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75 最終話✦5
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教室から出てしまえば、まだ俺たちのことを知らない人が廊下にたくさんたむろっている。でも俺はつないだ手を離したくなかった。
今朝までは見せびらかすのは違うと思ってたけど、でもどうせ明日にはうわさも広まってるだろ、と思うともうどうでもいい。
チラッと岳の顔をうかがうと、俺を見て優しげに笑った。
『だから俺はずっとつないでいたかったって言っただろう?』
『あ、そうだったっ』
「へへっ」
もう学校でだって周りの目なんか気にしない。
空港でも、街なかでも、学校でも、手をつないでみてわかったことは、個々でならそれほど嫌悪感をもたれていないってことだ。中立な人もいれれば大半が優しく見守ってくれている。
でもそれが集団で固まると、途端に一部の強い意見に飲み込まれていく。
いますれ違ったグループもそうだ。
「ちょっとっ。男同士で手つないでるっ。やばくない?」の意見に、『別にいいと思うけど……』と心では思っていても「やばいね」と同意してた。
こういうのが無くなればいいのにな……。
職員室の前を通ったとき、ちょうど担任が出てきて声をかけられた。
「お、黒木。お前いろいろ大変だったなぁ。……ん?」
先生の視線が俺たちのつながれた手を凝視してる。
「え、お前たちって……そう、だったのか」
『しかし隠さず手つなぎって……。すごいな。カッコイイなこいつら。いや、でも……』
「校内で手つなぎはやめろよ」
先生は否定派じゃないんだ、と嬉しくなった矢先に注意された。
「え、そんな校則ありましたか?」
岳が聞くと先生はあきれた顔をする。
「校則にはないけどな、モラルの問題だ。ほかのカップルだって校内で手なんかつないでないだろ?」
「えっ、マジ?」
思わず声が出た。え、校内で手つなぎしてるヤツらっていないの?
……あれ、そう言われればあんま見ないかも。
「せめて校舎出るまでは我慢しろ。お前らみたいのをなんて言うか教えてやろうか?」
『バカップルめ』
「いえ、結構です」
真面目な顔で答える岳に俺は吹き出した。
『バカップルなんて言われたら離すしかないな……』
『だな。校舎出るまでだろ? 我慢するよ。バカップルじゃねぇしっ』
と俺たちは手を離した。
あーダメだ。もうつなぎたい。
「先生。母がご迷惑をおかけしてすみませんでした。いろいろと助かりました」
「いやいや。お前も大変だったな。転校せずに済んで本当によかったよ」
「先生のおかげです。ありがとうございました」
あのとき先生が書類を受理せず止めてくれていたから無事だったと岳に聞いた。本当に感謝だ。
「先生っ、ほんっっっとありがとなっ!」
「野間もよかったな。もう泣くなよ?」
「もう泣かねぇしっ」
「はは。じゃあな。気をつけて帰れよ」
『校舎出たら速攻手つなぐんだろうな。バカップルめ。……あいつらクラスで大丈夫かな。しばらく注意が必要だな……』
本当にいい先生だな、としみじみ思った。
もともと裏表がなくて好きだった。担任だと知ったときも嬉しかったけど、ここまでいい先生だったんだと嬉しくて胸がいっぱいになった。
「お前、先生の前でも泣いたのか……」
「え? ああ、だって突然岳が……」
あ、これ心の声の話だ。やべっ。
『突然岳がアメリカ行くとか先生の心の声が聞こえてきてさ。ドバーって出ちゃったんだよ』
『……俺は本当にお前をたくさん泣かせたんだな……』
そう言って、もうとっくに腫れの引いた俺の目元を親指の腹で優しく撫でる。くすぐったくてぎゅっと目を閉じた。
『んー、でももうそれ以上に幸せなもの、岳にもらったしなっ』
『それ以上に幸せなもの……』
俺はゆっくりと目を開き、満面の笑みで答えた。
『岳の愛っ!』
目元を撫でる指がピタリと止まり、息を飲むように固まった。
頬がちょっと赤いのは気のせいじゃねぇよな?
『……もしかして、漏れてたか?』
『うんっ、漏れてたっ』
『……マジか』
俺が寝付きそうなとき、朝目が覚めそうなとき、ぼんやりとした夢の中でときどき聞こえてくる『愛してる』の言葉。
聞き間違いかと思ってたけど、何度も聞こえるから確信に変わった。
『岳っ、俺もあい――――』
『待てっっ!!』
『ぅわ……っ! ……もーだから真横で叫ぶなってー』
ぐわんぐわんする頭をおさえて訴える。
『こんなとこで言うな、ばか』
『岳、顔赤い。可愛いっ』
『もうお前しゃべるな。ここで口ふさぐぞ?』
『えっ。キス? キス? いいよっ!』
『…………心の声に口ふさいでも意味なかったな。早く帰るぞ』
岳が手をつなごうとして一瞬止まり、俺の手首をつかんで歩き出した。
それ手つなぎとあんま変わんなくね?
