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冬磨編
35 誰の家だよ……
眠れない夜を過ごしながら、いつの間にか眠ったらしい。
目を覚ましても、背中を向けて眠る天音を見てため息が出た。もしかして一晩中寝返りも打たずに眠り続けてるのか?
寝返りを打って顔を見せてくれないかと一晩中期待していたのに。
サイドボードにあるスマホを手に取り時間を確認すると、まだ朝六時。休日はいつもなら寝ている時間だ。
天音の機嫌は直ってるかな。今日はこのままどこか一緒に出かけられないだろうか。
なんて期待していると、突然天音がむくっと起き上がりベッドからはい出た。
「……天音? 起きるの早いな。朝メシ、パンでいいか?」
天音の無言の行動に、すでに俺は諦め始めていた。これはデートができる雰囲気じゃないな。
「もう帰るから。いらない」
やっぱりな……と落胆する。
まだ機嫌直ってないのか……。
「なんで? 朝メシくらい食ってけよ」
「いい。もう帰る」
天音は俺の顔も見ずにパジャマを脱ぎ始めた。
「まだ拗ねてんの? それとも怒ってる?」
「……別に。拗ねてねぇし怒ってねぇ。朝になったから帰るだけ。ただのセフレなんだから普通だろ」
その冷たい言葉が俺の胸を容赦なく突き刺す。
そうだな。ただのセフレなんだから普通だよな。
家に来てくれて、仲良く夕飯も食べて、キャンプの約束もして……ちょっとくらいは好かれてるのかなって期待しちゃったんだよ。今日は一日一緒にいられるかなって欲まで出して……ごめんな。
もっと初心に返ろう。
間違えちゃダメだ。俺たちはただのセフレだ。
セフレの距離感を思い出さなきゃな。
そもそも、セフレなのにゴムも用意しないで寝ようとした俺が間違ってた。どんなセフレだよ。俺だってもしそんなセフレがいたら何勘違いしてんだよってなるわ。
やべぇ……俺すげぇ勘違い野郎だ……。
服に着替え終わって無言で玄関に向かう天音を慌てて追いかける。
やっと俺に振り向いてくれた天音に、無理やり貼り付けた笑顔を向けた。
「次からはちゃんと用意しておくから。もう拗ねんなよ?」
「だから。拗ねてねぇっつってんだろ」
「ふは。うん、じゃあまたな」
天音は無表情で俺を見返して「……うん」とだけ答えると、迷いなくドアの向こうに消えた。
目が覚めてから天音の顔を見たのは今の数秒間だけだった。
俺は「あーもー……」とうなりながら力なくその場にしゃがみ込む。
なんで俺、セフレっぽくないことなんてしようとしたんだろ。
『やるために会ってんだろ?』『意味わかんねぇ』という天音の言葉が思い出されて、激しく後悔した。
これからはホテルじゃないんだと思うと、バカみたいに高揚して色々と勘違いして……ほんとイタすぎるだろ俺。
もうこんなバカなことはしない。次からはちゃんとセフレになりきる。
ゴムとローション用意しなきゃな……。
俺は重い腰を上げて立ち上がり、後悔のため息をつきながらリビングに向かった。
窓際のソファに腰を沈め、すぐにテレビをつける。静かな空間が嫌いな俺の習慣だ。
テレビの音を聞きながら窓の外を眺めた。もう少し待てば、帰って行く天音が見えてくるだろう。
なんてぼーっと眺めていたとき、マンションから飛び出すように天音が出てきた。
猛スピードで走る天音を見て、なぜそんなに急いでいるのかと驚いていると、なぜか向かいに建つアパートの中へと入って行く。
思わず身を乗り出した。
アパートは階段と廊下が完全に建物内にあり、入ってしまうともう姿は見えない。天音がどの部屋に向かったのかも分からない。
は……どういうことだ? あそこが天音の家だったのか?
いやまさか。だとしたら昨日俺に話しているはずだ。それに、今まで一度も会ったことがないなんておかしい。
じゃあなんだよ。誰の家だ。ダチの家?
………まさか……セフレの家?
