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『なーなー。黒木ー』
『…………』
『くーろーきー』
『…………』
『くーろきくーん』
『……野間。俺は絶対に答えないからな』
ずっと話しかけ続けても知らんぷりだった黒木が、やっと返事をくれた。
もうそれだけでも嬉しくなって『黒木くん大好きっ』と言うと黒木の肩がピクリと揺れた。
『……やめろ』
『えっとね、えっとね。問二の一とね、問三の二、三、六と、問五の――――』
『……おいちょっと待て。お前、前半だけでそんなにわからないとこがあるのか?』
『うんっ。だからぁ教えて?』
ただいま一学期中間考査最終日、数学。
あちこちから『うあー! わかんねー!』『あーもうダメ終わった……』と悲鳴が聞こえる。
『駄目に決まってるだろ。ちゃんと最後まで自分で考えろ』
『もー。考えてもわかんないから聞いてんじゃーん』
『だったらお得意の声でも聞いて書け。その辺でいっぱい答えが出てるぞ?』
問題を解くときの途中経過の数字、答え、確かに教室中に数字が飛び交っている。
『黒木のいじわるっ! どこの誰が「問三の一は〇〇。問三の二は〇〇」とか考えながら書くんだよっ。どれがどこの答えかもわかんねぇわっ』
ハッキリ言ってこの力はカンニングには不向きだ。
特に数学は完全にお手上げ。数字だけ聞こえてきてもわからんっちゅーのっ。
他の教科でも、ある程度わかってるけど自信が無い、くらいの状態で受ければもうカンニングはバッチリだろう。
でも俺のように全然わからない状態で受けても、聞こえてくる答えをどこに書けばいいのかさっぱりわからないから意味がない。それでもなんとか数学以外は空欄を埋めた。
でも数学はマジで無理。
作戦変更といこう。
ここがわからないと言われたら、思わずその回答を見て心で読み上げるかもしれない。よし、それでいこう。
『黒木くーん。問三の一がわかんないよー!』
よしっここで黒木の心を読むっ!
『………………』
ん? 無? 無心か?
え、なんで、そんなことある?
俺はもう一度黒木の心を読んでみた。
『………………』
無……だ……。
なんで……?
え……さっきまで聞こえてたのに。
みんなの心はうるさいくらい聞こえんのに。
なんで黒木だけ聞こえねぇの?
なんで黒木だけ?
黒木だけ聞こえるならまだしもっっ!!
黒木の心だけ聞こえなくなるなんてやだっっ!!
死ぬほど怖くなって心が悲鳴をあげた。
『黒木っっっっ!!!!』
「ぅわ……っ!」
黒木が身体をゆらして声を発した。
「どうした黒木?」
「……あ、すみません。なんでもありません」
「テスト中に驚かすな」
「……はい」
一列挟んで斜め後ろの席から、黒木が横目で俺をギロッと睨んできた。
『……おい野間』
『……っ! 黒木! ゔゔぅぅー良かったぁ! 聞こえるぅっっっ!!!』
『…………だからうるさいっ! なに言ってんだ? いまお前のせいで俺がどうなったかわかってるのか?』
『ご……ごめんっ! だ、だって……黒木の心が急に読めなくなったから………………怖く……なって……』
良かった。黒木の心の声が聞こえた。俺を呼ぶ声が聞こえた。心の底からホッとした。
呼ぶ声だけじゃなく、読めばまた聞こえてきた。
『心が読めない……? なぜだ……俺もそんな経験はないぞ……』
ああ良かった。本当に良かった。
心が聞こえてこんなに安堵したのは生まれて初めてだ。
黒木と距離ができるなんて絶対に嫌だ……。
『いや野間、それよりテストは? もうすぐ終わるぞ? 少しはできたのか?』
『……だからさ。さっき聞いたとこはもう全部充分考えて、それでもさっぱりわかんなかったとこなんだってば……』
黒木が呆れるようにため息をついている。
『野間。俺はカンニングは手助けしない。お前のためにならないからな。その代わり今度から、うちに泊まる日は勉強を見てやる』
『…………』
う……嬉しいような、嬉しくないような……。
いつも黒木の家で、二人でひたすらくつろいでくだらない話をするあの時間は、俺の宝物みたいな時間だから。
それがなくなるのが嫌だ。
『……宝物とか……胸がムズムズするからやめろ』
『だって宝物なんだもん……』
『宝物は少しでも宝物だろっ。なくなりはしない。それに勉強の時間も……宝物にすればいいだろ』
『…………おおお、そっか。黒木頭いいなっ!』
『…………』
そう考えれば勉強もちょっとは好きになれるかも。
もし成績が上がったら、もっと黒木ん家に行く回数増やしても許してもらえるかもしれない。
なんかやる気が出てきた。
◇◇◇◇◇◇◇
