 山を少し下った少し開けた場所を指した。

「――戦没者が眠る慰霊碑がある。遺体はね、どれが誰なのか、判別できない状態のが多くて……共同墓地なんだよね」

 人気のない寂しげな場所にその慰霊碑は建てられた。

 毎年春になれば、碑を囲むよう花一華はないちげの原種が咲き誇る。

「妹もいたって、私、ポールに聞いちゃった」
「そ……か。ポールね」
「もしかして、私に優しくしてくれるのって」

 チラッとロゼを見る。独特な表情をしていた。

 安心させるように自然と笑いかけた。

「違うよ。記憶の中で、あの子は、いつも泣いているから」
「え……」
「俺と年子で、戦時中いつも泣いてたんだよね。いつも笑っているロゼとは、似ても似つかないよ」

 聞いてくれる相手に笑って返すが、その瞳は黒く淀んでいた。

「戦争に巻き込まれて死んだから。皆――」

 慰霊碑を見下ろした。

「――俺を残して、逝ってしまったんだ」

 語尾に行くにつれ、消え入りそうな声を出した。

 もはや涙も出ない。

 言葉を発する度に心をすり減らしている。

 聞き手にはそう感じさせた。

 ロゼは、何も返せなくなってしまった。しかし話は続いた。

「独りになった俺に、〝あいつ〟がここで、

『一緒に生きよう』

って言ってくれた」

 彼の声に少し覇気が戻った気がして安心した。

「あいつ?」
「そう……エリオだよ。とても心強かった。俺も無意識に、ずっと傍にいて~……とかなんとか言ってたから。あの頃は、状況も状況で、お互いガキだったから。フッ、今は、キモくて言えたもんじゃないね?」

 前髪の隙間から目を細めてるのが見えた。いつもの笑顔に戻った。

「ううん。それがあったから、今も仲良くしてるのね」
「それは、どうかなぁ?」

 困り顔で苦笑いをした。

「相手も、もう忘れてると思う――……でも、想ってしまうんだよな。軽はずみで出た言葉なのに……深層心理で縛り付けてるみたいで? 呪いみたいに……」

 口調もいつもの調子を取り戻してくれたようだ。

 しかし台詞の内容に、ロゼは唾を飲み込んだ。

「の、のろ、のろい?」
「言葉ってさ、魔法だ。相手の感情を揺さぶれるし、自分の感情も隠せる」
「……ダグラスは……嘘つきなの?」

 彼はクスリと笑った。

「……君は、とても正直そ」

 黒い瞳で少女の顔を見た。

「どお? ロゼを妹と思わないと言うのは、本当なんだけどな……?」

 ゆっくりと距離を詰められた。無表情に近い微笑みだ。
「えっ」どう答えるのが正解なのだろう。考えている間も相手にじっと見つめられた。

 夕日に照らされる漆黒の瞳と右耳のピアスが、赤く反射した。

 彼の赤い瞳は、ロゼを捉えて離さなかった。

「続き……描かないの?」と囁き声で言われた。

「え、あ……はい」

 返事をするので手いっぱいだった。
 何だか試されているようで、しかしどう動けばいいか迷った。

 二人は暫く見つめ合ったまま動かなくなった。

 黒髪の青年は、金髪の少女の反応に吹き出すように笑った。

「『はい』って、何それ」
 いたずらに笑って、風景に視線を戻した。

 ロゼはどうして笑われているのか皆目見当が付かなかった。
 それよりも早く描き終えねばと、焦って鉛筆を動かした。

 太陽が完全に姿を消してしまうまで、もう時間が余りない。

 ロゼは、隣から視線を感じながらも、絵の完成を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...