ドクドクと心臓が激しく暴れた。
いや、まだわからないだろ……。だってまだ朝の六時だ。こんな早くにセフレと約束なんてしてないだろ……。
なんとか自分にそう言い聞かせたが、とはいえダチの家でも早すぎだよな……と不安が頭をよぎった。
どちらにしても、約束があったとは思えない。
約束がなくても気軽に訪問できる相手。こんなに早朝でも大丈夫な相手。
誰なんだよ……天音……。
ダチかセフレかもまだ分からないのに、俺の胸はすでに嫉妬で狂いそうになっていた……。
◇
あれから、時間があれば窓を眺め続けていた。
あの日天音は、二時間ほど経ってアパートから出てきた。遠目だったが着替えたようには見えない。ならばあそこは天音の家じゃない。
誰の家なんだよ。気になってアパートを眺め続けた。
出入りする人物を見ては、こいつか? それともあいつか? と身を乗り出した。わかるわけがないのに。
月曜日、仕事から帰ってシャワーを浴び、買ってきた弁当を食べてからソファにくつろいだ。テレビを見ながらも、どうしても気になってアパートをまた眺める。
あの男か? あのオヤジは違うだろ……。女……じゃねぇよな。と見ていると、九時過ぎに天音がアパートから出てきて驚愕した。
まさか今日も来てるとは思いもしなかった。そんなに頻繁に来るなんて、ほんと誰の家なんだよ。
金曜日に約束を取り付けても、嫉妬と不安が胸の中に渦巻いていた。
翌日も、天音は十時頃アパートから出て来た。こんなに連日……どうして。
次の日、俺は帰宅してすぐソファに座り、シャワーも浴びずアパートを眺めた。
すると、天音が男と二人でやってきて、一緒にアパートへと入って行く。
本当にわけがわからなくて呆然とした。
あの男は誰なんだ。ダチなのか? セフレなのか?
そこで俺はハッとした。
もしかして、天音の性欲って……毎日やらないとダメなほどの強さなのか? だからだったのか? 先週俺が抱かなかったからセフレの家に直行したのか?
毎日抱かれに行くほどそいつがいいのかよ……。俺は激しく動揺して動けなくなった。
いや……まだそうと決まったわけじゃない。ただのダチの可能性だってある。
俺の心は不安と嫉妬で揺れ動き、どうにかして真実を知りたくなった。
目を覚ましても、背中を向けて眠る天音を見てため息が出た。もしかして一晩中寝返りも打たずに眠り続けてるのか?
寝返りを打って顔を見せてくれないかと一晩中期待していたのに。
サイドボードにあるスマホを手に取り時間を確認すると、まだ朝六時。休日はいつもなら寝ている時間だ。
天音の機嫌は直ってるかな。今日はこのままどこか一緒に出かけられないだろうか。
なんて期待していると、突然天音がむくっと起き上がりベッドからはい出た。
「……天音? 起きるの早いな。朝メシ、パンでいいか?」
天音の無言の行動に、すでに俺は諦め始めていた。これはデートができる雰囲気じゃないな。
「もう帰るから。いらない」
やっぱりな……と落胆する。
まだ機嫌直ってないのか……。
「なんで? 朝メシくらい食ってけよ」
「いい。もう帰る」
天音は俺の顔も見ずにパジャマを脱ぎ始めた。
「まだ拗ねてんの? それとも怒ってる?」
「……別に。拗ねてねぇし怒ってねぇ。朝になったから帰るだけ。ただのセフレなんだから普通だろ」
その冷たい言葉が俺の胸を容赦なく突き刺す。
そうだな。ただのセフレなんだから普通だよな。
家に来てくれて、仲良く夕飯も食べて、キャンプの約束もして……ちょっとくらいは好かれてるのかなって期待しちゃったんだよ。今日は一日一緒にいられるかなって欲まで出して……ごめんな。
もっと初心に返ろう。
間違えちゃダメだ。俺たちはただのセフレだ。
セフレの距離感を思い出さなきゃな。
そもそも、セフレなのにゴムも用意しないで寝ようとした俺が間違ってた。どんなセフレだよ。俺だってもしそんなセフレがいたら何勘違いしてんだよってなるわ。
やべぇ……俺すげぇ勘違い野郎だ……。
服に着替え終わって無言で玄関に向かう天音を慌てて追いかける。
