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31 泣いていいよ、俺の前では
冬磨が用意してくれたポトフを二人で食べる。
ロールパンが熱々でふわふわで驚いた。
「まさか焼いた?」
驚く俺に冬磨が吹き出した。
「んなわけねぇだろ? 冷凍してあったやつレンジかけてトースターで焼いただけ」
「えっ、パンって冷凍できるの?」
「できるよ。普通にうまいだろ?」
「焼きたてみたいっ! すごいっ!」
驚いてからハッとした。今のは素の俺だった。やばい……っ。
でも、目の前の冬磨はちょっとだけびっくりした顔をしてから、ふわっと笑って俺を見てるだけだった。……ちょっとだけこのままでも、いいかな。
「ポトフすごいうまい。冬磨、料理上手なんだな」
「ただぶち込んで煮込んだだけだよ」
「俺、ポトフってウインナーのしか知らない。なにこの骨付きの肉。すげぇうまい」
だめだ。美味しすぎて無表情なんて無理。
いや、無理じゃないよ。ちゃんとやんなきゃ……。
そう思って頑張るけれど、ポトフを口に入れるたびに頬がゆるむ。
「ほんとかわい……」
その消え入りそうな声に顔を上げると、冬磨はスプーンを持つ手で額を押さえ、肘をついてうつむいていた。
冬磨は最近、ベッド以外でも俺を可愛いと言う。
今まで、ビッチ天音とのギャップに可愛いと言っているんだと思ってた。でも、今みたいに思わず素が出たときだけならわかるけれど、無表情のときでも可愛いと言うことがある。
ギャップがいいのかと思ってたけど違うのかな。
でも、どんな理由でもいい。冬磨に少しでも可愛いと思ってもらえるなら、俺は嬉しいから。
食べ終わったあとの食器洗いは俺がやった。
冬磨はいいと言ったけれど「それくらい俺がやる」とスポンジを奪い取ったらクスクス笑って譲ってくれた。
「風呂入るか? シャワーでいい?」
冬磨はどっちがいいんだろう、と思ってからすぐに気づいた。もしいつもお風呂なら聞かずにお湯をためるはず。きっといつもはシャワーなんだ。
「シャワーでいい」
「了解。じゃ、今日は俺が先に入ってくるな」
「……うん」
なんだかいつもと色々違いすぎてドキドキする。
今日って……終わったら俺どうしたらいいんだろう。
なにも言われなかったら帰る、でいいのかな……。
それとも泊まるつもりでいていいのかな……。
わからなすぎる……どうしよう。
二人分の食器洗いは、あっという間に終わった。
次はどうしたらいいんだろう。
冬磨が戻るまでソファに落ち着こうと腰をかける。
ソファ横の棚に立てかけてあるフォトフレームに気づき、立ち上がって近づいた。
バーベキューを楽しんでるご両親の写真、それから、二人と一緒に写った、まだ少し少年らしい冬磨。H大学入学式と書かれている。冬磨H大なんだ。すごいな……。
冬磨はいつから一人なんだろう。すごく優しさが伝わってくる仲良しだと分かる家族写真。きっとすごく寂しいだろうな……。セフレがいっぱいって、そういうところからきてるのかな。
「大学卒業前に逝っちゃったんだ」
「あ……冬磨」
タオルで頭を拭きながら俺の隣に冬磨が立つ。
「たまには二人で旅行でも行けば? って。俺がプレゼントしたんだ。函館旅行。帰りにトラックと衝突してさ。でも、せめて帰りでよかったなって――――」
話をさえぎるように、俺は冬磨を抱きしめた。
本当は頭を包み込むように抱きしめたかったけれど、俺のほうが頭一つ分も小さいからそれは無理。それでも冬磨を優しく抱きしめた。抱きしめて背中を優しくさする。
「強がんなよ。そんな笑顔で話すことじゃねぇだろ。悲しいときは悲しいって、寂しいときは寂しいって、泣いていいよ。俺の前では」
俺の前ではなんて偉そうかなって思ったけれど、あえてそう言った。
