【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

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13 心配かけてごめんなさい *

 冬磨は基本金曜日にセフレと会う。ずっと見てきたからそれはよくわかってる。
 でも、あれから冬磨はいつも平日に俺を誘う。
 俺は新参者だから金曜日じゃないんだな、そう思ったけれど、冬磨は俺を毎週誘う。今週だけかな、来週は誘われないだろう、そう思っても、冬磨からの誘いはずっと続いている。
 俺は毎週なのに他のセフレは金曜日に順番に……。そう思うと、なぜ俺だけ毎週なんだろうと疑問に思い、そしてみんなに申し訳ない気持ちになった。
 それでも、誘われれば心が踊って待ち合わせのバーに来てしまう。

 二杯目のハイボールを飲み干したころ、ふと思い至った。
 もしかすると、ここで待ち合わせをしないセフレもいるのかもしれない。
 ここでは基本金曜日でも、他では平日なのかも。なら、俺だけ毎週ってわけでもないのかも。
 あとは……新参者で物珍しいのかな。しばらく飽きるまで、みたいな感じかも。
 でも、そうだとすると週何回やってることになるんだろ……。
 冬磨……元気だな……。

「天音」
 
 愛しい人の俺の名を呼ぶ声。
 背中に冬磨の手がふれて、もう何度も抱かれているのに、俺はこれだけでもう天に召されてしまいそうになる。これはちっとも大袈裟な話じゃ無い。
 
「冬磨」
 
 本当はとろけるくらいの笑顔で冬磨を見つめたい。でも、それはできない。
 俺はビッチ天音を演じて、今日もまた無表情に冬磨を振り返る。
 
「早かったな」
「ああ、今日は外回りで直帰だったんだ」
 
 外回りのある仕事なんだっ!
 また冬磨のことを少し知ることができて嬉しくて飛び跳ねたくなった。
 でも、俺は興味なさそうに振る舞わなきゃならない。
 これは反応しないでスルーしたほうがいいかな。
 
「少し飲んでいく? それともすぐ行く?」
「すぐ行こう。マスター、またゆっくり来るわ」
「はいはい。今日も天音が頑張って二杯飲んでくれたから充分だ」

 その言葉にハッとしてマスターを見ると、俺に向かって軽くウインクをした。
 待ち合わせがない日、俺は一杯だけ飲んで帰ることが多い。
 でも、待ち合わせの日は、俺のほうが早く来た日はなるべく二杯以上飲むようにしている。いつもあとから来たほうは飲まずに行くことが多いからだ。
 マスターはそんな俺に気づいてくれていたんだ。
 まさか気づかれているとは思わなかった。なんだか照れくさくなって視線が泳ぐ。
 あ、だめだ。こんなの絶対ビッチ天音じゃない。ビッチ天音なら「なぁんだバレてたか」くらい言いそうだ。
 でも……無理だ言えない。ここは無表情でやりすごそう。

「行くぞ」
 
 冬磨が俺の頭を撫でるようにクシャッとした。

「……うん」

 支払いを終えて「じゃ、マスターまた」と伝えると「おう、いつもありがとな天音」とマスターが笑った。
 本当の俺は、ここでは空気だった。
 特別人見知りではないけれど、ゲイバーという未知の世界にまったく馴染めず、いつまでもひたすら空気だった。
 だから、ビッチ天音の気軽さに、みんなが気さくに話しかけてくれることが嬉しい。ビッチ天音が俺はだんだん好きになってきていた。

「お前さ。なんも無理していっぱい飲むことないんだぞ? そんな短時間で二杯も飲むな」

 店を出て、ホテルに向かって並んで歩く。

「別に無理してねぇよ」
「遠慮して外で待ち合わせされるより、一人分でも飲んでくれたほうが嬉しいってマスターの考えだからさ」

 そんな話までマスターとしてるんだ、とびっくりした。
 冬磨はそんなマスターの気持ちをちゃんとわかった上で、いつもバーで待ち合わせをしてるんだ。優しいな、と胸があたたかくなる。

「おーい、天音、わかった?」
「うん。わかったけど、別に無理してねぇし。今日は喉がかわいてただけだよ」
「ふうん。俺と待ち合わせの日はいつも喉がかわいてんだな」

 と笑った冬磨に、頭をクシャッと撫でられる。
 わ……っと思わず目をつぶった。
 最近、冬磨がよくこうして俺の頭をクシャッと撫でる。癖かな……。なんだか甘やかされてる感じがして胸がこそばゆい。これ……すごい好き。
 顔がデレデレになりそうになって、ぎゅっと唇を噛んだ。
 無表情、無表情……。


 ホテルに着いて部屋に入る。
 俺はこの瞬間からいつも身構える。
 来る……来る……。
 冬磨の手が俺の肩にふれて、いつものように優しくうなじにキスが落ちる。

「ん……っ……」

 来るとわかっていても、ビクッと身体が反応する。これだけで身体中がとろけそうになる。

「天音、シャワー先入るだろ?」

 うなじにキスをしたまま冬磨がしゃべる。我慢をしてもビクビクと反応する俺を、すぐにこうしてからかってくる。

「いつも俺が先だろ。毎回聞くなって、うぜぇな……」

 そして、この可愛くない返答を冬磨が楽しんでいることをわかっていて、俺はわざと口にする。
 冬磨がクスクス笑いながら「じゃ、待ってるわ」と言ったあと、リップ音を鳴らして唇を離した。
 
 交代でシャワーを浴びてベッドに入り、今日もドロドロに甘やかされて鳴かされる。
 冬磨は俺がトラウマ持ちだと思っているから、初めてのとき以上に毎回優しく俺を抱く。
 俺の身体を撫でる手も、優しく這う唇も舌も、ゆっくりと動く腰も、本当になにもかもがとろけるほどに優しい。
 ただのセフレでもこんなに優しく抱いてもらえるなら、俺はセフレのままで充分幸せだ。

「ん……っ、と……ま……っ……」
「天音、やっぱり前からやっていい? 今日こそ……いいだろ?」
「やだ…………っつってんだろっ、……ンッ……」
「いつになったら前でやらしてくれんの?」
「……やんねぇって……っ、しつ……こい……っ、ぁ……っ……」

 冬磨は腰を動かしながら切なげな声を漏らし、後ろから俺を抱きしめた。

「なぁ……それってさ、トラウマと関係あるのか?」
 
 冬磨の声色が変わった。俺を気遣うような優しい声。
 あると言えば、冬磨はきっともう何も言わず、ずっと後ろから抱いてくれるだろう。
 でも、俺はもうこれ以上冬磨に嘘はつきたくなかった。

「……ねぇよ。ただ前が嫌いなだけ」
「そっか。ならよかった」

 冬磨はホッとしたように息をついて俺の背中にキスをすると、またゆっくりと腰を動かし始めた。

「……ぁ……っ、……んっ……」

 嘘をついているのがつらい。冬磨のおかげで克服したよ、と言えたらいいのに、俺の身体はいつまでも震え続けている。
 会うたびに好きの気持ちがふくれ上がって、気持ちいいと素直に感じることができるようになって、ますます震える。
 このままだと震えがおさまる日なんて来ないかも……とさえ思う。
 俺の嘘のせいでごめんね、冬磨。
 俺は冬磨に抱かれて、幸せしかないよ……。
 
 
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