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冬磨編
32 天使がいるのかと思った
食後は俺が先にシャワーを浴びた。
身体を洗いながら、顔がニヤけて何度も手が止まる。
さっきはポトフを食べる天音が可愛すぎて、目の前に天使がいるのかと思った。
『焼きたてみたいっ! すごいっ!』
解凍してトースターで焼いただけのロールパンに笑みをこぼして感動する天音。
『俺、ポトフってウインナーのしか知らない。なにこの骨付きの肉。すげぇうまい』
ポトフを口に運ぶたびにふわっと微笑む天音。
ずっと可愛いとは思ってたけど、ここまで可愛いとは予想外で直視するのもやばかった。もう気持ちがあふれて止まらない。キスがしたくてたまらない。なんであんな可愛いんだほんと……。
食べ終わるとまた無表情に戻った天音に寂しくなったが、こうやって少しづつでも本当の天音が戻ってくるといいなと思った。
シャワーを出ると、天音が棚の上の写真を見ていた。
大学の入学式に家族で撮った写真と、バーベキューを楽しむ俺の両親。
入学式の写真は母さんが飾った。バーベキューの方は、俺が死にたい衝動にかられなくなってから飾った写真だ。
「大学卒業前に逝っちゃったんだ」
「あ……冬磨」
タオルで頭を拭きながら天音の隣に立つ。
「たまには二人で旅行でも行けば? って。俺がプレゼントしたんだ。函館旅行。帰りにトラックと衝突してさ。でも、せめて帰りでよかったなって――――」
話の途中で、天音が突然俺を抱きしめた。
俺を包み込むように抱きしめて、優しく背中をさする。
だから……勘違いしちゃうだろ……って。
もしかして、勘違い……じゃないのか?
ふとそんな風に感じて鼓動が高鳴った。
「強がんなよ。そんな笑顔で話すことじゃねぇだろ。悲しいときは悲しいって、寂しいときは寂しいって、泣いていいよ。俺の前では」
天音のまっすぐな言葉に心が解けていく。
親の事故のことを知ってるダチにも、こんなまっすぐな言葉をかけてもらったことはない。
天音はどこまでも俺を救ってくれる。本当に奇跡みたいな存在。愛おしすぎて胸が熱い。
天音を抱きしめ頭にキスを落とした。
天音のセフレの中で俺は何番目? 今日の天音を見ていると、一番目にのし上がった気がするのは思い違いか?
俺だけにしろよって言ったら……うんって言ってくんねぇかな。
「天音、さんきゅ。……じゃあ、泣きたくなったらさ。今度からはお前のこと呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「いつでも?」
「うん、いつでも」
表情は見えないけれど優しい声色。ぎゅっと俺を強く抱きしめてくる。
たまらなくなって俺も力強く抱きしめた。
「ほかの、セフレは?」
「え? なに?」
「いつでも呼んでいいんだろ? じゃあ、お前のほかのセフレはどうすんの?」
当日の誘いは他と被るかも、そう言っていた天音がいつでも呼んでいいと言う。
被ったらどうすんの? 俺を優先にしてくれるのか? 俺は天音の中でそれくらいの位置だと思っていい?
もし天音がいい返事をしてくれたら、もう俺だけにしろよと言ってしまおうか。
なんて期待を込めた質問に、天音が黙り込んだ。
あ……俺やっぱ勘違いしちゃったかも。
初めて見る天使みたいな天音に、俺を慰めるまっすぐな言葉に、俺を抱きしめる優しい腕に、気がゆるんでバカな期待をした。
やっぱり俺は天音にとってただのセフレだ。まだ一番ですらないかもしれない。
俺を抱きしめる天音の腕の力が徐々にゆるんでいく。
俺は激しく後悔した。怖くなって天音の頭をくしゃっと撫でてから身体を離す。
「……なーんてな。天音が捕まんなかったらほかのセフレがいるから気にすんな。この話、終わり」
できればずっとぼかしておきたかった。ほかのセフレの存在をはっきり「いる」なんて言いたくなかったのに、とっさにほかの台詞が出てこなかった。
ここでもまた、後悔で胸がいっぱいになった。
「天音、シャワーいいよ。タオルと着替えはカゴに入れといたから」
「……うん。ありがと」
天音は何事もなかった顔でシャワーを浴びに向かった。
俺を抱きしめて慰めてくれた腕が恋しい。
いつも素っ気ない天音が、俺の前では泣いてもいいと言ってくれた。
どんな気持ちで言ってくれたんだろうか。
きっと根はいい子の天音のことだから、思いやりにあふれてるんだろうな。特別な感情がなくても、あれくらいは誰にでも言うのかもしれない。
俺にだけならよかったのにな……。
天音の特別になるためにはどうしたらいい……?