素直になれない人には強気でいかないと。
冬磨はずっとへっちゃらな顔してご両親の話をしてる。
へっちゃらなわけないのに。
絶対、寂しいに決まってるもん。
冬磨は俺の背中に腕を回し、頭にチュッとキスを落とす。
「天音、さんきゅ。……じゃあ、泣きたくなったらさ。今度からはお前のこと呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「いつでも?」
「うん、いつでも」
いつでも呼んでほしい。冬磨の力になりたい。冬磨は俺といると癒されると言っていた。いくらでも、冬磨を癒してあげたい。
ぎゅっと冬磨を抱きしめると、冬磨の腕にも力がこもって俺を抱きしめてきた。
あ、どうしよう。冬磨から抱きしめられると途端に胸がドキドキしてくる。顔が熱くなってくる。
「ほかの、セフレは?」
冬磨の質問の意味がわからない。
「え? なに?」
「いつでも呼んでいいんだろ? じゃあ、お前のほかのセフレはどうすんの?」
そうだった。そんなことなにも考えてなかった。
当日の誘いは他と被るかもって俺が言ったから、冬磨は必ず事前に誘ってくる。
これからはどうするんだって聞かれてるんだ。
俺は頭の中が忙しくなった。冬磨にどう答えればいいかという問題と。いつでも呼んでいい? という質問が、社交辞令じゃないんだという夢のような現実と。
これってどう答えればいいのっ?
冬磨を優先にするって言ったら引かれるっ?
ぐるぐる考えていたら冬磨の腕がゆるみ、俺の頭をくしゃっと撫でながら身体が離れていった。
「……なーんてな。天音が捕まんなかったらほかのセフレがいるから気にすんな。この話、終わり」
……そうだった。冬磨には俺じゃなくてもたくさんセフレがいるから何も心配ないんだった。
頼られるのは俺だけだと思うなんて、図々しいにも程がある。
「天音、シャワーいいよ。タオルと着替えはカゴに入れといたから」
「……うん。ありがと」
落ち込んでるのは絶対見せない。また勘違いして勝手に沈んで、俺ばかみたい……。
ロールパンが熱々でふわふわで驚いた。
「まさか焼いた?」
驚く俺に冬磨が吹き出した。
「んなわけねぇだろ? 冷凍してあったやつレンジかけてトースターで焼いただけ」
「えっ、パンって冷凍できるの?」
「できるよ。普通にうまいだろ?」
「焼きたてみたいっ! すごいっ!」
驚いてからハッとした。今のは素の俺だった。やばい……っ。
でも、目の前の冬磨はちょっとだけびっくりした顔をしてから、ふわっと笑って俺を見てるだけだった。……ちょっとだけこのままでも、いいかな。
「ポトフすごいうまい。冬磨、料理上手なんだな」
「ただぶち込んで煮込んだだけだよ」
「俺、ポトフってウインナーのしか知らない。なにこの骨付きの肉。すげぇうまい」
だめだ。美味しすぎて無表情なんて無理。
いや、無理じゃないよ。ちゃんとやんなきゃ……。
そう思って頑張るけれど、ポトフを口に入れるたびに頬がゆるむ。
「ほんとかわい……」
その消え入りそうな声に顔を上げると、冬磨はスプーンを持つ手で額を押さえ、肘をついてうつむいていた。
冬磨は最近、ベッド以外でも俺を可愛いと言う。
今まで、ビッチ天音とのギャップに可愛いと言っているんだと思ってた。でも、今みたいに思わず素が出たときだけならわかるけれど、無表情のときでも可愛いと言うことがある。
ギャップがいいのかと思ってたけど違うのかな。
でも、どんな理由でもいい。冬磨に少しでも可愛いと思ってもらえるなら、俺は嬉しいから。
食べ終わったあとの食器洗いは俺がやった。
冬磨はいいと言ったけれど「それくらい俺がやる」とスポンジを奪い取ったらクスクス笑って譲ってくれた。
「風呂入るか? シャワーでいい?」