やっと俺に振り向いてくれた天音に、無理やり貼り付けた笑顔を向けた。
「次からはちゃんと用意しておくから。もう拗ねんなよ?」
「だから。拗ねてねぇっつってんだろ」
「ふは。うん、じゃあまたな」
天音は無表情で俺を見返して「……うん」とだけ答えると、迷いなくドアの向こうに消えた。
目が覚めてから天音の顔を見たのは今の数秒間だけだった。
俺は「あーもー……」とうなりながら力なくその場にしゃがみ込む。
なんで俺、セフレっぽくないことなんてしようとしたんだろ。
『やるために会ってんだろ?』『意味わかんねぇ』という天音の言葉が思い出されて、激しく後悔した。
これからはホテルじゃないんだと思うと、バカみたいに高揚して色々と勘違いして……ほんとイタすぎるだろ俺。
もうこんなバカなことはしない。次からはちゃんとセフレになりきる。
ゴムとローション用意しなきゃな……。
俺は重い腰を上げて立ち上がり、後悔のため息をつきながらリビングに向かった。
窓際のソファに腰を沈め、すぐにテレビをつける。静かな空間が嫌いな俺の習慣だ。
テレビの音を聞きながら窓の外を眺めた。もう少し待てば、帰って行く天音が見えてくるだろう。
なんてぼーっと眺めていたとき、マンションから飛び出すように天音が出てきた。
猛スピードで走る天音を見て、なぜそんなに急いでいるのかと驚いていると、なぜか向かいに建つアパートの中へと入って行く。
思わず身を乗り出した。
アパートは階段と廊下が完全に建物内にあり、入ってしまうともう姿は見えない。天音がどの部屋に向かったのかも分からない。
は……どういうことだ? あそこが天音の家だったのか?
いやまさか。だとしたら昨日俺に話しているはずだ。それに、今まで一度も会ったことがないなんておかしい。
じゃあなんだよ。誰の家だ。ダチの家?
………まさか……セフレの家?
ドクドクと心臓が激しく暴れた。
いや、まだわからないだろ……。だってまだ朝の六時だ。こんな早くにセフレと約束なんてしてないだろ……。
なんとか自分にそう言い聞かせたが、とはいえダチの家でも早すぎだよな……と不安が頭をよぎった。
どちらにしても、約束があったとは思えない。
約束がなくても気軽に訪問できる相手。こんなに早朝でも大丈夫な相手。
誰なんだよ……天音……。
ダチかセフレかもまだ分からないのに、俺の胸はすでに嫉妬で狂いそうになっていた……。
◇
あれから、時間があれば窓を眺め続けていた。
あの日天音は、二時間ほど経ってアパートから出てきた。遠目だったが着替えたようには見えない。ならばあそこは天音の家じゃない。
誰の家なんだよ。気になってアパートを眺め続けた。
出入りする人物を見ては、こいつか? それともあいつか? と身を乗り出した。わかるわけがないのに。
月曜日、仕事から帰ってシャワーを浴び、買ってきた弁当を食べてからソファにくつろいだ。テレビを見ながらも、どうしても気になってアパートをまた眺める。
あの男か? あのオヤジは違うだろ……。女……じゃねぇよな。と見ていると、九時過ぎに天音がアパートから出てきて驚愕した。
まさか今日も来てるとは思いもしなかった。そんなに頻繁に来るなんて、ほんと誰の家なんだよ。
金曜日に約束を取り付けても、嫉妬と不安が胸の中に渦巻いていた。
翌日も、天音は十時頃アパートから出て来た。こんなに連日……どうして。
次の日、俺は帰宅してすぐソファに座り、シャワーも浴びずアパートを眺めた。
すると、天音が男と二人でやってきて、一緒にアパートへと入って行く。
本当にわけがわからなくて呆然とした。
あの男は誰なんだ。ダチなのか? セフレなのか?
そこで俺はハッとした。
もしかして、天音の性欲って……毎日やらないとダメなほどの強さなのか? だからだったのか? 先週俺が抱かなかったからセフレの家に直行したのか?
毎日抱かれに行くほどそいつがいいのかよ……。俺は激しく動揺して動けなくなった。
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