本当に難問すぎてため息が止まらない。
俺はデート先として目星のつけた場所を天音に見せるため、ノートパソコンをローテーブルに用意して電源を入れた。
星を見るためのキャンプ場。
天の川をゆっくり観るにはピッタリの場所。
キャンプなんて言えば引かれるかもしれない。そう思って何度も悩んだ。でも、天音と一緒に天の川をゆっくりと観たい。そう考えたらこれしか思いつかなかった。
それに、天音とキャンプに行きたかった。どうしても行きたい。食事もできる、ドライブもできる、天音の天の川も一緒に観られる。キャンプなら全部できる。まるで夢のような話だ。
引かれそうになっても素知らぬ顔をしよう。強引にでもキャンプに決める。
俺はそう覚悟して、天音が戻ってくるのをドキドキしながら待ち続けた。
身体を洗いながら、顔がニヤけて何度も手が止まる。
さっきはポトフを食べる天音が可愛すぎて、目の前に天使がいるのかと思った。
『焼きたてみたいっ! すごいっ!』
解凍してトースターで焼いただけのロールパンに笑みをこぼして感動する天音。
『俺、ポトフってウインナーのしか知らない。なにこの骨付きの肉。すげぇうまい』
ポトフを口に運ぶたびにふわっと微笑む天音。
ずっと可愛いとは思ってたけど、ここまで可愛いとは予想外で直視するのもやばかった。もう気持ちがあふれて止まらない。キスがしたくてたまらない。なんであんな可愛いんだほんと……。
食べ終わるとまた無表情に戻った天音に寂しくなったが、こうやって少しづつでも本当の天音が戻ってくるといいなと思った。
シャワーを出ると、天音が棚の上の写真を見ていた。
大学の入学式に家族で撮った写真と、バーベキューを楽しむ俺の両親。
入学式の写真は母さんが飾った。バーベキューの方は、俺が死にたい衝動にかられなくなってから飾った写真だ。
「大学卒業前に逝っちゃったんだ」
「あ……冬磨」
タオルで頭を拭きながら天音の隣に立つ。
「たまには二人で旅行でも行けば? って。俺がプレゼントしたんだ。函館旅行。帰りにトラックと衝突してさ。でも、せめて帰りでよかったなって――――」
話の途中で、天音が突然俺を抱きしめた。
俺を包み込むように抱きしめて、優しく背中をさする。
だから……勘違いしちゃうだろ……って。
もしかして、勘違い……じゃないのか?
ふとそんな風に感じて鼓動が高鳴った。
「強がんなよ。そんな笑顔で話すことじゃねぇだろ。悲しいときは悲しいって、寂しいときは寂しいって、泣いていいよ。俺の前では」
天音のまっすぐな言葉に心が解けていく。
親の事故のことを知ってるダチにも、こんなまっすぐな言葉をかけてもらったことはない。
天音はどこまでも俺を救ってくれる。本当に奇跡みたいな存在。愛おしすぎて胸が熱い。
天音を抱きしめ頭にキスを落とした。
天音のセフレの中で俺は何番目? 今日の天音を見ていると、一番目にのし上がった気がするのは思い違いか?
俺だけにしろよって言ったら……うんって言ってくんねぇかな。
「天音、さんきゅ。……じゃあ、泣きたくなったらさ。今度からはお前のこと呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「いつでも?」
「うん、いつでも」
表情は見えないけれど優しい声色。ぎゅっと俺を強く抱きしめてくる。
たまらなくなって俺も力強く抱きしめた。
「ほかの、セフレは?」
「え? なに?」
「いつでも呼んでいいんだろ? じゃあ、お前のほかのセフレはどうすんの?」
当日の誘いは他と被るかも、そう言っていた天音がいつでも呼んでいいと言う。
被ったらどうすんの? 俺を優先にしてくれるのか? 俺は天音の中でそれくらいの位置だと思っていい?
もし天音がいい返事をしてくれたら、もう俺だけにしろよと言ってしまおうか。
なんて期待を込めた質問に、天音が黙り込んだ。
あ……俺やっぱ勘違いしちゃったかも。
初めて見る天使みたいな天音に、俺を慰めるまっすぐな言葉に、俺を抱きしめる優しい腕に、気がゆるんでバカな期待をした。
やっぱり俺は天音にとってただのセフレだ。まだ一番ですらないかもしれない。
俺を抱きしめる天音の腕の力が徐々にゆるんでいく。
俺は激しく後悔した。怖くなって天音の頭をくしゃっと撫でてから身体を離す。
「……なーんてな。天音が捕まんなかったらほかのセフレがいるから気にすんな。この話、終わり」
できればずっとぼかしておきたかった。ほかのセフレの存在をはっきり「いる」なんて言いたくなかったのに、とっさにほかの台詞が出てこなかった。
ここでもまた、後悔で胸がいっぱいになった。
「天音、シャワーいいよ。タオルと着替えはカゴに入れといたから」
「……うん。ありがと」
天音は何事もなかった顔でシャワーを浴びに向かった。
俺を抱きしめて慰めてくれた腕が恋しい。
いつも素っ気ない天音が、俺の前では泣いてもいいと言ってくれた。
どんな気持ちで言ってくれたんだろうか。
きっと根はいい子の天音のことだから、思いやりにあふれてるんだろうな。特別な感情がなくても、あれくらいは誰にでも言うのかもしれない。
俺にだけならよかったのにな……。
天音の特別になるためにはどうしたらいい……?
本当に難問すぎてため息が止まらない。
俺はデート先として目星のつけた場所を天音に見せるため、ノートパソコンをローテーブルに用意して電源を入れた。
星を見るためのキャンプ場。
天の川をゆっくり観るにはピッタリの場所。
キャンプなんて言えば引かれるかもしれない。そう思って何度も悩んだ。でも、天音と一緒に天の川をゆっくりと観たい。そう考えたらこれしか思いつかなかった。
それに、天音とキャンプに行きたかった。どうしても行きたい。食事もできる、ドライブもできる、天音の天の川も一緒に観られる。キャンプなら全部できる。まるで夢のような話だ。
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俺はそう覚悟して、天音が戻ってくるのをドキドキしながら待ち続けた。
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