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冬磨編
53 最終話 天音の家へ 2
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「そんな日々を過ごしていたときに天音さんと出会って、驚くほど世界が一変しました。モノクロだった世界に色が戻って光がさしたんです。天音さんを知れば知るほど、本当に……天使だと思いました」
そんな話を今までしたことはなかったから、天音がびっくりした顔で目を瞬いた。
「もう天音さんを一生離したくない、どうしても一緒になりたいと思いました。こんな私では天音さんにふさわしくないと分かっています。でも……」
「ふさわしくないなんて……っ」
天音の涙声に、俺は黙って天音の手を握り返す。
「冬磨……っ」
「私は天音さんには不釣り合いですが、もう天音さんなしでは生きていけそうにありません。こんな私ですが……どうか、天音さんと一緒になることをお許しいただけないでしょうか」
深く腰を折って頭を下げた。
俺の不誠実な過去を受け入れてもらえるかどうか、その瞬間が永遠のように感じられた。
きっと反対されるだろう。そう覚悟した。
簡単に許してもらえるはずがない。分かっていても話さずにはいられなかった。隠したまま天音と一緒になっても、後ろめたさに苦しむだけだ。
許してもらえるまで、俺は何度でも頭を下げる。
「冬磨くん、頭を上げて」
お父さんの言葉に緊張が走った。
じわりと汗ばんでいく俺の手を、天音がぎゅっと力強く握る。言葉がなくても心が通じ合う。そうだ、反対されても諦めない。絶対に。
ありがとう、天音。
覚悟を固め、俺はゆっくりと頭を上げた。
その瞬間、変わらず優しい表情で俺を見つめる天音の両親が目に飛び込んでくる。
「冬磨くん、天音をどうかよろしくお願いします」
「冬磨くん、天音と二人で幸せになってね」
伝えられた言葉がとても信じられなくて時が止まった。
どうして……嘘だろ。
予想していた展開とあまりにも違いすぎて激しく動揺する。
もしかして俺の話がちゃんと伝わっていないのかも……そう思った。
「あ、あの……こんな私で……本当に…………」
戸惑いながら口を開くと、お父さんがくしゃっと笑った。
「大丈夫。天音を見れば分かるよ。見たこともないほど幸せそうだ」
「……っ、と……父さん」
「天音のために変わろうと努力してくれたんだろう? ありがとうね」
「いえ……努力ではなく、天音さんが私を変えてくれました。すべて天音さんの力です」
「違う、俺は何もしてないよ、何も……」
「そばにいてくれたから、変われたんだよ」
「冬磨……」
本当に俺は何も努力はしていない。天音が自然と俺を変えてくれた。一緒にいるだけで俺を癒し、心と笑顔を取り戻してくれたんだ。
「天音にそんなすごい力があったのかぁ。でも本当に、天音だけじゃなくて冬磨くんも幸せそう」
「え……っ」
お母さんの言葉にうろたえた。さっき会ったばかりなのにそこまで見抜かれるものなのか?
「だって冬磨くんの天音を見る瞳が、とろけそうなくらい優しいんだもん」
「……えっ」
「天音のこと、すごく大切に思ってくれてるんだなぁって、すぐに分かった。天音に負けなくらい冬磨くんも幸せそう」
そんな指摘をされるほど顔に出ている自覚がなかった。あまりに恥ずかしくて顔が火照る。
「……はい。とても……幸せです」
「お、俺も……すごい幸せ……」
今にも泣きそうな天音と目が合い、二人で照れた。
「天音を好きになってくれて、ありがとうね」
「……いいえ。私ではなく、天音さんが私を好きになってくれたことのほうが奇跡です。本当に……感謝しています」
「とぉ……ま……」
天音がポロっと涙をこぼす。いつものように指で拭おうとして、今日はダメだなと思い直しハンカチで拭ってあげた。
「天音、ずいぶん泣き虫になったな?」
お父さんが意外そうな顔をする。
「なんか、最近涙腺ゆるくて……」
「ああ、冬磨くんの前でだけか?」
「冬磨の前……だけじゃないけど、冬磨のことでだけ」
ん? 俺のことでだけ?
「え、そうなのか?」
「……うん。俺、こんなに泣き虫じゃなかったのに。冬磨のことになると、ちょっと涙腺変なんだ」
「……てか今、俺の前でだけじゃないって言った?」
「う、ん……?」
演技をやめた天音がよく泣くのを見て、元々そうなのかと思ってた。
俺のことで誰の前で泣くんだよ。なんて聞かなくても分かる。敦司だろ。敦司だよな?