冬磨はどっちがいいんだろう、と思ってからすぐに気づいた。もしいつもお風呂なら聞かずにお湯をためるはず。きっといつもはシャワーなんだ。
「シャワーでいい」
「了解。じゃ、今日は俺が先に入ってくるな」
「……うん」
なんだかいつもと色々違いすぎてドキドキする。
今日って……終わったら俺どうしたらいいんだろう。
なにも言われなかったら帰る、でいいのかな……。
それとも泊まるつもりでいていいのかな……。
わからなすぎる……どうしよう。
二人分の食器洗いは、あっという間に終わった。
次はどうしたらいいんだろう。
冬磨が戻るまでソファに落ち着こうと腰をかける。
ソファ横の棚に立てかけてあるフォトフレームに気づき、立ち上がって近づいた。
バーベキューを楽しんでるご両親の写真、それから、二人と一緒に写った、まだ少し少年らしい冬磨。H大学入学式と書かれている。冬磨H大なんだ。すごいな……。
冬磨はいつから一人なんだろう。すごく優しさが伝わってくる仲良しだと分かる家族写真。きっとすごく寂しいだろうな……。セフレがいっぱいって、そういうところからきてるのかな。
「大学卒業前に逝っちゃったんだ」
「あ……冬磨」
タオルで頭を拭きながら俺の隣に冬磨が立つ。
「たまには二人で旅行でも行けば? って。俺がプレゼントしたんだ。函館旅行。帰りにトラックと衝突してさ。でも、せめて帰りでよかったなって――――」
話をさえぎるように、俺は冬磨を抱きしめた。
本当は頭を包み込むように抱きしめたかったけれど、俺のほうが頭一つ分も小さいからそれは無理。それでも冬磨を優しく抱きしめた。抱きしめて背中を優しくさする。
「強がんなよ。そんな笑顔で話すことじゃねぇだろ。悲しいときは悲しいって、寂しいときは寂しいって、泣いていいよ。俺の前では」
俺の前ではなんて偉そうかなって思ったけれど、あえてそう言った。
素直になれない人には強気でいかないと。
冬磨はずっとへっちゃらな顔してご両親の話をしてる。
へっちゃらなわけないのに。
絶対、寂しいに決まってるもん。
冬磨は俺の背中に腕を回し、頭にチュッとキスを落とす。
「天音、さんきゅ。……じゃあ、泣きたくなったらさ。今度からはお前のこと呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「いつでも?」
「うん、いつでも」
いつでも呼んでほしい。冬磨の力になりたい。冬磨は俺といると癒されると言っていた。いくらでも、冬磨を癒してあげたい。
ぎゅっと冬磨を抱きしめると、冬磨の腕にも力がこもって俺を抱きしめてきた。
あ、どうしよう。冬磨から抱きしめられると途端に胸がドキドキしてくる。顔が熱くなってくる。
「ほかの、セフレは?」
冬磨の質問の意味がわからない。
「え? なに?」
「いつでも呼んでいいんだろ? じゃあ、お前のほかのセフレはどうすんの?」
そうだった。そんなことなにも考えてなかった。
当日の誘いは他と被るかもって俺が言ったから、冬磨は必ず事前に誘ってくる。
これからはどうするんだって聞かれてるんだ。
俺は頭の中が忙しくなった。冬磨にどう答えればいいかという問題と。いつでも呼んでいい? という質問が、社交辞令じゃないんだという夢のような現実と。
これってどう答えればいいのっ?
冬磨を優先にするって言ったら引かれるっ?
ぐるぐる考えていたら冬磨の腕がゆるみ、俺の頭をくしゃっと撫でながら身体が離れていった。
「……なーんてな。天音が捕まんなかったらほかのセフレがいるから気にすんな。この話、終わり」
……そうだった。冬磨には俺じゃなくてもたくさんセフレがいるから何も心配ないんだった。
頼られるのは俺だけだと思うなんて、図々しいにも程がある。
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