毎日更新、時間はランダムに変更します。
『…………』
『くーろーきー』
『…………』
『くーろきくーん』
『……野間。俺は絶対に答えないからな』
ずっと話しかけ続けても知らんぷりだった黒木が、やっと返事をくれた。
もうそれだけでも嬉しくなって『黒木くん大好きっ』と言うと黒木の肩がピクリと揺れた。
『……やめろ』
『えっとね、えっとね。問二の一とね、問三の二、三、六と、問五の――――』
『……おいちょっと待て。お前、前半だけでそんなにわからないとこがあるのか?』
『うんっ。だからぁ教えて?』
ただいま一学期中間考査最終日、数学。
あちこちから『うあー! わかんねー!』『あーもうダメ終わった……』と悲鳴が聞こえる。
『駄目に決まってるだろ。ちゃんと最後まで自分で考えろ』
『もー。考えてもわかんないから聞いてんじゃーん』
『だったらお得意の声でも聞いて書け。その辺でいっぱい答えが出てるぞ?』
問題を解くときの途中経過の数字、答え、確かに教室中に数字が飛び交っている。
『黒木のいじわるっ! どこの誰が「問三の一は〇〇。問三の二は〇〇」とか考えながら書くんだよっ。どれがどこの答えかもわかんねぇわっ』
ハッキリ言ってこの力はカンニングには不向きだ。
特に数学は完全にお手上げ。数字だけ聞こえてきてもわからんっちゅーのっ。
他の教科でも、ある程度わかってるけど自信が無い、くらいの状態で受ければもうカンニングはバッチリだろう。
でも俺のように全然わからない状態で受けても、聞こえてくる答えをどこに書けばいいのかさっぱりわからないから意味がない。それでもなんとか数学以外は空欄を埋めた。
でも数学はマジで無理。
作戦変更といこう。
ここがわからないと言われたら、思わずその回答を見て心で読み上げるかもしれない。よし、それでいこう。
『黒木くーん。問三の一がわかんないよー!』
よしっここで黒木の心を読むっ!
『………………』
ん? 無? 無心か?
え、なんで、そんなことある?
俺はもう一度黒木の心を読んでみた。
『………………』
無……だ……。
なんで……?
え……さっきまで聞こえてたのに。
みんなの心はうるさいくらい聞こえんのに。
なんで黒木だけ聞こえねぇの?
なんで黒木だけ?
黒木だけ聞こえるならまだしもっっ!!
黒木の心だけ聞こえなくなるなんてやだっっ!!
死ぬほど怖くなって心が悲鳴をあげた。
『黒木っっっっ!!!!』
「ぅわ……っ!」
黒木が身体をゆらして声を発した。
「どうした黒木?」
「……あ、すみません。なんでもありません」
「テスト中に驚かすな」
「……はい」
一列挟んで斜め後ろの席から、黒木が横目で俺をギロッと睨んできた。
『……おい野間』
『……っ! 黒木! ゔゔぅぅー良かったぁ! 聞こえるぅっっっ!!!』
『…………だからうるさいっ! なに言ってんだ? いまお前のせいで俺がどうなったかわかってるのか?』
『ご……ごめんっ! だ、だって……黒木の心が急に読めなくなったから………………怖く……なって……』
良かった。黒木の心の声が聞こえた。俺を呼ぶ声が聞こえた。心の底からホッとした。
呼ぶ声だけじゃなく、読めばまた聞こえてきた。
『心が読めない……? なぜだ……俺もそんな経験はないぞ……』
ああ良かった。本当に良かった。
心が聞こえてこんなに安堵したのは生まれて初めてだ。
黒木と距離ができるなんて絶対に嫌だ……。
『いや野間、それよりテストは? もうすぐ終わるぞ? 少しはできたのか?』
『……だからさ。さっき聞いたとこはもう全部充分考えて、それでもさっぱりわかんなかったとこなんだってば……』
黒木が呆れるようにため息をついている。
『野間。俺はカンニングは手助けしない。お前のためにならないからな。その代わり今度から、うちに泊まる日は勉強を見てやる』
『…………』
う……嬉しいような、嬉しくないような……。
いつも黒木の家で、二人でひたすらくつろいでくだらない話をするあの時間は、俺の宝物みたいな時間だから。
それがなくなるのが嫌だ。
『……宝物とか……胸がムズムズするからやめろ』
『だって宝物なんだもん……』
『宝物は少しでも宝物だろっ。なくなりはしない。それに勉強の時間も……宝物にすればいいだろ』
『…………おおお、そっか。黒木頭いいなっ!』
『…………』
そう考えれば勉強もちょっとは好きになれるかも。
もし成績が上がったら、もっと黒木ん家に行く回数増やしても許してもらえるかもしれない。
なんかやる気が出てきた。
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