またむくむくと嫉妬心が湧き起こる。
でも、今は天音の両親の前だ。抑えなきゃ。
そう思って耐えていたら、お父さんたちがクスクス笑い出した。
「嫉妬だな」
「嫉妬だねぇ」
「…………っ」
速攻でバレた。
「え……嫉妬?」
天音だけが分かってなかった。
気を取り直して、俺はあらためて天音の両親に頭を下げた。
「結婚を許してくださり……本当にありがとうございます」
正直に話して、それでもあたたかく迎えてもらえるとは思ってなかった。言葉では言い表せないほど、感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。
「二人で幸せになるんだよ。たまには喧嘩もしてな?」
「ちょっとお父さん、なに喧嘩勧めてるの?」
「喧嘩するほどなんとやらっていうだろ?」
「結婚のごあいさつの日に言うことじゃないでしょ?」
「そうか?」
「そうですっ」
いつもこんな感じなんだろうな、と笑みがこぼれる。天音と目が合い、一緒に笑った。
「冬磨くんには、どうしてひどい生活になったのかとか、まぁ色々聞きたいところなんだけどね」
「……はい。なんでもお答えします」
「うん。とりあえず、着替えてきていいかな?」
「え?」
突然の着替え宣言に目を瞬く。
お父さんは今、ブルーのワイシャツにベージュのチノパンという服装だ。いったい何に着替えるんだろうか。
「堅苦しいのはここまでってことで。このあとは家族の時間だ。息子二人とゆっくり楽しく話がしたい」
くしゃっと笑って立ち上がり「ちょっと待っててくれ」とお父さんはリビングを出て行った。
息子二人……。聞き間違い……じゃないよな?
「さて、私も準備するかな」
と、お母さんも立ち上がった。
「あ、冬磨くん」
「は、はい」
「もうここからはいつも通り話してね。天音にさん付けなんてしなくていいし、自分のことも『私』じゃなくていつも通りで」
「あ、……はい、では、お言葉に甘えます」
「んー、まだかたいなぁ。天音。いつも通りの冬磨くんに戻してあげてね」
「……う、ん。わかった」
お母さんもリビングから出て行って、天音と顔を見合わせて苦笑した。
そんな話を今までしたことはなかったから、天音がびっくりした顔で目を瞬いた。
「もう天音さんを一生離したくない、どうしても一緒になりたいと思いました。こんな私では天音さんにふさわしくないと分かっています。でも……」
「ふさわしくないなんて……っ」
天音の涙声に、俺は黙って天音の手を握り返す。
「冬磨……っ」
「私は天音さんには不釣り合いですが、もう天音さんなしでは生きていけそうにありません。こんな私ですが……どうか、天音さんと一緒になることをお許しいただけないでしょうか」
深く腰を折って頭を下げた。
俺の不誠実な過去を受け入れてもらえるかどうか、その瞬間が永遠のように感じられた。
きっと反対されるだろう。そう覚悟した。
簡単に許してもらえるはずがない。分かっていても話さずにはいられなかった。隠したまま天音と一緒になっても、後ろめたさに苦しむだけだ。
許してもらえるまで、俺は何度でも頭を下げる。
「冬磨くん、頭を上げて」
お父さんの言葉に緊張が走った。
じわりと汗ばんでいく俺の手を、天音がぎゅっと力強く握る。言葉がなくても心が通じ合う。そうだ、反対されても諦めない。絶対に。
ありがとう、天音。
覚悟を固め、俺はゆっくりと頭を上げた。
その瞬間、変わらず優しい表情で俺を見つめる天音の両親が目に飛び込んでくる。
「冬磨くん、天音をどうかよろしくお願いします」
「冬磨くん、天音と二人で幸せになってね」
伝えられた言葉がとても信じられなくて時が止まった。
どうして……嘘だろ。
予想していた展開とあまりにも違いすぎて激しく動揺する。
もしかして俺の話がちゃんと伝わっていないのかも……そう思った。
「あ、あの……こんな私で……本当に…………」
戸惑いながら口を開くと、お父さんがくしゃっと笑った。
「大丈夫。天音を見れば分かるよ。見たこともないほど幸せそうだ」
「……っ、と……父さん」
「天音のために変わろうと努力してくれたんだろう? ありがとうね」
「いえ……努力ではなく、天音さんが私を変えてくれました。すべて天音さんの力です」
「違う、俺は何もしてないよ、何も……」
「そばにいてくれたから、変われたんだよ」
「冬磨……」
本当に俺は何も努力はしていない。天音が自然と俺を変えてくれた。一緒にいるだけで俺を癒し、心と笑顔を取り戻してくれたんだ。
「天音にそんなすごい力があったのかぁ。でも本当に、天音だけじゃなくて冬磨くんも幸せそう」
「え……っ」
お母さんの言葉にうろたえた。さっき会ったばかりなのにそこまで見抜かれるものなのか?