『うるさい』
薄く頬を染めて俺の手を引く岳が可愛いすぎる。
俺はクスクス笑いながら、ゆるゆるに緩んだ顔で岳のあとをついて歩いた。
今朝までは見せびらかすのは違うと思ってたけど、でもどうせ明日にはうわさも広まってるだろ、と思うともうどうでもいい。
チラッと岳の顔をうかがうと、俺を見て優しげに笑った。
『だから俺はずっとつないでいたかったって言っただろう?』
『あ、そうだったっ』
「へへっ」
もう学校でだって周りの目なんか気にしない。
空港でも、街なかでも、学校でも、手をつないでみてわかったことは、個々でならそれほど嫌悪感をもたれていないってことだ。中立な人もいれれば大半が優しく見守ってくれている。
でもそれが集団で固まると、途端に一部の強い意見に飲み込まれていく。
いますれ違ったグループもそうだ。
「ちょっとっ。男同士で手つないでるっ。やばくない?」の意見に、『別にいいと思うけど……』と心では思っていても「やばいね」と同意してた。
こういうのが無くなればいいのにな……。
職員室の前を通ったとき、ちょうど担任が出てきて声をかけられた。
「お、黒木。お前いろいろ大変だったなぁ。……ん?」
先生の視線が俺たちのつながれた手を凝視してる。
「え、お前たちって……そう、だったのか」
『しかし隠さず手つなぎって……。すごいな。カッコイイなこいつら。いや、でも……』
「校内で手つなぎはやめろよ」
先生は否定派じゃないんだ、と嬉しくなった矢先に注意された。
「え、そんな校則ありましたか?」
岳が聞くと先生はあきれた顔をする。
「校則にはないけどな、モラルの問題だ。ほかのカップルだって校内で手なんかつないでないだろ?」
「えっ、マジ?」
思わず声が出た。え、校内で手つなぎしてるヤツらっていないの?
……あれ、そう言われればあんま見ないかも。
「せめて校舎出るまでは我慢しろ。お前らみたいのをなんて言うか教えてやろうか?」
『バカップルめ』
「いえ、結構です」
真面目な顔で答える岳に俺は吹き出した。
『バカップルなんて言われたら離すしかないな……』
『だな。校舎出るまでだろ? 我慢するよ。バカップルじゃねぇしっ』
と俺たちは手を離した。
あーダメだ。もうつなぎたい。
「先生。母がご迷惑をおかけしてすみませんでした。いろいろと助かりました」
「いやいや。お前も大変だったな。転校せずに済んで本当によかったよ」
「先生のおかげです。ありがとうございました」
あのとき先生が書類を受理せず止めてくれていたから無事だったと岳に聞いた。本当に感謝だ。
「先生っ、ほんっっっとありがとなっ!」
「野間もよかったな。もう泣くなよ?」
「もう泣かねぇしっ」
「はは。じゃあな。気をつけて帰れよ」
『校舎出たら速攻手つなぐんだろうな。バカップルめ。……あいつらクラスで大丈夫かな。しばらく注意が必要だな……』
本当にいい先生だな、としみじみ思った。
もともと裏表がなくて好きだった。担任だと知ったときも嬉しかったけど、ここまでいい先生だったんだと嬉しくて胸がいっぱいになった。
「お前、先生の前でも泣いたのか……」
「え? ああ、だって突然岳が……」
あ、これ心の声の話だ。やべっ。
『突然岳がアメリカ行くとか先生の心の声が聞こえてきてさ。ドバーって出ちゃったんだよ』
『……俺は本当にお前をたくさん泣かせたんだな……』
そう言って、もうとっくに腫れの引いた俺の目元を親指の腹で優しく撫でる。くすぐったくてぎゅっと目を閉じた。
『んー、でももうそれ以上に幸せなもの、岳にもらったしなっ』
『それ以上に幸せなもの……』
俺はゆっくりと目を開き、満面の笑みで答えた。
『岳の愛っ!』
目元を撫でる指がピタリと止まり、息を飲むように固まった。
頬がちょっと赤いのは気のせいじゃねぇよな?
『……もしかして、漏れてたか?』
『うんっ、漏れてたっ』
『……マジか』
俺が寝付きそうなとき、朝目が覚めそうなとき、ぼんやりとした夢の中でときどき聞こえてくる『愛してる』の言葉。
聞き間違いかと思ってたけど、何度も聞こえるから確信に変わった。
『岳っ、俺もあい――――』
『待てっっ!!』
『ぅわ……っ! ……もーだから真横で叫ぶなってー』
ぐわんぐわんする頭をおさえて訴える。
『こんなとこで言うな、ばか』
『岳、顔赤い。可愛いっ』
『もうお前しゃべるな。ここで口ふさぐぞ?』
『えっ。キス? キス? いいよっ!』
『…………心の声に口ふさいでも意味なかったな。早く帰るぞ』
岳が手をつなごうとして一瞬止まり、俺の手首をつかんで歩き出した。
それ手つなぎとあんま変わんなくね?
『うるさい』
薄く頬を染めて俺の手を引く岳が可愛いすぎる。
俺はクスクス笑いながら、ゆるゆるに緩んだ顔で岳のあとをついて歩いた。
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