心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

文字の大きさ
75 / 83

75 最終話✦5

しおりを挟む
 教室から出てしまえば、まだ俺たちのことを知らない人が廊下にたくさんたむろっている。でも俺はつないだ手を離したくなかった。
 今朝までは見せびらかすのは違うと思ってたけど、でもどうせ明日にはうわさも広まってるだろ、と思うともうどうでもいい。
 チラッと岳の顔をうかがうと、俺を見て優しげに笑った。

『だから俺はずっとつないでいたかったって言っただろう?』
『あ、そうだったっ』
「へへっ」

 もう学校でだって周りの目なんか気にしない。
 空港でも、街なかでも、学校でも、手をつないでみてわかったことは、個々でならそれほど嫌悪感をもたれていないってことだ。中立な人もいれれば大半が優しく見守ってくれている。
 でもそれが集団で固まると、途端に一部の強い意見に飲み込まれていく。
 いますれ違ったグループもそうだ。
 「ちょっとっ。男同士で手つないでるっ。やばくない?」の意見に、『別にいいと思うけど……』と心では思っていても「やばいね」と同意してた。
 こういうのが無くなればいいのにな……。

 職員室の前を通ったとき、ちょうど担任が出てきて声をかけられた。

「お、黒木。お前いろいろ大変だったなぁ。……ん?」

 先生の視線が俺たちのつながれた手を凝視してる。

「え、お前たちって……そう、だったのか」
『しかし隠さず手つなぎって……。すごいな。カッコイイなこいつら。いや、でも……』
「校内で手つなぎはやめろよ」

 先生は否定派じゃないんだ、と嬉しくなった矢先に注意された。

「え、そんな校則ありましたか?」

 岳が聞くと先生はあきれた顔をする。

「校則にはないけどな、モラルの問題だ。ほかのカップルだって校内で手なんかつないでないだろ?」
「えっ、マジ?」

 思わず声が出た。え、校内で手つなぎしてるヤツらっていないの?
 ……あれ、そう言われればあんま見ないかも。

「せめて校舎出るまでは我慢しろ。お前らみたいのをなんて言うか教えてやろうか?」
『バカップルめ』
「いえ、結構です」

 真面目な顔で答える岳に俺は吹き出した。
 
『バカップルなんて言われたら離すしかないな……』
『だな。校舎出るまでだろ? 我慢するよ。バカップルじゃねぇしっ』
 
 と俺たちは手を離した。
 あーダメだ。もうつなぎたい。

「先生。母がご迷惑をおかけしてすみませんでした。いろいろと助かりました」
「いやいや。お前も大変だったな。転校せずに済んで本当によかったよ」
「先生のおかげです。ありがとうございました」

 あのとき先生が書類を受理せず止めてくれていたから無事だったと岳に聞いた。本当に感謝だ。

「先生っ、ほんっっっとありがとなっ!」
「野間もよかったな。もう泣くなよ?」
「もう泣かねぇしっ」
「はは。じゃあな。気をつけて帰れよ」
『校舎出たら速攻手つなぐんだろうな。バカップルめ。……あいつらクラスで大丈夫かな。しばらく注意が必要だな……』

 本当にいい先生だな、としみじみ思った。
 もともと裏表がなくて好きだった。担任だと知ったときも嬉しかったけど、ここまでいい先生だったんだと嬉しくて胸がいっぱいになった。

「お前、先生の前でも泣いたのか……」
「え? ああ、だって突然岳が……」

 あ、これ心の声の話だ。やべっ。

『突然岳がアメリカ行くとか先生の心の声が聞こえてきてさ。ドバーって出ちゃったんだよ』
『……俺は本当にお前をたくさん泣かせたんだな……』

 そう言って、もうとっくに腫れの引いた俺の目元を親指の腹で優しく撫でる。くすぐったくてぎゅっと目を閉じた。
 
『んー、でももうそれ以上に幸せなもの、岳にもらったしなっ』
『それ以上に幸せなもの……』

 俺はゆっくりと目を開き、満面の笑みで答えた。

『岳の愛っ!』

 目元を撫でる指がピタリと止まり、息を飲むように固まった。
 頬がちょっと赤いのは気のせいじゃねぇよな?

『……もしかして、漏れてたか?』
『うんっ、漏れてたっ』
『……マジか』

 俺が寝付きそうなとき、朝目が覚めそうなとき、ぼんやりとした夢の中でときどき聞こえてくる『愛してる』の言葉。
 聞き間違いかと思ってたけど、何度も聞こえるから確信に変わった。

『岳っ、俺もあい――――』
『待てっっ!!』
『ぅわ……っ! ……もーだから真横で叫ぶなってー』

 ぐわんぐわんする頭をおさえて訴える。

『こんなとこで言うな、ばか』
『岳、顔赤い。可愛いっ』
『もうお前しゃべるな。ここで口ふさぐぞ?』
『えっ。キス? キス? いいよっ!』
『…………心の声に口ふさいでも意味なかったな。早く帰るぞ』
 
 岳が手をつなごうとして一瞬止まり、俺の手首をつかんで歩き出した。
 それ手つなぎとあんま変わんなくね?

『うるさい』

 薄く頬を染めて俺の手を引く岳が可愛いすぎる。
 俺はクスクス笑いながら、ゆるゆるに緩んだ顔で岳のあとをついて歩いた。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

従順な俺を壊して 【颯斗編】

川崎葵
BL
腕っ節の強い不良達が集まる鷹山高校でトップを張る、最強の男と謳われる火神颯斗。 無敗を貫き通す中、刺激のない毎日に嫌気がさしていた。 退屈な日常を捨て去りたい葛藤を抱えていた時、不思議と気になってしまう相手と出会う。 喧嘩が強い訳でもなく、真面目なその相手との接点はまるでない。 それでも存在が気になり、素性を知りたくなる。 初めて抱く感情に戸惑いつつ、喧嘩以外の初めての刺激に次第に心動かされ…… 最強の不良×警視総監の息子 初めての恋心に戸惑い、止まらなくなる不良の恋愛譚。 本編【従順な俺を壊して】の颯斗(攻)視点になります。 本編の裏側になるので、本編を知らなくても話は分かるように書いているつもりですが、話が交差する部分は省略したりしてます。 本編を知っていた方が楽しめるとは思いますので、長編に抵抗がない方は是非本編も……

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...