「だって冬磨くんの天音を見る瞳が、とろけそうなくらい優しいんだもん」
「……えっ」
「天音のこと、すごく大切に思ってくれてるんだなぁって、すぐに分かった。天音に負けなくらい冬磨くんも幸せそう」
そんな指摘をされるほど顔に出ている自覚がなかった。あまりに恥ずかしくて顔が火照る。
「……はい。とても……幸せです」
「お、俺も……すごい幸せ……」
今にも泣きそうな天音と目が合い、二人で照れた。
「天音を好きになってくれて、ありがとうね」
「……いいえ。私ではなく、天音さんが私を好きになってくれたことのほうが奇跡です。本当に……感謝しています」
「とぉ……ま……」
天音がポロっと涙をこぼす。いつものように指で拭おうとして、今日はダメだなと思い直しハンカチで拭ってあげた。
「天音、ずいぶん泣き虫になったな?」
お父さんが意外そうな顔をする。
「なんか、最近涙腺ゆるくて……」
「ああ、冬磨くんの前でだけか?」
「冬磨の前……だけじゃないけど、冬磨のことでだけ」
ん? 俺のことでだけ?
「え、そうなのか?」
「……うん。俺、こんなに泣き虫じゃなかったのに。冬磨のことになると、ちょっと涙腺変なんだ」
「……てか今、俺の前でだけじゃないって言った?」
「う、ん……?」
演技をやめた天音がよく泣くのを見て、元々そうなのかと思ってた。
俺のことで誰の前で泣くんだよ。なんて聞かなくても分かる。敦司だろ。敦司だよな?
またむくむくと嫉妬心が湧き起こる。
でも、今は天音の両親の前だ。抑えなきゃ。
そう思って耐えていたら、お父さんたちがクスクス笑い出した。
「嫉妬だな」
「嫉妬だねぇ」
「…………っ」
速攻でバレた。
「え……嫉妬?」
天音だけが分かってなかった。
気を取り直して、俺はあらためて天音の両親に頭を下げた。
「結婚を許してくださり……本当にありがとうございます」
正直に話して、それでもあたたかく迎えてもらえるとは思ってなかった。言葉では言い表せないほど、感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。
「二人で幸せになるんだよ。たまには喧嘩もしてな?」
「ちょっとお父さん、なに喧嘩勧めてるの?」
「喧嘩するほどなんとやらっていうだろ?」
「結婚のごあいさつの日に言うことじゃないでしょ?」
「そうか?」
「そうですっ」
いつもこんな感じなんだろうな、と笑みがこぼれる。天音と目が合い、一緒に笑った。
「冬磨くんには、どうしてひどい生活になったのかとか、まぁ色々聞きたいところなんだけどね」
「……はい。なんでもお答えします」
「うん。とりあえず、着替えてきていいかな?」
「え?」
突然の着替え宣言に目を瞬く。
お父さんは今、ブルーのワイシャツにベージュのチノパンという服装だ。いったい何に着替えるんだろうか。
「堅苦しいのはここまでってことで。このあとは家族の時間だ。息子二人とゆっくり楽しく話がしたい」
くしゃっと笑って立ち上がり「ちょっと待っててくれ」とお父さんはリビングを出て行った。
息子二人……。聞き間違い……じゃないよな?
「さて、私も準備するかな」
と、お母さんも立ち上がった。
「あ、冬磨くん」
「は、はい」
「もうここからはいつも通り話してね。天音にさん付けなんてしなくていいし、自分のことも『私』じゃなくていつも通りで」
「あ、……はい、では、お言葉に甘えます」
「んー、まだかたいなぁ。天音。いつも通りの冬磨くんに戻してあげてね」
「……う、ん。わかった」
お母さんもリビングから出て行って、天音と顔を見合わせて苦笑した。
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